建設物価調査会

技術者が設計プロセスの中でCIM を活用できるように人財育成センターにBIM/CIM の専任チームを組織化

株式会社ニュージェック


人材育成センター BIM/CIM班 佐藤 優乃さん(左)
経営戦略本部革新技術グループ 春木 雄介さん(中)
河川グループ河川構造チーム 山本元太さん(右)

総合建設コンサルタントの株式会社ニュージェックでは、社内の人財育成センターの中にBIM/CIM班を置き、各グループの若手技術者が期間限定で専任者としてBIM/CIMの技術を習得しながら、社内の3 次元モデル作成を手掛けている。BIM/CIM導入の経緯や効果についてうかがった。

設計技術者による BIM/CIM の専任組織

 BIM/CIM を活用したいけれど、2次元図面から3次元モデルを作るのは操作も煩雑で、覚えるのにも時間がかかる、データが重すぎてサクサク動かない、自分がやりたいことはあるけれど、どこを操作していいかわからない…。そういった課題を組織全体で解決している会社がある。

 大阪に本社を置く総合建設コンサルタント、株式会社ニュージェックでは、基本計画や景観検討、基本設計から詳細設計、維持管理に至るさまざまな業務にBIM/CIM を活用している。その取り組みは数年前にさかのぼる。社内に CIM 検討会をつくり、勉強会の開催や必要なツールの情報収集を行ってきた。その後、国土交通省が2025年までに建設生産システムの生産性2割向上を打ち出したことを契機に、2017年に CIM 推進チームを組織した。主に詳細設計を行っている複数の技術グループから技術者を1名ずつ選出し兼任とした。コアメンバーを決めてスキルを上げていく育成方針だったが、兼任のため通常の業務が忙しく、BIM/CIM の取り組みはあまり進まなかった。

 そこで3年目からは、一般管理部門にBIM/ CIM 専任の組織をつくり、今後 CIM の活用が進むと見られる道路、河川、BIM との連携が図れる上下水道の技術グループから1人ずつ、3人の専任者を配属した。「専任者は CAD オペレーターではなく、設計技術者です。設計の過程で BIM/CIMをどう使えばいいかを考えながら取り組んでいます」と執行役員の深山譲二さん。専任者は入社2~3年の若手技術者なので、専任者のリーダーや出身グループの管理技術者が指導を行うなど、サポート体制も充実させた。1年間活動して行くと、社内から依頼がくるようになった。

 「概ね半年ぐらいでソフトウェアの基本的な操作を習得でき、それ以降はより高度な使い方や、発注者に対して説得力のあるモデルを作成できるようになります」と深山さん。2年目の今年は、道路、上下水道、建築のメンバーを専任とした。 経営改革の中で、人を育て、成長への投資を加速させることを掲げている同社では、若手技術者に幅広い分野の基礎技術を習得させるために、今年から社内に人財育成センターを開設した。専任チームも BIM/CIM班として人財育成センターの中に置かれている。今後は BIM/CIM拡大を見据えた体制づくりを検討していくという。


3次元モデル作成を通して構造物を理解する

 BIM/CIM専任者、佐藤優乃さんは、希望して1年の期間をさらに1年延長した。「入社してからは上下水道の仕事をしています。下水処理施設の構造は複雑ですが、供用中の施設は水路部や水槽部に立ち入ることができず、紙図面では施設の仕組みがイメージできず、処理フローの理解に苦しみました。3次元モデルがあると紙図面よりも空間のイメージがしやすく、頭の中のイメージを表現できることに魅力を感じています」。

 設計プロセスの中で BIM/CIM をどう使えばいいのかが見えてくることが大切であり、社内の技術者が BIM/CIMを使えるようにするためには、こういった人材育成が必要だという。設計の技術的なことは技術者と相談しながら、3次元モデルの作成については BIM/CIM班の専任者と課題を共有しながら進めている。

 リーダーとして専任者に指導をする春木雄介さんは、前職で3次元モデルの作成をしていた。「一概に BIM/ CIMといっても分野によって必要となるソフトウェアは違いますので、数社のものを使い分けています。私も全部把握しているわけではありませんので、それぞれが得意分野を生かし、相談しながら進めています」。 ベンダーのマニュアルでは理解しにくい部分もあるため、BIM/CIM班ではソフトウェアのテクニック集を作成し、社内で共有している。

 「1年単位で専任者が変わります。みんなが困ったことを形に残して、共有することで習得の速度が違ってきます」と深山さん。さらに技術グループと連携しながら課題をリストアップし、専任者が OJTの中で解決していく。積み残した課題は次の専任者に引き継がれる。

BIM/CIMの効果やメリット

 深山さんは「プロジェクトを丸ごと BIM/CIMでやる必要はなく、部分的でも業務の中でうまく使えればいいと考えています。今は、数多くこなしていくことが重要」だという。

 3次元モデルがあれば受発注者間、関係者間で設計内容の共有がしやすくなる。例えば、豪雪地帯の都市計画道路の設計では、積雪時の安全性を検討するために3次元モデルを活用した。ドライバーの視点から横断歩道を渡る歩行者がどう見えるのか、2次元図面ではわからないことが3次元モデルにすることで見えてくる(図 1,2)。

 普段の作業が楽になる取り組みでは、現地調査に小型の3次元レーザースキャナーを活用している。デジタルカメラのような感覚で簡単に点群データがとれ、パソコンに取り込み現場の再現や計測ができ、調査の効率化に役立っているという。またドローンで撮影した写真から点群データを起こし、そこに計画の3次元モデルをのせて日陰の検討などに活用している(図3)。

 ダム放流による河床変動を検証する業務では、実験場に設置した河川モデルに水を流した結果を3次元レーザースキャナーで計測し、実験前後のモデルの変化を解析して変化を色で表現した(図4)。従来の手法では断面ごとの計測となるが、3次元レーザースキャナーを使用することで面的な計測が行え、より精度の高い解析ができるようになった。


課題と今後の可能性

 現状では2次元で設計したものをベースに3 次元モデルを作っているが、佐藤さんは「構造物モデルの作成に特化したソフトウェアでは、柱などの部材を積み木のように組み立てて作成できるので、ベースとなる2次元図面がなくても抵抗なく、3次元モデルを作成できます」という。

 一方で春木さんは「膨大な地形データを扱うには今のマシンのスペックでは難しく、分野によって BIM/CIM技術の方法は異なります。現状では、 BIM/CIMを使えばすべてが便利になるわけではなく、ソフトウェアの状況や扱えるデータの大きさを考えながら、使えるところにフィックスさせていくことが必要です」という。

 河川グループの山本元太さんは「河川の設計では、現況の地形に合わせながら設計を進めていくので、今はまだ3次元モデルでの細い検討はできません。ざっくり堤防の線形を決めるなど、概略で使うことが多いです。これまでは、法線の位置が合わなければ、法線を入れ直してすべての横断図を描き直さなければなりませんでしたが、3次元モデルがあれば作図作業はソフトがやってくれるので、法線を決めてチェックをすればいいだけです。これは大きなメリットです」。春木さんも「3次元モデルから気軽に図面作成ができれば、図面同士の整合がとれているので設計精度の向上につながります」という。

 山本さんは「河川では、河床の地形が変化しますし、また定期的な計器の測量は200mごとに1断面となるため、300mの設計をする時に断面がひとつしかない場合もあります。どこまで正確な設計ができるのかは従来からの課題です。水中の地形データが取れるグリーンレーザーを活用し、定期的に地形データを一括してとり、それを蓄積していけば、河道の変化や今までチェックできなかった箇所での細かい設計ができるようになり、河川管理の精度を高めることにつながります」。

ものづくりの技術を高める

 深山さん「日常の設計業務の中で3次元データをいかにうまく使うかを考えています。我々の仕事も分業化されていて、計画から設計までの一連の作業をすべて自分自身で行うことは少なく、計画、設計、解析、作図など分業しながら進めます。分業によって技術者の専門性ばかりが高まっていますが、幅広くやれるようになることも重要です。そこに BIM/CIMという道具をうまく使い、自身の技術を高めることができればと思います。そして、設計が楽しくなるような環境づくりが必要です」。

 佐藤さんは「BIM/CIMは構造計算や容量計算などの各種計算と連携した時に、生産性向上につながると思っています。モデルと各種計算がリンクするようなプログラミングの知識も必要だと感じています」。春木さんは「3次元モデルを利用して構造計算や数量の算出が行えますが、出力される解析結果や数量はソフトウェアが計算を行うためそのプロセスはブラックボックスです。計算が正しいのかを証明するために、従来のやり方での計算も行い、比較検証を行う必要があります。業界全体で3次元モデルを利用した構造計算等が当たり前になれば、計算結果の検証が不要となり作業の効率化につながっていくと感じています」。

 BIM/CIMを活用しフロントローディングによる生産性向上が期待されている。深山さんは「我々はベースとなる設計をしますが、どう施工するかの詳細を詰めることはできませんので、施工計画のためのモデルが必要になります」という。さらに「上流工程で本来はもっと検討されるべきことがあると思います。基本設計の精度を高めることができれば、詳細設計で大きな変更や手戻りが少なくなります。都市高速道路のように難易度の高い工事では、設計段階から施工会社が参画し、施工計画の知見を設計段階に織り込んでいく ECI方式があります。そういったものを導入すれば、より活用のメリットが出てくるのではないでしょうか」。

 経営陣の明確な方針のもと、若手技術者が生き生きと仕事ができる自由闊達な雰囲気が印象的だった。BIM/CIM導入を通して、若手の育成をしながら、部門を超えた議論や情報共有をすることで、会社全体の技術や提案力向上につなげている同社の取り組みは、すばらしい事例だといえる。


建設物価2020年12月号