建設物価調査会

3次元モデルを活用し、施工イメージを共有 東京メトロ銀座線渋谷駅移設工事

東急建設株式会社

国土交通省では、建設現場の生産性向上に向けて、建設生産プロセスの各段階において3次元モデル等を活用する「i-Construction」を重要施策のひとつに掲げ、普及を推進している。東京メトロ銀座線渋谷駅の移設工事では、3次元モデルを使い施工イメージを可視化し、情報共有や課題解決に役立てている。導入のきっかけやポイントについて、都市開発支店鉄道土木部切替計画所長 池田 仲裕氏にお話をうかがった。

東急建設株式会社
都市開発支店 鉄道土木部 切替計画所長 池田 仲裕氏

渋谷再開発と銀座線渋谷駅の移設

 大規模な再開発プロジェクトが進行し、ビジネスやさまざまなエンターテイメントが集積する街へと進化を遂げていく東京・渋谷。1日約22万人が利用する東京メトロ銀座線渋谷駅でも、大規模リニューアル工事が進められている。1938年の開業以来初の大きな改修となる今回の工事では、現在の場所から東側へ約130m、明治通り上空に新たなホームを建設し、移設する。島式ホームとなり、ホーム幅の拡充、ホームドアやエレベーターの設置、バリアフリー化などにより、安全性や利便性が大きく向上する。この現場で3次元モデルが活用されている。

 「駅を移設するにあたり、鉄骨で軌道の仮受けをした上で、もともとの構造物を解体し、続いて新しい構造物を構築します。縦断勾配や平面線形を変え、さらに数回にわたる線路切替を行う複雑な工事のため、平面図、断面図などの2次元図面だけでは、なかなか理解しにくいという課題がありました」と線路切替計画を担当し、3次元モデルを駆使したBIM/CIMによるマネジメントを実践してきた東急建設株式会社の池田仲裕さんは導入の理由を語る。

東京メトロ銀座線渋谷駅移設切替工事

銀座線渋谷駅移設切替 M 字上家

3次元モデルを活用したフロントローディング

 渋谷の再開発では、複数のプロジェクトが同時並行で動いている。2009年に着工した銀座線渋谷駅移設工事も周辺のプロジェクトと調整を行いながら進められている。発注者である東京メトロでは、工事を円滑に進めるために新たな技術や手法を積極的に取り入れているという。設計初期の段階に負荷をかけて、事前に設計検討や問題点の改善を図るフロントローディングもそのひとつだ。施工においても、3次元モデルを作り、図面間の不整合の解消、干渉部分のチェックなどの検証やシミュレーションを行い、設計と施工が協働して課題解決を図ることで、施工の品質を高め、工期の短縮にもつながっている。

半日講習会で使いやすさを実感

 池田氏が3次元モデル活用を意識したのは、東横線代官山駅地下切替計画を担当していた2013年にさかのぼる。仮線を設けず、地上の営業線の直下に地下線を準備し、一気に切り替えるSTRUM(ストラム)工法が採用されたが、当時は3次元モデルを導入していなかったため、複雑な工事の計画内容や工程を関係者に説明するのに苦労したという。「この工事に限らず、これまで関係者の理解を促すために多くの工夫をしてきました。説明のために方眼紙で桁の模型を手作りし、ミニカーを持参したこともあります。3次元モデルを導入できれば、説明も容易になり、工事の検討や協議もスムーズに進むと思いました」と池田氏。

 チャンスは数年後に訪れた。担当している銀座線渋谷駅の工事に3次元モデルを活用したいと考え、2017年に3次元モデリングソフトのSketchUp Proの半日講習を受けた。「別のCADで作成した2次元データを読み込んで3次元に起こすので、そんなに手間はかかりません。直感的に操作でき、これなら自分でもできると確信しました」。

 講習を受けた翌日からさっそくチャレンジした。最初に仮設の桁を一基、描いたところ、それを見た人たちから次々に要望が出て、今では数年先の3次元モデルまでを作成するようになった。「最初は当社からの技術提案という形で、3次元モデルを用いた協議資料を作成しました。東京メトロさんからは、わかりやすく協議や上申の際に非常に有効であると、プロジェクトの正式な図書のひとつとして3次元モデルを認知していただけるようになりました」。

STRUM(ストラム)工法による線路移設

切替着手前
切替完了後

関係者が施工イメージを共有

 「3次元モデルを作るのはたしかに大変ですが、工事が複雑であればあるほど2次元の図面をいくら詳細に描いても、クライアントや施工現場にうまく伝わりきらないのです」と池田氏はいう。土木や建築の関係者は平面図や断面図を見慣れているが、鉄道の工事では、軌道や電気・信号担当者、営業や運転部などさまざまな関係者がいる。2次元の図面だけでは理解しづらく内容が正確に伝わりきらない。さらに会議に出席した担当者が上司に説明や報告をする際にも同じ問題が起こる。「また、営業線に近接した工事では、運転士が危険と判断した場合、危険回避として電車を止める等といった運行災害のリスクもはらんでいます。運転席から見える現場の状況を事前に3次元モデルで示すことで、以前よりも明確な良し悪しの判断を運転部署の方々から早期に得ることができるようになりました。3次元モデルを使って可視化することで、関係者すべてが瞬時に同じレベルでイメージを共有でき、それぞれの専門的な立場からの意見が得られるので、課題が早期に処理され、次のステップに進めます。」と池田氏はいう。このように、3次元モデルによって見える化することで得られるメリットは多い。

 このプロジェクトで実施された線路切替工事でもSTRUM工法が採用された。もともと電車が走っていた軌道の直下に線路を切替えるために、桁で仮受した軌道を油圧ジャッキで桁ごと上方に持ち上げて、桁下に電車の走る空間を確保する区間に加え、クレーンによる桁撤去・搬出区間も含め、電車の運休を伴う大掛かりな線路切替の中で、工事は短期間に一気に進めなければならない。そのため現場でも、3次元モデルの施工ステップに加え、Autodesk Navisworksという4次元シミュレーションソフトで作成したアニメーションを活用し、計画・検討が行われた。施工行程の動きと時間をアニメーションで再現することで、複雑な工事への理解も深まった。

 3次元モデルに時間軸を付した4次元施工シミュレーションの制作は東急建設社内の土木事業本部事業統括部ICT推進グループが担当した。ICT推進グループは、VR(仮想現実)やAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、などの先進技術を用いた建設現場の生産性向上に取り組んでいる。このような専門的な推進部門が社内にあることもBIM/CIM活用の大きな弾みになる。

重機の配置を確認するために作成した3次元モデルと実際の施工現場

切替Bブロック
切替Bブロック3D

各種駅施設物設置のシミュレーション

 ホーム可動柵や設備柱等、各種駅施設物の設置位置の検討にも3次元モデルを活用し、さらにVRへと応用させた。「仮図を元に設備柱やサイン等、駅施設物の3次元モデルを作成し、ホーム可動柵と設備柱の位置関係なども検証しました」と池田氏はいう。さらに「VRへと応用することで、自分自身が銀座線新渋谷駅の3次元モデルの中に実物大で入り込むことができ、構造物との距離感や大きさ、そして高さ等を体感できる上、信号やモニターの視認性も確認できます」とその効果を語る。

 「導入に時間やお金がかかると心配される方もいますが、3次元モデルを導入することで計画や検討の正確性が向上し、協議がスムーズに進み、手戻りも少なくなり、時間も短縮できます。総合的に考えて導入の投資コストはすぐに回収できると思います。あくまで主観ですが、トータルで10%程度の削減効果を実感しています。導入効果が具体的な数値で評価できればさらに普及が進むと思います」。

 このような事例の積み重ねにより、施工前の段階の状況把握や検討材料に3次元モデルの制作を依頼されるようになり、クライアントの設計部署と一緒に考える機会もできてきたという。「3次元モデルは作ることが目的ではなく、施工の効率化、高度化を図るためのツールとして使うことが重要です」と池田氏は力を込める。さらに「受け入れ体制があれば、この技術はどんどん伸びていきます。3次元モデルを活用し定着させることができたのは、やはり東京メトロ様のご理解を得られたことが大きいですね」。発注者の意識や理解が進むことで、新しい技術が普及し、発展していく。

 ベテラン技術者からは、3次元モデルを使うと若手の図面読解力が下がるといった声があるが、手描きの製図からCADに移行する時にも同じことがいわれてきた。今ではCADは当たり前になっている。池田氏はBIM/CIMの発展を生物進化上の大転換期にたとえて「現在のBIM/CIMは未だ過渡期であり、カンブリア紀を迎えるためには、前例踏襲の手法や、固定概念の壁の向こう側に行く必要があります」と強調する。施工現場の生産性向上に寄与するBIM/CIM実践のブレイクスルーを起こすためには、これまでの考え方にとらわれず、新たな発想と挑戦する姿勢が求められる。

運転席から見た施工現場を示すことで運行災害を回避

資機材配置計画 運転手目線
資機材配置計画 運転席目線

桁扛上の3次元モデルと実際の写真

桁扛上前
桁扛上実際の写真01
桁扛上後
桁扛上実際の写真02




【追記および参考資料】


東急建設株式会社HP(外部リンク)



本記事の取組みは、国土交通省が開催する令和元年度『i-Construction大賞』優秀賞を受賞されました。


i-Construction大賞 について(外部リンク)
受賞取組概要( i-Construction推進コンソーシアム会員の取組部門)(PDF形式:4,723KB)



記事内のSketchupデータからTwinmotionで作成した銀座線渋谷駅新駅舎イメージムービー
(池田氏が作成したVRデータの動画)



東急建設の渋谷 UiM が支援する東京メトロ銀座線渋谷駅の移設工事
  (4Dシミュレーションの動画あり)

Autodesk社のページ(外部リンク)

建設物価2019年9月号