写真左より
構造部グループ長 石川雅人さん
交通部主任技師 浅野浩章さん
交通部技師長兼交通事業本部CM室技師長 山谷信広さん
交通事業本部次長兼CM室次長 木本光則さん
ドーコンは、総合建設コンサルタントとして、建設生産システム全体の生産性向上を目指すためにBIM/CIM、i-Construction に向けたデジタル技術を展開している。GIS(地理情報システム)の活用もそのひとつだ。GIS とは位置に関するさまざまな情報を持ったデータを電子地図上で管理するもの、複数の情報を重ね合わせて視覚的に表示でき、高度な分析や分析結果の共有・管理がしやすく幅広い分野で使われている。交通部技師長の山谷信広さんは「広大な北海道では、インフラ整備や維持管理を効率的に行うためにデータ活用が注目されています。位置情報や属性情報のあるGIS は、調査などでデータ分析を行う我々にとって便利なツールです。道内にもGIS を普及させる取り組みを進めています」という。社内にはGIS を扱える専門人材が多数活躍している。BIM/CIM の取り組みの中で、調査や設計業務で作成したデジタルデータが、後工程の工事や維持管理に活かされていないという反省を踏まえて、デジタルデータを一元管理するためにGIS の活用を考えてきた。
ドーコンでは、3次元情報活用モデル事業を中心に、業務の中でGIS を活用したデータプラットフォーム構築を提案してきた。北海道開発局では、これまでのi-Construction に関する知見やノウハウを活用し、今後、データプラットフォームの構築を全道事務所にも展開していく計画だという。すでにほかの開発建設部でもデータプラットフォーム構築への取り組みが始まっている。
GIS を活用したデータプラットフォームの構築では、ドーコンがGIS 専用ソフトを使って建設生産プロセスで収集される様々なデジタルデータをGIS データに変換し、クラウド上にアップロードする。発注者や関係機関は、Web アプリを使ってクラウド上のデータを閲覧できる。インターネット環境があれば打ち合わせ場所や現場でもタブレットを使ってアクセスでき、さらにはデータ入力や変更もでき、ファイル添付など、目的に応じて使える。
従来のGIS ソフトは、ハイスペックPC や高度な知識や技術が必要だったため、一部の専門家しか使えなかった。交通部主任技師の浅野浩章さんは「GIS に詳しくなくてもタッチするだけで使えるようになれば、便利なツールとして普及します。アプリを簡単に構築できるようになり活用の幅が広がりました」という。将来的には国土交通省のデータプラットフォームやDX データセンター、xROAD(クロスロード)などのプラットフォームとデータ連携できるようにしていく計画を目指している。
BIM/CIM やi-Construction を進めるためにはデータを一元管理し、標準化することが重要になる。「発注者の方はもちろん、自治体や地域の建設会社などさまざまな関係者がデータを共有するための入り口をつくることがデータプラットフォームの目的です。かなり難しい技術を使っていますが、わかりやすく、使いやすいインターフェイスを意識しました」と浅野さんはいう。GIS を活用したデータプラットフォームの運用の中で発注者から好評なのが用地取得に関する情報だという。測量データや地権者との交渉の履歴などがデータベースとして蓄積され、段階ごとに色分けして見える化もでき、それらを現地で確認することもできる。
山谷さんは「データの収集と蓄積、分析、利活用という4つのサイクルを効率的に実施するためには、ルール、ツール、利活用環境の3つのバランスが重要」だという。これまで提案・構築したデータプラットフォームでは、2次元GIS によるデータの一元管理を行った。3次元にすると通信容量が大きくなってしまうことや対応しているソフトが限られてしまう。3次元GIS を利用したプラットフォームを活用するには、ソフトウェアや通信技術の進化が必要になる。
GIS を活用したデータプラットフォームの課題としてルール化がある。データの保存場所や形式の標準化を図ることは重要だが、ルールづくりに注力するとデータの蓄積自体が遅れてしまう懸念がある。国土交通省の規定をベースに最低限のルールを決め、新規参加の地域企業に向けた納品ルールの説明会も行っている。
国土交通省におけるBIM/CIM 適用は様々な試行を経たのち、2021年度から橋梁など大規模構造物詳細設計での原則適用が始まった。橋梁やトンネルなどの設計を行う構造部グループ長の石川雅人さんは「以前から、本格運用に向けた準備や体制づくりを進めてきました。2022年度に「BIM/CIM 専属チーム」を立ち上げ、業務における積極提案・活用に取り組んでいます」という。
一般国道5号仁木町桜橋詳細設計業務では、如何にBIM/CIM モデルを有効活用し、業務を効率的に進めていくのかが課題と捉え、概略構造検討、概略施工計画、関係機関協議資料の作成に、業務序盤からBIM/CIM を活用する取り組みを試行した。業務着手後に、貸与された点群データを基に地形モデルを作成し、橋梁予備設計で決定された計画案を詳細度200で作成した。2021年度以降は、求められる詳細度が300以下に簡素化されたことが契機になったという。
発注者との合同現地踏査では、AR(拡張現実)を活用した。タブレット端末(カメラ)を現地でかざし、これに予備設計モデルを重ね合わせることで、実際のスケールで完成イメージを立体的に確認でき、発注者とイメージを共有できる。従来の2次元図面での確認では、構造物の高さやスケール感が認識しづらいことが課題だった。さらに排水管の配置検討や部材の干渉確認、橋梁付属物の配置計画にも活用した。
桜橋は、並行する北後志東部広域農道(フルーツ街道)からの視認性が高く、景観に配慮した計画が求められた。そこでVR(仮想現実)による景観検討を行った。フルーツ街道を走る車両目線の走行シミュレーションを作成し、関係者はゴーグルを装着して体感した。また橋梁や周辺の構造物や地形などへのウォークスルー、橋梁の色彩検討、擁壁の形状比較などが自由にシミュレーションでき、より詳細なモデルで橋梁完成後のイメージを体験することができる。VR は、発注者や道路管理者である仁木町との協議や地権者への説明などで活用された。臨場感のある走行シミュレーションやリアルな構造物や背景を作成するためにはゲームエンジンが使われている。
また3D モデルに時間軸を付与した4D モデルを作成し、工事着手から完成までの全体工程、施工ヤード、交通規制、迂回路造成などを視覚的に確認できるようにした。関係機関協議や地元住民への事業説明でも円滑な合意形成のためのより伝わりやすい資料として有効活用することができた。3D モデルを使うことで施工段階の高さや方向の広がりもイメージできるようになり、手戻りが少なくなった。
石川さんは「この業務では、さまざまな試行を行いました。今後の取り組みにフィードバックしていくために業務終了後に発注者にアンケート調査を実施しました。特に走行シミュレーションはわかりやすく、関係機関協議で有効であったと評価を受けました」という。技術が進みゲームエンジンを活用しやすくなったことで、仕上がりが飛躍的に向上した。これらの取り組みが評価され、2022年度の一般国道5号仁木町宮の川橋詳細設計業務での受賞に続き、2023年度も北海道開発局i-Construction 奨励賞を受賞した。
DX 推進を支える社内の活動に2021年度からスタートした「i-Construction 活用推進メンバー」の存在がある。DXi-Construction、BIM/CIMといったデジタルデータを用いた生産性向上に興味のある社内メンバーを役職や雇用形態を不問で募集し、現在は、交通事業本部を中心に社内横断的に支店や関連会社のメンバーを含め34人が参加している。交通事業本部次長の木本光則さんは「主任、総合職の人たちが多く、実務で困っていることや課題、その解決方法を共有できる場です」という。
活動はMicrosoft Teams で行われ、最新動向、講習会・勉強会、なんでも相談所、座談会という4つのチャンネルを設けてメンバーが自由に投稿し合う。浅野さんは「今年4月に国土交通省から『i-Construction 2.0』が公開されましたが、これまでの2025年度の目標から、2040年度までに生産性1.5倍向上を目指すに変わっています。こういった情報を早めにキャッチアップして、発注者や社内に情報を共有することが大切です」。めまぐるしく変わる基準などの共有や、全国の取り組み事例、関連技術やソフトウェアの最新機能など、個人の情報収集では限界があるが、異なる専門性や興味を持つさまざまなメンバーが投稿することで業務に役立つ情報が共有できる。
なんでも相談所では、ソフトウェアの操作方法などをチャットで質問すれば、わかる人が回答してくれる。「相談も回答も公開チャットで行うことで、記録が残り、ノウハウを共有することができます」と浅野さんはいう。元々、浅野さんのもとには、電話やメールで社内からさまざまな問い合わせが来ていた。それらに個別に回答してきたが、コロナ禍で在宅勤務をしていた時に公開チャットによる「なんでも相談所」を思いついたという。「一人で悩んでいる人の受け皿になればいい」と浅野さんは思いを語る。座談会は、部門横断的に会話をできる場を設けて横方向の連携を強める試みだ。年に数回開催し、直近では生成AI の業務利用についての意見交換などが行われている。「活動が継続できるように役職不問、自由意志での参加を基本としています。そこで出てきた意見や課題を拾い上げ、管理職が参加するBIM/CIM 推進ワーキンググループから経営陣に上げていく体制をとっています」と山谷さんはいう。
今後は全社的に取り組みを拡大していくという。山谷さんは「新しい分野はベテランでもすべてを把握しているわけではないので、わからないことを若い人から教えてもらうこともあります」という。
木本さんは「北海道ではNo.1の建設コンサルタント企業として、北海道をより良くしていく役割があると自負しています。それを地域の建設会社と一緒に進めていくことも大きなテーマです。当社には、技術はもちろん、人との信頼関係を大切にする文化があり、企業理念でもあります。そういう意味からも3D データやBIM/CIM は有効なツールだといえます」。浅野さんも「難しい技術をわかりやすく伝えることも建設コンサルタントの仕事です。3D はそのためのツールですので、これからも今まで以上に取り組んでいきます」という。
2024年3月、ドーコンは、北海道開発局からICT・BIM/CIM アドバイザーに登録された。山谷さんは「ICT・BIM/CIM アドバイザー制度を通じて、北海道のDX 推進に協力していく方針です。私は(一社)建設コンサルタンツ協会北海道支部BIM/CIM 検討WG のメンバーをしていますので、他社との情報交換の機会も多く、情報共有と相互理解を重視した活動をしています。企業連携では競争領域と協調領域を意識することが重要になります。北海道をより良くしていくために自社の技術を高めながら、産学官と連携し、更なる建設生産性の向上を図っていきます」。