帯広の住宅街に2021年に竣工した宮坂建設工業の新社屋を訪問した。内外装に地域産の木材を使った木造平屋建ての本社の執務室は明るく開放感に溢れている。間仕切りのない執務室では社員が生き生きと働いている。以前よりコミュニケーションが円滑になり、新たな発想も生まれているという。大型モニターには、同社が手掛けている現場の映像がリアルタイムで映し出され、遠隔での点検や打ち合わせもできる。i-Construction を積極的に進め、働きやすい環境を整備している同社では、317人の社員のうち40%が20代だという。
創業者の言葉に『世の為人の為につくせ』があり、総合建設業として地域社会に貢献し、特に防災には力を入れてきました。地域の会社としてできることをやろうというのが根本にあり、代々、社長が消防団の団長を務めるなど、地域の守り手としての文化が根付いている。「暮らしや命を守り、経済を支えることが建設業の役割ですから、必然的に防災にも力を入れてきました」と稲船さん。1981年の石狩川豪雨災害を契機に事業継続計画(BCP)マニュアルを作成して、協力会社との連携で24時間防災体制を確立した。
本社敷地内には事業継続計画(BCP)の拠点施設として防災センターが併設されている。周囲半径300mの近隣住民と従業員、その家族合わせて1,300人の3日間(72時間)の非常食や飲料水を備蓄し、非常用発電機、飲料用貯水槽、井水設備、排水設備、重油タンク、物見塔等を設け、24時間防災体制がより強固なものとなった。
1993年から継続的に行ってきた防災訓練は、2003年の十勝沖地震を機に、地域住民参加型防災訓練として実施している。非常食や2升炊きの炊飯器がいくつも並ぶ備蓄庫では、「2014年の広島土砂災害、2020年の北海道胆振東部地震では被災地で炊き出し支援を行いました。防災訓練でも炊き出しを行い地域のみなさんと交流を深めています」と稲船さんの話。また避難所での支援の経験から防災教育の重要性を感じ、親子防災教室を開催している。身の回りのものを使った応急手当、防災AR 体験や防災クイズなど、楽しみながら防災の知識を学べる人気のイベントだ。プログラムはすべて社内の組織横断型の防災チームが企画している。
災害時には衛星電話などを装備した車両が移動災害対策本部となる。また防災パトロールカーは、平時は現場の検査や移動に使い、緊急時には災害パトロールに使えるように整備している。さらに災害復旧工事では、i-Construction を採用して、2018年度i-Construction 大賞(優秀賞)を受賞した。
同社では、i-Construction 導入前の情報化施工の時代から、マシンガイダンス(MG)やマシンコントロール(MC)を導入しており、現在は、ほとんどの現場でICT を活用している。稲船さんは「使えるものは使うというスタンスです。例えば掘削では、MG やMC を使うことで、今まで作業員が行っていた丁張り設置を省け作業効率が上がりました。安全性向上のためにも積極的に取り組んでいます」。
i-Construction が始まり、起工測量や出来形管理に点群データを活用するようになった。地上レーザースキャナーによる計測やドローンを使った写真測量、自動追尾型のワンマン測量システムなどを導入している。
ドローンは以前から現場の空撮用に使っていたという。広大な北海道では農業でもドローンが使われてきた。ドローンの前はヘリウムガスを充てんしたバルーンをラジコンで飛ばすスカイキャッチャーで空撮をしていた。「雨天や災害時でも使えるように防水型ドローンを購入するなど、力を入れてきました。それがドローンを使った写真測量のチャレンジにつながっていきました。新しい技術を取り入れることで品質を高め、発注者の満足度を高めるものを納めたいという気持ちがあります」と稲船さんはいう。
2019年4月にICT ソリューション部を立ち上げた。現場をよく知るベテランから、BIM/CIMが得意な人、新卒者まで多様な17人のメンバーが揃う。ドローン操作や3次元モデルの作成とともに現場の書類作成をサポートする建設ディレクターの役割も担っている。3次元データ作成を内製化することで、現場からの要望にも迅速かつ柔軟に対応できるようになった。
独立した専門の部署を設け、メンバーを固定したことの意義は大きいという。今まではそれぞれの現場で、得意な人がドローン操作や3次元モデル作成などを行ってきた。ICT をけん引してきた稲船さんは「それでは、その人だけの技術になってしまいます。情報共有し、会社全体としてi-Construction を進めていくことが大切です」という。
ICT ソリューション部では、現場の人が活用できるようにするため、現場で指導をしたり、勉強会を開催している。今では、本社と現場をつないでリモートで図面を見ながら打ち合わせをしたり、現場の若手がドローンを使って空撮や測量ができるようになった。ドローン操作のマニュアルも作成し安全教育にも力を入れる。
国土交通省北海道開発局 帯広開発建設部 帯広河川事務所が進めている十勝川直轄砂防事業の戸蔦別川4号砂防堰堤(新設)、戸蔦別川1号砂防堰堤(改良)工事では、3次元モデルを活用し、発注者と連携して年度ごとの計画を作成し施工順序や施工量を検討した。施工段階の工程を前倒しで計画時に反映させるいわゆるフロントローディングである。
現場の条件変更により再計画が必要になると、これまでは図面を描いて面積や体積を出し、表を作成して数量計算をしていた。設計変更のたびに図面も表もすべて作り直すことになり、手間も時間もかかった。「今回も再計画が必要になり、発注者から相談を受けました。堰堤のコンクリートブロックの分割方法を検討するには何回も計算が必要になります。そこで、シミュレーションも容易にでき、数量計算も効率化できる3次元モデルの導入を提案しました」と稲船さんは振り返る。
2次元の設計図ではスケール感が伝わりにくいが、危険な箇所や水深の確認なども3次元モデルを見ればわかりやすく、事前に検討できることも大きなメリットだ。機械を置く場所や安全な作業スペースの確保なども発注者と検討しながら計画をした。発注者、コンサルタント会社との確認会議や技術調整会議でも3次元モデルを使い情報共有を行った。
また携帯電話の電波が届かない通信電波不感地帯の工区では、緊急連絡体制を整備するために衛星通信ブロードバンドシステムを導入しWi-Fi環境を構築した。これにより、気象情報やクラウドサービス、WEB カメラ映像、IoT 機器の活用が可能となり、遠隔による現場点検による施工管理の省力化や安全性向上につながった。
2023年からは公共工事のBIM/CIM 活用が原則適用となる。建設工事のすべての段階で3次元モデルを導入することで建設生産・管理システムの効率化・高度化を図ることが目的だが、データの作成方法や費用負担など、課題は多い。現状では、設計データを施工のために手直しするケースも多い。
今後、3次元データの活用が増えていくと、社内に専門部署がなく、3次元モデルの作成や手直しができない会社は、すべてを外注することになり、時間もお金もかかることになる。さらに3次元モデルを作成する会社が対応できなくなると現場が止まってしまう可能性が懸念されるという。
先進的な取り組みをしている同社だが、「差別化できる取り組みをしていかないと生き残れない」と稲船さんはいう。人口減少社会で働き手が少なくなる中で、どのような状況にも対応できるように技術を活用して効率化、自動化を進めていく。施工現場の負担を軽減するために国土交通省ではプレキャスト工法を推進しているが、輸送の問題など解決するべきことも多い。
ICT を活用することで、安全性の向上、生産性の向上、可視化による出来形・品質の向上の3つが実現されるが、その中でも安全性は最も重要だという。「自動化、省人化が進めば現場の安全性は上がります。例えば10人必要だった仕事が5人でできるようになれば、危険度も2分の1になります。現場では事故が起きないように注意していますが、それでも確率はゼロにはなりません。
安全対策はやって当たり前なので評価されませんが、最も重要なことです」と稲船さん。さらに「現場の職員の負担を減らし、社員が幸せになれるよう新しい道具があるのであれば、どんどん使って効果を出していけばいいわけです」。 BIM/CIM、3次元データ活用が目的化する中で、発注者満足度の追求、地域や社員の安全のための手段としてICT があることを改めて感じた。
工務課長 角張精一さん
帯広開発建設部 帯広河川事務所は、一級河川十勝川の中・上流部のほか、札内川や音更川などの支川の管理や河川改修、砂防事業等を実施しています。管轄する十勝川水系の札内川や戸蔦別川・岩内川の上流部は急峻な山岳地形となっており、生産された土砂が流出しやすい要因を備えており、河床には膨大な不安定土砂が堆積しています。札内川に流出した土砂が河道内に堆積することで河床が上昇し、帯広市街等での洪水氾濫による被災が想定されるため、砂防堰堤などにより災害の発生を抑制しています。
十勝川直轄砂防事業のひとつとして、戸蔦別川の砂防堰堤及び既設堰堤のスリット化(開口部)の整備を進めています。2021年度からは、BIM/CIM 活用の先行事例として、戸蔦別川4号砂防堰堤(新設)、戸蔦別川1号砂防堰堤(改良)工事で、3次元モデルを活用して施工順序や施工量、仮設計画の検討などを行っています。
それまでは2次元の図面で対応していましたが、宮坂建設工業から3次元化の提案をいただき、一緒に取り組みました。導入してみると予想以上の効果がありました。地形や水の流れなどを考慮し、工程が複雑な砂防堰堤の工事では、これまでは図面を見ながら頭の中でパズルのように組み立てなければなりませんでしたが、3次元化することで直感的に理解できるようになりました。
BIM/CIM のデータと現況の写真を組み合わせることで、さらにわかりやすくなりますので、関係者への説明もしやすくなり、打ち合わせもスムーズに行えます。さらにデータが蓄積されていくので、数量計算の時間も短縮できます。設計図だけでは見えなかった気づきも多く、見える化することで仮設計画の立案や安全管理計画など事前に検討できることも大きなメリットです。
年次計画や今後の予算管理計画も立てやすくなりました。例えば、出水などで工事が影響を受けてしまうような場合、次年度の工事計画の変更などが必要になりますが、そういった際の調整もやりやすくなります。
取り組みを行う中で、コンサルタント会社、施工会社の3者が情報を共有し、課題を解決するための技術調整会議にも取り組んでいます。
2023年度から原則すべての公共工事がBIM/CIM 適用になります。私たちもできるところから取り組みを進めています。今回、3次元モデルを導入したことで、今後、BIM/CIM 活用をどう進めればよいのかが見えてきました。宮坂建設工業は、ICT の専門部署もあり、先行投資をしてUAV やICT 建機などを導入され、i-Construction を実践されています。先進的な取り組みをしている民間企業からも知識を吸収し、連携することで地域の建設業を盛り上げていきたいと考えています。
今後、BIM/CIM が普及すれば、技術が進み、クラウドを活用するなど、もっと手軽に取り組めるようになると思います。BIM/CIM 導入の費用が持ち出しになるイメージがあると民間の受注者は取り組みにくいのではないかと思っています。普及期においては、協議をして妥当と認められれば費用を負担していくようなことも検討していきたいと思っています。
所長 須賀可人さん
2023年度からは、公共事業のBIM/CIM 原則適用になりますので、我々も取り組みを進めています。BIM/CIMを実務で活用できるよう職員向けの研修や講習会を実施しています。振り返れば、それまで電話とFAX でやりとりしていたのが携帯電話とメールに変わり、今ではスマートフォンを使っています。
導入当初は、みなさん懐疑的でしたが、今となっては不可欠なものです。そう考えるとBIM/CIM が定着して便利だという時代が来ると思っています。今は産みの苦しみですが、頑張って進めていくことが必要です。他の業界でもDX を進めています。建設業にとってもDX の導入は、人材を獲得し、価値を高めていくために必要なことです。
戸蔦別川1 号堰堤施工計画
令和3年度計画