建設物価調査会

ICT はドローンや重機だけではない。身近なアプリやスマホを活用し、利益を生み出す



平賀建設有限会社


左)平賀建設有限会社 取締役 松尾 泰晴さん    右) 平賀建設有限会社 代表取締役 平賀 健太さん

国土交通省のi-Construction 推進以前から、建設現場に最新のICT ツールを活用し、生産性向上、働き方改革を実践してきた松尾泰晴さん。トップランナーとして、国土交通省 中部地方整備局ICT アドバイザーとして活躍し、日本全国の行政や業界団体、企業を対象に年間70 件を超えるセミナーを行っている。これまでの常識とは全く違った発想で建設業のICT化を進める松尾さんを訪ねて山梨県の平賀建設にうかがった。

3次元モデル作成を通して構造物を理解する

 ICTというとドローンやレーザー、重機ばかりが取り上げられるが、ICTでコミュニケーションのロスをなくす方が利益を生むと松尾さんはいう。現場で困っていることを助ける道具がICT。ドローンを導入することが目的ではないし、使えば儲かるわけでもない。

「どう使うかが重要です。ドローンで測量したデータを設計や重機で使う、さらにクラウドでデータを共有できれば価値や利益を生み出します」。松尾さんは、これまでi-Constructionの現場は一度もやったことがないという。ICTを取り入れたのが早すぎて認定されなかったのだ。県の仕事をした時もICT施工の前年だったためリストには載っていない。「そういったことには興味がありません。僕の中でのICTはiPhoneが先だったのです」。


iPhoneでコミュニケーションを円滑に

  2005年頃、松尾さんは建設業の傍らインターネットのSEO対策を独学で学び、アフィリエイトで報酬を得ていた。しかし、2年ほどで検索エンジンがYahooからGoogleに変わり、システムも様変わりした。

ちょうどその頃、公共工事の工事成績評定で常に80点以上取れるようになり、土木の現場が面白くなった。利益も上がり、会社からも評価され、モチベーションが上がった。仕事をもっと楽にしようと、インターネットの知識を生かし社内にWebサーバーを立ち上げ、資料をブログ形式にして検索しやすくした。コミュニケーションを円滑にするためにiPhoneを導入したのは2011年。今ではグループLINEも当たり前だが、当時はスマートフォンを使う人もまだ少なかった。すべて設定をして使い方を説明した。最初は数人ではじめ、自然に社内全体に広がった。

「最初のテストは必ず家族で行いました。カレンダーや買い物リストの共有など、小さなことから始めました」と松尾さんは当時を振り返る。

無料アプリやOfficeの3D機能を活用

  Postitという無料の付箋管理アプリを使い配置表を作った。PDFに変換してメッセージやLINEで情報を共有できる。どこにいても人や機械の配置が一覧でき、外国人実習生にも理解しやすい。待機している機械があるのにレンタルしてしまうといったロスもなくなる。

松尾さんは「使い方を考えて、使ってみて、グループLINEに送るシステムまでを作り、運用は現場の職長に任せます。納得いくものがなく、このアプリを探すまでに1年かかりました。2012年に出て、すぐにこれだと思いました」。 

最近は3Dスキャナーや360度画像、点群データが取れるアプリもある。松尾さんが使うものはすべて海外のものだ。建設用ではないので、建設、点群といったキーワードで探しても見つからない。「IFTTTなどのレシピアプリも便利です。例えば、メールが届いたらクラウドに飛ばすといった連携、自動化のアプリです。10年ぐらい前からありますが、AlexaやGoogle Homeとも組み合わせて使えます」。 いつも使っているエクセルやパワーポイントでも3Dを読み込め、データを貼り付けられる。Windowsに入っているペイントでも簡単な3Dが描けるので、道路の規制図や保安設備図なども立体化して見せることができる。「マイクロソフトの標準で3Dが入っているのですから、もう3Dの時代なのです。モデルを作り専用ソフトで見て終わりではなく、それをどう活用するかが重要です。ドローンで撮ったデータもファイル形式を変えてiPhoneで見るなど、身近なソフトでいろいろなことができます」と松尾さんは強調する。

おススメのアプリを使った3D画像など



ハイブリッドによる化学反応を期待

 2020年9月、松尾さんは山梨県韮崎市の平賀建設に移籍した。1960年に創業した同社は、数年前からi-Constructionに取り組み、業績を伸ばしている。代表取締役の平賀健太さんは18歳で会社を継いだが、長い間、建設業に未来を感じられなかった。

しかし、ICTを取り入れたことで建設業の面白さや会社の成長を実感できるようになった。2人は1年半ほど前、共通の知人の紹介で出会った。平賀さんは「松尾さんの生き方や働き方を尊重し、お互いの価値を高めていきたい。僕たちのやり方と松尾さんの攻めているICTとは違いますが、ハイブリッドした時にどんなケミストリーが起きるのか楽しみです。一緒に面白いことをしたい」という。

 「平賀さんは重機のプロですが、使い方が普通の人とは違っています。教科書通りにやっていてもダメだし、大事なことは教科書には載っていない」と松尾さんはいう。平賀さんは 「ICTを道具としてどう使えるのか考え、実験しています。例えばICT重機を使えば設計の高さが自動的に分かるというだけでなく、もっと違った使い方ができないか、もしアタッチメントを活用して今まで吊り上げて動かしていたものを掴むという概念に変えることができれば、2~3人でやっていた作業が1人でできるようになります」。それを受け、松尾さんは「そのために仮に100万、200万円かかるとなると人を配置した方が安いとなってしまう。でも投資することで結果として人も少なくてすむし、時間も早くなる。ひとつの現場だけではなく、トータルで見ることが必要です。

平賀さんは「重機が高額でもそれだけ稼げばいい。問題は会社の回転速度です。ICTで作業が早くなれば、1か月かかっていた現場が20日で仕上がり、残りの10日間は違う現場に行けます。それに合わせて人もキャッシュも道具もすべて、回転速度を速めることが必要です。速度についていくのは大変ですが、多く稼げ、結果も出せる」という。

趣味も仕事も常に真剣勝負

 松尾さんは自分の経験で得た情報をすべてオープンにしている。今や情報やノウハウを隠しておく時代ではなく、オープンにするからこそ、人脈も広がり、リターンが大きいという。平賀さんは「会社の情報は全部出していいと話しています。全国を飛び回り、高級車で通勤し、趣味の自転車競技で海外に行く。そんな話題性がきっかけになり、松尾さんの存在や価値を知ってもらえばいい」という。

 松尾さんは16歳でBMXという自転車競技の世界大会に出場した経験を持つ。20歳で離れて以来25年ぶりに復帰し、その年から3年連続で代表権をとり、2019年はベルギーの世界大会に出場。参加していたフランスの選手と仲良くなり、フランスのメーカーが作ってくれたMATSUOモデルの自転車に乗っている。海外の知り合いが増え、それが仕事にも生きているという。趣味も仕事と同様にストイックに取り組む。多忙な中でも夜中にジムに行ってトレーニングを続けている。

 コロナ禍がなければ2020年はアメリカの世界大会に参加し、フランスを拠点に仕事をする予定だった。パリから成田までは約12時間。国内でも場所によっては移動に時間がかかる。だから国内も国外も変わらないという。飛行機や新幹線でもWi-Fiがつながるので、移動中も調べものなどの仕事ができる。愛知県の自宅から山梨の会社までは車で2時間半ほど。今のところ、出社するのは月に数回だが、松尾さんは「どこにいてもネット環境さえあれば同じ環境で仕事ができます。リモートワークが進めば、子育てや介護をしている人も働き続けることができるようになります」と示唆する。

BMX(世界大会の様子や交流、MATUOモデルなど)

ブルーオーシャンの建設業にも変化の波が

 松尾さんは「今の20代、30代は、生まれた時から3DがあってYouTubeなど僕たちが持っていなかったネットワークを持っています。彼らが創り出すものは面白い」という。大学でドローンやVRの授業も行っており、キャンパスの3次元データを取り、その場でデータを作ってバーチャルでキャンパスの中を体験する授業をしている。現場で今やっていることを見てもらい、昔とは大きく変わっていることを知って欲しいという。

 最近では、海洋研究やロボット設計など異なる分野を学んだ人たちも建設業に来ているという。平賀さんは「建設業は最先端の技術を使っていい業界なのに使えていない。ガラパゴスだから面白いと感じるのでしょう。建設業には様々な可能性があり、やりたいことができる魅力がある。彼らは建設業だけでなく、社会を変えていこうとしています」。松尾さんは「最初にドローンが実用化されたのは測量でした。VRもゲーム以外のビジネスで使われているのは土木や建築です。頭のいいIT業界の人たちが土木は金になるとシフトしてきています。スーパーゼネコンもベンチャーと組み始めています。建設業はブルーオーシャンです。だいぶIT化が進んできましたが、こんなに遅れている業界はありません。逆にいえば伸びしろがあるので、今から一気に変化が来るでしょう」という。

さらに「建設業界はコロナの影響をあまり受けませんでしたが、今後、対応できないことが起こるかもしれません。すぐに切り替えができるように引き出しをいっぱい持っていることが必要です」という。

 平賀さんは「価値観が多様化し、スピードも速い。僕らの最大の敵は時代です。松尾さんは前を歩いていて追い風が吹いてきたけれど、僕たちはその風を捉えただけです。これからいかに戦っていくか。それで失敗した時には時代に負けたということです」。

 コロナ禍により飲食業をはじめ様々な業種で仕事を失った人は多い。企業でも新卒採用中止や副業を解禁するなど大きな変化が起きている。松尾さんは「土木は昔から雇用の受け皿になってきました。3次元データの作成に興味を持つ人や得意な人をどんどん引っ張ればいい。そういった柔軟な発想が必要です」と提言する。これまでの固定観念にとらわれず、変化に対応して変われなければ個人も、会社も国も生き残れない。

松尾さんのセミナー風景

大学での授業