建設物価調査会

BIM/CIM全面適用で、発注者、受注者双方の生産性向上を推進

中日本高速道路株式会社(NEXCO 中日本)

(左から)
中日本高速道路株式会社
 技術本部 専門副主幹 インフラDX 担当 石田 篤徳さん
 技術本部 環境・技術企画部 環境・技術企画課 課長代理 長濱 正憲さん

中日本高速道路株式会社(以下、NEXCO中日本)は、高速道路事業における建設生産・管理システム(計画、調査から維持管理まで)を効率化、高度化、省人化し、生産性向上を図ることを目的に、2025年7月からBIM/CIM全面適用を開始した。同社のBIM/CIM推進の考え方や取り組みについてうかがった。

デジタル化は手段、目的は働き方改革

 日本の大動脈、東名高速道路や新東名高速道路、名神高速道路などの高速道路事業を担うNEXCO中日本。運営する高速道路の営業延長は2,201㎞、年間7億4,900万台の車が通行する。同社では、高速道路事業の計画・調査から維持管理まで一連の建設生産・管理システム全体のデジタル化を進め、効率化と高度化、省人化による生産性向上に取り組んでいる。この取り組みの背景には、建設業界の働き方改革実現という強い思いがある。

 2022年から同社でBIM/CIM 導入を推進している長濱さんは「建設業界全体が直面する人手不足
や長時間労働の問題は、発注者と受注者が一体となって取り組まなければ解決できません。そこで2024年からNEXCO3社と(一社)日本建設業連合会をはじめとする業界団体と連携し、適切な工期設定、書類作成の削減、施工管理の効率化といった具体的な改善項目に取り組んできました」と振り返る。

 しかし、既存のやり方を見直すだけでは限界があり、根本的な解決にはならない。そこで同社は働き方そのものを変革するため、NEXCO3社の中でも先駆けてBIM/CIM の本格導入に踏み切った。

■ 段階的アプローチで実現する生産性向上

 NEXCO 中日本のBIM/CIM 導入戦略は、効率化、高度化、省人化という各フェーズを見据えた長期的な計画に基づいている。最終的にはAI による自動設計など高度な省人化を目指していくが、2030年度までは効率化に主眼を置き、着実に成果を積み上げていく方針だ(図-1)。

 同社の取り組みは2017年のCIM 検討着手に遡る。2020年には計画、調査から維持管理まで全プロセスでICT やBIM/CIM を活用する基本方針を策定し、2021年には業界団体との対話を通じて実施方法を検討した。2022年度には3次元モデル作成の暫定要領を発出し、モデル事務所での試行を開始。新東名を担当する秦野工事事務所や東京外環道を担当する東京工事事務所など、主要な建設事業を進める事務所を中心に実証を重ねて確実な効率化が確認できた。

 特に測量分野では点群測量の導入により現場作業時間が大幅に削減され、設計段階では3次元モデルによる事前検証により、従来は工事段階で発覚していた課題を大幅に減らすことができた。こうした定量的な成果が全面適用への展開につながった。

■BIM/CIM 導入の3本の柱

 2025年からのBIM/CIM 導入の柱は、「情報のデジタル化」、「3次元モデルの作成と活用」、「共通データ環境(CDE)の利用」という取り組みである。

 まず「情報のデジタル化」では、工事関係書類を電子データ化し、発注者と受注者の間で紙とデジタルが混在していた従来の状況を改め、すべてのやり取りをデジタルデータで行うことを原則とした。打ち合わせもペーパーレスで実施する。「現場では約500の工事が行われています。関係者も多い中で、一人でも紙ベースに戻る人がいると効率化が進みません。そうした事態を防ぐため、会社としての明確な方針を示しました」とインフラDX を推進する石田さんはいう(図-2)。

 2つ目の「3次元モデルの作成と活用」については、成果品として提出するだけでなく、業務プロセスの中で実際に使うことを重視している。2次元図面だけでは想像しにくかった現場の状況や完成形が、3次元モデルによって見える化することで、発注者と受注者、さらには地域住民や関係機関との合意形成が格段にスムーズになる。

 石田さんは「重要なのは、測量で作成したモデルを設計に引き継ぎ、設計で作成したモデルを施工に引き継ぐという、後工程への確実な継承です」と強調する。「線形モデルに地形モデルを重ね、さらに地質土質モデル、用地境界モデル、構造物モデルと段階的に情報を統合していく。この統合BIM/CIM のアプローチにより、各段階での整合性の確認が容易になり、手戻りを大幅に削減できます」と解説してくれた(図-3)。

■ クラウドの活用で業務プロセスを効率化

 3つ目の「共通データ環境の利用」は、クラウドベースのプラットフォームを活用し、受注者と発注者が同じデータ空間で作業できる環境を整備した。

 従来は、受注者が作成した資料をメールで送付し、発注者側で複数の担当者に転送して確認する
という流れだった。修正が入るたびに新しいファイルが送られ、打ち合わせでは紙の資料を配布し、議事録も後日メールでやり取りするという非効率な作業が続いていた。

 共通データ環境では、受注者がクラウド上に資料をアップロードすれば、発注者側の関係者全員がリアルタイムでアクセスできる。事前に確認事項をメモとして残すことができ、修正履歴もバージョン管理機能で追跡可能だ。打ち合わせでは3次元モデルをブラウザ上で表示しながら議論でき、議事録も共同編集によって効率的に作成できる。

 メールの往復や資料の印刷といった付帯作業から解放されることで、本質的な課題解決に集中できる時間が生まれる。「3次元モデルを見ながら議論することで、2次元図面から現場を想像する時間が不要になり、より深い検討ができます。さらに発注者と受注者が同じ画面を見て対話することで、認識のずれも減少します」と石田さんはいう。

■運用ルールの徹底とサポート体制

 共通データ環境の導入にあたり、フォルダ構成からフォルダ名の規則まで、詳細なルールを定めた。個人名を冠したフォルダの作成も禁止している。こうした細かなルールの積み重ねが、組織全体での効率的な運用を可能にする。

 質問や問い合わせに対応するため、本社技術本部、各支社、グループ会社が連携したサポート体
制を構築した。窓口のメールアドレスを設け、質問は自動的に関係部署に配信される。質問事項や回答内容はデータベース化し、掲示板で共有することで、同様の質問への対応効率を高めている(図-4)。

■ 社内外の関係者に全面適用の目的を伝える

 2025年7月の全面適用に向けて着実な準備を進めてきた。関係者に取り組みの目的や内容を理解してもらうため、長濱さんは全事務所を回り、36回にわたる説明会を実施し、社員と施工管理員を合わせて約1,000人が参加。さらに、若手社員を中心とした年2回のBIM/CIM 研修を継続的に実施し、2025年度までに約200人が受講した。今年度からは年3回に増やし、うち1回は現場で意思決定を行う工事長や課長クラスを対象とした研修を新設し、組織全体の理解向上や意識改革を図ることにした。

 また(一社)日本建設業連合会、(一社)建設コンサルタンツ協会、(一社)日本道路建設業協会など主要団体向けにWeb 配信で説明会を実施。受注者側にも取り組みの意図と内容を丁寧に伝えた。こうした地道な活動の積み重ねが、全社的な展開につながっていった。

■実効性を高める詳細な適用基準

 BIM/CIM の全面適用といっても、すべての業務で一律に同じレベルを求めているわけではない。NEXCO 中日本は、業務の種類や規模に応じた適用基準を詳細に定めている。

 情報のデジタル化と共通データ環境の利用は、原則としてすべての工事と調査業務が対象だ。ただし、2025年7月以降に施工決定を行うものは必須適用とし、それ以前に契約済みのものは受発注者との協議により決定するという柔軟性を持たせている。

 3次元モデルの作成については、効率化効果が見込める業務を選定している。測量では地形測量、調査では、地質調査や土質調査を対象としている。設計では、道路、橋梁、トンネル、法面を対象としている。建築は、延べ床面積3,000㎡以上に限定し、それ以下の規模については、拡大に向けて検討を図っていく。

 工事についても、土工工事や法面補強、新設の舗装工事、トンネル、橋梁架設など、3次元モデルの活用効果が高い工種を中心に適用している。一方、防護柵改良のような小規模な補修工事は対象外とした。これらは規模だけでなく、実際の活用場面と効率化効果を慎重に検討した結果だという(図-5)。

■課題と今後の展開

 全面適用は始まったばかりだが、現場からは様々な反応が寄せられている。若手社員を中心に、共通データ環境の使いやすさを評価する声が多い。一方で、すべての関係者がルールを守って使わなければ効率化につながらない。

 石田さんは「設計完了後に3次元モデルを作成するのでは、フロントローディングの効果は得られません。工程の初期段階でモデルを作成し、課題を洗い出すという本来の活用方法を浸透させることが、今後の課題」だという。

 DX やBIM/CIM は、ともすれば技術そのものが目的化しがちだ。長濱さんが繰り返し強調するのは、今の仕事を楽にするための取り組みだという点だ。「DX をしようと言っても、現場の人たちは目の前の業務に追われて新しいことに取り組む余裕がない。しかし、今の手元の仕事を減らすためのツールだと説明すれば、関心を持ってもらえます。最初の一歩を踏み出してもらうことが、最も重要です」という。

 NEXCO 中日本の取り組みには、発注者自身の働き方を変えるという強い意志が感じられる。多くの組織では、受注者にデジタル化を求める一方で、発注者側の業務手法は従来のままということも少なくない。BIM/CIM を活用するには、受発注者双方が連携し、それぞれの業務効率向上につなげることが重要である。「実現には、基準やルールの変更、さらには組織体制の見直しも必要になりますが、それこそが私たちの役割です」という長濱さんの言葉に発注者としての矜持を感じた。

建設物価2026年1月号