建設物価調査会

社長のトップダウンと技術者の力で現場すべてにBIM/CIMを浸透させる



福留開発株式会社


福留開発株式会社 土木部土木課 課長 足達大輔さん


高知県の福留開発株式会社は、1951年の創業以来、公共工事を中心とした土木工事を行っている建設会社である。2015年以降、直轄工事・県工事において10件以上のi-Constructionの実績を持ち、国土交通省の令和元年度i-Construction大賞(優秀賞)を受賞。i-Construction導入のきっかけや取り組みについてうかがった。

建設雑誌で見たi-Con 先進企業を訪問

 福留開発では、自社UAV、レーザースキャナーによる3次元起工測量、3次元設計データの作成、ICT 建機による施工、3次元データの納品といったすべての工程を社内i-Construction推進チーム主導で自社完結している。この他にも、GNSS(全球測位衛星システム)による出来形管理や盛土締固め管理などを導入している。2015年以降、直轄工事・県工事においてi-Constructionを10件以上実施し、その実績や取り組みの有効性・先進性・波及性が評価され、国土交通省から令和元年度 i-Construction大賞を受賞した。

 最初にドローンを導入したのは2015年。きっかけは、トップダウンだった。同社では、現会長が社長の時代から3次元データやドローンといった新技術活用の重要性を認識し、社内で情報収集を行っていた。そんな時、建設専門誌のi-Construction特集で、岐阜県の建設会社によるドローンを活用した測量技術が紹介されていた。それを読んだ大場将史常務(現社長)は、すぐにその会社に連絡して、現場を見学して話を聞いた。帰ってきてすぐにドローンを購入して空撮を始めたのがスタートだった。 

 2016年度に入ってからは建機のレンタル会社に測量を外注しながら、ICT 建機、3次元測量にトライした。「取組当初はドローンの設定や解析方法など全く分からず、当時そういった情報を多く持っていた全国展開の建機メーカーや測量機器販売代理店の方々に協力してもらいながら現場で試行錯誤を繰り返すことで、自社のノウハウを蓄積し、マニュアルを作成しました。

 今は、技術が浸透してきているので割と簡単にそういった技術を習得することができると思います。また導入前の情報収集も欠かせません。ソフトウェアにはそれぞれ特徴があるので、比較して選んだ方がいいです」と足達さんは示唆する。足達さんは、東京のセミナーなどにも積極的に参加したという。こういったことができたのも、会社として投資をしてくれ、新しいことを積極的に取り入れていこうという社長の行動力のおかげだという。

マニュアルを作成し自社で内製化

 2016年9月の西畑河床掘削工事という直轄工事で、施工者希望I型による全面的ICT 施工を実施した。その時には3次元起工測量や3次元設計データの作成は自社で行い、3次元の出来形管理のみを外注した。その翌年には全て自社でできるように、ドローンも新しく購入し、3現場で全面的なICT 活用工事を実施した。

 あくまで自社で全てやることを目標にした。「社長から内製化するようにという指令がありました。私は負けん気が強く、技術者としても知らないことがあるのが嫌だったので、やり遂げなければと思いを強くしました」と足達さんは当時を振り返る。外注して成果物を受け取り、総合評価点を上げることができればいいという考え方もあり、実際そうしている会社もある。しかし、お金だけ払ってノウハウが自社に蓄積されないのでは意味がないと足達さんは考える。

  「スタートから利益や生産性向上を求めすぎないことが大切です。初めて使うにあたっては、やはりトラブルもありますし、技術習得には労力がかかります。スタートから求めすぎると嫌になってしまう。私自身、最初は失敗もいっぱいしましたし、夜遅くまでやっても成果が上がらないことが多々ありました」。


ドローンを活用した空撮
測量とレーザー測量

全体施工状況(並行投影)



i-Construction 推進チームから社内へ

 社内にはi-Construction推進チームがあり、足達さんを含めて5人のメンバーがいる。チームリーダーは子育て中の女性だ。一から学び、現在は本社でデータ解析や3次元設計データ作成などを行っている。足達さんは現場で使えるデータを中心に発注者や経営者にわかりやすく訴求するための工夫や下請会社がいかに使いやすくするかを模索している。

 導入当初、社内には、まだ遠い先のような話で、推進チームの数人が使えればいいといった雰囲気もあった。社長自らが各現場に進めていくよう指導をし、ソフトを入れていった。現場ではマニュアルをもとに作業を行い、必要があれば推進チームがサポートをする。使ってみると便利なことが分かり、どんどん浸透していった。若手が習得して使っているのを見ると、ベテラン社員も負けていられないといった相乗効果が生まれている。現場でも全員が使い、活用工事以外でも使える部分で活用している。2020年度から直轄工事の新技術活用が原則義務化され、2021年度は土工事で発注者指定型、施工者希望型I型の対象が拡大されたことを受け、県内の会社も取り組み始めているという。足達さんは「県内の同業者と一緒に技術を高めていけるようになればいい」という。

 2つ前の現場からICT 建機のオペレーションに3次元データを取り込んで施工している。ICT化することで施工の現場が大きく変わってきた。「抵抗感を持っていた年配のオペレーターさんも一度その効果・利便性を体感する事により、翌日には機械の取り合いとなっている。」と足達さん。熟練の人こそ機械の応用力が高いという。


若手の教育支援に活用

 3次元モデリングは、完成形を事前に見える化でき、さまざまな関係者と共有できることが大きなメリットだ。特に若手の教育育成支援に有効だという。2次元の図面では、頭の中で3次元化する経験が必要になる。経験が浅い若手社員は、現場が完成する頃にようやく図面に描かれていたことを理解できる。3次元モデルからスタートすれば答えが最初から分かっているので、施工もしやすい。

「CIM を活用することで、人材育成の期間が圧倒的に短くなります。若手が実際の現場で3次元モデル作成をしています。形が見えるので、間違っているとおかしな形になるので、間違いがすぐに分かり、新入社員でも描けます」と足達さんはいう。足達さんの指導の下、入社2年目の若手が3次元設計データのチェックをして、マシンに入れている。入社して数カ月の人は、アンカーの3次元モデルを作成している。「変換や処理はマニュアル通りにやれば新人でもできます。現場の課題を解決し、生産性向上のための技術活用を考えることが重要です」と足達さん。

 若い人は新しい技術の習得が早い。入社3年目の社員に3次元モデル作成を担当させた。最初は教える側だが、すぐに習得し抜かれるだろうと足達さんは笑う。最近のソフトウェアは、シムシティのようにゲーム感覚で現場の3次元設計データや点群処理ができ、楽しく覚えやすい。道具が使いやすいと面白くなるし、自分が目の前でやっているものを3次元化できるのは楽しい。

アンカー鉄筋配筋のモデリング(透視投影)
ブロック据え付け状況(透視投影)



人事制度との両面で魅力的な職場に

 3次元データ活用を導入したことで会社の業績や評価が上がり、若手がどんどん入ってくるようになった。新卒採用をしたくても応募が少ない時代が続いたが、6年前に2人採用し、それから毎年3、4人新卒採用をしている。入社した若手から福留開発の技術の先進性や週休2日制導入などが口コミで広がり、魅力的な職場として応募をする学生が増えているという。

 新技術の導入は、同社が取り組んでいる生産性の向上や建設現場の労働環境の改善・向上に大きく寄与している。さらに健康経営やワークライフバランスの推進にも積極的に取り組んでいる。国が推進している週休2日制についても、4週8休、現場閉所率28.5% を達成し、若手をはじめ社員から好評である。ICT 化による生産性向上が実現できたからこそだといえる。i-Construction 大賞でもこういったことも評価された。女性や若手が活躍できる場をつくるためにもデジタル化の役割は大きい。


小学生向けプログラミング体験教室

同社では、社会貢献活動として次世代を担う小学生から高校生・高専生を施工現場に招待し、キャリア教育を含めた土木工事の体験や説明を行っている。
2020年4月から小学校でのプログラミング教育が必修化されたことから、ドローンを用いたプログラミング体験教室を開催している。飛行ルート決め、ドローンを飛行させる距離、高さ、角度、方向を測ってタブレットに入力し、思い通りに自動航行できるかをグループで競う。
「ボランティアですが、僕らも本気です。小学5年生と6年生対象ですが、将来、この中から建設業に興味を持ち当社に来てくれたらうれしいですね」と足達さん。

プログラミング体験教室

将来への投資として考える

 取り組み始めた時には、5年くらいで普及すると考えていたが、実際にはまだまだ時間がかかりそうだと足達さんはいう。その理由のひとつに経営者の意識がある。効率を上げるために重機には投資するけれど、3次元化への投資はもったいないと考えてしまう。今までのままでも工事はできるので、わざわざ高いソフトを入れる必要がないという発想だ。

 足達さんは「時代は確実にi-Construction に向かっています。取り掛かるのは早ければ早いほどいい。担い手が少なくなっていく中で、新しい技術で会社が成り立っていくようになる。将来の投資と考えて取り組むべきです」。

 トップの方針と意思決定に基づき、実務を担う技術者が段階を踏みながら確実に現場で活用できるようにマニュアル化をして社内に浸透させていく。組織としてi-Construction を業務に組み込み、生産性向上や働き方改革、さらに担い手確保や人材育成にも波及させているすばらしい事例だといえる。

 足達さんにお話をうかがった現場事務所では、各デスクに大型のディスプレイがおかれ、3次元データを使いこなしていることが感じられた。数年後には、すべての現場事務所でこのような光景を目にすることになるのかもしれない。



建設物価2021年10月号