企画部建設情報・施工高度化技術調整官 藤原克哉さん(中央)
企画部施工企画課長 武本昌仁さん(左)
企画部建設専門官 能登眞澄さん(右)
近畿地方整備局では、インフラ分野のDX を推進するため、2020年12月に局長がトップ(本部長)のインフラDX 推進本部を立ち上げ、各部会(7部会)において、検討テーマや目標を設定し各事務所とも連携して具体的な取り組みを実施。2024年3月に推進のために個別施策の目指す姿と工程をまとめた「近畿インフラDX アクションプログラム」を策定し、公表している。2024年2月には防災部会、さらに2024年8月にこれまでの技術系に加え事務系の総務部会、用地部会、建政部会を新たに立ち上げ、総合的にDX を推進していく。また、近畿インフラDX 推進連絡会議と連携し、産学官によるDX 普及推進を行っている。BIM/CIM 活用による効率化をはじめ、ドローンの全自動飛行による砂防施設点検など、先進的なDX を実践するとともに自治体への働きかけを積極的に行っていくことで近畿地方全体の建設DXを進めている。
直轄工事におけるICT 施工は、土工に始まり舗装工や浚渫工など工種を増やしながら確実に進んでおり、2022年度では、全国の直轄工事におけるICT 施工の実施率は土工で約87%。一方で、都道府県と政令市では、公告件数1万3,429件のうち、ICT 実施件数は2,802件となっており、ICT施工の実施率は約21%。直轄工事に比べて、自治体での普及が進んでいない状況がよくわかる。藤原さんは「自治体の公告件数は、国の5倍以上もの数です。都道府県や政令市の発注者側は頑張っていますが、受注者側が対応できていない部分もあります。さらに市町村になるとICT 施工をほとんど発注できていない状況です」という。この課題認識が、“自治体へのICT 施工普及推進”に向けた取り組みにつながっている。「都道府県、政令市だけでなく、広く地方自治体にもICT 施工を理解してもらい、発注していただけるようにしないとICT 施工は進みません」と藤原さんはいう(表-1)。
武本さんは「ICT 施工というと大規模な工事でしかスケールメリットを得られないと考える人が多いが、小規模工事でも活用でき、メリットがあることを伝えたい」という。ICT 施工では、施工後に出来形管理のためにドローン飛行やレーザースキャナーによる3次元測量が必要になるが、その手間を軽減、効率化するために小規模施工における出来形管理手法を検討、試行している。小型バックホウにICT 機器を後付けし刃先の施工履歴データを出来形管理に活用する。2023年度に出来形管理要領の素案を作成し、さらに精度を高めるため実現場での検証を行い、2024年度中に出来形管理要領(案)を完成させ、2025年度からの展開を目指している(表-2)。
近畿地方整備局独自の施策として2022年度から実施しているのが「小規模提案希望型」である。通常、施工量が少ない工事はICT 活用工事の対象外となっているが、ICT 土工、舗装、舗装修繕工において、施工規模が小さく、わずかな範囲でもICT 技術を活用し、生産性向上のさらなる促進を図るために「小規模提案希望型」を新設した。契約後、受注者が施工プロセスの一部で、ICT を活用し生産性向上に資する提案・実施をした場合に、ICT 積算要領に基づく費用の計上及び工事成績で加点を実施する。対象外工事でもICT 施工できる受注者が積極的に活用できるようにすることが狙いだ。「実際の工事では、機械が入らないような狭隘な場所もあり、現場によってはICT 施工はいらないということもあるかもしれませんが、すべての受注者が必要な時にICT 施工ができるようになることが大切です」という。
3次元設計データ作成、ICT 建機による施工、3次元出来形管理等の施工管理の一つ以上を実施すればよく、受注者にとって取り組みやすい内容になっている。実際に一番多いのが出来形管理だという。スマートフォンのLiDAR やアプリを使った出来形管理もできるようになったことも大きい(表-3)。
自治体のICT 施工普及促進のために様々な取り組みをしている。事例集もそのひとつだ。自治体から直轄工事のICT 施工事例では、施工規模が大きく参考になりにくいとの声があることから、2021年度から自治体のICT 施工事例を収集し、「ICT 活用事例集」として近畿地方整備局のWebサイトで公開している。特に今後、ICT 施工の拡大が想定される工種の事例を収集している点が特徴だ。工事の概要とともにICT 活用のメリットや導入前の課題、導入の決め手、導入後の効果など受注者の視点からの紹介もあり、発注者、受注者両者にとって参考になる資料となっている(表-4)。
全国に先駆けて2021年4月に近畿技術事務所内に「近畿インフラDX 推進センター」を開設し、官民のインフラ分野に関わる人材育成の研修やインフラDX の情報発信をしている。先進的な設備が導入されている施設での研修は大きな刺激になる。2024年度は、BIM/CIM 研修、ICT 活用研修、無人化施工研修、BIM/CIM 施工研修など、10種68日、定員740名のカリキュラムが実施されている。国の職員、地方公共団体の職員といった発注者、施工会社などの受注者が参加している、ICT活用研修では、入門、初級、中級のコースがありそれぞれのレベルに合わせて受講できる。座学だけでなく、小型建機の操作やソフトウェアを使った3次元設計や施工管理などの実習体験できることも特徴だ。また次世代型エンジニアの育成を支援するため、大学、高専、高校等の学生を対象に最新のDX 技術を学ぶ機会も提供する。施設見学も実施されており、2023年度は学生に加え一般、建設関係者、整備局職員、自治体職員など1,138名の来場者があった(表-5)。
各自治体へのICT 施工の普及に向けて、自治体向けのICT 施工講習会を実施している。2023年度は、滋賀県、京都府、奈良県など、8自治体で実施した。主に府県と政令市で実施したが、奈良県については、県内の市町村職員に向けた講習会となった。特に発注者のメリットや役割を中心に説明をして、まずはICT 施工を知ってもらう内容とした。今後は、この取り組みを他の府県の市町村にも広めていきたいという。また自治体工事の施工者に向けても、ICT 施工の知識や技術を広げていく。藤原さんは「市町村では技術職員が少ない、予算の制約があるといった課題があります。ICT 施工に関わる部分は、発注者が費用を負担していますので、普及には自治体の理解を得ることが大切です」という。さらに建設業全体の人手不足や高齢化、他の業種に比べて生産性の低いことも大きな課題だ。講習会は、自治体とそういった課題を共有し、解決のためにICT が必要であることを理解してもらい、どう進めていけばいいか、意見交換をする機会にもなっている。能登さんは「ICT はツールなので、うまく利用すれば便利になることを発信していくことが大切です」という。
その他にも建設業協会などへの出前講座も行っており、2023年度は、自治体へ11回、業団体へは5回の実績がある。今年度はすでに、自治体へ1回、業団体へは3回(実施済・予定)があり、秋以降にはさらに増えていく見込みだ(表-6)。
近畿ブロックの国、地方自治体、学識者、建設業団体などで構成されている近畿インフラDX 推進連絡会議では、i-Construction を含めたインフラ分野のDX の普及を目的に産官の取り組み紹介や人材育成支援などの情報交換を実施している。2024年度は、インフラDX 推進連絡会議に「人材育成WG」を設置し、近畿地方整備局の「人材育成支援部会」と連携を図ることで、国、自治体、業団体の人材育成にかかる情報共有、課題分析、役割を分担し、さらなるICT 施工を推進する人材の育成を目指していく。2023年度は、発注者(国・府県政令市)で開催し、発注者の課題等について意見交換を実施した(表-7)。
近畿地方におけるインフラ分野のDX の取り組み推進を図ることを目的に、優れた取り組みを行った企業や地方公共団体を表彰する「近畿地方インフラDX 大賞」を実施している。(「近畿地方i-Construction 大賞」を2022年度に改称。)
受賞団体の中から特に優れた取り組みを全国対象の「インフラDX 大賞」にも推薦しているが、その中の京都府和束町が、2023年度のインフラDX 大賞で国土交通大臣賞(地方公共団体等の部門)を受賞した。「和束町は橋梁架け替え事業に取り組まれました。担当された町職員の方の努力もあり、受注者や町を挙げて取り組んだことで、小規模な地方自治体でも先進的な取り組みができるという好事例になりました」と藤原さん。能登さんも「技術者や一部の専門家だけがICT を使うのではなく、事務職の方もICT や3次元データを使うことによって効率的に事業を進めることができます」という。
最後に今後の計画や展望についてうかがった。藤原さんは「まだICT 技術を具体的に知らない方が多くいますので、ICT 施工の裾野を広めていくことが大事です。もうひとつは、トップランナーとしてもっと先を行くことです。i-Construction2.0では施工のオートメーション化、データ連携のオートメーション化、施工管理のオートメーション化の3本柱がありますので、これらを中心に進めていきます」という。武本さんは、「自治体へICT の裾野を広げるためには、自分たちでも使うことができると思ってもらうことが大事です。手軽にスマートフォンでも3次元測量ができることがわかれば何かできそうだと思えます。少しでも進んでくるとインフラ整備を効率よく回すことにつながっていきます」。能登さんは「通常の建設機械に後付けでICT 建機となる装置の普及やスマートフォンを使った測量など、小さい企業でもICT 施工に取り組みやすくなりました。すでにICT 施工に取り組んでいる施工者さんは実際に使ってみるともう以前のやり方には戻れず、使わないことが信じられないと皆さんおっしゃいますので、私たちの取り組みの方向性は間違っていないと確信しています」。近畿地方整備局では、スマートフォンを活用した3次元測量の動画を作成し、研修などで流している。
i-Construction 2.0のオートメーション化が進めば、生産性は大きく向上する。近畿地方整備局では、BIM/CIM 活用による効率化、無人化施工とともにAI やドローンを活用した維持管理のDXにも取り組んでいる。ドローンを使った砂防施設点検では、紀伊山系砂防事務所・大規模土砂災害対策技術センターがアジア航測とともにインフラメンテナンス大賞特別賞を受賞した。こうした先進技術を活用したDX の推進とともに自治体のICT 施工の普及に努めており、ICT 施工が当たり前になるためには、広くICT 技術への理解を深めつつ多面的な施策や継続的な働きかけが重要であることを改めて感じた。