写真左より
国土交通省中部地方整備局 企画部
技術管理課 インフラDX 推進室 建設情報・施工高度化技術調整官 竹原雅文さん
施工企画課 建設専門官 長谷川公政さん
施工企画課 施工係 水越陽菜さん
施工企画課 施工係長 永縄和大さん
技術管理課 インフラDX 推進室 課長補佐 髙井知啓さん
国土交通省中部地方整備局(以下、中部地方整備局)では、これまでドローン測量やICT 建機の活用など、デジタル技術を積極的に導入・活用し、建設現場の安全確保、生産性向上を進めてきた。2022年1月に「中部地方整備局インフラDX推進本部」を設置し、各部局が連携してi-Construction、DX 推進に取り組んでいる。さらにインフラ分野のDX を加速するために「中部インフラDX 行動計画」を策定。建設業が持続的に発展できるよう若者や女性にも魅力的な職場環境にして、労働生産性の向上を図る。あわせて、職員の仕事とプライベートが充実するよう働き方改革を進めており、多くの女性職員が活躍している。職員の人材育成では、年間研修カリキュラムにDX を組み込み、職務段階に応じたスキルを習得できるようにした。また新丸山ダムでの統合CIMモデルの活用や掘削土砂運搬車両の運用管理システム構築、建設機械自動化の実証実験など、i-Constructionモデル事務所を中心に先進的な取り組みを行っている。
2021年に中部技術事務所に開設した「中部インフラDX センター」では、遠隔操作やAR・VR などが体験でき、受発注者向けICT 施工講習会などの研修が開催されている。2023年度からは、これまでの初心者向けに加え、中・上級者向けのICT 講習会を実施し、幅広い受講者のニーズに対応する。また2021年度に創設した「中部DX 大賞」は、DXにより生産性を向上させた技術や取り組み(直接建設現場に関わっていなくても建設現場に転用可能なものを含む。)を募集し、働き方の優れた取り組みを表彰することで、中小企業のDX を後押しする。
2023年度の国の直轄土木工事におけるICT 施工の実施率は87%、都道府県・政令市においてもICT 土工の公告件数・実施件数が増加している。直轄工事では、企業の経営規模、工事受注や総合評価の参加実績を勘案し、企業の格付けを行っているが、一般土木を生業としている企業のほとんどが、地域を地盤としたCランク、Dランクの企業であり、2022年度の一般土木工事の約90%がCランク企業の請負工事だ(図1)。
全国の直轄工事において、2016~2023年度にICT 施工を経験したCランク企業は約65%。中部地方整備局管内の長野・岐阜・静岡・愛知・三重、5県の一般土木CランクのICT 土工普及率は約78%となっており、これらの企業は複数回の受注経験があり、ICT の定着が進んでいる。(図2,3)。
その結果として、中部地方整備局が発注し、2023年度末までに完成したICT 活用工事では、従来施工と比較して作業時間の約32%が削減できた。測量、データ作成、施工のすべてで作業時間の削減効果があり、さらに工事規模(土量)にかかわらず延べ作業時間を削減できた。また丁張り作業も不要になり、重機と人が錯綜する作業時間が約61% 減少することで安全面も向上した。永縄さんは「Cランク事業者の取り組みが大幅に向上し、導入した企業は効果を実感しています。今後は、技術者目線で課題を汲み取り、まだ活用していない事業者へのPR を進めていきます」という(図4)。
さらにICT 活用工事を実施した企業に対して活用効果の検証を行った結果、起工測量・3次元設計データ作成・出来形管理の3つのプロセスにおいて、「全てを自社」で行う受注者は11%、一方で「全てを外注」、「一部を自社で実施」が大半を占めており、ICT を実施している会社でも内製化が進んでいない状況が見えてきた(図5)。
2023年度からの直轄工事のBIM/CIMの原則適用、さらには2024年4月に公表されたi-Construction2.0では、施工のオートメーション化が示されており、今後はデジタルデータの活用が加速されていく。「内製化の取り組み状況によっては、今後、事業者間で格差が出ることが懸念されます」と竹原さん。
高井さんは内製化の重要性を次のように語る。
「内製化を進めている企業は『最初は外注していたが、会社に技術が残らない。内製化することで社内の技術力を高めることができる』とみなさん同様のことをいわれます」。中部地方整備局では、ICT 施工、BIM/CIM の推進に向けて、3次元設計の内製化の推進を強化していくという。
長谷川さんは「ICT はスマートフォンと同じで、最初はとっつきにくくても使ってみれば便利だと実感できます。まずは、お試しでやってみてくださいと話しています」。竹原さんも「限られた人数と時間の中でどこを内製化するかは会社によって変わってきます。いきなりすべてを内製化するのはむずかしいので、スモールスタートではじめて、効果を実感し、将来につなげていただきたいと思います」。3次元での測量や設計を含め、ICT 施工にかかった費用は積算に計上できる。パソコンなどの機器購入は対象外だが、費用の一部を補助する制度があり、さまざまな機会に紹介している。
中部地方整備局では、2008年度から建設ICTの普及に取り組んできた。i-Construction がスタートした2016年度には局内に「i-Construction中部ブロック推進本部」を開設し、i-Construction についての相談や研修支援を行う「i-Construction 中部サポートセンター」を設置した。2017年度には、全国に先駆け、「ICT アドバイザー」登録制度を創設。自治体や地域の建設会社などが、先進的な取り組みをしている「ICTアドバイザー」から技術についてのアドバイスが無償で受けられる。ICT アドバイザーの名簿は中部地方整備局のサイトで公開され、直接、相談や依頼ができることも特徴だ。またICT アドバイザーは、「中部i-Construction 研究会」のメンバーとして、現場の技術支援、課題の収集、さらには受発注者向けICT 施工講習会の講師や見学会の協力など、さまざまな活動を通してICT の普及啓発に貢献している。こうした活動が中部地域のICT 施工への意識を醸成し、実施率の高さにつながっている。
建設投資額が増加に転じる一方で、労働力不足が顕在化している。さらに就業者は55歳以上が1/3を占め、29歳以下は約12% で技術継承や担い手不足が課題となっている。中部地方整備局では、次世代を担う若者に建設業を知ってもらうために「学生のためのICT 講座」を実施している。高校生や大学生を対象にVR や重機の運転シミュレーション、3次元測量などが体験できると好評だ。2023年度末までに愛知、岐阜、三重、静岡の延べ37校、1,773人の学生が受講。2022年からは建設業への就労を希望する少年院在院者に向けて静岡の駿府学園で6回の出前講座を実施している。水越さんは講師として建設業界の現状や最新のICT 施工について話をした(写真)。
長谷川さんは「学生に向けたICT 講座には力を入れています。2024年11月にポートメッセなごやで開催される『建設技術フェア2024in 中部』では、学生向けコンペ「夢をつくるプロジェクト」に加え、「RC 建機チャレンジ」ブースを新たに立ち上げます。九州技術事務所が開発したバックホウの遠隔操作シミュレーターを使い、ゲーム感覚で体験できるイベントで建設業の魅力をアピールします」。3次元設計、AR・VR など建設技術にとどまらず、さまざまな知識や技術が必要となることから、今後は適材適所で柔軟に人を採用し育成していくことも考えられる。水越さんは「日本は0から1にすることは得意ですが、1を10に広げていくことが下手だと感じています。建設産業も広報が必要です。ドローン測量やICT建機などの新しい技術で変わっていく建設業の姿を学生や保護者に伝える広報に力を入れていきます」と前向きだ。
最後に今後の取り組みや展望についてうかがった。長谷川さんは「全国平均と比べ、Cランク事業者のICT 施工は進んでいますが、今後はDランクの事業者に向けての普及も必要」という。「ICT アドバイザー活動のさらなる活性化や講演会を増やすことで建設業界が変わっていく」と永縄さんは期待を込める。「BIM/CIM が重要な課題になっていきますし、生産性向上の成功の鍵は、Cクラス事業者の内製化ですので、その取り組みを進めています」と竹原さん。髙井さんは「BIM/CIM を活用した業務や工事も増えています。これからは3次元設計データをいかに次のステップに引き渡して活用していくかが重要になりますので、建設業全体が効率化するためにも、取り組みを進めていきます」。
水越さんは「ICT 施工は、これまでの工種単位の作業効率化に加え、ICT により現場の作業状況を分析し、施工現場全体の生産性向上を目指していくことになります」という。中部地方整備局では、デジタル技術を活用した建設現場のあらゆる生産プロセスのオートメーション化に取り組むことで、今よりも少ない人数で、安全に、できる限り屋内など快適な環境で働く生産性の高い建設現場を実現することを目指していく。竹原さんは「インフラ分野のDXを推進する事により建設産業のマイナスイメージを払拭し、新4K(給料がいい、休暇が取れる、希望がもてる、かっこいい)を目指して、若手技術者の確保につなげたい」と語る。
中部地方整備局は、魅力ある建設現場を創り出すため、日々進化する新たな技術を建設現場に導入し、インフラ分野のDX、「i-Construction2.0」が目指す世界の実現に向け、これからも取り組みを進めていく。