コンバージョン:複合商業施設→ 筑西市本庁舎
筑西市本庁舎は、下館駅前一等地に建つ複合商 業施設「スピカ」ビルをコンバージョンしたもの である。スピカビルはスーパーを核店舗として開業したが、売上げ低迷からスーパーが倒産、核店 舗を失ったスピカビルは空きスペースが目立ち始 めた。その後、複数のスーパーが誘致されたが売 上げ低迷は変わらず、出店・撤退が繰り返された。
このように、駅前からスーパーや百貨店が撤退して空きビル化するケースは枚挙にいとまがない が、本事例は市民・地元自治会・市議会等の熱心な取り組みにより、空きフロアが多いビルを市本庁舎にコンバージョンで再生した成功事例である。
筑西市は,2005(平成17)年3月に下館市・関城町・明野町・協和町が合併して誕生した。市の中心街は、鉄道3路線が乗り入れる下館駅を中心に広がり、国道50号・294号等の主要道路が交差し、国や県の出先機関、銀行、民間企業、商店等も多い。中でも当該建設地は下館駅前の超一等地 にある。
スピカビルは、市が有効活用をすると決定した2013(平成25)年時点で、竣工後わずか22年と築浅であった。現況調査の結果、構造躯体・設備等は十分利用可能な状態にあり、市は市本庁舎にコンバージョンすることを決定した。新用途に適した内部造作の変更や外部開口部の増設等が必要となるが、既存部分の多くはそのまま使用でき、あるいは補修を行うだけで済むことが判明した。なお、ビルに隣接する駐車場棟については、区画線の引き直しやサイン表示を改良するなどして利便性の向上を図っている。
スピカビルは、1991(平成3)年に駅前再開発事業として建設された複合商業施設であるが、人通りの減少や郊外型店舗との競合等により売上げが低迷し、核店舗の出店・撤退が繰り返された。2010(平成22)年にはビルの売却方針も決定されたが、市民・地元自治会・市議会の理解が得られず、逆にビルの有効活用を望む声が挙がった。
これを受け、市は「公共施設あり方懇談会」の設置や市民アンケートを実施し、2014(平成26)年「スピカビル活用プラン」を策定、市本庁舎機能を主とした複合施設にコンバージョンすることを決定した。その背景には、当時使用していた本庁舎の老朽化(1973年築)と耐震力不足、厳しい財政事情などもあった。
2017(平成29)年2月、スピカビルは新たなスタートを切った。
(1)基本コンセプト
スピカビルを再整備して活用するにあたり、市では市民の意見を取り入れながら、以下のような「スピカビル活用プラン」を策定し、整備方針や機能配置計画を定めた。
① スピカビルが核となり、下館駅前からの活力と賑わいを発信
② 街のシンボルとして市民が日常的に集い、世代を超えて多くの市民から親しまれる施設
③ 本庁舎機能をスピカビルに統合し、効率的な行政運営と市民の利便性の向上
(2)各フロアの用途・機能
各フロアの用途・機能は、基本コンセプトに則り、下記のように整備・配置した。
(3)主な設計内容
コンバージョン設計にあたり、コスト低減を図るため、旧施設のものが使用可能な場合は極力活用し、新設部分は新用途に必要なレイアウトや設備等に留めた。また、新設する場合でもランニングコストを抑制する省エネタイプを採用した。
なお、改修工事は、空きフロアを先行して施工し、それらが完了後に執務中のフロアを移転し、順次工事・移転を繰り返すことによって、執務を行いながらの工事を可能にした。ただし、様々な制約の中での工事だったため、工期は約17か月を要した。
総工事費用は、設計金額17億1,143万円、契約金額16憶7,463万円であった。
これを「改修工事の対象となった床面積15,800㎡」で除した「㎡単価」は、設計金額ベースで108,319円/㎡(※契約金額ベースでは105,990円/㎡)となり、一般的な庁舎を新築した場合の1/3~1/2程度で済んだことになる。
次に工事費を種目別・科目別にみると、建築工事では執務時間外のセキュリティ確保のために、通路と執務スペースの間にシャッターを設置したことなどにより建具工事が30%を占めた。次いで用途変更に伴う工事が多い内外装工事が23%を占めた。一方、躯体関係の工事(鉄筋・コンクリート・型枠)は、新築工事であれば建築工事の約40%を占めるが、今回は0.2%に過ぎなかった。電気設備工事では大部分を新設した照明器具工事が30%を占め、機械設備工事では空気調和設備が50%を占めた。
今回のコンバージョンによって、駅前一等地のビルに市本庁舎が居を構えることとなり、市民の利便性が向上した。また、行政機能だけでなく、市民の要望を取り入れたサービス施設・憩いの広場・子育て支援コーナーなども整備された。しかも、工事費用は新築工事に比べ格段に安価で、厳しい市の財政状況にもプラスに働いたことは間違いない。
さて、筑西市は2005(平成17)年の1市3町合併から13年が経過したが、公共施設は合併後もそのまま引き継がれ、類似のサービスを提供する施設が複数存在している。市が保有する公共施設は、市役所・学校・公民館・上下水道等約250施設あり、その過半数が築30年を超えている。今後、人口減少・少子高齢化がさらに進むのは確実で、市税収の増加が見込めない状況で、これらの施設全てを建替・改修等によって維持していくのは困難と言わざるを得ない。現在の施設が今後も必要なのか、各地域への配置は適正なのかなどの検討を行い、中長期的な方針を立て、単に施設の廃止・縮小を行うのではなく、施設をできるだけ長持ちさせ、効果的・効率的に整備・管理運営することが何よりも重要となっている。
《編集後記》
本記事の作成に当たっては、筑西市総務部管財課から数多くの資料提供、ならびに取材等のご協力をいただきました。ここに深く感謝申し上げます。