建設物価調査会

施工の現場でこそ3次元データの活用を

株式会社亀太

日々の作業が変わらなければ生産性は上がらない

岐阜県に本社を構える株式会社亀太は、測量機器やソフトウェアなどを扱う商社。

10年前から自社で販売しているレーザースキャナやドローンを使用した計測業務や3次元データの作成など、ICT活用工事をサポートしている。


同社代表取締役の橋本尚史さんに3次元データ活用の可能性や普及の課題についてうかがった。

TS 活用による出来形管理

 10年前に「情報化施工」としてトータルステーション(TS)を用いた出来形管理が始まった。施工管理データを搭載したTS を使って出来形計測したデータをソフトウェアで一元管理することで、工事測量、設計データ・図面作成、出来形管理、出来形管理資料作成等の一連の出来形管理作業を自動化・効率化できる。

「それまではテープやレベルを使っていた出来形管理をTS で検査をするという流れになりました。3次元データを使う仕組みが国から提示されたのです。測量機と3次元データを組み合わせることで品質向上と生産性向上が図れます。これで現場の未来が大きく変わると直感しました」と株式会社亀太代表取締役の橋本尚史さんは当時を振り返る。

 情報化施工は出来形管理の仕組みとして広く認識された。顧客から出来形管理のための3次元データ作成を依頼されたことが契機になり、同社では情報化施工、設計データ作成業務を行うようになった。これまでに、ICON、BIM/CIM 試行工事において600現場を超えるBIM/CIM 実施計画書の作成支援、現況計測、3次元モデルの作成を行っている。

 橋本さんは、他社が扱っていないものを見つけ、いち早く現場で実験をすることで顧客にその商品ないが生み出す価値を提供することが商社の役割だという。自分が使っていないものを勧めることにも違和感があった。新製品が出ると購入し、まずは自分で使って、どうしたら現場で役立つものができるかを考えてきた。新しいものは簡単には売れないし、特に実績のないものはなかなか採用されない。そこで自社で使い、業務として成果を出しながら、顧客に合わせた提案や導入後のアフターフォローを行うことで3次元データ活用をサポートしてきた。

施工に役立つモデルでなければ生産性は上がらない

 「情報化施工から10年が経ち、i-Construction、ICT 土工として3次元データの活用が推進されていますが、世の中になかなか浸透しないのは、やり方、使い方をきちんと理解している人が少ないからです」と橋本さんは指摘する。

 BIM/CIM を普及させるためには、施工での活用が鍵になるという。「多くの現場では2次元の図面しか使っていません。施工にまでつながっていかないと使う場面が限られてしまい、3次元モデルを作る手間を回収できません」と橋本さん。さらに「今はモデルを作る時点でただ絵を描いているだけにすぎず、モデルを作ること自体に意味を持たせること、その答えを施工にまでつなげていくことができれば、費用対効果は上がります」。

 今のi-Construction では3次元データはICT 建機に入れる以外は工事の最初と最後だけ使われているが、それは全体の5%以下であり、その部分で効率化が図れたとしても、全体に与える影響は少ない。橋本さんは「日々の作業が変わらなければ生産性は上がりません。そこが理解できていないと本当に役に立つものにはなりません。施工を意識してモデルを作るべきです。3次元データと現場施工管理をどう結びつけていくかが重要です。ただ形にするだけで、使う目的がなければ価値の低いモデルになってしまいます」


3次元モデルの作成過程が設計照査

 3次元モデルは図面の整合性がないと描けないので、初心者でも作っていくうちに設計の間違いや数字があっていないことに気づくという。「図面を一生懸命チェックする代わりにデータを作ることを通して設計照査をすれば良いのです」と橋本さんはいう。

 形を作るためには全体を理解することが必要になるので、若手が3次元データを作ることで現場の理解につながる。「描く作業自体が図面の照査になり、しかもかなりレベルが上がりますから、仕事の流れも変えてくれます。当然、スケジュールも前倒しができます。施工の中でフロントローディングができれば十分効果が出るはずです」と橋本さんは3次元モデルを作成する過程でさまざまなメリットが生まれることを示唆する。

 岐阜県内の建設会社では、実際に測量機を使っている現場代理人や管理技術者が、仕事を効率化するために測量機器やシステムを選んでいるという。現場の人に教えられて便利さに気付く現場所長も多い。さらに活用を普及させるには、発注者や建設会社の理解も欠かせない。

道具を変えたら、やり方も変わる

 BIM/CIM を導入しても手間がかかり、本当に効果がでるのだろうかという声を聞くことがある。橋本さんは「私たちが実際の現場での作業をお客様に見ていただくと、簡単そうで早くできるように見えますが、少なからず慣れは必要です」。新しいものを入れた瞬間から効果が上がるわけではないが、1つの現場で真剣に使えば間違いなく使えるようになるという。

 使う側の意識改革も重要なポイントだ。「現場の人は今やっている手作業を自動化して効率化したいといいます。でも違う道具を使って効果を出すためには、仕事のやり方も変えなければならないのです。例えば、3次元データでは全面に答えがあるので、それを使わなければもったいない。従来のように高さを確認するために位置を出す必要はないのです」と橋本さんは力を込める。やりたいことを実現するためにはどんなデータにすればいいのか、トータルとして何ができるのかを理解できる人はまだ少ないという。

 また2次元の図面から3次元データにする場合、一般的に横断図は20mピッチにしかないし、3次元データは中心線に直交する断面がなければ作れない。路床や路体の仕上がりの線も平面図には描かれていないといった課題も多い。「設計段階そもそも必要なものを作っていないので、基本的に今のやり方で設計図から3次元データを作るには平面図との整合性をとりながらデータを作るしかないのです」。


3 次元モデルを活用した施工管理
ボックスカルバート

初心者でもできる3 次元モデル

 「基本操作を覚えれば、3次元CAD は業務経験や作図の経験のない人でも使えます」と橋本さんはいう。実際、橋本さんも半年かけて独学で3次元CAD を習得した。数年前からは、新入社員の採用に際しては、3次元モデルの作成も業務のひとつだと伝え、入社後は一般事務職も含め、3次元モデルの作成を担っている。

 その理由を橋本さんは次のように話してくれた。営業サポートは仕事量に変動がある。顧客から問い合わせがあれば、その日のうちに調べて翌日には返す。それと納期の長い仕事を組み合わせることで生産性を高めることができる。社員のワークライフバランスを実現するために誰かが休んでも困らない会社にしたいという。そのために人数を多く採用して3次元モデル作成を組み合わせることで稼働率を100%にする。

 もう一つは、忙しい橋本さんの仕事を社員に引き継ぐことで、会社全体の生産性を高めることができる。仕事には経験値を活かせる部分と若い人がやっても同じ部分が混ざっている。橋本さんにしかできない仕事をすることで顧客に新たな価値を提供できる。

 最後に今後の可能性についてうかがった。「3次元データにより現場管理の方法が点から線や面的に変わることで、より正確にものが作れるようになります。今後、合意形成を経てできあがった答え(3次元モデル)を関係者で共有し、現場管理をするという未来を創りたいと考えています」。橋本さんの描くビジョンが実現すれば、建設業の生産性は大きく向上することになるだろう。



社員の声

空 麻利さん
経営企画室

立体を頭の中で組み立てる
 一般事務として入社して4 年目ですが、3年前から3次元データの作成をしています。Autodesk のサイトで公開されているトレーニング教材を見たり、社長に教えていただきながら覚えました。3方向からの形を頭の中で組み立てるのは難しいですが、それぞれの方向からどう見えるのかを意識するようになりました。一個一個のものを作って組み立てる時に平面図に置いていくのですが、社長は簡単にできるのに自分がやるとうまくいかないこともあります。ボックスカルバートは、コンクリートの中に鉄筋があることも知りました。

太田垣実希さん
経営企画室

ショートカットキーを覚えると便利
 入社して3か月です。以前はパソコン教室の講師をしていて、AutoCAD にも挑戦したいと思っていました。入社初日に社長から教えていただき、U字溝の3次元モデルを作成しました。最初は難しかったのですが、図面を見て、どういう形を組み合わせるのか、試行錯誤しながらやっています。形を理解すれば早いので、空さんから実物のかたちを確認してから作った方が良いとアドバイスをもらいました。ショートカットキーを覚えたり、先輩やできる人の動作を見て参考にしています。データを見るだけでも勉強になりますよ。

太田垣さんが入社初日に作成した
U字溝の3 次元モデル
建設物価2020年9月号