建設物価調査会

【建設時評】伝統建築を繋ぐ土地活用

【建設時評】伝統建築を繋ぐ土地活用


明海大学大学院 不動産学研究科 教授
中城 康彦

 社寺仏閣は多く、広い境内に優美な伝統的建築物を配して霊験あらたかな空間を創り出している。伝統的空間として日本の象徴的な景観を演出し、観光資源としての存在意義も高い。他方、大規模な伝統的建築物は維持保全や改修に多額の費用が必要となる。将来の建替え費用はさらに大きな課題である。

低未利用地を活用して本業の活性に資することは広く行われている。今日潮流となっている企業用不動産の有効活用(CRE;Corporate Real Estate)や公共用地・施設の有効活用(PRE;Public Real Estate)、個人保有資産の有効活用(HRE;Home Real Estate)に倣い、伝統文化施設の有効活用(TRE;Traditional Real Estate1))を真剣に考え、事業を円滑に成立させる規範を共有する必要がある。

PRE・CRE・HRE以上に、TREは歴史・伝統や文化を表象する国の資源に加える変更であり、間違っても棄損できない、かけがえのなさが要点である。

 2026年1月26日、最高裁第2小法廷で、大阪・山門一体型ホテル(南御堂ビル)固定資産税2)訴訟の判決が出された。実践したTREの立て付けが話題を集めて社会的に評価された一方、最高裁に至る争いがあった。

税法の解釈の違いにかかる紛争であり、TRE自体を否定するものではないが、TREによる土地活用に関し、非課税が相当とした原告が敗訴したことは、この分野を巡る制度や社会的規範が未成熟で、基本的な事項でも専門家の整理が十分でないことを示した。

採用されたTREは以下のとおりである。

 大阪市中央区の御堂筋沿いの寺院「南御堂(真宗大谷派難波別院)」は、耐震性に問題がある境内建物の再建を検討したものの、費用の負担が困難として独自の再建を断念する一方、御堂筋沿いの研修施設で山門併用の「御堂会館」を解体し、その土地を貸して得られる収益で境内建物の改修や将来の建替え費用を賄うことを考えた。

具体的には、期間60年の定期借地権を設定し、その対価(以下、「地代」という。)を工期相当期間中は月額約1293万円、以降は月額約1723万円とした。不動産事業者(定期借地権者)が主な用途をホテルとする複合用途ビル(以下、「ビル」という。)を建てて所有し、ホテル運営は運営会社に委託する。

寺院は研修等に利用するために下層階の一部を借地人(=建物所有者)から賃借し、新御堂会館として運営する。下層階の残余の部分は飲食・物販店舗などが賃借し、上層階(4階の一部と5階から17階)をホテルとして利用する。建物は2019年9月竣工した。耐震性に問題があった本堂はビルの竣工後に耐震改修した。

御堂筋沿いにビルが建つと奥まった本堂への通行や道路からの視認性がなくなることを解決するため、ビルの一部に幅約22m、高さ約13mの空洞を設けた。これによって本堂に続く参道が確保され、御堂筋から本堂全体が視認できる。

訴訟の経緯は以下のとおりである。

 大阪市は2020年度の固定資産税について、ビルの敷地全体を収益事業用地と判断して、約3億1800万円を課税した。他方、寺院は空洞部分の参道は非課税となる境内地として課税の取り消しを求めた。

一審の大阪地裁は市側の主張を認めて寺院が敗訴した。寺院が控訴した二審判決は開口部を、敷石が敷き詰められて参道の一部を形成し、天井は寺院を連想させる格子状であり、商業行為を行っていないことから境内地と認定し、約480万円の課税を取り消した。これに対して市が上告し上記の判決となった。

最高裁は大阪高裁判決を破棄して請求を退け、寺院の逆転敗訴が確定したが、裁判官4人のうち3人の多数意見によるもので、最高裁でも意見が分かれた。第2小法廷は、寺院が「宗教法人が専らその本来の用に供する境内地」(地方税法第348条)とする参道の上には賃貸用商業施設が建っており、「専ら本来の用に供する」とは認められないとした。また、土地の固定資産税は土地の資産価値に着目して課税するものと指摘した。

訴訟の背景には当事者の詰めの不十分さがあると指摘できる。

 最高裁判決はTRE関係者が整理しきれていなかったポイントを「専ら」と「資産価値」の二つのキーワードで指摘した。土地有効活用に際し、所有と利用、および、時間と空間に係る認識が不足したと言い換えることができる。

まず、所有と利用を繋ぐ借地権についてみる。土地と建物が別不動産制の日本では土地と建物の所有者が異なることを認める。他方、無権利者が他人の土地上に建物を所有する違法は認められない。土地と建物の所有者が異なる場合、建物所有者には建物が存続する基盤として土地を利用する権利(敷地利用権)が必要となる。この権利を借地借家法で借地権として規定している。

所有権は使用・収益・処分の権利を含むが、借地権を設定すると使用権は100%借地人に移転する。つまり、所有者は自分の土地ながら自分で使用することはできない。本件では借地部分を所有者が使うという“イレギュラー”がある。契約自由の原則よりこのような取り決めも認められる。本件では“イレギュラー”を社会的に位置付ける詰めが足りなかったように見える。

次に、時間と空間についてみる。ビルに空洞を設けて参道とする案は妙案で、当事者の約定でTREは成立する。他方、将来的に契約当事者が変わる可能性がある。例えば、借地権者が借地権と借地上建物を売却する可能性がある。新しい借地権者が空洞部分に床を張ると言い出す可能性や参道を持たない建物に建て替えると言い出す可能性がある。

契約当事者間では契約違反に対しては債務不履行を問うことができる。他方、契約関係にない第三者との関係では対抗力が必要となる。不動産の権利は登記によって第三者対抗力を備えることができる。参道部分に区分地上権や地役権を設定し、空洞部分の空間は参道として使う旨の登記をすることが相当である。

最高裁は、固定資産税は資産価値に着目して課税すると指摘する。

土地の資産価値は建物の収益性で決まる側面がある。建物の収益性は延べ面積と相関するが、延べ面積の限度は敷地面積に基準容積率を乗じた値である。外見上、参道部分には3層分の床が存在しないものの、その部分の土地は敷地面積に含まれて延べ面積に反映され、収益に寄与して資産価値を生み出している。地代は当該資産価値を前提にして算出した額を受領する一方、「宗教法人が専らその本来の用に供する境内地」として課税を免れることは整合的とはいえない。

1)本稿における造語
2)都市計画税を含む

《参考文献》
「大阪・南御堂ビル固定資産税訴訟」最高裁判決commentary、https://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-131882501_tkc.pdf
日本経済新聞 2026年1月26日朝刊


建設物価2026年8月号

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