建設物価調査会

総合物流施策大綱(2026年度~2030年度)の方向性と政策の展望

総合物流施策大綱(2026年度~2030年度)の方向性と政策の展望

国土交通省 物流・自動車局 物流政策課



1.物流の「2024年問題」に対する一連の対応


 物流は国民生活や我が国経済を支える社会インフラであり、物流業界の営業収入の合計は約29兆円で、全産業の約2%、従業員数については約223万人で、全就業者数の約3%を占める。また、国内貨物のモード別輸送量は、トンベースでは自動車が9割以上、トンキロベースでは5割以上を占めており、日本の物流において自動車は非常に重要な役割を担っている。

 しかしながら、トラックドライバーの労働環境・雇用環境は厳しく、全産業平均と比較すると、年間労働時間は約2割長く、年間所得額は約1割低く、有効求人倍率は約2倍になっている。

 このような中、物流産業を魅力ある職場とするため、令和6年4月からトラックドライバーに時間外労働の上限規制が適用されるなど働き方改革がより一層推進される一方、一人当たりの労働時間が短くなることから何も対策を講じなければ物流の停滞を生じかねないという、いわゆる物流の「2024年問題」に直面していた。

 こうした状況を踏まえ、荷主、事業者、一般消費者が一体となって我が国の物流を支える環境整備について、関係行政機関の緊密な連携の下、政府一体となって総合的な検討を行うため、令和5年3月31日に「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が設置・開催され、令和5年6月の第2回関係閣僚会議において「物流革新に向けた政策パッケージ」がとりまとめられた。

 この政策パッケージでは、荷主企業・物流事業者間における物流負荷の軽減、物流産業における多重下請構造の是正、荷主企業の経営者層の意識改革・行動変容に向けた規制的措置についての法制化を含め、中長期的に継続して取り組むための枠組みを確実に整備することとしており、この政策パッケージ等に基づき、関係省庁が連携し、輸送力不足の解消に向けて様々な対策を講じることとされた。

 特に、法制面での対応としては、荷主・物流事業者等に対し、物流の効率化、多重取引構造の是正に向けた取組を義務付ける等の規制を設ける「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」が第213回通常国会において成立し、令和6年5月14日に公布され、令和8年4月1日に全面施行されている。

 この法律には大きく3本の柱があり、1つ目に荷主・物流事業者に対する規制的措置(流通業務総合効率法)、2つ目にトラック事業者の取引に対する規制的措置(貨物自動車運送事業法)、3つ目に軽トラック事業者に対する規制的措置(貨物自動車運送事業法)となっている。


2.2030年度に向けた「総合物流施策大綱」の策定


(1)経緯

 物流の「2024年問題」については、「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づく官民での取組の成果等によって、懸念された物流の深刻な停滞は起こらなかった一方、物流分野における人手不足、低い労働生産性、長時間労働等の厳しい労働環境、価格競争に伴う厳しい取引環境・雇用環境等、物流にまつわる課題は構造的な課題であり、2030年度に想定される輸送力不足の解消や2050年カーボンニュートラルの実現、自動運転等の技術革新への対応など、大きな変革を迫られている状況に変わりはない。

 このような状況の中、令和7年3月に開催された「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」において、2030年度までの期間を、物流革新の「集中改革期間」と位置付け、物流全体の適正化や生産性向上、自動運転等の抜本的なイノベーションに向けて、「総合物流施策大綱」を策定すべく検討を開始するよう、当時の石破内閣総理大臣から指示があった。

これを受け、有識者により構成される「2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会」を昨年5月から本年2月にわたり計9回開催し、物流を取り巻く諸課題への対応の方向性について検討を行い、本年3月に今後の物流施策の在り方について検討会の提言を得た。

 本提言では、足元の経済動向や物流需要の変化等を勘案した将来的な輸送力見通しの再検証を踏まえると2030年度には平均で約7%~最大で約25%(1.7億トン~7.2億トン)の輸送力不足が生じうると見込まれ、将来的な輸送力不足が生じないよう、物流の効率化や商慣行の見直し、荷主・消費者の行動変容、担い手の確保・育成や労働環境の改善等に向けた取組を着実に進めていくべきことが示された(図表1)。

(2)内容

 有識者検討会での提言を踏まえ、本年3月31日に「総合物流施策大綱」を閣議決定した。本大綱では、社会資本整備や交通政策の分野で講じられる施策や目標との整合を図る観点から、社会資本整備重点計画(令和8年1月16日閣議決定)や交通政策基本計画(令和8年1月16日閣議決定)と同じく、2030年度までを計画期間とした上で、今後の物流政策の方向性として大きく5つの柱を設定し、関連する施策を強力に推進していくこととしている。以下、5つの柱ごとに、取り組むこととしている内容について記載す

① サービスの供給制約に対応するための徹底的な物流効率化

 1本目の柱は「サービスの供給制約に対応するための徹底的な物流効率化」である。深刻化するトラックドライバー不足の解消と労働生産性の向上を図るため、レベル4自動運転トラックの早期社会実装の推進やダブル連結トラックの複数事業者間での運用等を通じて、自動運転トラック等の革新的車両の導入促進のための環境整備を進める。

 また、自動運転車の安全かつ高速な運用を可能とする自動運転サービス支援道や、送電網や河川上空におけるドローン航路の全国展開を通じて、「デジタルライフライン全国総合整備計画」及び関連するロードマップやガイドライン等に基づき、各府省庁が一体となって実証段階から実装への移行を加速し、デジタルライフラインの整備を推進する。

 さらに、道路空間に物流専用のスペースを設け、無人化・自動化された輸送手段によって荷物を運ぶ新たな物流システムである自動物流道路の運用開始に向けた取組や、空港におけるグランドハンドリング作業の省力化・自動化、物流拠点における荷役作業等の自動化・機械化等を進め、陸・海・空の多様な輸送モードの自動化に取り組むことで、物流ネットワークの自動化・省人化を推進していく。

 効果的な物流体系の構築に向けたインフラ整備や新モーダルシフト等の推進も重要である。速達性と輸送の効率性は、安定的な経済成長の生命線であることを踏まえ、三大都市圏等の環状道路の整備や物流の結節点となる基幹物流拠点の整備を促すために必要な制度の具体化等を通じて日本全体の物流ネットワークの再構築を推進するとともに、鉄道、船舶、航空機、ダブル連結トラック等の陸・海・空のあらゆる輸送モードを総動員した「新モーダルシフト」の推進や農林水産物・食品等の流通合理化に取り組む。

 また、人口減少とそれに伴う担い手不足が深刻化する中、電子商取引市場の急成長により物流の小口・多頻度化が急速に進行しており、ラストマイル配送を担う宅配便ドライバーの負担が増大することが懸念されている。これを踏まえ、コンビニ受取や駅の宅配ロッカー等の多様な受取方法の更なる普及・浸透や1対多運航のドローンの活用等、地域のラストマイル配送等の持続可能な提供の維持・確保も推進する。

② 物流全体の最適化に向けた商慣行の見直しや荷主・消費者の行動変容、産業構造の転換

 2本目の柱は「物流全体の最適化に向けた商慣行の見直しや荷主・消費者の行動変容、産業構造の転換」である。物流プロセスにおいては、発着荷主間の契約で商品の内容や納品時期等が決定され、それを前提として、荷主企業と物流事業者の間で運送契約が結ばれる。このため、物流事業者が独自に貨物輸送の効率化を図ろうとしても実施が困難な場合が多い。また、貨物の輸送先でトラックドライバーが契約にない荷役作業や附帯作業を指示されたり、長時間の荷待ち等を強いられたりするケースも散見される。

このような状況を踏まえ、取引先・倉庫等への受発注の前倒し等による適切なリードタイムの確保、パレット等の輸送用器具の活用等を通じ、荷主・物流事業者等の連携・協力による新たな商慣行の定着を進めるとともに、「再配達削減PR月間」の実施等を通じて消費者、発着荷主をはじめとする物流関係者全体の行動変容・意識改革を推進する。

 また、物流事業者間の取引関係における多重取引構造により、実運送事業者が適正な運賃を収受することが困難となっている場合がある。このような状況を踏まえ、トラック・物流Gメンによる是正指導等により、トラック・倉庫業界等における価格転嫁と取引適正化を推進するほか、内航海運における荷主等との取引環境の改善、港湾運送事業や空港グランドハンドリング事業での適正取引の推進にも取り組む。

 さらに、トラック運送業界では、価格競争に伴う厳しい取引環境に由来して安価で条件の悪い仕事を引き受ける、いわゆる「ダンピング」行為や、許可等なく有償で運送行為を行う違法な「白トラ」行為、トラック運送事業者等が他の事業者へ運送の再委託を繰り返す多重取引構造といった構造的な課題に直面している。これを踏まえ、適正原価を下回らない運賃・料金の収受や多重取引構造の是正を通じたトラック運送業界の健全化の推進、さらには事業協同組合等による協業化等により事業経営の維持・継続や法令遵守に向けた体制の確保、荷主等に対する価格交渉力の向上を通じたトラック運送業の事業基盤の強化にも取り組む。

③ 持続可能な物流サービスの提供に向けた物流人材の地位・能力の向上と労働環境の改善

 3本目の柱は「持続可能な物流サービスの提供に向けた物流人材の地位・能力の向上と労働環境の改善」である。トラック運送業は、全産業平均と比較して労働時間が2割長く、年間賃金が1割低くなっており、人手不足を解消して物流を持続可能なものとするためには、物流の将来を担う人材にとって魅力ある労働環境の整備を図っていく必要がある。また、倉庫業についても、近年のEC市場の拡大等による保管需要の増加等に伴い、庫内作業を担う人材の需要が高まってきている。

このような状況を踏まえ、トラックドライバーや倉庫等における物流人材の育成プランの策定やトラック・倉庫分野における特定技能外国人等の定着・活躍の促進を進めることとしている。

 また、ダイバーシティや多角的なイノベーションの観点から、日帰り運行の実現に向けた中継輸送の取組など職場環境改善に向けた取組を後押しすることにより、女性や若者、高齢者、障害者等の多様な人材が活躍できる物流産業への転換を図る。令和8年4月より大手の荷主等に設置が義務付けられた物流統括管理者(CLO)や高度物流人材の能力向上に向け、異業種・競合企業間の連携の促進等の環境整備を行う。

 さらに、海技人材の確保・育成や労働環境の改善、内航海運の生産性向上、港湾・鉄道・航空の各分野における担い手の確保、SA・PAや道の駅の大型車駐車マスの拡充等によるトラックドライバーの休憩環境の改善、デジタル式運行記録計の普及促進等による輸送の安全確保に向けた対策の推進を通じて、物流人材の確保及び労働環境の改善を進める。

④ 物流に携わる多様な関係者の連携・協力による物流標準化と物流DX・GXの推進

 4本目の柱は「物流に携わる多様な関係者の連携・協力による物流標準化と物流DX・GXの推進」である。物流は、我が国の産業競争力の源泉であり、その機能を将来にわたって適切に発揮させるためには、物流に携わる多様な関係者の連携・協力により、これまで「競争領域」とされる部分が多かった物流の「協調領域」を積極的に拡大する方向で捉え直し、公正な競争を確保する必要があることにも留意しながら、サプライチェーンの全体の可視化・最適化や、物流生産性と付加価値の抜本的向上につなげていく必要がある。

このため、「標準仕様パレット」の導入を促進するとともに、配送伝票等の記載情報や伝票番号の体系、配送ステータスの把握方法等に対象領域を拡大し、物流を構成するハード・ソフトの各種要素の標準化を進める。また、荷主と物流事業者が連携したデータの可視化・共有化の取組を推進し、メニュープライシング・ダイナミックプライシング等の導入による物流コストに応じた運賃・商品価格の設定を後押しすること等、荷主・物流事業者間の連携・協働によるデータ連携等の取組を深化させるとともに、物流拠点における無人荷役機器や無人搬送機(AGV)、自動倉庫等を活用した庫内作業の効率化等、物流のデジタル化・自動化・機械化等を通じた業務効率化を推進する。

これらの取組により、各種インターフェースの標準化を通じて、物流リソースに関する情報を企業・業界の垣根を越えて共有し、保管・輸送経路等の最適化などの物流効率化を図ろうとする「フィジカルインターネット」の実現を目指す。

 また、持続可能な地球環境や政府として掲げている2050年カーボンニュートラルの実現に向け、EVトラック・FCVトラック等の普及や、水素・アンモニア等を燃料とするゼロエミッション船等の技術開発・実証により、サプライチェーン全体の脱炭素化を推進するとともに、物流分野での再生可能エネルギー等の地産地消や循環経済(サーキュラーエコノミー)の実現に向けた取組も推進する。

⑤ 厳しさを増す国際情勢や自然災害等に対応したサプライチェーンの高度化・強靱化

 5本目の柱は「厳しさを増す国際情勢や自然災害等に対応したサプライチェーンの高度化・強靱化」である。近年、我が国の空港・港湾の国際的なプレゼンスが相対的に低下しており、貿易立国の危機に直面していることを踏まえ、サプライチェーンの高度化を通じた我が国の物流の国際競争力強化の実現を目指している。具体的には、成田空港等の更なる機能強化等を通じた国際航空物流拠点の整備や、国際コンテナ戦略港湾政策の推進等を進めることとしている。

 また、近年、我が国は、厳しい安全保障環境や地政学的な緊張の高まりなどの国際情勢の複雑化に加え、グローバリゼーションの進展やテクノロジーの発展、産業基盤のデジタル化・高度化といった社会経済情勢の変化等に伴い、サプライチェーンの脆弱性の顕在化や基幹インフラ事業に対するサイバー攻撃等の脅威の増大などの課題に直面していることを踏まえ、国際物流の新たなBCPルートの開拓や、経済安全保障推進法、サイバーセキュリティ基本法に基づく官民連携による持続可能な物流体制の構築等、物流システムにおける経済安全保障やサイバーセキュリティ等の確保を進める。

 さらに、令和6年能登半島地震の際に、物流ネットワークの耐災害性を強化する必要性が再認識されたこと等を踏まえ、災害等の有事における道路、鉄道、港湾、空港、船舶交通等の各分野の物流ネットワークの維持・確保を進めるとともに、災害時の緊急支援物資の輸送拠点となる物流施設について、災害による停電等が発生した際も迅速かつ円滑な緊急支援物資輸送体制を維持・確保するための非常用電源設備の導入を支援する等、大規模自然災害等に備えた緊急物資輸送の体制強化等に取り組む。

(3)KPI

 今後取り組むべきこれらの施策の推進により、どの程度本大綱で掲げた様々な目的が達成されているかを定量的に把握するため、本大綱にて代表的な指標(KPI)を設定している。また、これらの達成状況や達成に向けた課題は物流統括管理者(CLO)等の物流に携わる経営幹部の投資判断の材料として重要であることに鑑み、定期的なフォローアップによるアカウンタビリティを確保する観点から、有識者や関係事業者等を交えた政策評価の場を設けることとしている(図表4)


3.まとめ


 政府においては、その時々の物流を取り巻く社会的要請や環境変化などに対応するため、2025年度までに、7次にわたって「総合物流施策大綱」を策定してきた。これらを踏まえた累次の取組の推進に加え、物流の「2024年問題」を契機とした官民での連携・協力の深化により、我が国の物流を支えるための環境整備の機運はこれまでになく高まっている。

 第8次となる本大綱においては、2030年度までの「集中改革期間」における物流革新を実現し、物流の未来を切り拓く更なる飛躍の5年間となるよう、責任と覚悟を持って、一気呵成に施策を推進していくこととし、様々な施策の具体化・深度化を図ってまいりたい。


建設物価2026年9月号

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