建設物価調査会

神奈川県住宅供給公社「アンレーベ横浜星川」

築60年以上の団地を一棟まるごとリノベーション




はじめに

 神奈川県住宅供給公社(以下、「公社」)の「アンレーベ横浜星川」は、1954(昭和29)年に竣工した「桜ヶ丘共同住宅」を"一棟まるごとリノベーション"した賃貸住宅である。築60年以上が経過した建物は老朽化が進み、設備面も陳腐化し空室が目立っていた。しかし、躯体は耐震性が認められたため、外観・内装・設備等を更新し既存ストックの活用を図った。特徴的なのは、居住者がフルリノベーション・部分リノベーション・必須リノベーションのいずれかを選択でき、『居ながら工事』を実現したことである。竣工後、空室
はすぐ満室となり居住者の評価は上々である。

1.建設地の状況

 JR・私鉄・地下鉄の各線が集まるターミナル・横浜駅から相鉄本線で4駅、JR 横須賀線では1駅、最寄りのバス停からは横浜駅行きや保土ヶ谷駅行きのバスも出ており、アクセスは良好。また、近隣には小・中学校をはじめ郵便局や公園も点在し、大通りから適度に離れた閑静な住宅地に位置している。



2.リノベーションに至る経緯

 公社では以下の2点を目的とした「住宅性能改善事業」を進めている。
⑴  建替えによる投資利回りが期待できない団地における既存ストックの活用として、建物長寿命化や商品価値の向上を図る。
⑵  従来の改修工事をさらに一歩進めた設備改修やリノベーション等を実施して、市場競争力や居住性能の向上を目指す次世代への取り組みを行う。

 この事業を進める中で、本事例の「桜ケ丘共同住宅」は以下の課題を有していたことから、建物を一棟まるごとリノベーションするモデルケースとして検証するため、試行実施物件に選定された。
 
①公社所有の団地でも古いこと

② 単一団地(複数棟で形成されていない)であること

③ 建替えた場合、現行の法規制の高さ制限により、現状の4階建てから3階建てになり戸数減となること

④設備が既存不適格であること

3.旧施設と新施設の建物概要

 旧施設では全32戸が同一床面積・同一プランで構成されていたが、新施設では各住戸の枠組みは変更せずに、居住者が必須リノベーション(既存不適格部分の解消等の改修)、部分リノベーション(必須リノベーション+床洋室化)、フルリノベーション(スケルトンで間取り一新)を選択できる方式を採用した。ただし、必須及び部分リノベーションの住戸も現居住者の退去後にフルリノベーションを行う予定である。



4.工事の概要

(1) 当該事業における4 つの柱 住宅性能改善事業におけるチャレンジとして、「外断熱」「リノベーション」「居ながら工事」「排水竪管の屋外化」を4つの柱に工事を実施した。公社では3パターンのリノベーションプランを提案。居住者には先行でモデルルームを作り、選択制とした。また、空き住戸(フルリノベーション済)を有効活用した棟内移転によるローテーション方式で全戸居ながらの内装工事を実現した。




アンレーベ横浜星川に関するリノベーションの効果について

神奈川県住宅供給公社 賃貸事業部

 築後60年以上が経過した団地の更新手法として、建替え又はリノベーションが考えられますが、リノベーションの場合、居ながら工事を前提とすれば、既入居者の移転交渉が不要となり、建替えと比較し、事業期間の短縮(約2年短縮)が図られ、事業費も専有面積単価当り66%程度に抑えることが出来ました。また工事中における既入居者の移転先確保についても棟内空住戸で対応でき事業費と既入居者の負担軽減が可能となりました。
 なお、平成31年3月末からフルリノベーションした空室8戸の募集を行い、全戸に申し込みが入りました。
 事業として建替えとリノベーションは一長一短があり、どちらか一方が優れている訳ではありませんが、既存不適格建築物や小規模団地など建替のメリットが出にくい場合は、リノベーションも併せて検討する余地があります。




《編集後記》
 本記事の作成に当たっては、神奈川県住宅供給公社から数多くの資料提供、ならびに取材等のご協力をいただきました。ここに深く感謝申し上げます。