建設物価調査会

首都圏を洪水から守る荒川第二・三調節池整備事業におけるデジタルツインと建設DX

国土交通省 関東地方整備局 荒川調節池工事事務所

(中央)事務所長   米沢 拓繁さん
(右)  副所長    手島 健行さん
(左)  調査設計課長 剣持 友洋さん

首都圏を洪水被害から守る巨大インフラプロジェクト「荒川第二・三調節池整備事業」は、BIM/CIMを全面導入し、遠隔操作による地盤改良機械自動化施工や設計・施工で作成したデータを維持管理に活用するための検討など、デジタル活用の高度な取り組みが推進されている。

荒川流域の調節池整備事業

 荒川は、埼玉県から東京都を貫流し、日本の人口の約1割が集中する首都圏の心臓部を流れる一級河川。一度氾濫すれば、その被害は首都圏、ひいては国家レベルの損失に直結する。記憶に新しい「令和元年東日本台風(台風19号)」では、2003年に完成した荒川第一調節池が容量の9割にあたる貯水を記録し、決壊の危機を防いだ。

 しかし、近年の気候変動による豪雨の激甚化は、既存施設の能力を上回るリスクがある。この対策として進められているのが、荒川第二・三調節池整備事業である。埼玉県さいたま市、川越市、上尾市にまたがる広い河川敷を活用し、巨大な調節池を建設するものだ。事業期間は2018年度から2030年度の13年間、総事業費は約1,670億円。東京ドーム約160個分にあたる約760ha を整備、約5,100万㎥の洪水調節容量を確保し、第一調節池(約3,900万㎥)と合わせると調節池群全体の容量は約9,000万㎥に達する(図-1)。

 この整備事業を担うのが、国土交通省関東地方整備局荒川調節池工事事務所(以下、荒川調節池工事事務所)。事務所長の米沢さんは「通常の遊水地は堤防の外側に造られますが、荒川は広い河川敷を活かし、川の内側に巨大なお風呂のような貯水空間を造るものです。八ッ場ダムの治水容量に匹敵する規模を人口密集地のすぐそばに確保し、洪水被害を軽減することが本事業の目的です」という(図-2)。


BIM/CIM の活用

 荒川調節池工事事務所は、全国14 のi-Construction モデル事務所の1つ。

測量から設計、施工、さらには完成後の維持管理に至る全工程で、ICT 技術やデジタルデータを活用し、建設現場の生産性を向上させる先導的な役割を期待されている。

 荒川第二・三調節池整備事業ではBIM/CIM を全面導入し、i-Construction2.0の3本の柱である施工のオートメーション化、データ連携のオートメーション化、施工管理のオートメーション化にも取り組んでいる。

従来の2次元図面では、地下の地質構造や複雑な排水門の内部構造を正確に把握するのに多大な時間を要していたが、地形、地質、堤防や門扉などの土木構造物、さらには機械設備に至るデータを1つの3次元空間に統合し、荒川第二・三調節池の統合BIM/CIM モデルを構築した。これにより、設計段階での部品の干渉チェックや、施工手順の最適化が可能になった。調査設計課長の剣持さんは「測量や地質調査、設計を3次元化して、後で使いやすくする取り組みをしています。

BIM/CIM データの作成や統合モデルの構築は、従来の設計業務と比べると時間や手間がかかりますが、手間以上に、施工以降の効率化につながっており、導入の効果を実感しています」という(図-3)。


デジタルツインによる施工管理

 BIM/CIM モデルを活用して「サイバー建設現場Ⓡ」というプラットフォームが稼働している。これは羽根倉橋周辺の約2㎞の土木工事を担当している飛島建設が開発したもので、現場の情報をデジタル空間にリアルタイムで再現する「デジタルツイン」の取り組みだ。現場に設置されたセンサーやカメラ、ICT 建機から取得したデータが集約され、さらにドローンによる自動巡回測量により、その日の盛土の形状と量が自動算出され、BIM/CIM モデルに反映することで、盛土管理は作業時間が約9割削減した。

 リアルタイムに可視化された現場の状況を事務所や遠隔地からPC やスマホで確認できるので業務の効率化や現場への移動時間が大幅に削減できる。関係者間の合意形成やトラブル発生時の意思決定の迅速化にもつながっている。

 4D モデルによる工程シミュレーションでは、どの順序で土を盛り、どのタイミングでコンクリートを打つかを可視化することで、作業の効率化とともに複数の受注者が混在する現場での事故リスクを大幅に低減できる。また浸水範囲のシミュレーションは、出水時に施工現場の迅速な避難計画や安全な行動につながる。

 副所長の手島さんは「BIM/CIM モデルの活用は、視覚化による効果が大きい。2次元図面は、立体的なイメージを頭に中につくる時間が必要ですが、3D モデルを見ればすぐにイメージが共有でき、施工プロセスの確認や安全教育に役立っています」という(図-4)。


重機の遠隔・自動化施工や3D プリンターの活用

 「着任以来、i-Construction モデル事務所として積極的にデジタル技術に取り組んでいくという思いをずっと伝えてきました。直轄工事ではICT 建機の活用はスタンダードになりつつありますが、それをワンステップ上げていく取り組みをしています」と米沢所長。

2026年1月には調節池囲ぎょう堤の基礎となる地盤改良工事で、30m級の大型地盤改良機を遠隔操作して自動化施工を実施した。目に見えない地下の施工状況をリアルタイムでデジタル化し、攪拌翼の深度や速度を可視化することで確実な品質管理が実現できる。この規模での試行・実施工は世界初だという。

 また建設DX の一環として、池内水路の護岸曲線部施工において、護岸ブロックの一部を3D プリンターで製作した。2025年には2回、現場見学会を実施。従来工法に比べて、プレキャストブロックの現場切断加工、場所打ちコンクリート打設が減少するため、省人化・効率化、安全性向上や美観の効果が期待される。また低炭素型コンクリートを用いた護岸ブロックの採用など、建設施工における脱炭素化の促進にも取り組んでいる(図-5、6)。


維持管理でのデータ活用に向けた取り組み

 維持管理の省人化、自動化を進めるためにBIM/CIM データ活用が大きなテーマになっている。荒川第二・三調節池整備事業でも、建設段階(設計・施工)で作成された詳細なBIM/CIMデータを維持管理段階で活用するため、維持管理を担う荒川上流河川事務所と連携して検討を行っている。

維持管理で取り扱うデータについて、具体的な活用場面の整理等を踏まえた属性情報や参考資料の検討、「どのような管理をしたいのか」という視点からの検証を実施している。

 維持管理でのデータ活用について、河川堤防のドローン巡視や除草の自動化を想定している。施工で取得したデータには、維持管理での自動化・効率化を見据えて、BIM/CIM に属性情報やGISデータを紐づけておくことが重要になるという。

データを資産化し、「どの場所に、どのような土を、いつ、誰が盛ったか」という詳細な履歴をデジタルで保存することが、数十年後の修繕コストの最小化につながる。将来の管理を見据えたバックキャストの視点が必要だという。検討資料は国土交通省で共有され、全国に横展開されていく(図-7)。

 全体完成は2030年度だが、2026年の出水期から第二調節池の一部エリアの暫定的な運用が開始される予定だ。そこで維持管理におけるデータ活用の検証が行われることになる。


BIM/CIM 人材の育成と開かれた公共事業

 荒川調節池工事事務所では技術力向上のため、事務所職員を対象にしたBIM/CIM 統合モデルの操作実習を行っている。さらにeラーニングによる自習学習を推進するため、初心者にもわかりやすい教材をホームページで公開し、事務所職員のみならず、自治体職員、受注先企業などが使えるようにしている。

 また地方公共団体や建設業における3次元データ利活用を促進するため、BIM/CIM 統合モデルを一般公開している。建設事業者が工事受注の検討時や技術提案を行うために利用しているという。

 広報活動にも力を入れ、BIM/CIM 統合モデルをもとに作成したアニメーションやドローン撮影による現場の映像動画をホームページで公開している。

堤防形状の他、第二排水門地下の杭基礎や囲繞堤下の地盤改良などが再現されており、事業の概要や工事の詳細までが理解できる。最新技術を導入した大規模な調節池整備事業として注目されており、年間約100回は、学生や地域住民、自治体、企業など多様な人たちが見学や視察に訪れる。

 さらにBIM/CIM データを人気ゲーム、マインクラフトのデータに変換して、次世代を担う子どもたちの学習教材として提供している。さいたま市ではマインクラフトを活用したまちづくり学習を行っており、市内の小学校の総合的な学習の時間などで活用されている(図-8)。

 ホームページ上には、各施工会社が作成した工事の最先端技術を紹介する動画も多数公開されている。米沢所長は「発注者だけでなく、受注者の各企業が切磋琢磨して最先端技術を投入するといった前向きな気運が感じられます。デジタル技術によって仕事が楽に安全になり、労働環境の改善や生産性向上につながるなど事業自体の質が上がり、それが社会にも還元されていくことになると考えています」。

建設物価2026年4月号