建設物価調査会

ワークショップや企業説明会、 交流サロンを開催し留学生や 若手技術者を支援

公益社団法人土木学会 国際センター

 土木学会の国際センターでは、日本における国際人材の育成とともに日本で学ぶ外国人留学生や若手外国人技術者の支援を行っている。国際センター留学グループのリーダーとしてとりまとめをしている、埼玉大学准教授の党紀(とうき) 先生と澁谷有希子さんにお話をうかがった。

党紀(とうき) 先生(左)
澁谷有希子さん(右)

国際化を推進するプラットフォーム

 公益社団法人土木学会は、産官学のメンバーが集まり、さまざまな活動をとおして建設、土木分野の国際化を推進している。2012年4月に開設された国際センターは、国際部門理事をはじめとする国際戦略委員会の意見やアドバイスのもと、委員会や調査研究部門と連携しながら活動し、土木学会の国際的な活動のプラットフォームとしての役割を担う。

 国際センターの中には5つのグループがある。情報グループは月刊のニュースレター『国際センター通信』の発行、土木学会誌の「国際センターだより」連載などを中心にした情報収集・発信を行う。

 英文のホームページやSNSも開設している。国際交流グループには12の国別グループがあり、それぞれが対象国の学協会との交流をはかり、年次大会の参加やジョイントシンポジウムの開催を実施している。プロジェクトグループは、日本の若手技術者に向けて、世界で活躍する日本の土木技術者や最新技術を紹介するシンポジウムの開催や、インフラ国際貢献・国際協力アーカイブスの構築などを行っている。

 教育グループは、日本の建設業界における国際的人材育成を目的として、大学での「出前講座」や「技術者ラウンジ“DOBOKU”」を実施。留学生グループは教育グループとともに留学生を支援する活動をしている。

<国際センター通信、同じ内容の日本語版と英語版を作成>


国際若手技術者ワークショップ

 留学生グループは、2013年から毎年、土木学会全国大会の開催に合わせて留学生・若手技術者を対象とした「国際若手技術者ワークショップ」を実施している。毎回、建設分野における技術イノベーションや防災・減災といった今日的なテーマが設定され、参加者は英語で活発な議論を交わす。優秀発表者への表彰も行われる。

 昨年は、巨大地震発生1 週間後の被災した市の市長の立場から対応方針を検討するロールプレイ型ワークショップを開催した。今年は、土木分野におけるAI 技術の活用をテーマに予定していたが、コロナ禍により中止となった。

留学生のための現場見学会と企業説明会

 毎年、日本で学ぶ留学生を対象に関東と関西で現場見学会を開催している。党先生は「英語で説明していただき、学生たちの理解も深まります。留学生の中には自国の官庁や建設会社で働く社会人も多く、現場の技術に興味を持ち、とても熱心に質問をします」。

 また留学生に向け、日本の土木関連企業の事業内容や海外プロジェクト、就職などの情報提供を目的にした企業説明会も開催している。「昨年、関東で実施した説明会にはゼネコンやコンサルタント会社などから11社参加しました。コミュニケーションはすべて英語です」と党先生。企業からは各社の歴史や海外プロジェクトなどが紹介される。日本企業に勤める元留学生の技術者からは、携わっている仕事や経験を話してもらう。後半は、企業ブースで個別の面談を行い、留学生は自分の知りたいことを直接企業から聞くことができる。

 企業も留学生の思いやニーズを知ることができ、企業と留学生の貴重なコミュニケーションの場となっている。今年は、初のオンライン開催を予定し、全国の留学生と企業に向けて参加募集を行う。 

 

<現場見学会では、北大阪急行線延伸事業
(北大阪急行千里中央駅周辺)などへ>

外国人技術者交流サロン

 昨年10月は、当会関東支部主催による日本で働く外国人技術者が抱える疑問や悩みの共有、これから日本に来る外国人技術者へのアドバイスなどを目的とした「外国人技術者交流サロン」が実施された。参加者からは、苦労したことや会社への要望など、たくさんの意見が出た。

 これがきっかけとなり、外国人技術者の悩みを共有することで課題を解決し、活躍の場を広げるために調査研究部門のコンサルタント委員会と建設技術委員会に若手外国人技術者のワーキンググループが立ち上げられた。国際センターでは関東支部や委員会と連携を図りながら外国人技術者がメインとなって活動できるようサポートをしていく。今後は意見交換をして課題抽出をして解決策を検討するなど、それぞれのグループが具体的な活動にしていくという。

 ワークショップに参加した元留学生が日本企業に就職し、企業説明会の会場で自身の日本での就職経験と仕事内容を紹介し、ワーキンググループと意見交換を行う。今後は留学生の相談を聞く機会を設けるなど、留学生や外国人技術者のネットワークを徐々に形成していく。

日本語能力が一番の課題

 企業説明会や外国人技術者交流サロンで共通して話題になっているのが日本語だという。留学生や外国人技術者にとって日本語は大きな壁になっている。日本企業の多くは、留学生採用のための特別枠や採用プロセスを設けていない。就職してからも資格取得のためには相当な日本語レベルが必要になる。

 「私が勤務する埼玉大学では、留学生を対象にした国際プログラムを立ち上げています。留学生は英語で授業を受け、英語で研究発表をし、もちろん学位論文も英語で書きます」。大学がグローバル化を進め、海外から学生を呼ぶためには英語での教育プログラムが必須になる。しかし、留学生が日本の企業に就職するとなると、日本人と同様の日本語レベルが求められる。「このギャップをどう埋めていくかは大きな課題」と党先生は指摘する。

 また、留学生に目を向けると、留学のきっかけや状況はさまざまだ。JICA のアフリカの若者を対象にした「ABE イニシアティブ」やベトナムの若手行政官を対象にした日本への留学制度などは、日本で学んだ技術を生かし、自国に貢献することが目的のため、奨学生は学業を終えれば帰国する。

 一方で、日本のODA に係わり、日本企業の現地法人で働いた経験のある公費留学生の中には、将来は日本で働いて自分の技術を試したいという人もいる。最近では、経済的に豊かになった中国やベトナムからの私費留学生が増えており、卒業後は日本での就職を希望する学生が多いという。こうした学生の日本語習得と専門分野の学業を両立させるためには、大学での日本語教育を強化することと日本の建設業界が柔軟に、かつ幅広い人材を登用する体制を整えることの両方が重要だと党先生はいう。

<企業説明会>

実務に必要な日本語を調査

 留学生を採用し成功している企業の中には、最初から日本語が完璧でなくても、業務の中で徐々に上達していけばいいと、ウォーミングアップ期間を設けている会社があるという。「企業は日本語のレベルだけで判断するのではなく、柔軟に留学生を受け入れて欲しい。個人の能力や将来性を見て人を育てていく努力があれば、外国人人材が活躍できるようになります」と党先生。

 「先日、JICA の講演会で、外国人技能実習生を受け入れている企業の話を聞きました。日本人と同じようなビジネスレベルの日本語が必要だといわれていますが、実はそんなにたくさんの言葉は必要ないというのです」と党先生はいう。まだ構想段階だが、外国人技術者が日本のコンサルティング会社やゼネコンで働く際に実務で必要な日本語を調査していく。現場で必要な言葉はどんなものか、実際に日本の会社に就職した外国人技術者からも聞き取りをして、調査結果を今後の日本語教育や活動に生かしていきたいという。

求められる働き方改革

 外国人が日本で働くためには、日本語の習得も大事だが、その背景にある文化や習慣、現場における人間関係を理解し、受け入れる努力が必要になる。しかし、会社の習慣やルール、文化の中には、日本人でも難しいと感じるものがある。それを海外の人が会得するのは大きなハードルになる。

 働き方改革が進められているが、意見交換の場でも、有給休暇が取りづらい、残業が多いといった悩みが話題になる。これは日本人にとっても同様だ。留学や海外勤務の経験がある澁谷さんは「海外では、自分で時間管理をしながら仕事をこなし、定時になったら帰ります。それで仕事が完成しなければ能力不足とみなされてしまいます。一方で日本では、まだまだ残業が当たり前で定時はあってないような状況です」という。これを受け、党先生は「コロナ後、世界は元には戻れないでしょう。建設業の有効求人倍率は約6倍です。担い手が圧倒的に不足しているのですから、効率を上げないと成り立ちません。今後はテレワーク、ICT、AI、ロボットを活用した工事など、効率化を進めていかなければなりません。働き方や職場の習慣を見直し、変えていくことも必要です」。 

「空気を読む」ことの難しさ

 留学生特有の悩みとして「空気を読む」ことが難しいという。例えば、上司が残っているから自分も帰れないといった雰囲気は理解ができない。また旧暦正月のように家族が集まる時期に休みが取れずに帰国できないといった悩みもある。さらに、党先生は「私自身の経験でもありますが、長く日本に滞在すると自分は外国人なのか、日本人なのかわからなくなってきます。自分のアイデンティティをしっかり持つことが大切です」と示唆する。

 ダイバーシティ・アンド・インクルージョン推進委員会とも一緒に検討している。最近は現場に女性用トイレが設置され、女性用の作業着やヘルメットも開発され、女性が働きやすい環境が整備されてきた。「外国人技術者にも同様のことがいえます。なぜ外国人は日本人にならないといけないのでしょうか。もちろん本人の努力は必要ですが、企業は、外国人人材の力を生かすために何が必要なのかをしっかり議論し、変わっていくことが必要です。そのためのブリッジになることが私たちの役割です」と党先生はいう。