建設物価調査会

地域や業界関係者と一緒に但馬地域の BIM/CIM活用の機運を高める



国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所
株式会社川嶋建設

株式会社川嶋建設            
執行役員 土木工事部部長 兼井 幸浩
土木工事部 副部長    松本 英利

国土交通省 近畿地方整備局 豊岡河川国道事務所
副所長(道路担当)三浦 淳 
事業対策官     松本 太一

国土交通省 近畿地方整備局豊岡河川国道事務所(以下、豊岡河川国道事務所)は、全国13カ所の「i-Constructionモデル事務所」のひとつとして、3次元情報活用モデル事業を行っている。また自治体や民間企業を対象とした勉強会を行い、3次元データ活用への意識や技術の向上に努めている。発注者である豊岡河川国道事務所と受注者である地域の総合建設会社、川嶋建設に取り組みや今後の課題についてうかがった。


i-Construction モデル事務所

 豊岡河川国道事務所は、兵庫県北部に位置する但馬地域の河川と道路に関する事業を行っている。2019年3月にi-Construction の取り組みをリードするモデル事務所に選ばれた。ICT 施工の活用、維持管理における活用、さらなる現場への生産性の向上の3つを柱にしてBIM/CIM モデルの活用に取り組んでいる。

 2021年度は、「円山川中郷遊水地整備事業」と「北近畿豊岡自動車豊岡道路事業」を3次元情報活用モデル事業として、設計・施工・維持管理段階におけるBIM/CIM モデルを作成・活用し、事業の品質向上・効率化を目指した。河川と道路の2つの事業のさまざまな工種で3次元データが活用されている。



普及と技術向上のための勉強会

 豊岡河川国道事務所の松本事業対策官は「2023年度からは小規模を除くすべての公共工事でBIM/CIM 原則適用となりますから、BIM/CIMの促進は急務です。一般土木でいくと、但馬地域は、Cランク企業が多く、建設分野における高齢化や担い手不足が課題になっている中で、土木の魅力を高め、活性化するために地元事業者の方々と一緒にBIM/CIM に取り組んでいます」という。

 2019年度からBIM/CIM の普及促進、技術向上支援を目的に勉強会を実施している。開催後にアンケート調査を行い、受講者のニーズに合わせて毎年、内容を更新している。初回の2019年度は、①機器の導入費用、②人材の育成、③やり方がわからないという課題が明らかになった。そのため2020年度は、BIM/CIM の全体論とともに導入に関する疑問を解決できるようにソフトウェアベンダーと協働した勉強会を追加した。さらに2021年度は、発注者、施工会社、測量・コンサルタントの異なるニーズに対応して、共通パートとともに分科会形式で勉強会を行った。発注者である自治体職員や下請け会社からの受講もあり、回を重ねるごとに参加人数や満足度が上がっている。

 また、近畿技術事務所に開設された近畿インフラDX 推進センターでも、施工者向けのICT 活用や無人化施工の研修を実施している。2022年度は、近畿建設協会豊岡支部の中にあるサテライトの研修施設で近畿インフラDX 推進センターと結びオンライン研修が実施されている。

勉強会の開催





魅力発信のためのイベント

 地域や将来の担い手に関心を持ってもらうため、豊岡河川国道事務所では、毎年11月18日の土木の日にイベントを開催している。2021年度は円山川中郷遊水地の現地見学会を開催し、173名が参加した。若手職員が企画立案し、参加者にはドローン操作や3次元モデル上の走行シミュレーションの体験をしていただいた。

 地元の建設会社も積極的にイベントや現場見学会を行っている。但馬地域を中心に近畿各地で土木・建築・舗装工事を行う総合建設業の川嶋建設もそのひとつだ。「地元の説明会、子どもや学生を対象にした見学会など、建設業の魅力発信に関する案件は、基本的にはすべて受けるようにしています」と同社の兼井さんは胸を張る。

昨年も中学生のトライアルウィーク、豊岡高校の校外研修会などでBIM/CIM 活用工事を紹介した。また「夢但馬産業フェア」の一環として、豊岡総合高校放送部のメンバーが円山川中郷遊水地の現場で、3D-MC(マシンコントロール)のバックホウを運転した。

その動画はYouTube にアップされている。「操縦した女子高生は意外と簡単だったと話しています。建設業に興味を持ってもらえる機会をこれからもつくっていきたいですね」と川嶋建設の松本さん。


豊岡河川道路事務所が直轄で開催している土木の日のイベント
豊岡総合高校の生徒が現場で、MC バックホウの操作を体験

【夢但馬産業フェア2021】豊岡総合高校✕株式会社川嶋建設

道路整備におけるBIM/CIM の活用

 国道483号北近畿豊岡自動車道は、延長約70㎞の高規格道路であり、兵庫県北部の但馬地域と丹波地域を結び、舞鶴若狭自動車道を介して京阪神都市圏との連結を強化し、地域の活性化を支援するもの。但馬空港IC までが開通済みで、現在は豊岡市内を通る豊岡道路の工事が進んでいる。

将来的には(仮称)豊岡北JCT・IC で山陰近畿自動車道と接続し、大阪方面から鳥取や宮津までの山陰ルートが高規格道路で結ばれる。「但馬地域には城崎温泉や、コウノトリの郷、豊岡のおいしい米や日本海の水産物など多様性があります。高速道路の整備は、観光資源の活用にもつながります」と三浦副所長。

 豊岡道路戸牧トンネル工事では、狭小スペースでの仮設計画立案における3次元モデル活用やMR(複合現実)の試行的な活用、覆工前と覆工後の点群データを取得し、出来形をヒートマップで見える化するといった取り組みが行われた。三浦副所長は「トンネル工事では一般の土工よりも不可視部分が多いため、3次元モデルで可視化することでイメージしやすくなり、BIM/CIM との親和性が高いといえます」。

豊岡道路戸牧トンネル工事での活用事例




遊水地整備におけるBIM/CIM の活用

 円山川中郷遊水地の整備は、洪水時の円山川下流部や豊岡市内の河道水位調整機能を持たせながら、湿地を保全し自然環境との調和を図ることを目的にしている。その事業の一部、円山川中郷遊水地下池越流提下流部整備工事を受注した川嶋建設は、発注者から提供された3次元モデルをベースに現場に即したICT 施工用のデータを新たに構築し、ICT 施工を実施した。また仮設計画の配置計画や、各作業の状況を3次元モデルで可視化し、打ち合わせや業務の説明などで利用した。また3次元データを測量に使用することで測量業務が効率化できた。



川嶋建設の取り組み

 川嶋建設では、ICT 活用が始まった2013年度からICT 施工に取り組んできた。現在、国や県の工事はICT 施工が標準的な発注になっており、ICT 土工では、マシンガイダンス(MG)のバックホウ、MC ブルドーザー、転圧管理システム、ICT 舗装では、3D-MC のモーターグレーダーを使用している。「当社は施工管理会社ですが、ICT に必要な重機や測量機器などもできるだけ揃えています」と兼井さん。

 また設計データ(サーフェスデータ)を活用して、構造物の位置出しの測量や施工時の出来形確認作業を行っている。サーフェスデータは任意の位置で面データが出るので、昨年の現場では、新入社員や協力業者の作業員がそれぞれワンマン測量を行った。丁張りも必要なく、業務が大幅に効率化され、測量に関しては3次元データが有効活用されているという。数量計算もボタン操作で簡単に行え、業務効率が大きく上がった。

 円山川中郷遊水地の施工で活用した3次元モデルは、独学で技術を習得した川嶋建設の松本さんが作成した。「むずかしいイメージがありますが、ソフトウェアベンダーは、いかに簡単に作成できるかを考えて開発しているので、やってみると思ったよりも簡単にできます」。社内の30代以下の技術者からは、自分で作成したいという意見が多く、社としても積極的に今後はBIM/CIM 活用工事に対応できる人材を増やしていくという。

 新たな遊水地の工事では、20代の社員を作業所長として配属した。川嶋建設の松本さんが指導をして掘削形状などの3次元モデルも作成した。ある程度できるようになれば、3次元データを現場で活用できる。

 また、「BIM/CIM では、3次元データに時間軸を加えて4次元化、つまり工程の進捗をリアルタイムにデータに反映できます。今後は、工程表とリンクさせることに取り組んでいきます」と川嶋建設の松本さん。今回の施工で使う3D-MC のバックホウ1台と3D-MG のバックホウ3台は、すべてバケット刃先で施工履歴データを取得できる仕様だ。日々の施工量をクラウド上で管理する試験運用をはじめている。

円山川中郷遊水地下池越流堤下流部整備工事での事例




課題を共有するための意見交換会

 一方で、課題となったのが、3次元データの受け渡しだった。設計データのつくり方についても「ピッチを大きく取るとのり面の途中で折れるようなデータになってしまいます。またサーフェスデータを30㎝、50㎝ピッチで作成すると高精度になりますが、現場で使う重機のバケット幅は約2mなので対応できません」と川嶋建設の松本さんは指摘する。設計の段階で詳細な3次元モデルを作成しても現場との相違などがあり、細かい部分は施工者が調整することが多いのが実情だ。また詳細な3次元モデルは、データ量が大きく、うまく作動しないことも課題になっている。また、松本事業対策官は「建設コンサルタント、施工業者の意見を聞きながら双方で使えるように、これからも調整していく」という。

 BIM/CIM を円滑に進め、全体最適を目指すためには、発注者、コンサルタント会社、施工会社などの関係者が課題を共有し、解決策を検討することが重要になる。そこで、豊岡河川国道事務所は兵庫県建設業協会とともにさまざまな関係者が意見交換できる機会を設けている。川嶋建設も意見交換会に参加し、3次元データの課題を発注者やコンサルタント会社に伝え、データ作成や受け渡しの改善につなげていった。さらにソフトの不具合については、ソフトウェアベンダーに対応を求めた。


今後の課題や期待

 BIM/CIM モデル活用では、維持管理の効率化、高度化も求められている。属性情報の基準はまだないが、川嶋建設は、松本事業対策官と相談し、3次元データの属性情報、品質管理情報、出来形管理情報を付与した形で納品した。
 
 松本事業対策官は「今後はBIM/CIM モデルを活用した情報の一元管理が必要になります。設計や施工で活用したデータを維持管理に結び付けていくための検討をしています」。

 統合モデルは、オリジナルファイルでの納品が今の納品要領だが、各社が違うソフトを使っているため、データ型式の互換性等が今後の課題になる。さらに維持管理をする上では、各社が納品したデータを誰が統合し、更新していくかといった課題もある。

 三浦副所長は「建設業の魅力を伝え、若い人に就業してもらうことが1丁目1番地」だという。「担い手を確保するためには3K 等の払拭による業界全体の価値を上げていくことが重要であり、そのためにBIM/CIM モデルの活用が有効です」。それを受け、川嶋建設の兼井さんも「就業者の確保や人材育成は業界全体の課題です。豊岡河川国道事務所はBIM/CIM を積極的に推進され、それが当社の取り組みのきっかけにもなりました。すべての段階で効率化して、少ない人数で現場の施工ができることが理想です」。同社の松本さんも「問題点を発注者やコンサルタント会社と直接お話しできる意見交換会はとてもありがたいです。BIM/CIM は、効率化につながるアイテムですので、今後ルールや運用が更に整備され、3次元モデルが建設業のどの段階においても価値ある使い方ができることを期待しています」。

 2023年から原則すべての直轄工事がBIM/CIM活用工事の対象になるが、但馬地域のように官民が連携して取り組みを進めていくための仕組みや仕掛けづくりが求められる。


建設物価2022年9月号