建設物価調査会

働き方改革は大命題目標を達成するためにはIoT、AIの導入が不可欠です



株式会社吉川組

株式会社吉川組 取締役社長
中澤哲夫さん
新名神田上関津工事事務所 所長
鬼武利幸さん


京都の嵯峨釈迦堂として有名な清凉寺の近くに本社を構える吉川組。茅葺き屋根の社屋は全国でもめずらしい。創業以来、約80年以上にわたり大林組の協力会社として多くのビッグプロジェクトに携わり、京都府内においては元請工事に携わる京都の土木建設業でトップクラスの実績をもつ。いち早くIT化を進め、第2回i-Construction大賞優秀賞を受賞した。導入のきっかけや取り組みについてうかがった。



働き方改革こそが命題

 吉川組の中澤哲夫社長は「IT 化は、利益のためだけにやっているわけではありません。国や社会からの要請に応えるためであり、社員を考えてのことです」という。

 国が推進する働き方改革の流れを受けて、約6年前から、最先端のICT やAI を活用することで効率を上げ残業時間削減などの働き方改革に取り組んできた。2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が適用される。「会社が生き残っていくためには働き方改革は命題です」と中澤社長はいう。

 従業員には各人に対してスマホやタブレット型端末を一人一台支給している。

 これにより現場での作業が効率的になることから、さらなる省力化へとつなげることに期待しているという。

 「i-Construction とは、現場の機械だけをICT化すればいいと勘違いしている人がいますが、オンライン会議やスマートフォンの活用など、コミュニケーションの手段も含まれます。それを浸透させなければなりません」と中澤社長はいう。


吉川組本社




最新ICT 建機を自社所有

 新しい技術に着目し、中澤社長の経営判断でICT 建機もいち早く導入した。それを提案し、社内のIT 化を推進する鬼武利幸さんは「以前から、産業博などでさまざまな産業の先端技術に触れて、建設業にもIoT の流れが来ると感じていました。そこで中澤社長にICT 建機の導入を相談したところ『すぐに導入しよう』と即決でした。最先端の機械を入れているのは、京都の中でも当社ぐらいではないでしょうか」。毎年、ICT 建機を増やし、現在は7台を所有している。

 メーカーのサポートもあり、導入時につまずくこともなかった。ただ高圧線や谷間、さらに降雪時などは電波が届きにくいという課題があった。そこで準天頂衛星システム「みちびき」に対応した機械に入れ替えた。誤差は数㎝以内という精度の高さはGPS やGNSS では得られないという。リースではなく自社機を所有するのは、いち早く最新技術を導入するため。技術の進化に合わせてICT 建機の入れ替えが必要だが、それだけ価値があるという。

鬼武さんは「独自のデータが蓄積されていくことが強みになり、それが会社のブランドにもなっています」。大きな投資をすることで施工品質や生産性向上という好循環を生み出し、会社の評判も上がっていく。さらに「若い社員のモチベーションも上がります。現場では、大林組が開発した先端技術に触れる機会も多く、刺激になります」と鬼武さん。先進的な取り組みが評価され、第2回i-Construction 大賞優秀賞を受賞した。



ドローンによる出来高管理

 現場では、ドローンを週1回飛ばし、出来形管理を行っている。これまでは人による出来形測量に2~3日必要でしたが、ドローンを用いることで出来形測量を20分で完了できるようになった。その効果もあり、社員は早く帰れるようになった。

 取得した点群データと設計データを合わせることで、仮設道路や材料の搬入、干渉のシミュレーションなども事前にできる。またコミュニケーションのツールとして発注者、地域住民、施工関係者間でイメージを共有できることも大きなメリットだという。

「XYZ の座標軸が入っているので、インターネット上に公開されている地図情報に貼り付け、そのURL を地元の方に渡すと完成後の未来がわかると喜んでいただけます。竣工検査時の資料にも3次元モデルで作成した画像をはめ込むことで施工の詳細を説明しやすくなります。ベースさえあればアレンジはいくらでもできます」と鬼武さん。

 一方で、3次元データの作成には時間と労力が必要。測量で取得した点群データは情報量が多いため重く、高性能のPC でも処理に時間がかかる。こういった課題を解決するため、処理速度を上げるソフトが出てきているという。

鬼武さんは「もうひとつは、点群データの数を減らすことです。大規模な現場では、約2億の点群データをとっています。それらに全部XYZ 座標が付与されているのでデータはものすごく重くなります。ドローンの静止技術が上がれば、レーザースキャナで点群データをピンポイントで取れるようになり、データが軽く扱いやすくなり、精度も上がります」。


ICT 建機やドローンを操作
タブレットを現場で操作

設計図書の3次元化

 国土交通省では、2023年度には小規模構造物を除いたBIM/CIM 原則適用を目指している。3次元データ活用によるメリットは大きいが、技術を習得した人でないとデータがつくれないことや作成に時間がかかることが課題となり、ハードルが高いと感じている会社も多い。

鬼武さんは、「3次元設計データさえあれば、それを活用するすべを技術者は知っています。便利なものがあれば、みんな有効活用します。ただそれを川上から流す人がいない。我々はたまたまそういう技術に触れることができ、有効に使っていますが、これが一般化するのはむずかしいと感じています」という。

3次元データを発注図書の中に組み込むことが普及の鍵になるのではないかという。「設計図書として発注者から3次元データがいただければ、技術者はそれを活用し、広く浸透していくと思います。

当社でも、3次元データを作成していますが、それらはあくまで施工のために使う施工図でしかありません。発注者からの設計図書が正しいものであり、図面通りに施工することが施工会社の役割です」と鬼武さんはいう。

中澤社長も「手描きの図面の時代は、順番に1枚ずつ描いていき、間違えると次が描けませんでしたが、2次元図面では図面同士の整合性がとれているかがすぐにわかりません。3次元モデルになれば不具合がすぐわかるようになり、確実に手戻りも少なくなります」という。

 将来的には、3次元モデルに時間軸と単価を入れた5次元化が進んでいくといわれているが、施工会社の負担が大きい現在の状況のままでは、対応できるのは、スーパーゼネコンのような大企業に限られてしまうのではないかという危機感もあるという。


3 次元データ活用のイメージ(京田地区)

3 次元データを活用した施工の
解説動画の一部

人材の採用や育成で継続的な成長

 最近は、3次元データやドローンで撮影したICT 施工現場の映像を動画に編集し、地元説明会や現場見学会、採用などに活用している。専門知識のない人たちにもICT 施工の現場が理解でき、関心をもってもらえると鬼武さんは手ごたえを感じている。

 現場のドローン映像は、ドローンによる撮影から編集までを入社3年目の若手が手掛けた。Z世代といわれる若手はゲームと同じ感覚でドローンやICT 建機の操作を覚えるのも早い。ICT 建機を操作する女性技能者もいる。

鬼武さんは「キーボードやマウスを使ってきた私たちPC 世代よりも、スマホアプリやゲームを日常的に使ってきた若手は機械を直感的に操作ができます。ただノウハウがないので、私たちが習得してきた知識や技術を教えていくことが必要ですし、社長からもそういわれています」という。

 将来も見据えて人材の採用や育成にも力を入れ、若手が活躍できる環境をつくっている。数年前にホームページを一新し、スマートフォンでも見やすいデザインにした。

京都で最先端技術を使う建設会社で働きたいという学生が集まってくる。毎年、新卒を採用し、2022年度は3人が入社した。府内の建設会社の多くが平均年齢40代後半という中で、吉川組の平均年齢は39歳と若い。

 京都府建設交通部と京都府建設業協会他が企画した「京都府建設業魅力向上プロジェクト」にも参加し、YouTube 動画に若手技術者が建設業の魅力や可能性について語っている。

 また京都府建設業協会の活動の一環として、地域の建設会社へ働き方改革やICT 建機に関する出前講座を行っている。

中澤社長は「同業者の方には、時代に取り残されたらいけないとお話しています。次の時代に継承していくためには、続けられる環境をつくることが必要です。高齢化や担い手不足の問題もあります。他社から、吉川組は若い人が入ってきていいねといわれますが、それは投資や努力をしているからこそ。コツコツ努力するしかありません。自社の利益だけを考えていたら持続的な成長はできません」。

 鬼武さんは「社長は納得すれば『すぐにやれ』といってくれます。我々は社長から直接指導を受けた世代です。それを新しい技術に変換する世代であり、これからは、それを若い人たちにつないでいくようにいわれています」。

中澤社長は「これまでのやり方を教えるだけでは意味がない。次の時代につなげ、成長していくためには、新しい技術や発想が肝要です。千年続いている老舗は、主とともに女将が采配をふるってきました。女性や若手が活躍できるように多様性を考えることも大切です」。

 経営者のリーダーシップで、先端技術に投資し、3次元データを活用することで、企業価値や競争力を高め、持続的な成長を実現していく好事例だといえる。













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