建設物価調査会

NPOや企業との連携で次世代を担う高校生に向けたBIM/CIM 授業を実施

広島県立府中東高等学校


新たなリテラシー、BIM/CIM をどう習得していくか、人材育成をどうするかは、多くの企業の課題となっている。そのような中、広島県立府中東高等学校(以下、府中東高)都市システム科では、これからの建設業界で重要になるBIM/CIM に対応できる人材輩出を目指して、2022年9月から2023年2月まで計6回にわたり2年生を対象にBIM/CIM 授業を実施し、全国に先駆けた取り組みとして注目されている。最終回となる6回目の授業を取材した。


点群データから3Dモデルを作成

 2023年2月8日、最終回となる第6回BIM/CIM 授業は、「3D土木・建築設計」をテーマに広島が本社の総合設計会社、株式会社あい設計BIM 統括室の加藤千晶さんが講義を行った。さまざまなデジタル画像を統合して3Dモデルをつくるフォトグラメトリの仕組みとともに建築のデジタルアーカイブ、ゲームでの活用などが紹介された。前回の授業でスマートフォンとドローンを使って生徒が撮影、作成した教室の点群データを使い、加藤さんが3Dモデルを作成した。3Dモデルの一部に不明瞭な部分があり、柴田武秀教諭からの質問で、その原因と対策などが説明された。

 後半は、実習室に移動し、あい設計BIM 統括室長の櫻河内敏雅さんと副室長の藤本憲生さんの指導のもと、ゴーグルを装着して浜松城を空中から見るVR 体験をした。最初に体験した高橋史弥さんは「ふわふわ浮いているようで、これまでにない体験だった」と感想を話してくれた。VR 体験はこれまでの授業でも行われており、すでに体験している生徒も多い。井上海斗さんは、「授業で体験したタワーマンションのVR は、リアルでびっくりしたし、もっと知りたいと思った。将来は公務員になって土木職員として地域のインフラづくりに貢献したい」という。井上さんはドローンの資格も取得している。以前の授業でビル内部のVR を体験した山本夕輝さんは「将来はものづくりの会社の社長を目指す」と夢を語ってくれた。


 この授業は、選択授業として実施され、柴田教諭と同校でドローン活用を指導してきたNPO 法人ふちゅう大学誘致の会(以下、大学誘致の会)、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の川森雅仁特任教授、株式会社あい設計、広島県ドローン協会、株式会社マツザワ瓦店など、多くの関係者の連携により実現した。授業は、実際にドローンやBIM を活用している企業経営者や担当者が講師となり、講義と実習や体験を組み合わせ、実務経験のない高校生の興味を促すための工夫がされてきた。全6回の中で、ICT による技術、ドローンによる測量、写真測量の基礎、点群データの作成、点群データから3次元モデル化という一連の流れや代表的なBIM ソフトのRevit の運用例やVR の体験などの基本を学んだ。

i-Construction とデジタル社会

 最後に川森特任教授が6回の授業を振り返り、これまで学んできたことを解説した。「国土交通省が推進するi-Construction は、データを利用することで測量から設計、施工、維持管理までの建設プロセスを一括管理し、生産性向上や精度を高めることができます。それらのデータを一元化するプラットフォームがBIM であり、その習得が重要になります。今回は基礎的なことを学習し、BIM ソフトはまだ使っていませんが、BIM やi-Construction は現在の建設業には欠かせない技術であり、みなさんの将来のためにも重要な技術です」と述べた。

 さらにデジタルの世界と現場を連携するVR やデジタルツインの重要性や、これらの技術がロボットやAI、VR、ゲームなどへ展開されていることに触れ、自動運転のためのデジタル地図作成や静岡県のバーチャルシティの例を紹介しながら、授業で学んできたことが将来の新しい産業や社会につながっていくことを伝えた。

BIM/CIM 授業をはじめたきっかけについて

 柴田教諭は総括として「国が提唱しているSociety5.0は、仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する新たな未来社会のイメージを示すもの。みなさんが生きていく時代は、すべてのものがコンピューターとつながっている世界です。これは、土木の勉強がしたいという志を持つみなさんが将来、職業を選ぶ中で避けて通れないことです。授業で学ぶ土木工学の知識に加えて、新たな技術に適応していくことが求められています。働き方も変わってくるし、人手不足を補いながら、精度の高いものに進化していく。目の前にそういう世界が来ています。自分が将来、関わっていくことだと考えてください」と語りかけた。
 
 都市システム科の生徒の多くが卒業後は地元企業に就職する。柴田教諭は「生徒に社会や建設業の変化を早い時期から理解して欲しいと思いこの授業を計画した」と語る。これまで建設の世界は、それぞれの分野で技術を深化させてきたが、これからは、それに加え、プロセス全体を見渡すことも必要になる。

ドローンを活用したまちづくり

 大学誘致の会理事長の井上さんは「府中市は昔から創業者が多く、産業とともに地域が発展してきましたが、近年は人口減少が続いています。2021年に府中市全域が過疎地域に指定されました。若い人を増やし、新しい技術で産業や文化を生み出し、地域を発展させていくために高等教育機関を誘致する活動をしています」という。無人航空機(ドローン) 航空技術大学誘致の活動をしていく中で、ドローン活用によるまちづくりやドローン体験会などを実施してきた。その一環として、2019年4月から府中東高で課外授業として「ドローンパイロット養成講座」を開講。慶應義塾大学の川森特任教授と出会い、ドローンだけでなく総合的なi-Construction やBIM/CIM の授業をするべきだという意見を受け、柴田教諭とともにBIM/CIM 授業を計画した。

ドローンの課外授業で資格取得

 2019年度から毎年開催されている府中東高の「ドローンパイロット養成講座」は、広島県ドローン協会の認定講師が指導に当たり、全12回の講座を通して生徒のライセンス取得を目指す。BIM/CIM 授業に参加した生徒のうち、6人がドローンのライセンスを取得している。2023年1月に取得したのは小川雄大さん、山本大輝さん、山路豪優さんの3人。小川さんは「卒業後は製造業に就職したい。ライセンスが就職にも役立つかもしれない」という。山本さんは「卒業後は土木や建設の仕事に就きたい。ドローンの講座があり、資格取得ができるのは都市システム科の特長なので、この学科に入ってよかった」という。

 ドローンは、航空法や条例で定められた飛行禁止区域に該当しない場所でしか飛ばすことができない。広島県内でも府中東高周辺はドローンを飛ばせる数少ないエリアだ。学習や部活でのドローン活用に関心が高まっているが、全国の多くの高校では、室内での操縦に限定され、資格取得の講座を実施するのはむずかしい。井上さんは「学校のグランドでドローンの実習ができることは大きなメリットです」という。将来は、府中市に国際高専を誘致したいと考えている。府中市をドローンが学べる場として、国内外の学生が夏休みなどに集中して学べるプログラムを考えていきたいという。すでに府中東高にも全国の高校から問い合わせがあり、2校からの見学もあった。

屋外でのドローン操作(マツザワ瓦店 松澤社長による授業)

地域の発展と人材育成

 あい設計の櫻河内さんは「大学誘致の会の方から建築のBIM を指導して欲しいというお話をいただき、BIM を基幹業務と位置付けている当社としても地域の人材育成は重要だと考えており、ご協力しました」と講師を引き受けた経緯を話してくれた。同社は、県内の公立工業高校の土木工学系教員研修にも協力している。


 府中東高では、2023年度も都市システム科2年生を対象にBIM/CIM 授業を行う計画だ。またBIM/CIM 授業を受けた3年生を対象にした授業も検討しているという。


 授業後の関係者による意見交換会では、生徒が興味をもつICT 建機の体験や日進月歩で進化を続けるドローン技術への対応、BIM とレーザープリンターの連携など、アイデアが次々と出された。同校にはインテリア科もあり、将来的にはRevit などを活用した家具の3Dモデル作成、CNC 加工機や3Dプリンターによる家具の製作も可能になるといった提案もあった。高級家具のブランドとして有名な府中家具の産地でもあり、地元企業との連携もできそうだ。一方で、生徒がBIM を習得するためには、新たなPC を数台確保する必要があり、学校では予算確保を検討し、県教育委員会に要求を続けている。


 柴田教諭は「府中市は、浜松市や燕三条市と同様に、ものづくりの技術があって独自性のある地域です。中小企業が多いのが特徴ですが、グローバル化を実現し、次の段階として、市長や商工会議所会頭はインテリジェント化を推進しています。学校もそうした動きと一緒に進んでいくことが必要です」という。


 また「この授業を行うにあたり多くの方にご支援をいただきました。学校だけではできないことです。大学誘致の会の井上さん、北川慶祐さんを通じて企画が実現し、川森先生をはじめ、いろいろな方のご協力で実現した授業です。名古屋の株式会社マツザワ瓦店の松澤孝宏社長や広島建設アカデミー理事長の福井正人さんも毎回来てくださいました」と感謝の気持ちを話してくれた。


 地域の将来を考え、新たな技術で地域の産業や文化を創っていく。将来を担う高校生に新たな時代の仕組みや次世代のリテラシーとなる技術を学べる機会を提供する。授業に協力した大人たちすべてが同じ思いをもっていた。さらに前校長の強い後押しや中居寛美校長の理解もあった。2022年度から改訂された高等学校の学習指導要綱では、基本的な考え方として「新しい時代に必要となる資質・能力の育成」が示され、「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を共有し、社会と連携・協働しながら、未来の創り手となるために必要な資質・能力を育む『社会に開かれた教育課程』の実現」がうたわれているが、府中東高のBIM/CIM 授業は、まさにそれを実践している。

建設物価2023年6月号