コンバージョン:小学校 → 文化福祉施設
浦安市は,東京ディズニーリゾートを擁し,発展著しい東京ベイエリアを代表する都市である。その浦安市でさえ近年は少子高齢化が進み,特に本事例のある入船地区は児童数の減少が著しい。このため市立入船北小学校は,開校から35年を経た2015(平成27)年,小学校としての役割を終えた。しかし閉校から3年,旧小学校は内装・設備が一新され,文化福祉施設「まちづくり活動プラザ」として新たな役割を担うこととなった。
浦安市は,市の総面積の3/4が1964(昭和39)年から始まった海面埋立事業によって誕生した街である。当該建設地は、第1期埋立事業で造られた中町地区の東端部にあり、敷地の2面は低層住宅地,1面は美浜運動公園、1面は東京湾に面した閑静な住宅街である。
2.旧施設と 新施設の建物概要
1980(昭和55)年に開校した入船北小学校は,閉校した2015(平成27)年3月時点で築35年が経過していた。校舎及び体育館は構造上の問題は特に無かったため,校舎は内装・設備を一新し文化福祉施設にコンバージョンし,体育館はそのまま活かし、プールは解体して駐車場とした。
(1)入船北小学校跡利用事業選定等委員会
閉校後直ちに標記委員会を設置し、跡施設の活用の考え方、募集要件の整理、募集要項の策定及び実施事業候補の選定等の検討を行った。委員会は,学識経験者・関係団体・地域代表・公募市民・市職員の10名で構成。
① 跡施設は10~15年程度の短・中期的な利用
② 利用対象は主に校舎
③ 実施事業は、市実施3 事業の他、市民から幅広く提案を募集→応募39件
④ 公開プレゼンにて候補事業を選定
(2)入船北小学校跡利用事業化検討委員会
候補事業決定後、具体化に向けて標記委員会を 設置し、候補事業の中から実施事業者の安定性・ 継続性等の審査を行い、最終的に市の3事業及び 民間事業者の9事業の実施が決定した。委員会は、 学識経験者・有識者・市職員の6名で構成。
構造躯体は特に問題は無かったが、築35年で大規模修繕の時期を迎えていたことから、外壁・屋上等は経年劣化対応の補修を行った。内部造作は、原則として教室の平面プランを活かし、必要に応じて間仕切りを変更して大部屋化又は小部屋を創設した。内装及び設備は、経年劣化対応と用途変更のため一新し、バリアフリーを考慮したEV増設、省エネ対策としてのLED 化や太陽光発電新設も行った。
(1) 総工事費(表1)
総工事費(消費税込み)は、設計金額10億9,108万円に対し、契約金額10億8,382万円と若干の差異があるが、以下、設計金額を基に工事費の傾向を見ていくこととする。
工事は本館のコンバージョン・体育館改修・外構の3つに大別されるが、工事費用は本館部分が80.7%と大半を占め、以下、体育館改修6.5%、外構工事5.0%、設計費・工事監理5.7%となっている。
次に、本館部分の工事費を本館床面積で除した単価で見ると18.8万円/㎡で、新築に比べると1/2~2/3程度となっている。これを建築と設備に分けてみると、建築が10.6万円/㎡、設備が8.2万円/㎡となっており、躯体関連工事がほとんど無いため建築部分の割安感がより大きい。
(2) 建築工事費(表2)
内部改修が31.3%と最も多いが、これは経年劣化対応及び用途変更に伴い、内装仕上を一新したことや間仕切り変更等を行ったためである。次いで多いのが外部改修の21.8%であるが、これは建物が築35年経過しているため、屋根防水・ひび割れ・塗装等の一般的な補修によるものである。また、障碍者等の利用やプライバシー等を考慮して昇降機を1台新設している。なお、躯体関連は耐震改修0.4%のみである。
(3) 電気設備工事費(表3)
電灯設備が23.2%と最も多いが、照明器具をLED 化し省エネ・照度アップしたことや、用途変更に伴う器具等の増設によるものである。また、発電設備の13.7%が目立つが、広い屋上を利用して太陽光発電設備を設置したことと、用途変更に伴い自家発電設備を新設したためである。なお、太陽光発電で得られた電力で施設の電気を賄い、余った電力は電力会社へ無償譲渡している。
(4) 機械設備工事費(表4)
空調設備が43.3%と最多であるが、小学校ではレンタルであった空調を新設したためである。なお、再利用可能なものは転用している。
(5) 体育館改修工事(表5)
経年劣化対応で内装を一新し、照明器具を省エネ対応でLED化した。
(6) 外構工事費(表6)
表2で計上した外構改修は、旧校舎周りの外構工事であり、表6の外構工事はそれ以外の敷地全般の外構工事である。主な内容は、フェンスの更新、防球ネット新設、擁壁撤去、門扉更新、防災倉庫新設、サイン新設等である。
建物の耐用年数は、建設資材の品質向上や技術・工法の進展等により確実に長くなっている。一方、公共施設等に対する市民のニーズは、急速な人口減少・少子高齢化や社会の変化等を反映し、耐用年数よりはるかに短い期間で変化する。このため、時間の経過につれニーズのミスマッチが起こり、ある用途の施設が余剰となる一方で、別の用途の施設は不足するといった事態が発生する。 公共施設等は市民に行政サービスを提供する「器」であり、その器を利用した「役割」は固定化するのではなく、ニーズに応じて変化させていく必要がある。公共施設等の効率的な利活用という観点からみれば、コンバージョンは非常に優れた手法の一つと言えよう。
浦安市は、埋立事業によって急速に市域が拡大した昭和50年代後半から人口が急増し、これに合わせて公共施設等も集中的に整備されてきた。現在、それらが築30~40年を経て老朽化が進んでおり、それらの改修・更新に要する費用の増大が見込まれている。一方、市全体の人口は今しばらくは増加を続けるが、2024年を境に減少に転じる見通しであり、本施設がある地区のように既に少子高齢化が進み、行政サービスに対する市民のニーズが変化しているところもある。
市では、公共施設等のうち建築資産については、2016(平成28)年度より導入したファシリティマネジメントの取り組みにしたがい、「長寿命化を重点的に行う」、「劣化状況に応じ適切な時期に計画的に大規模改修や建替えを実施する」、「人口減・少子高齢化、市民ニーズの変化に対応した最適化を検討する」などの基本方針を掲げ、公共施設等の維持管理を進めている。本施設もその一環として実施された事業であり、まだオープンから日が浅いが、今後さまざまな世代の人々が交流・活動し、市民ニーズに合った行政サービスが行われる施設となることが期待されている。
《編集後記》
本記事の作成に当たっては、浦安市、「浦安市まちづくり活動プラザ」、㈱榎本建築設計事務所から数多くの資料提供、ならびに取材等のご協力をいただきました。ここに深く感謝申し上げます。