建設物価調査会

アーツ前橋

コンバージョン:商業施設 → 美術館

閉店した百貨店が、斬新なデザインの美術館に生まれ変わった



はじめに

 前橋市中心部にあった百貨店は、集客減少により開業から19年で閉店となった。その後、公共施設を含む複合施設として活用方法が検討されていたが,人の流れや街の賑わいが損なわれ、市街地の空洞化を招いていた。他方、当時、市庁内には美術館構想が持ち上がっており、市では検討の結果、このビルを美術館にコンバージョンすることとなった。構想から平成25年10月のグランドオープンまで紆余曲折あったが,工期わずか11箇月で美術館に生まれ変わった建物は、今や新たな街のランドマークとして賑わいを取り戻している。

1.建設地の状況

 前橋市は群馬県の県都であり、隣接する高崎市とともに群馬県を代表する大都市である。面積311㎢、人口約33万人で、赤城山や利根川・広瀬川などに囲まれた自然豊かな文化都市でもある。当該建設地は、JR 前橋駅から徒歩圏にあり、近隣には県庁・市役所をはじめ、商業施設・ホテル・オフィス等が建ち並び、県庁所在地の最中心部に位置している。


2.旧施設と新施設の建物概要

 旧施設は築浅で構造躯体に問題は無かったが、用途を百貨店から美術館へと変えるため、外装や内部造作、設備等は大幅な改修が必要となった。なお、コンバージョンするのは地下1階及び地上1・2階のみとし、3~9階の駐車場等はそのまま活かすこととなった。

3.コンバージョンに至る経緯

 かつては市街地の賑わいの中心であった百貨店は、郊外の商業施設に顧客を奪われ、2006(平成18)年、開業からわずか19年で閉店となった。3階には前橋市唯一の映画館も入っていたが、ビル閉鎖により市内から映画館が無くなってしまった。その後、施設を取得した市では、公共施設を含む複合施設としての活用方法を検討していたが、県都の中心市街地への求心力は弱まりつつあった。 他方、前橋市は、全国の都道府県庁所在地のうち唯一公立美術館が無かったため、2007(平成19)年頃から美術館構想が持ち上がっていた。市庁内の委員会等で検討した結果、市が取得していたこの築浅の百貨店跡を美術館にコンバージョンすることとなった。実は、隣接地にあったもう一つの百貨店も2004(平成16)年に閉店しており、それを市が購入し、2007年に複合文化施設「前橋プラザ元気21」にコンバージョンしていた


4.設計の概要

(1)美術館基本計画の策定
 市では、第6次前橋市総合計画に「美術館構想の推進」を位置づけ、美術館基本計画検討委員会を設置し、市民の意見を取り込みながら検討を進めた。基本構想では設置目的として「アートでつながる市民の創造力」を掲げ、『つながる美術館』、『成長する美術館』、『文化を創る美術館』の3つの理念に基づき、「美術環(ネットワーク)事業」、「文化の担い手づくり事業」、「新たな文化の創造事業」の3つの事業活動を策定した。
 
(2)設計の内容
 このプロジェクトには2つの大きな特徴があった。1つは閉店した百貨店を活用して本格的な美術館にコンバージョンすること、もう1つは前橋市中心街という立地条件のため、美術館を圧倒的に「まち」に近い存在とすることであった。市街地再生へ向けた先駆的な処方箋としての役割も期待されており、さまざまな意味で「まち」と「美術館」をつなげて行くことを大切に考え、建築デ
ザインは以下のような考え方で計画した。
 なお本設計は、(一社)全日本建設技術協会・全建賞(2013)、(公社)ロングライフビル推進協会・BELCA 賞(2014)など数多くの賞を受賞している。



5.工事費用

 総工事費は14億8,741万円で、その内訳は建築工事費が8億2,591万円、設備工事費が6億6,150万円(電気2億7,300万円、機械3億8,850万円)であった。従前の百貨店が築浅であったため建築躯体部分の耐震補強等は不要であり、建築工事は用途変更に伴う内部造作及び内・外装仕上げや経年劣化対応工事等が主であったため、工事費は比較的安価にすることができた。また、設備工事は、用途変更や経年劣化対応、さらにはバリアフリー対応の工事が必要となり、工事費はコンバージョンにしては多くを要した。
 次に、工事費を延べ面積で除すると工事費単価が得られるが、ここでは美術館の延べ面積5,517㎡のうち工事対象となった4,923㎡で除することとした。その結果、総工事費単価は302,135円/㎡で、建築工事費単価が167,766円/㎡、設備工事費単価が134,369円/㎡(電気55,454円/㎡、機械78,915円/㎡)となった。
 美術館はマンションや事務所等に比べると個別性が強く、建物仕様が千差万別なため、工事費単価の価格水準を表すことは難しいが、一般財団法人建設物価調査会が建物の新築工事費単価を統計的に集計分析した「JBCI 調査」(Japan BuildingCost Information)によれば美術館の新築工事費単価はおよそ70万円/㎡となっており、これと比較すると半分以下となっている。


6.コンバージョン効果と 今後の街づくり

 「アーツ前橋」は、市中心部にある立地条件を活かし、館内での展覧会のほか館外事業でも中心市街地をフィールドとした活動を重ねており、年間の総来館者数は約10万人を数える。開放的で斬新なデザインの外観が、今や市中心部の新たなランドマークとして定着しており、隣接する「前橋プラザ元気21」との相乗効果で市街地の賑わい創出にも貢献している。既存の建物を活かしつつ、そこに新しい工夫を加えるだけで、新たな価値を持った建物に生まれ変わらせるというコンバージョン手法の効果が十分発揮されている事例と言えよう。ただし、今後はコンバージョン施設であることを鑑み、躯体等の老朽化、耐用年数に留意しつつ、計画的な修繕や改修を行っていく必要がある。
 
 さて前橋市は、約2,500の公共施設を保有しているが、その6割を超える施設が築30年以上を経て老朽化が進んでいる。市では「公共施設等総合管理計画」を策定し、今後、これら施設の維持・修繕・更新等に要する費用を推計しているが、厳しい財政状況が見込まれる中、現状の施設数・規模を維持しながら建替えや修繕を実施していくことは困難と言わざるを得ない。今後は、新規の建設を抑制しながら、『長寿命化』、『総量縮減』、『効率的運営』という3つの視点から公共施設等のあり方を考えていくことが大切である。
 
 
 
《編集後記》
 本記事の作成に当たっては、前橋市、「アーツ前橋」、水谷俊博建築設計事務所から数多くの資料提供、ならびに取材等のご協力をいただきました。ここに深く感謝申し上げます。
 
写真提供:水谷俊博建築設計事務所