建設物価調査会

「伝える」から「伝わる」広報への取組み 土木の魅力発信プロジェクト

「伝える」から「伝わる」広報への取組み 土木の魅力発信プロジェクト

高校生写真部とコラボした日本初の土木の魅力発信プロジェクト
その仕掛人である土木学者のデミー博士こと長崎大学の出水 享 氏と九州地方整備局長 藤巻 浩之氏に本プロジェクトの狙いと広報活動の重要性やポイントについて熱く語っていただきました。


長崎大学 出水 享 氏(デミー博士)     九州地方整備局長 藤巻 浩之



高校生写真部とコラボしたプロジェクトの狙いとは

出水 享 氏(以下、デミー)

長崎大学のデミーと申します。生まれは福岡県、高校は大分県、大学から長崎県に行って、現在は長崎大学に勤務しています。学生時代に憧れの島だった軍艦島の研究等をやっている中で、YouTube等で始めて軍艦島のことを発信したところ、予想超える多くのメディアに取り上げていただきました。その体験から情報発信の重要性にあらためて気がつき、広報活動に積極的に携わるようになりました。
土木学者 デミー博士の公式HP

藤巻 浩之 氏(以下、藤巻)

九州地方整備局長の藤巻です。もともと九州には縁もゆかりもありませんでしたが、建設省に入ってからの30数年のうち4割ほどが九州での勤務でしたので、何度も九州に来させていただいています。一口に広報と言ってはいけないのかもしれませんが、我々の社会資本整備の必要性とか、重要性を世間の方にわかっていただく大切さと難しさというのを、素人なりに感じてきたつもりです。

その中で、今から5、6年前に、デミーさんと初めてお会いして、いろんなことを一緒に笑いながら取り組んでいます。お互いいろんなことを雑談のように言い合っている中で新しい発見があったりして、この先もいろんなことを一緒に取り組んでいきたいと思っています。

九州地方整備局長 藤巻 浩之 氏



デミー

大学において就職支援する中で、土木の担い手が減っているという事実を知りました。土木は我々の命と暮らしを支える役割を担っていることや働く場としての土木の魅力を若者に知ってもらうため、土木に関する情報を発信するプロジェクトをメディアの力を借りながらこれまでやってきました。

そんな中、長崎の離島でイベントをしたときはメディアがいなかったため、広報が正直しんどかったんです。住民の方々に土木を知ってもらうには、どうしたらいいのかと考えている中で、回覧板を作ろうというアイデアが浮かびました。ただし、建設業界の私たちが普通に作ったのでは住民の方々には興味をもっていただけない。

そこで、地元の高校生とコラボして回覧板を制作すれば、興味をもっていただけるのでないかと考えました。さっそく上五島の普通科高校にお願いをして、写真部や放送部の方を巻き込んで、写真を撮って記事を書いてもらい回覧板を作って地域に配布しました。すると、それが話題になって、逆にメディアに取り上げていただいたんです。ああ、そういうやり方があるのかと気づきました。
高校の写真部であれば、写真を撮ることに関しては部活の一環で行ってますし、写真というキーワードで現場に来てもらって、市民に近い目線の写真を撮影して発信することが期待できます。この発想をきっかけにして、写真を活用した今回のプロジェクトに進化させていきました。

この写真プロジェクトの1年目には、初めて行った大村高校の写真部の先生に頭を下げて参加のお願いをしました。先生も全く土木には馴染みがなかったみたいですが、土木業界の現状へのご理解や私の想いをお伝えすることで、ぜひ協力しましょう!と、こんな流れで1年目は実現することが出来ました。2年目は、この活動を知った長崎、佐賀、大分の建設新聞さんから一緒にやりましょうと声をかけていただきました。

写真プロジェクトを始めた当初は長崎だけでやっていたのですが、幅広くやるために局長にお声がけいたしました。局長と初めてお会いした時、局長の広報に対する想いに共感しましたし、ノリも良くて、私の好きなタイプだと強く印象が残っていたからです。初めてお会いした時は、企画部長のときでしたよね?

長崎大学 出水 享 氏(デミー博士)

藤巻

そうですね。初めてお会いしたのは九州で企画部長をしていた平成29年ぐらいだったと思います。

デミー

それから数年経って、九州地方整備局長として戻って来られたあとに、写真プロジェクトにご協力いただけないか相談させていただいたときにも、企画部長時代の熱い想いというのを持たれていました。広報する中では、リーダーのキャラクターっていうのは成功する重要なポイントであると私は思ってるんです。リーダーが前向きじゃないと広報はできません。局長の広報に対するリーダーシップは、かなり前向きなので、九州の土木の広報が熱いっていうのはそれが大きな理由だと思っています。みんなやりやすい環境にあると思います。私も、局長にお願いすれば、必ず協力していただけると思っていました。



広報の大事な4つの要素「第三者」「参加型」「普段から」「SNS」

藤巻

デミーさんから初めてこの話を伺った時に、よくぞ組み合わせたなとか、よくぞ気がついてくださったなと、思いました。我々も現場では日常的に写真を撮りますが、一番遠いところに居そうな普通科高校の写真部の生徒が、土木の現場をどう切り取ってくれるんだろうっていうのは、びっくり感とワクワク感がありましたね。

私は基本的に何でも試してみるタイプの人間なのかもしれませんが、瞬間的に直感的に、これは絶対ウケるぞと思ったんですね。

私は広報には4つの大切な要素があると考えています。それは、「第三者」「参加型」「普段から」「SNS」の4つです。1つめの「第三者」とは、広報の担当者として『九州地方整備局は良い仕事してるんですよ』って発信するのではなく、一見関係なさそうな人が、『良い仕事してますよね』とか書いてくれることが重要ということです。2つめの「参加型」は、発信側が一方的な広報をするのではなくて、例えば一緒にイベントに参加してもらうといったことです。「普段から」というのは、例えば、災害時には整備局は最前線に立つので我々の業務の重要性を知っていただくことができますが、普段の業務についても興味を持って知っていただくことが重要であるという考えです。

あとあと考えたときに、今回のプロジェクトがそのうちの「第三者」「参加型」「普段から」の3つに当てはまっていると。そういうことを直感的に感じて、二つ返事で「じゃあやりましょう」って言ったんだなと思います。

九州地方整備局としての直接的なご協力といえば、快く現場を紹介するっていうことと、「現場のみなさんは、カメラを向けられると照れると思いますが、普段通りで」とお願いしたことぐらいです。あとはデミーさん、生徒さん、顧問の先生がたが、本当にうまくやっていただいたと思います。ただ、広報に限らず、何か新しいことをやる時って、ノリの良さが重要なので、ご紹介する人選だけはしっかり考えましたね。

デミー

そうそうそうそう(笑)

藤巻

そうするとちゃんとエンジンがかかるんですよ。やっぱり人の繋がりが大切ということですね。

写真というメディアの特性

藤巻

写真っていうのは、いろんなところに飾ることができるし、今では当然のようにモニターでも流せるし、いろんな使い方ができるんですよね。いろんな意味でフットワークが軽いメディアだなあっていうのは改めて思いましたね。もう一つ言うと、写真は誰でも簡単に、パチリとすればすぐに撮れる。今はスマホの時代ですから。「参加型」とは物凄く相性が良いですよね。

それと、高校生っていうのがすごく良くてですね、感性がフレッシュなのはもちろんですが、高校生写真部というのは3年経つと人が入れ替わるんですよね。これは、持続可能的ですよね。

デミー

そうですよね。毎年ワクワクが与えることができる。

藤巻

すごいことをお考えになったなと本当につくづく思っています。

デミー

フットワークが軽いメディアといった意味では、SNSなどにも活用できて多くの人に発信できますので気軽に見てもらえるのと、高校生の写真部が撮った土木の写真ってなるとインパクトもあるので、興味を引きやすいのかなと思っています。「国土交通省が撮った土木の現場」、「高校生写真部が撮った土木の現場」ってなると、やっぱり「高校生」の方を見たいってなるじゃないですか。自分たちはすごいだろうっていう、いやらしさがない。フレッシュさがあって、フィルターがかかってない写真として発信することができます。

藤巻

そうですね。嬉しいことですね。

デミー

写真を用いるというのは、そういったことでもすごく意味のある活用方法だと思いますね

「明日へ」
佐賀県立武雄高校1年 山下 颯彌さんの作品

※その他の写真は、青春ビルドプロジェクトの公式インスタグラムをご覧ください。


みんながHAPPYに

デミー

今回の高校生の写真の話で言えば、コロナ禍でなかなか写真が撮れなかったという中でも、写真活動ができたっていうことでハッピーになるし、撮った写真が新聞や雑誌に掲載されると自分の撮った写真が見てもらえるっていうところでもハッピーになるし、生徒が撮った写真を見て局長が感動したように、実際に現場で働いている建設業の方も、「自分たちの仕事ってこんな風に見られているんだ」という気づきがあって建設業の人たちもハッピーになる。

建設業の方々に勇気を与えて誇りを取り戻してくれる写真であり、住民の方々の多くが感動してくれると思うんですよね。撮影した現場は国交省発注の現場でしたので、土木のお仕事を知っていただけて国交省の方々もハッピーになる。いろんな方がハッピーになれるんじゃないかなと思っています。

「始まりの合図」
長崎県立諫早高校2年 大石 ちありさんの作品


藤巻

そういう思ってもみない組み合わせをすることによって、これだけの大きな効果が出る。我々が考えている広報の目的とは、いかに伝わるかっていうことだと思っていて、そうすると一見、全く縁のなさそうな方々と一緒に仕事をさせていただくっていうのは、まさに繋がるの極値、極限の形だと思います。

そのような形で今回の取り組みが長崎から始まって3県まで広がってきているというのはとても嬉しいことだと思いますし、有難いことだと思います。先ほど、未来永劫、高校はありますからって言う話をしましたけど、これからも続けていきたいと思っていますし、さらに広げていければというふうに思っています。

デミー

現場で被写体になった方に伺うと、自分たちの仕事に自信を取り戻すことができたというコメントも頂きました。写真を撮るのが目的ではなくて撮ったあとに、どういう人に勇気を与えることができるのか、誇りを与えることができるのか、ハッピーになってもらえるのかという目的がありました。

また、土木ってこんな仕事をしていたのかと、多くの住民の方にも関心を持っていただくこともできました。 こんな人たちが実際に働いているんだ、かっこいいねって。
現場には仮囲いがあるので、現場の仕事って分かんないとこがあるじゃないですか。土木の現場には、手作業で作業をしている人は実際にはいないんじゃないのかと思っている方もどうやらいるみたいだということも感じました(笑) 
写真を見て、ああ、そういうことかと、住民の方々には、いろんな気づきを得ていただけたと感じています。

「さぁ、仕事だ!」
大分県立大分上野丘高校1年 江口 静空さんの作品



「やる気」「勇気」「元気」で広報活動を楽しみ、巻き込む

デミー

広報活動においては、まず、私自身が楽しんでいないといけないと思っています。「やる気」「勇気」「元気」っていうのが、私の3つのキーワードですね。それに「情熱」と「戦略」の2つを加えた5つが私の中で大切なことかなぁと思います。

いかに人を巻き込むかってこともありますけど、やってる本人が一番楽しんでいないと結局、物事ってうまくいかないし、広報をやっていると局長みたいな同じ志の方・志の高い方に、結局はつながっていくものだとと私は思っています。ですので、私自身もしっかり意思を持った言葉として発信し、理解していただくことで、共感していただく仲間が増えていくと思っておりますので、先ほど言った5つの要素が、広報を行う上で原点とも言える大切なものかなと思っております。

また、土木と関係のない人をいかに味方にして広報を行うかっていうところがやはり今後の土木をPRする上での一つの戦略かなと思っています。今回は写真でしたが、局長にご紹介いただいたアートもそうですし、当然、動画という方法もあると思っています。全く違う分野の人とコラボして、味方になってもらって広報するっていうのが、今後の活動においての大切なポイントだと思ってます。

藤巻

広報を行う上で、物語というか背景というか、そういうのも大切にしたいなと思うんですよね。たとえば、ある土木施設を広報するときに、「こんな橋ができました」ってことだけじゃなくて、そもそも昔はどうだったんだろうかとか、今回橋を作るにあたってこんな苦労があったとか、こんな地元の負担や協力があったとか、要するにそれまでの歴史とか後ろに隠れているものを大切にしたいと思っています。高級な和食店の出汁とか、フランス料理屋のフォンドヴォーのように、時間と手間をかけて作られたものも、食するときは一瞬なんですよね。でも、その歴史とか物語も一緒にうまく伝えられたらいいよねって考えています。

今回の写真をパッと見てもらったときに、「良い写真ですね」で終わらずに、いや、実はデミーさんっていう人がいましてね、この写真は高校生が撮ったんですよ、写真部の生徒なんです、こういうことがあって、でこうなんですよ、なんて話が出来ると、「あ、そうなんですね。」って、やっぱり見る目が変わってくるじゃないですか。PICFAもそうですよね。障がいを持たれている方が支援施設で製作されたアートで、かつ経済的に自立されているという話を聞いたから、尚更ご関心をお持ちになったと思うんですよね。 そういうことなんですよ。難しいんですけど、一朝一夕にできる話でもないし、ハズレも失敗も多いんですけど、できれば、そういう物語とか、歴史とか背景っていうのを少しずつ意識しながら広報できると、いいなと思います。
(※PICFA:医療法人 清明会 きやま鹿毛病院内にオープンした施設)

今後の取り組み

藤巻

九州地方整備局では、例年、広報戦略を作っています。この中に、「伝わる広報」「繋がる広報」「広がる広報」というキャッチフレーズがあります。よく我々は「伝える」っていう行為のことを言いがちですが、それ自体は自己満足であって、伝わらないといけないと思います。繋がるというのは、まさに今はSNSの時代で、双方向、マルチ対マルチでいろんなことができます。 広がるというのは、まさにその通りで、それをいかにいろんな手段でやっていくかってことで、真面目にいろんなことを考えています。

 広報というのは、うまくいかないことも多いんですよ。どうしたらもうちょっと上手くいくのかを考える。そういうことの繰り返しなんじゃないかなと思います。ほかには、良いとこ取りをするということも大事だと思います。ほかの組織で何かうまいことをやっていたら真似をしようぜっていうのもありですよね。もう一つだけ言うと、あんまり肩の力を入れないでやった方が良いと思っています。気持ちは前向きに持っていてほしくて、ダメだったら受け流す、スベったらスベったでまあいいかっていうのが広報ですよね。とりあえずやってみるっていう。こういうことが大事なことですよね。

デミー

そう言っていただけると、広報の方たちはやりやすいですね。

藤巻

実際は、なかなかみんなスベらないですよ (笑) 

あと、非常勤職員さんの力ってすごいと感じています。最近は男性も女性もそうですが、お子さんがある程度育ってきたら仕事に戻ってきてくれることもありますし、資格とか特技を持たれた方が非常勤さんとして来ていただけることもあって、非常に力があってすごいと感じています。広報大賞というのが局内にあって毎年やっていますが、グランプリや準グランプリを受賞したのは、非常勤職員さんが中心でした。ほんとにすごいと思います。

デミー

私はこの写真プロジェクトの他に、島原鉄道の沿線で高架橋工事をしている建設会社、長崎河川事務所、高校生とコラボして、今月から長崎諫早土木ウィークというのをやっております。島原鉄道に土木ラッピング電車を走らせるとともに、電車の中に高校生が撮った写真も展示して、多くの生徒に見てもらおうと考えています。また、現場見学会や写真展、生徒と国交省の担当の方とのトークイベントもやろうと思っています。このようなイベントをきっかけに、様々な方々に土木を知っていただけばと思っています。

※島原鉄道のラッピング電車について→コチラ(株式会社 横河NSエンジニアリングホームページ)


写真左から、長崎大学 出水氏(デミー博士)、
九州地方整備局 広報担当 藤木課長補佐、九州地方整備局 藤巻局長





取材日:2023年1月16日


特集記事(2023年3月掲載)