吉美建設の外国人技能実習生(以下:実習生という)の受け入れは向井建設のご紹介から。向井建設は当時、建設業に特化した実習生の送り出し機関がなかったことを受け、ベトナムの学校とタイアップし、実習学校を開設。指導員として日本の熟練職人を派遣し、とび、鉄筋、型枠の3種に的を絞り研修を実施した。吉美建設は向井建設と古くから懇意にしており、「ぜひ受け入れをしてみませんか」と声をかけて頂いたことから受け入れがスタート。2014年から受け入れを開始し、現在の8期生までで21人の実習生たちを迎えている
10年程前、吉美建設を立ち上げる前の会社で中国の実習生を受け入れた経験があったが、実習生を取り巻く状況、制度は大きく変わっており、一から手探りの状況で始まった。受け入れ後、最初の実習生たちの仕事は自社の資材センターで資材の名前を覚えてもらうための運搬作業。「資材名の他にも資材や道具を出して、それをしまうという基本を覚えてもらいます。文化や考え方の違いですが、実習生たちは物を元の場所に戻すという意識があまりありません。そのためまずは資材センターでその動きや考えを覚えてもらい、現場でも「使ったものは片付ける」ということを徹底してもらいます」と大塚さん。
1~3週間資材センターで研修を行った後、現場でOJT 教育。実習生3人と同人数の職人で現している。また、期ごとに同じ現場を割り振ることで、言語や仕事の習熟度が統一され、適材適所の現場作業を行うことが可能だ。
実習生たちの多くが自炊をして少しでも多くのお金を母国の家族に届けようとしている。そのため吉美建設では3LDK の賃貸を借り、期ごとに生活できるように自立させている。食事は当番制でお弁当などを作り、家事を折半することで節約し、目標額に向けてコツコツと仕送りをしている。物件はUR 都市機構などを活用し、1人1部屋いきわたるようにコストを抑えつつも、住環境に配慮し広い部屋が借りられるように工夫した。
ベトナムと日本では使用する食材や道具に大きな違いはなく、追加での購入リクエストは少ないが、実習生たちに気持ちよく働いてもらうために人数分の自転車など必要なものはその都度買い足して支給している。一度、「ナンプラーの匂いが気になる」と直上階の方からクレームが来たこともあるが、大きな問題もなく実習生たちは生活をしている。
連絡用に音声通話用の携帯電話を1期1台支給したが、多くの実習生が家族とテレビ電話を使用するため初任給でスマートフォンを買いなおしていた。そのため吉美建設ではwi-fi 設備の向上に力を入れている。今後は、より実習生のニーズに沿ったものを支給できるように検討していくそうだ。
実習生の言語力は個人差が大きい。来てすぐ会話が成り立つ人もいれば、もちろんそうでない人もいる。「現地の送り出し機関は『日本語能力試験(JLPT)のN4~5相当』と言いますが、単語をつないでなんとか会話をしているのが現状です。それでも3人採用すると1人は日本語が上手な方が来るので、その方を中心に同期で日本語や仕事を共有して早く覚えてもらうようにしています。他にも期を跨いでも共有できるように同じ国の方から採用していますが、今度は集まりすぎると仲間同士の会話が日本語ではなくなり、日本語の勉強があまり進みません。その塩梅がとても難しいですね。」と吉田さん。現場では実習生同士が固まりすぎないように1現場に3人ずつ割り振られるように調整を行っている。日々、試行錯誤の連続である。
現場では怪我がないように日々注意しているが、暑さのため体調を崩しやすい状況にある。ベトナムも気温は高いが、雨季の影響で気温が低い日もある。日本の夏は気温に加えて湿度も高く、実習生たちとしてもベトナムの夏とは違うようだ。「実習生も頑張ろうと一生懸命働いてくれている。対策として新たにファンが付いた空調服を協力会社の実習生も合わせ21人分支給しました。」と吉田さん。吉美建設の対応の速さから実習生を思いやる気持ちが伺える。
実習生たちには技能実習の1年目の最後、3年目の中期に厚生労働省が定めた技能検定試験(基礎級、随時3級など)がある。実技は理解していても、どうしても学科試験で落ちてしまうそうだ。学科試験は普段行っている型枠の問題だけではなく多職種からも出題される。なかには「コンクリートは“圧縮に弱く、引っ張りに強い”か」(正しくは:圧縮に強く、引っ張りに弱い)などの引っ掛け問題もある。そのため模擬問題を作成し、学科試験対策を行っている。
吉美建設は現地の企業連合から実習生の受け入れを行っているが、早くも実習生の不足感を感じている。「年々、現地の実習学校の入校者が減少しています。最初は大卒の方もいましたが現在はほとんど中卒や高卒の方で、語学力の低下を感じています。」と吉田さん。そのため実習生を今のように循環的に採用する制度ではなく、如何に長く働いてもらうか、今後工夫が必要になってくると2人は語る。また、日本人の新人・中途採用にも力を入れているが、給与よりも自分の時間を優先したいというニーズが高まっているなか、採用活動は難航している。工業高校へ説明会や現場見学を行ったが、飲食などの他業種へ就職する若者は多い。
1期生たちは今年度で5年の実習期間を終えるが特定技能に移行し、後5年間は建設就労者として吉美建設に在籍する予定だ。実習生たちが5年在籍出来たのは優良な実習実施者、監理団体として認定を受けたためである。実習期間が終了したらすぐに母国へ帰国する人や次の出稼ぎ先に向かう実習生も多い中、吉美建設の実習生は在籍し続ける予定であり、実習生にとっても働きやすい環境を提供できたのではないかと手ごたえを感じた そうだ。
実習生たちとともに社内旅行では青森県や栃木県の鬼怒川へ行き、昨年は4月にバーべキューを楽しんだ。また、実習生同士では横浜中華街や遊園地へ行き、吉美建設の1期生が中心となり、同業他社の実習生たちと一緒に食事会などを行っている。「採用の際は履歴書ももちろん見ますが中には内容と違う方もいますし、結局は『縁』だと思います。私たちの会社に来てくれた子はしっかり育てていきたいですね。」とにこやかに語る2人。実習生たちの交流を尊重しつつ、今後も実習生を迎えていきたいとお話ししていただいた。