山口県光市に本社を構え、土木工事や地盤改良工事などを手掛ける株式会社川畑建設は、2017年から本格的に ICT 事業を進め、2018年には ICTに特化した建設コンサルタント会社、SURDEC(サーデック)を設立した。サーデックでは、ドローンやレーザー測量、3次元モデルによる設計・施工図の作成や加工などを行い、自社の業務以外にも他社の ICT 業務支援も行う。さらにM&A で測量会社を取得するなど事業の拡大を図っている。
施工においては、3次元モデル化したデータを使い、ICT 建機をタブレットで操作する。ICT活用案件でない標準工事でも ICT 建機を使い、工事の8割で活用している。残りの2割でもドローン測量や3次元設計データの作成など、できる部分を ICT 化しているという。
「一部だけでも十分効果はあります。それが本来のやり方ではないでしょうか。国交省の方とお話する機会がありましたが、i-Constructionの5項目を全部クリアするのはハードルが高いという会社は多い。
最近は Light ICT のように一部分でも評価するという動きも出てきました」と同社代表取締役社長の川畑大樹さん。
川畑さんは大学卒業後、飲食業を経て、父の克已さんが経営する川畑建設に入社した。建設業は働く人の能力に対して賃金や労働環境が報われていない、将来の希望がないと続かないと危機感を抱いた。先代の社長も川畑さんも現場に出て、できるだけ楽に効率的に作業できる方法を常に考えてきたという。
「私は文系の学部だったので入社当時は専門知識がないため、測量をするにも機材やソフトウェアに頼るしかありませんでした。プロセスよりも良いものをつくるという結果が大事だと考えていましたので、ICT にも入りやすかったのかもしれません」と川畑さんはいう。
ICT に取り組んだきっかけは「入札案件で会社の規模以上の仕事を受注したこと」だった。まずは ICT 建機を導入し、測量や設計はアウトソーシングしようとスタートした。建機メーカーからは一体型を勧められたが、費用対効果を考えシステムを外付けタイプにした。川畑さんは「重機とシステムは償却期間も違いますし、外付けタイプなら他の機械に取り付けることもできます。選択の基準がわからないと勧められたものを購入しがちですが、とにかく調べて勉強しました。それが今の仕事につながっています」。
施工管理の観点からは、度重なる設計変更に対応するためには外注では時間もコストもかかってしまう。そこで現場の所長をしていた川畑さんは自分でやってみようと考え、メーカーに相談してドローンやソフトウェアを揃え、PC もアップデートした。約2年の現場で実践しながら自社で一貫して i-constraction が構築された。
最初は驚いていた社員も新しいことに取り組んでいるという自覚が芽生え、自信や誇りにつながっていった。社員の年齢構成は業界の中では比較的若く、40代と30代、20代。経験とスキルが噛み合う40代の社員が中心だったことも業務の ICT 化には良かったという。
ICT は目的ではなく、効率や生産性を高めるためのものであり、企業にとっては経営課題を解決し、利益を生み出し、継続的な成長を実現させるための手段となる。
川畑さんは「ICT に使われるのではなく、使いこなすという発想にならなくてはいけないし、ICT にこだわらず、もっと効率が良く、生産性の上がるものがあればそれを使えばいい。ただ今は ICT を使った方が、効率が良いのです」という。
動向は知っていても投資の判断ができないという経営者も多いが、川畑さんは「当社で始めた時は入札時の加点もなく、費用もすべて自社負担でした。ICT 導入の目的はあくまでも利益を生み出していくためです。これからは主流になる技術ですから、先手を打っておかなければ生き残れませんし、そこにチャンスがあると考えました。自分の会社をこうしたいというビジョンがあれば、積極的に導入された方がいいと思います」。
さらに大切なことは、働く人の労働環境や意識を変えることだという。川畑さんは「ICT という言葉をきっかけに思考の改革ができれば、今まで3K といわれてきた建設業の労働環境の改善や完全週休2日の実現につながります」。
構造物を造り、社会を支えることは建設業の誇りだが、全体像が見えない状態で作業をしていても誇りが持てない。「もっと自分の仕事に誇りを持って欲しいし、希望がないと業界として続いていきません。利益を出すことも必要ですが、社員に希望を持たせることが何よりも大切だと思っています」と川畑さんはいう。
当初、抱いていた危機感が ICT 導入の根底にあることがうかがえる。グループ会社の2社では働き方が大きく異なるという。サーデックは、効率的に仕事をしてできるだけ残業しないような働き方をしている。川畑建設の社員にはそれを見て自分たちの働き方を変えるきっかけにして欲しいという。「会社では休めるように規則やルールを作っていますが、今まで週6日で施工していたものを5日にするためにどうしたらいいか、本人たちが考えなければいけないのです。今は産業革命的な大きなターニングポイントに来ています」。
ICT をきっかけにした多様な人材の採用や活用もある。サーデックを立ち上げたきっかけは、ICT に興味を持った地質コンサルタントを採用したことだった。新たに ICT に比重を置いた業務をする社員も採用した。ゼネコンの現場事務所で派遣社員をしていた女性が ICT を勉強したいと北海道から入社した。「昨年は工業高校の先生が3日間インターンに来ました。学校とのパイプができたことで新卒採用の可能性が広がります」と川畑さんは期待を込める。
新たな建設業の姿や魅力を伝えるために毎年、建設系の学科を学ぶ高校生を対象にした現場見学会を行っている。
2年前からは小学生のための現場見学も開催している。そこには子どもたちに次世代の建設業のイメージを培って欲しいという強い思いがある。イベントにも積極的にも出展し、バックホーシュミレーション体験やVR(仮想現実)による工事現場の臨場体験などを行っている。小さな子ども向けにはショベルカーの模型でお菓子をすくう体験もあり、毎回、人気を博している。子ども達、さらにその親に向けてアピールしていくことで業界全体のイメージアップにつなげたいという。
川畑さんは「私にも小学生の子どもがいますが、タブレットやPCを普通に使っています。テレビゲームで育った若い世代にとってICTは特別なものではありません。VRなどの新しい技術もどんどん活用されていきますので、これからは若い人たちの活躍の場が広がります。将来は建設業がみんなの憧れの業界になるかもしれません。今、現場にいる人たちにも、便利なものやプラスになるものをどんどん試してみたらいいと話しています」。
現場では ASP という情報共有システムで発注者と受注者がクラウドでファイルのやり取りを行っている。今後はこれをさらに進めて、受発注間、現場と本社、地域住民などとも工事の情報を共有できる体制づくりをしていく計画だ。「提出のために紙の書類を作り込み、わざわざ現場まで来てもらうことが従来のやり方ですが、時間や労力がかかります。みんながめんどうだと思っていることを変えていくことが必要です。
さらに3次元データを活用してスマートグラスなどを使い、現地に行かなくても現場が見えるようにしていきたいとメーカーや発注者に働きかけているところです」。データの移動で省力化できれば建設業でもテレワークや週休2日が可能になる。「今まで当たり前だと思っていた価値観を疑うことが大事」だと川畑さんは強調する。さらに「ICT に取り組むようになり、いろいろな方にお会いし刺激を受けます。建設業界、土木業界がいかに時代遅れかも実感しました。時代とのギャップを埋める努力が必要です」。
最後にこれからの抱負をうかがった。「今がまさにターニングポイントです。エリアだけで考えていては仕事の受注を大きく増やすこともむずかしいし、公共事業で儲けようとしても限界があります。だからボーダーを決めたくないというのがあります。山口県東部から山口県、中国地方、日本全国、さらに海外へと、利益が出るのなら外に出ていくという思いがあり、限界を決めず、もっと仕事をとってこようと社員にも話しています」。ICT、さらに IoT をツールに事業を広げていこうという川畑さんの思いに建設業の未来や可能性を感じた。