国土交通省北海道開発局はi-Constructionモデル事務所である小樽開発建設部(小樽道路事務所)のノウハウを全道的に展開するため、2021年度に各開発建設部にインフラDX・i-Construction先導事務所を設置した。帯広開発建設部では、帯広道路事務所と帯広河川事務所が先導事務所として管内の直轄工事での取り組みをはじめ、高性能PC等の環境整備の推進や研修・実技講習による職員の知識・技術力の向上を図り、インフラDX・i-Constructionを先導する役割を担っている。
「先導事務所になった時は、帯広・広尾自動車道の歴舟川橋上部工事が始まる前でしたので、最初の取り組みとしてこの工事でBIM/CIMを導入することになりました」と帯広道路事務所道路保全官の丸山健一さん。帯広・広尾自動車道は、北海道横断自動車道帯広JCTから帯広市・とかち帯広空港を経由して広尾町に至る高規格幹線道路。このうちの忠類大樹IC~豊似IC(仮称)の歴舟川橋(仮称・鋼4径間連続非合成少数鈑桁、橋長198m)は、すでに下部工事は完了しており、上部工事を3か年で実施するタイミングだった。
受注者である横河ブリッジの提案をもとに協議を重ねながら導入の目的や計画を決めていった。BIM/CIM活用では発注者からの要求事項であるリクワイヤメントの設定が求められている。国土交通省では先行事業の成果や効果をもとに毎年リクワイヤメントの内容の見直しを行っている。今回もその年度の内容を参考に協議を行った。
①情報共有システムを活用した関係者間における情報連携
②後工程における活用を前提とする属性情報の付与
③BIM/CIMモデルを活用した効率的な設計照査
④後段階におけるBIM/CIMの効率的な活用方策の検討
⑤その他(維持管理の効率化を目指したCIMモデルの構築・合意形成の迅速化)
の5項目をリクワイヤメントとして選定した。特に地域や関係者の合意を得るために効果が大きいものに絞り込んだという。
横河ブリッジは日本を代表する橋梁メーカーのひとつとして国内外に多くの実績を持つ。橋梁の総合エンジニアリング会社として先進的な技術で設計、製作、施工の最適化、高度化を進めている。
もともと鋼橋は設計、製造工程において早くから3次元データが活用され、効率化や精度の向上が図られていたが、さらに国土交通省が推進するBIM/CIMを先行的に導入してきた。設計照査や製作情報の確認については、すべての工事で3次元データの活用を行っている。
「BIM/CIMの知見をお持ちの横河ブリッジさんからいろいろご提案をいただき、今回の現場に適した取り組みを一緒に進めていきました」と帯広道路事務所の蛯澤秀則所長。横河ブリッジ渋谷さんは「3次元データを統合して、干渉等の確認を事前にする、3次元データに時間軸を入れた4次元化による架設計画の可視化、VRなどをご提案しました」。
施工段階からBIM/CIMを活用するにあたり、架設計画の3次元化を行った。レーザースキャナーで取得した現地の点群データに橋梁モデルやクレーン、架設機材を配置した統合モデルを作成。設計照査では3次元データを活用し干渉箇所の確認を行った。
従来から下部工や付属物は橋桁本体とは異なる図面で工種ごとに記載されているため、不整合や干渉が起こりやすいが、端支点横桁の巻立てコンクリートと下部工への昇降梯子との干渉を未然に防ぐことができた。さらに時間軸の情報を加えた4次元モデルで、架設の工程やクレーンの作業手順・移動位置をアニメーションにした。データを受発注者間の打ち合せや現場作業員への周知に活用し、クレーン運用の効率化や現場作業員の省力化につながった。また河川水位上昇によるクレーン設置場所の浸水シミュレーションをアニメーションで可視化し、現場作業員への退避時期と作業内容の周知に活用した。
「BIM/CIM導入の大きな効果は、関係者間で情報共有が容易になったことです。3次元モデルを見ながら打ち合わせすることで、細かな課題も見えてきて事前の検討もしやすくなります。共通の認識を持って問題を解決できることを実感しました」と丸山さん。
「今回は、BIM/CIMを本工事のためだけでなく、今後も活用できるように考えました」と丸山さんはいう。その一つが維持管理段階で活用が想定される属性情報の付与である。
「すべての情報をのせるとデータが重くなってしまいますので、鋼材・ボルト・塗装等の規格や出来形などは別フォルダにして、リンクをフォルダで管理するなど、受注者と相談しながら進めています。また一般のパソコンでも使えるようにExcelや動画データのMPEGなど汎用性のある形式にしています」。「今後、必要な情報を発注者側で追加できるようにしています」と横河ブリッジデジタルエンジニアリング部第一課の渋谷夕布さん。
丸山さんは「こういったデータがあれば、点検で現地に行く前にある程度の予習ができ、点検結果を記録するなど、維持管理に活用していけると考えています。業務では管内全域を回っていますので、事前にデータが見られることは大きなメリットです」。さらに改修などの施工計画も立てやすくなる。将来的に3次元モデルから数値データを解析するソフトができれば、維持管理の効率化、高度化につながるという。
関係者間の情報共有、現場の安全教育などに活用するコンテンツとして統合モデルを使ってVR(仮想現実)を3種類作成した。専用ゴーグルを用いたクレーンによる橋桁の架設を再現した架設シミュレーションは、作業奥底の説明や現場作業員の危険ゾーンの確認などで活用しておりVR空間を自由に移動できるため、近接物との離隔確認もできる。
開通後をイメージしたVRは、車両走行時の景観を確認でき、冬期の積雪など天候や時間帯も空間内で変更することが可能だ。 専用ゴーグルがなくてもスマートフォンで体験できるVRも作成した。QRコードを読み込むことでスマートフォンにVR空間が表示され、橋梁の細部の確認や床版上からの視点も体験することができる。現場にQRコードを表示し見学者や作業員が完成イメージを確認できるようにしている。これから開催する現場見学会などで活用していくという。簡易的なVRゴーグルは安価に購入でき、身近なものになっている。
受発注者間のBIM/CIMに関するデータの受け渡しはクラウドを活用した。BIM/CIM実施計画書や工事の進捗記録動画など最新の情報を関係者間で共有でき、札幌でも東京でも同時に確認でき、時間と空間の制約から自由になることは大きなメリットだという。またコロナ禍で、関係者間の会議や打ち合わせ、大阪工場での検査も遠隔で実施した。その結果、移動時間の大幅な短縮など業務の効率化につながった。
高間さんは「一般土木のi-Constructionでは、現場にいなくても事務所の中でゲームと同じような感覚で管理ができるようになります。もっと進めば例えば新宿のビルの中で、帯広の現場のクレーンを動かすこともできるようになるでしょう。大きな変化が起きていることを感じます」。
一方で、蛯澤所長は「遠隔監視システムのように机上でなんでもできるようになれば、生産性向上や人手不足解消につながりますが、現地で構造物を建設し、管理している私たちにとっては、実際に現場を体感し、確認することも重要な仕事の一つであるので、上手に両立していくことが基本です」という。受発注者間の信頼関係を深めるためにも直接会って話をすることも大切だ。今後もバーチャルとリアルのメリット・デメリットを認識し、バランスを考えて活用していくことが必要になる。
担い手確保や働く環境の改善をして建設業の魅力を高めるために国土交通省では、給与が良い・休暇が取れる・希望がもてるという新3Kを提唱している。「次世代を担う人たちが建設業に入り、活躍してもらうためにもi-Constructionの取り組みを広く紹介することが必要です。見学会などを通して、子どもたちや親世代に変化している建設業に関心を持っていただけるようPRしていければと考えています」。
またBIM/CIMの活用は、女性活躍にもつながっている。横河ブリッジでも、これまでは設計を学びたい、現場で架設をやりたいという男性社員が多かったが、最近はBIM/CIM活用に興味を持ち入社してくる女性社員も増えているという。 時代の変化に合わせて、発注者も受注者も3次元データやITを扱うことが求められている。
「2023年度からは、原則すべての公共工事がBIM/CIM適用になります。事務所内には高性能のPCも導入していますが、BIM/CIMデータは容量がものすごく大きくて、職員が使っているパソコンでは、3次元モデルを自由に動かすことができません。データが軽量化され、一般的なパソコンで操作ができるようになることを期待しています」と丸山さん。
蛯澤所長は「少子高齢化による担い手不足、そして新型コロナ感染症もしばらく続くと思われますし、BIM/CIM活用による業務の効率化、高度化はますます重要になります。建設業の女性活躍にも貢献できますし、今後、技術や精度の向上も期待できます。発注者として我々も民間の知識から学び、地域の建設業へ展開してきたいと考えています。今回、BIM/CIM試行工事にご協力いただいた横河ブリッジさんに感謝しています」。
3次元モデルの活用はあくまでも手段であり、技術を何のために使い、どう成果を出していくかが重要である。BIM/CIM活用による全体最適化や新たな価値創出には発注者、受注者が目的を共有し、連携していくことが不可欠となっている。