建設物価調査会

山梨市庁舎

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閉鎖した古びた工場が,ガラス張りの明るい庁舎に大変身!


はじめに

 山梨市庁舎は,閉鎖した工場跡地を市が買い取り,コンバージョンした施設である。商業施設や事務所を庁舎にコンバージョンする事例は多いが,工場を庁舎にという試みは前代未聞であった。それだけに構想段階から課題が山積していたが,発注者や設計者などの熱意と技術が結実し,工期わずか11箇月で,「エッ!元は工場だったの?」と誰もが驚く「大変身」を遂げたのである。 なお,本件の設計は梓設計が手がけており,日事連建築賞・国土交通大臣賞(2011),グッドデザイン・サスティナブル建築賞(2010)を始め,数々の賞を受賞している。


1.建設地の状況

 山梨市は、2005(平成17)年3月、(旧)山梨市・牧丘町・三富村が合併して誕生した。面積は289.8㎢で 県内4番目、人口は3万4千人で県内7番目の中核都市である。甲府盆地東部に位置し、山や渓谷、温泉など自然環境に恵まれ、ぶどうや桃、甲州ワインの産地としても有名である。当該建設地はその山梨市の中心街に位置し、山梨市駅から徒歩圏にあり、旧山梨市庁舎の敷地からも100mと至近距離にある。


2.旧施設と新施設の建物概要

 旧施設には工場棟・事務所棟・体育館棟などがあったが、現行の耐震基準に満たない工場棟は、1・2期部分を耐震改修して新庁舎東館にコンバージョンし、一部を解体して駐車場用地とした。築年数が浅い事務所棟は新庁舎西館にコンバージョンした。なお、体育館棟と工場棟3期部分は、将来計画に備えて未使用残置とした。

3.コンバージョンに至る経緯

 合併後の市庁舎は、(旧)山梨市庁舎(以下「旧庁舎」という)を使用することにしていたが、合併直前に旧庁舎近くの工場が閉鎖することが判明した。旧庁舎の使用には少なからず問題があったため、急遽、3市町村合併協議会で工場跡地の有効利用と取得について検討を行った。結果、工場跡地は旧庁舎が抱える問題点を解決し、他のメリットも多いことから、新庁舎建設を視野に入れた行政施設用地として購入することになった。

4.設計の概要

(1)基本コンセプト

 コンバージョンにあたり、山梨市が掲げた基本コンセプトは以下のとおりであった。
 
 ① 市民との交流スペースの創出
 ② 分散している行政組織の集約
 ③ 既存施設の有効利用によるコスト低減
 ④ 耐震化による防災拠点としての調査整備
 


(2)建築確認申請の必要性

 工場から庁舎への転用は前例が無いため、まずは建築確認申請の必要性とその範囲について調べることから始まった。何故なら、その要・不要がコストや工期に多大な影響を及ぼすからであった。

① 特殊建築物で法規制の厳しい「工場」を、特殊建築物でなく法規制の厳しくない「庁舎」への転用のため、確認申請は不要
② 庁舎東館は、外壁の撤去、階段の位置変更など主要構造部の過半を改修することとなり、「大規模の修繕」、「大規模の模様替え」に該当するため、確認申請は必要
③ 庁舎西館は、改修内容が間仕切りの変更など一部の模様替えであり、東館とエキスパンションジョイントで構造的に区切り、防火区画もなされているため、確認申請は不要
④ 南棟(旧工場棟3期)は、既存不適格建築物であるが、改正建築基準法では「危険性が増大しないことが確認できれば、既存部分に現行基準が適用されない」との解釈があり、山梨県は当面、耐震改修は不要とした

(3)主な設計内容

 市では基本コンセプトに則り、庁内検討委員会・市民懇話会等で意見を集約し、設計者とともに実施設計を行った。設計の最大のポイントは「工場棟をいかに活用するか」、「既存施設の有効利用によるコスト低減」であった。

写真C 環境への配慮
写真F 1 ・2 階をつなぐ鉄骨階段

写真A PCaPC 造アウトフレーム工法
写真B アウトフレーム・ディティール
写真D 日射の制御
写真E 吹抜けとブリッジ通路
写真G 庁舎正面入口

5.工事費用

 コンバージョン方式の採用にあたり、設計者の選定前に山梨県住宅供給公社に委託して概算工事費用を算定した。その後、設計者が実施設計に基づいて設計金額を算出したが、以下はその設計金額である。なお、工場跡地の購入費用は、既存建物が所有者から無償譲渡されたため、土地代として約8億3,600万円を要した。
 
 まず、表Ⅰ「種目別工事費」を見ると、総工事費は12億6,000万円で、そのうち直接工事費は10億3,000万円である。これを床面積1㎡当たりの単価に換算した「種目別工事費単価」で見ると、総工事費単価は122,832円/㎡、直接工事費単価は100,427円/㎡となる。平均的な事務所等を新築で建設した場合の工事費単価と比べると、1/3程度の費用で収まったと考えられる。「再利用できるものは徹底的に利用する」というコンセプトに基づいた設計内容が反映された結果と言えよう。 次に東館と西館を比べると、直接工事費は東館7億1,500万円に対し、西館は2億2,100万円と1/3以下である。ただし、両者の延べ面積に差異があるため直接工事費の単価で比べると、 東館164,499円/㎡、西館37,465円/㎡となり、西館は東館の1/4以下と著しく安価となっている。東館は構造躯体を変更し、異なる用途からの転用であるが、西館は築浅かつ類似用途からの転用であるため、西館が安価となるのは自明の理であろう。

 次に「表Ⅱ.建築工事の直接工事費」を見ると、東館4億5,700万円に対し、西館は8,500万円と1/5以下である。工種科目別構成比を見ると、躯体関連科目(鉄筋、コンクリート、型枠、鉄骨、躯体PC、既製コンクリート、防水)は、東館が27.8%であるのに対し、西館は1.5%に過ぎない。構造躯体の変更があった東館と、内部造作の変更が中心だった西館との違いがよく表れている。
 
 また、明るく開放的な庁舎にしたため、金属製建具が東館は1億3,600万円(構成比29.7%)に上り、西館も1,900万円だが構成比は22.6%と最も多い。そのほか、内部造作関連の工種(内外装、ユニット、金属等)は、東館が約30%、西館が約50%を占めている。

 次に「Ⅲ.電気設備の直接工事費」を見ると、電灯設備が東館64%、西館55%と最も多く、次いで動力設備、情報通信設備、防災・火災報知設備などが多い。 また、「Ⅳ.機械設備の直接工事費」を見ると、空調設備が東館で90%、西館で86%を占め、給排水衛生設備は東館で10%、西館で14%となっている。

6.まとめ

(1)設計者総括
 敷地を訪れた時、建物の可能性を活かしどうすれば庁舎に再生できるか、正直戸惑った。工場から庁舎へコンバージョンする前例のないケースで、前述の「耐震補強とデザイン・機能面の整合」、「法的解釈の整理」、「ストックを最大限活かす」の3点が大きなポイントであったと考える。
 
 本事業の成功のカギは、「工場跡地を地域のストックとして捉え、庁舎に転用する」という山梨市の強い推進力に他ならない。今後さらに増加が見込まれる公共建築のコンバージョンに対し、新たな可能性を開く事例になったと思う。
 
 
(2)コンバージョン効果と今後の街づくり
 今回のコンバージョンについて、市民からは明るく開放感のある市庁舎と好評を得ている。市街地中心部に新庁舎が整備され、既にある地域交流センター「街の駅やまなし」、またその後に市民会館・図書館(複合施設)、小原市民スポーツ広場等が整備されてきている。
 
 今後、現在更地となっている旧庁舎跡地の活用が進んでいけば、新庁舎はそのセンターコアとして、その存在感を一層増すことになると思われる。市では今回の新庁舎整備にとどまらず2016(平成28)年には牧丘支所の複合施設化(地域公民館等)も行い、公共施設をはじめ施設の有効利用を着実に進めている。

 新庁舎はコンバージョンから今年で10年を迎えたが、再利用であるが故の課題として設備関係の更新・改修などが必要となり始めている。市としては、今後それらの適切な対応を行っていくとともに、各施設の連携や集約による相乗効果等を高め、効率的な街づくりにつなげて行きたいとしている。





《編集後記》
 本記事の作成に当たっては、山梨市管財課及び株式会社梓設計から数多くの資料提供、ならびに取材等のご協力をいただきました。ここに深く感謝申し上げます。