建設物価調査会

「協働防護」による港湾の気候変動適応の取組

「協働防護」による港湾の気候変動適応の取組

国土交通省 港湾局 海岸・防災課



1.はじめに


 我が国の港湾は、貿易量の99.5%を扱う重要な社会インフラであり、その背後地となる港湾所在市町村では、人口と製造品出荷額の双方において全国の約半数を占めるなど、産業活動・国民生活を支える重要な地域となっている。一方で、水際線に立地する特性上、津波や高潮等の自然災害リスクに常にさらされている。

 近年、高潮や高波を伴う台風により港湾機能の停止や施設被害が相次いでいる。平成30年9月に大阪湾を襲った台風第21号では、大阪港及び神戸港において高潮により港湾の堤外地における浸水被害が多数発生したほか、コンテナの航路・泊地への流出(図-1)により、神戸港では2日間、大阪港では3日間にわたり港湾機能が停止した。

また、コンテナの倒壊や電源施設の浸水をはじめ、港湾施設及び海岸保全施設に甚大な被害が生じた。

さらに、令和元年9月及び10月に相次いで東京湾を襲った台風第15号(令和元年房総半島台風)や台風第19号(令和元年東日本台風)では、高潮・高波・暴風により、護岸の倒壊、越波による浸水、コンテナの倒壊・散乱、走錨船舶の港湾施設への衝突等、東京湾内の港湾を中心に大きな被害が発生した。

 このような被害は国内に限ったものではなく、世界各地の港湾・沿岸地域においても深刻化している。令和7年9月に発生した台風第18号(ラガサ)では、香港やフィリピン北部で3mを超える高潮が観測されるなどの甚大な被害をもたらした。

また、令和7年10月に発生したハリケーン「メリッサ」では、カリブ海地域で壊滅的な被害をもたらし、特にジャマイカにおいては同国史上初となる「カテゴリー5」の勢力で上陸したこともあり、沿岸部では最大4mの高潮が発生した。このように、世界的にも沿岸地域における高潮被害が相次いでいる。

 さらに、気候変動による海面水位の上昇や台風の強大化が懸念されており、高潮等による被害のさらなる激甚化が予測されている。

 そのため、気候変動への影響に備える「適応」を進めていく必要があり、港湾においては気候変動適応策の一つとして「協働防護」の取組を進めている。本稿では、気候変動に伴う影響等を示したうえで、港湾における「協働防護」の取組について紹介する。


2.気候変動リスクの顕在化


(1)気候変動に伴う外力の増大

 気候変動に伴い、港湾施設に影響を及ぼす外力として、

①平均海面水位、

②潮位偏差、

③波高の増加

が見込まれる(図-2)。

文部科学省・気象庁が令和7年3月に公表した「日本の気候変動2025」においては、下記の見通しが示されている。

①平均海面水位

 日本沿岸の平均海面水位は1980年代後半以降上昇傾向が明瞭になっており、2004年から2024年の期間では、1年当たり3.4㎜上昇している。

 今後も引き続き上昇が見込まれ、21世紀末において2℃上昇するというシナリオでは、日本沿岸の平均海面水位は21世紀中に上昇し続けると高い確信度を持って予測されており、21世紀末(2081~2100年の平均)において、20世紀末(1986~2005年の平均)と比較して0.40m(0.30~0.55m)上昇すると予測されている。

②高潮(潮位偏差)

 高潮とは、低気圧に伴う気圧低下による海面の吸い上げと、強風による海水の吹き寄せにより、潮位が異常に高くなる現象をいう。

 上昇傾向である平均海面水位と異なり、現時点で高潮の発生数や大きさに長期変化傾向は確認できていない。一方で、複数の将来予測によれば、強い台風の増加に伴い、特に東京湾・大阪湾・伊勢湾において高潮による最大潮位偏差が増大すると予測されている。さらに、大阪湾では、小規模な高潮の発生頻度は減少する一方、発生頻度の低い大規模な高潮については、その発生頻度が増加するとの予測もある。

③高波

 日本沿岸において高波の波高が上昇する傾向が見られている。ただし将来予測では、南北方向の気圧勾配及び風速の減少に伴い平均波高は減少すると予測されている。一方で、台風経路予測の不確実性及び自然変動の大きさから、確信度は低いとされているものの、台風の強大化に伴い、極端な高波の波高は高くなると予測されている。

(2)深刻化する世界の気候リスク

 平成27年に採択された気候変動対策に関する国際的枠組みであるパリ協定では、世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比較して2℃未満に抑えるとともに、1.5℃に抑えるための努力を追求することを目標としている。

 しかし、令和7年11月に国連環境計画(UNEP)が公表した「排出ギャップ報告書2025」によれば、世界の温室効果ガス排出量は依然として増加傾向にあり、2024年の排出量は前年比2.3%増加した。さらに、現行の対策のみを実施した場合には世界の平均気温が約2.8℃上昇し、国際支援を前提とした各国の削減計画が実施された場合においても約2.3℃上昇すると分析されている。

 前節では2℃上昇シナリオに基づく将来予測を示したが、実際にはこれを上回る気温上昇が生じる可能性があり、気候変動に伴う外力の増大や気候リスクの深刻化がさらに進行するおそれがある。

(3)民間企業における気候変動リスク評価

 民間企業においても、気候変動が経営に与えるリスクの評価・開示が求められている。G20のタスクフォースであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、平成29年に気候変動によるリスクと機会の財務的影響を把握・開示するための提言を公表した。

この提言に基づき、令和4年には東証プライム上場企業に対してリスク開示が強く求められるようになり、令和9年3月より順次開示義務化が予定されている。これに伴い、東証プライム上場企業では、気候変動への取組が一層強化されることが想定されるほか、東証プライムに上場していない企業についても、サプライチェーン・バリューチェーンを介して、リスク開示や気候変動への取組が進展していくことも想定される。


3.港湾における気候変動適応方針


 平成30年に施行された気候変動適応法に基づき、同年策定された「気候変動適応計画」では、港湾分野の策定方針として、「堤外地及びその背後地の社会経済活動や土地利用を勘案しつつ、軽減すべきリスクの優先度に応じ、下記のようなハード・ソフトの適応策を最適な組み合わせで戦略的かつ順応的に推進する」ことが明記された。

 このような背景を踏まえ、国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会港湾分科会防災部会が取りまとめた「気候変動等を考慮した臨海部の強靱化のあり方」の答申(令和5年7月)では、以下の内容の必要性について指摘されている。

  • 臨海部における面的な強靱化の推進
  • 個別施設の破壊が地域全体へ及ぼす影響に対する関係者の認識共有
  • 官民の多様な関係者による連携体制の構築

 上記答申を受けた具体的な対応策として、国土交通省港湾局は「港湾における気候変動適応策の実装方針」を令和6年3月に公表し、官民の多様な関係者が合意して「協働防護」を推進することとした。


4.協働防護の概要


(1)協働防護の基本的な考え方

 気候変動に伴う平均海面水位の上昇や台風の強大化などを踏まえると、港湾において嵩上げ等が必要な施設は公共・民間ともに存在し、一部の主体が所有する護岸の嵩上げ等が不十分である場合、浸水被害が港湾広域に及び、物流機能や産業機能に支障が生じる恐れがある(図-3)。

 「協働防護」の取組とは、官民の様々な関係者が集積する港湾において、気候変動への適応を図るためには、関係者が気候変動への適応水準や適応時期に係る共通の目標等を定めるとともに、協定等に基づきハード・ソフト一体となった各種施策を推進することである。

(2)港湾法の改正

 気候変動への適応水準や適応時期に係る共通の目標等を定めるための協働防護協議会及び協働防護計画、関係者の協働による防護水準確保の取組を促進するための協定制度について定めた改正港湾法が令和7年10月に施行された。

(3)協働防護の枠組み

①基本方針への位置付け

 国の港湾行政の指針となる「港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針」(以下、基本方針という。)において、令和7年10月の改訂で「港湾における気候変動適応の推進」が新設され、協働防護制度の考え方が国の港湾政策上の基本方針に位置付けられた。

②港湾計画への記載

 港湾管理者が基本方針を踏まえて港湾計画を策定することとされていることから、協働防護の推進に当たっては、気候変動の影響を踏まえた港湾全体としての目標水準を記載する。具体的には、海面水位の上昇量や台風の強度等の将来外力及び将来外力への対応の基本的な考え方を設定する。

③協働防護計画の作成(図-4)

 港湾管理者が、港湾計画に記載した想定外力等をもとに、浸水が想定される一連の範囲ごとに施設で防護する外力規模、目標年次や特定港湾施設の整備事業(最適化事業)の箇所、整備主体等を定めた協働防護計画を作成・公表する。具体的には、港湾管理者が港内浸水シミュレーション等により浸水範囲等を把握するとともに、浸水シミュレーション結果等をもとに対策の時期・水準等について合意する。

④協働防護協議会

 協働防護計画の作成及び実施に関する協議を行うため、協働防護協議会を組織することができる。協働防護協議会は、協働防護計画の作成者である港湾管理者及び施設所有者、港湾の所在する市町村、港湾利用者、学識経験者等により構成するものとし、これらのほか、港湾管理者が必要と認める者を構成員とすることができる。また、国を構成員とすることも可能であり、構成員とならない場合であっても、協議会の求めに応じて必要な助言を行うことができる。

⑤協働防護協定の締結

 公表された協働防護計画において最適化事業の継続性を確保するため、港湾管理者や民間事業者等の関係者は、整備や管理に要する費用の負担方法や違反時の措置等を定めた協働防護協定を締結することができる。通常、契約は当事者間にのみ効力を有するが、協働防護協定は承継効を付した協定であることから、売買等で土地の所有者等が変わった場合でも、その効力が新たな所有者に承継されることとなる。これにより、経営環境の変化があった場合においても継続的な対策が期待される。

(4)協働防護の具体的な対策(図-5)

 協働防護計画に定めて実施することのできる適応策は護岸の嵩上げ等に加え、荷さばき施設や保管施設、電源設備の嵩上げ、コンテナ流出防止柵の設置、貨物の事前退避などソフト面の対策も含まれる。具体的な対策事例については、後述の「協働防護計画作成ガイドライン」等も参照いただきたい。

(5)協働防護制度活用の利点

 協働防護制度の活用により、港湾管理者及び港湾立地企業の双方に多様な効果がもたらされることが期待される。

①港湾管理者への効果

 港湾全体として効率的かつ効果的に防護機能を向上させることができ、それに連動して港湾のプレゼンスの向上につながることが想定される。また、国の制度を用いることで協働防護計画策定に係る財政的措置を受けることができる(詳細は次章に記載)。

②港湾立地企業への効果

 協働防護を活用することで、様々な面でコスト削減につながることが期待される。単独で防護施設を整備する場合には、自社所有地全体を囲うように対策を講じる必要があるが、隣接する企業と連携して協働防護を実施することで、海に面した箇所を中心とした効率的な対策が可能となる。

 また、気候変動の影響に関するシミュレーションについても、港湾管理者が港全体を対象として実施することで、各企業が個別に検討を行う場合と比べて、手間や時間を大幅に削減することができる。さらに、整備又は改良を行った施設については、固定資産税の特例措置を受けることができる(詳細は次章に記載)。

 このほか、防護能力の向上により事業継続力の強化が期待されるとともに、最適化事業の実施に当たっては施工許可を不要とする特例を受けることも可能となる。

 また、気候変動適応対策に関する取組を対外的に発信することができるため、CSR(企業の社会的責任)の向上につながるほか、投資家や金融機関等の利害関係者からの評価向上や投資促進といった効果も期待される。


5.協働防護の推進に向けた支援

 協働防護の取組を推進するため、国土交通省では以下のような予算・税制・技術面での支援を実施している。

(1)予算措置

 港湾管理者が協働防護計画を作成するために行う浸水シミュレーションや協働防護協議会の開催経費等について、令和7年度より最大1/2の国費補助を行っている。

(2)民間所有護岸等への税制特例措置

 協働防護計画・協定に基づいて整備・嵩上げ等を行った民間所有の護岸等に対して、取得後5年間で当該施設にかかる固定資産税を最大1/2減免する措置を令和7年度より創設している(表-1)。

表-1 税制特例措置の概要

※1  協働防護計画作成費補助を受けて作成された協働防護計画に定められた事業で、国土交通省が認めた施設
※ 2  協働防護協定の対象となる港湾施設は、臨港地区内の施設に限る
※ 3  港湾区域が緊急確保航路又は開発保全航路の区域に隣接する港湾に存する施設以外の施設については、5/6

(3)協働防護計画作成ガイドライン

 協働防護計画の作成手順に加え、計画に記載すべき事項、関係者との主な調整事項及び協働防護区域の設定に関する考え方等を示している。また、「港湾における気候変動適応策の実装方針」等を踏まえ、気候変動に起因する外力変化量の推定方法や気候変動適応策の検討方針等を示す技術的指針として位置付けられている。

 本ガイドラインは、主として協働防護計画の作成主体となる港湾管理者を対象として取りまとめられたものである。

(4)港湾立地企業における気候変動リスク評価手法ガイドライン

 港湾立地企業が気候変動に伴う物理的リスクを適切に評価し、気候関連情報開示や事業継続対策に活用できるよう、リスク評価の基本的な考え方や実施手順を示したものである。特に、海面上昇、高潮、津波等による浸水リスクを対象として、将来の気候変動シナリオを踏まえた評価方法や被害想定の考え方を示している。また、定性的評価から数値解析を用いた詳細評価まで、企業の検討段階に応じた評価手法を整理するとともに、気候関連財務情報開示への活用方法やリスク低減に向けた適応策の検討の視点についても示している。

 本ガイドラインは、主として港湾立地企業を対象として取りまとめられたものである。

(5)協働防護協定の手引き

 協働防護計画に基づく取組を継続的かつ実効的に推進するため、港湾管理者、地方公共団体、港湾立地企業などの関係者が締結する「協働防護協定」の作成に当たっての考え方や手続を示したものである。港湾における気候変動適応を進めるため、関係者が共通の目標や適応時期、防護水準を共有するとともに、施設整備や維持管理、点検、情報共有等に関する役割分担や費用負担の考え方を整理している。また、協定に記載すべき事項、運用上の留意点及び協定の実効性を確保するための方策についても示しており、協働防護計画の円滑な実施を支援する実務上の指針として位置付けられている。

 本手引きは、協働防護協定の締結主体として官民の多様な関係者が想定されることを踏まえて、港湾管理者、地方公共団体、港湾立地企業等の幅広い関係者を対象としている。


6.協働防護の推進に向けた取組の進展


 協働防護の取組は、令和8年度から令和12年度を計画期間とする「第1次国土強靱化実施中期計画」において、「推進が特に必要な施策」の一つとして位置付けられている。また、令和8年3月には三河港において全国で初めて協働防護協議会が設置されるなど、協働防護計画の策定に向けた具体的な検討が進展しており、今後さらなる取組の推進が期待されている。


7.おわりに


 気候変動リスクのさらなる顕在化が懸念される中、港湾における気候変動適応を着実に推進していくためには、官民の関係者が危機意識を共有し、早期から計画的に対策を進めていくことが重要である。協働防護はそのための有効な手法の一つであり、今後各港湾で広く活用されることで、港湾の強靱化と持続的な発展につながることを期待したい。

 国土交通省港湾局においては協働防護や各種ガイドラインの説明体制を整えているため、協働防護による気候変動適応を検討する港湾管理者や港湾立地企業においては、当窓口を積極的に活用することが望まれる(詳細は港湾局HP参照)。

<参考文献>
1)日本の気候変動2025
2)「協働防護」による港湾の気候変動適応


建設物価2026年10月号

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