ウミガメの産卵で有名な三重県最南端の町、紀宝町に本社を置くユウテック株式会社は、三重県と和歌山県を拠点に東紀州エリアのインフラを支えている。県や国土交通省発注の公共工事を含めて多岐にわたる土木工事では、自社で3次元測量、BIM/CIMの活用、ICT施工を実施して、業務の効率化を実現している。社長の有城和哉さんに成果や課題についてうかがった。
1978年に創業したユウテック株式会社は、主要事業である土木工事、防災工事、交通安全施設、クリーンエネルギーの4つの事業を行っている。元々は、専門工事が主だったことから、のり面工事や交通安全施設工事に強みを持つ。代表取締役の有城和哉さんは、東京の大学院で土木工学を専攻した後、ゼネコンの技術者として九州新幹線高架橋工事やJR 九州・都市高速道路工事等に携わり、東日本大震災を契機に地元に戻り、ユウテックに入社し、2019年に社長に就任した。
有城さんが国土交通省の直轄工事の現場技術者として工事に携わっていた頃、建機メーカーのコマツから、全面的なICT 施工の提案を受けたことがICT 導入のきっかけになった。最初に取り組んだのが3次元測量で、次には、出来形管理まですべてICT で行うようになった。その後、2016年に国土交通省からi-Construction が発表され、ICT 活用が加速していった。
「最初はほぼ見ているだけに近かった」という有城さんだが、ドローン測量で取得したデータから3次元モデルが作成され、そのデータを使ってレンタルしたマシンコントロール(MC)のブルドーザーとバックホウで施工を行うという一連の流れを体験して「私自身は、何より面白かったんです。図面を見ながら作業する必要もなく、管理も大きく変わることに可能性を感じた」と当時を振り返る。最初は外注していたが、このままでは費用や時間がかかるという思いがずっとあった。講習会に参加するうちに、自分でできると思い内製化をスタートさせた。全部を一気に内製化したわけではなく、最初はドローンの3次元測量からはじめた。1人でドローンを飛ばし、半日で必要なデータが取得でき、外注していた時に比べ生産性は大きく向上した。有城さんは「内製化するにも初期投資が必要です。導入した人ならわかると思いますが、投資分は数回の工事で回収できますし、時間も大幅に削減でき、生産性が格段に上がります」という。
現場で一緒に取り組んできたのが測量から図面作成まで信頼を寄せている社内の技術者だ。現在では、すべての工事で3次元データを活用したICT 施工を行っている。内製化により社内にノウハウが蓄積されて課題解決しやすくなった。使いこなすうちに違うことに使ってみようという新しい発想も生まれる。地盤改良工事の現場では、3次元モデルを活用した仮設工の計画が行われたが、これは現場監督の声がきっかけだった。現場と相談し合えることも内製化の良さだという。
ICT 建機は、MC の建機4台と、マシンガイダンス(MG)の建機1台、合わせて5台を所有している。ICT 建機はレンタルでも通常の建機よりも高いため、協力会社に従来機と同じ金額で貸し出している。「元請としては、それで施工効率を高めて工程を短縮できればありがたい」と有城さんはいう。この仕組みは好評で、協力会社として入りたいという会社が増えている。ユウテックのICT 建機を使って作業し、効果を実感したことで、自社でドローンやMC のバックホウを購入し、取り組んでいる会社も出始めた。
一方で、ICT 建機は購入から5年以上が過ぎ、部品の交換など、ランニングコストの検証が必要になっているという。
ユウテックは、先進的な取り組みが評価され、2年連続で中部インフラDX 賞を受賞した。2021年度は、「ナローマルチビーム3次元起工測量と3次元設計で水中構造物を見える化」で奨励賞、2022年度は、国道42号熊野道路の地盤改良工事において、3次元モデルとICT 機器の全面活用による生産性向上を実現し、敢闘賞を受賞した。また「海上工事における3次元測量とCIM の活用」で2021年度のi-Construction 大賞で優秀賞を受賞した。
中部地方整備局が2017年度に創設した「中部ICT アドバイザー登録制度」には、初年度から登録し、現在も継続して活動している。有城さんは「地域の建設業を支援することはもちろん、ICT アドバイザー同士の横のつながりや情報交換も魅力」だという。活動を通して得た新しい技術やノウハウを地域の企業にも紹介することで好循環が生まれている。直接、相談を受けることも多く、現場に行き、アドバイスすることもある。有城さんは「迷っている会社が一歩を踏み出すためには、便利さを実感してもらうこと」だと強調する。
技術の進歩で機器の性能が高くなることで、作業がより楽になり、業務効率も上がっている。ユウテックでは、高い精度で位置情報がとれるRTK 搭載のドローンを使用することで、基本測量や標定点の設置を行わずに高精度のUAV 測量が可能になった。
地盤改良工事や道路建設工事などでは、工事着工時に広い範囲で3次元点群データを取得し、施工計画や設計照査に活用することで業務の効率化を図っている。配置計画や仮設工のヤード整備、大型車の搬入経路など、さまざまな検討が事前に行える。発注者や建設コンサルタント会社と現場情報を共有できることも大きい。
2次元の平面図をもとに3次元設計データを作成し、現況と3次元データを重ね合わせることで施工に入る前に問題点を洗い出せる。「CIM モデルは、後から提出するものではなく、施工前の計画や検討に使うことで、業務が効率化できる」と有城さんはフロントローディングの重要性を話してくれた。
先進技術を駆使して活躍するユウテックだが、今後は人材育成に力を入れていくという。約100人の社員のうち、3次元設計データを1から10までつくれるのは、有城さん以外に1人だけだ。現場が複数重なる時期には、どうしても1人に負荷がかかってしまう。有城さんは「3次元に特化した人材も必要ですが、まずは若手技術者育成が一番ですので、3次元測量やBIM/CIM、ICT 建機を使ってかっこいい土木を見せていきたい。今は専門部署として3次元データを扱っていますが、分業できるようになれば若手技術者の負担も減ります」と前向きだ。
さらに有城さんは「土木を教える学校がないことが地域の課題」だと指摘する。社員の約半数が技能者であるユウテックでは、やる気のある技能者が知識や技術を身につけ、現場監督をできる技術者にステップアップするためのキャリアプランを作成、資格取得も積極的に支援している。国土交通省の講習会などをうまく活用したいが、会場に行くにも時間がかかるため、eラーニングの講座があればいいという。「地元に残り頑張っている人には豊かになって欲しいし、大切にしていきたい」という言葉に建設業を通して地域を支える有城さんの矜持を感じた。