建設物価調査会

測量でのフロントローディングで3次元データを最大限に活用



国土交通省中国地方整備局山陰西部国道事務所

(左) 工務課 河中 響平さん
(中)工務課 課長 蔵本 直行さん
(右) 工務課 専門調査官 石田 高嗣さん


国土交通省中国地方整備局山陰西部国道事務所(以下、山陰西部国道事務所)は、2020年度に山陰道の整備を強力に推進するために、現場に近い山口県萩市に開設された。全事業が中国地方整備局のi-Construction推進計画の「早期段階から一貫したBIM/CIMを導入するモデル事業」に位置づけられており、BIM/CIMやフロントローディングの取り組みについてお話をうかがった。


i-Construction 推進計画のモデル事業

 山陰道は、鳥取市から山口県下関市までの約380㎞の道路。山口県内は鳥取県、島根県に比べて山陰道の整備進捗率が低い状況である。鳥取県、島根県、山口県の3県を東西につなぎ、山陰地方の産業・経済の発展や防災の視点からも重要な路線として地元からの期待も大きい。

 山陰西部国道事務所は、島根県益田市以西の山陰道を管轄し、道路計画、環境影響評価、調査設計、用地取得、改築工事などを行っている。現場に近いメリットを生かし、地域と連携して高速自動車国道と一般国道自動車専用道路の一体的な整備を進めている。現在、益田・田万川道路、木与防災、大井・萩道路、俵山・豊田道路の4区間が事業化されており、三隅~長門は事業化に向けた調査が進められている。これらの事業は、中国地方整備局のi-Construction 推進計画の「早期段階から一貫したBIM/CIM を導入するモデル事業」に位置づけられており、積極的にBIM/CIM を実施している。

 工務課課長の蔵本直行さんは「3次元設計から得られたCIM 統合モデルの活用を進めています。特に効果があるのが、地元説明会や関係機関との協議です。地元説明会では、3D プリンターを用いた模型やAR を用いて視覚的にわかりやすい説明ができました」という。またコロナを契機にオンラインでの協議や打ち合わせが増え、3次元データを見ながら情報共有できることは大きなメリットだという。


 




3次元ベクトルデータの活用

 2020年の開設から、測量、設計、施工の各分野でBIM/CIM の活用を進め、i-Construction におけるフロントローディングを推進してきた。当初は「各社が測量、道路設計、橋梁トンネル設計に3次元データの活用をはじめていましたが、別々の設計ソフトを使っている状況でした。そのため各社の使用ソフト等の状況を聞き、課題を明らかにして、その解決策をコンサルタント会社と意見交換しつつ考えていきました」と専門調査官の石田高嗣さんは振り返る。
 
 i-Construction もBIM/CIM も測量から設計、施工、維持管理までの各段階で3次元データを効果的に活用していくことが重要になる。山陰西部国道事務所では、測量でのフロントローディングにより、設計プロセスを効率化することに着目し、目標を設定した。3次元点群データを取得するにあたり、測量後の調査、設計が効率的に行えるようにした。

 道路設計では、3次元ベクトルデータをもとに3次元設計、CIM 統合モデルを作成した。石田さんは「一般的なプロセスでは、設計と測量を並行し、2次元の成果をやり取りしつつ進めています。しかし、設計段階では、すでに3次元設計が主流となり、3次元設計ソフトを効果的に使いこなすために何ができるのかをコンサルタント会社と共に議論し、測量段階で取得する点群データを設計段階に引き渡すのではなく、設計で使いやすい3次元ベクトルデータを引き渡すことで、効率化が図れるのではないかという結論に至りました」という。

 UAV によるレーザ測量で取得した3次元点群データと現地補足測量結果を使って作成する3次元ベクトルデータであれば、設計ソフトの縦・横断面図の自動作成機能等を有効に活用することができ、一般的なプロセスとなる路線測量を省略する試行を2021年度に実施。2022年度からは、新規事業化された大井・萩道路、益田・田万川道路に試行を拡大した。

 また地質調査結果のCIM モデル作成を2022度から試行実施している。従来は橋梁CIM モデル作成時に、設計者が2次元平面をCIM モデルに貼り付けているが、地質調査段階で地質調査CIM モデルを作成し、コンサルタント会社に貸与することで、モデル作成の手間の削減が期待される。今後も道路設計や橋梁設計などに活用していくという。




点群データの活用ガイドライン

 2021年度には、設計技術者のニーズを把握し、設計を効率的に実施するために2020年度から2021年度に実施した測量および設計業務の知見をもとに「設計・施工のための点群データ活用ガイドライン(案)」を作成した。
 
 「ガイドラインは簡単なことしか書いていません。例えば、点群の点に色をつけるといったことです。RGB にすれば写真を見るような感覚で地形図を見ることができ、設計の効率化にもつながります」と石田さん。

 ガイドラインでは、測量から設計までのプロセスが効率化できる新たな流れが示された。測量業務は主に県内企業が行っているが、ノウハウもあり、ガイドラインに基づいて実施すれば発注者が求める測量成果を得ることは可能になる。設計者が作業しやすい地形図を渡すことで測量から設計の期間短縮が可能になり、設計業務の生産性が向上して設計の迅速化につながった。中間工程の路線測量を削減し、その分の労力やコストを点群データ取得やデータ作成に使用できる。測量とデータのつくり方を変えたフロントローディングによってさまざまな効果が生まれている。


ICT 施工の進展と課題

 施工段階では、トンネル工事における自動化施工やDX、地盤改良におけるリアルタイム施工管理システムや3次元モデルの活用など、さまざまな取り組みを進めている。

 「設計段階で早く楽に施工ができるようなフロントローディングの取り組みをここ1年ぐらいで進めています。施工会社の意見を聞き、トライアンドエラーしながら、全体的な効率化を目指しています」と石田さんはいう。

 道路事業の場合は、発注ロットごとに設計データを切り分けて、工事発注用図書を作成して下流に流していくため、交換フォーマットのLandXML を使ってデータの変換が行われている。しかし、すべてのデータを補完できておらず、使用時に修正が必要になる。そこを見据えて設計するには課題も多く、設計でICT 建機がしっかりと動くようなデータのつくり込みは、まだ難しいという。

 ICT 建機を動かすGPS ソフトは海外メーカーのものがほとんどで、設計や施工データ作成ソフトとの互換性に課題がある。「BIM/CIM モデルをつくれば、施工まで全てバラ色につながっていくというのは基本的にはないと思っています。BIM/CIM モデルとICT 建機を動かすためのデータは別物だと頭を切り替えた上でどこを効率化させるかを考えることが必要だと考えています」と石田さんは指摘する。



発注者からICT データを貸与

 工事に関してはほぼICT 活用工事として発注しており、一般的なICT 建機の活用に関しては県内企業でも対応できるという。基本的には、受注後に施工会社が施工データをつくり、それを元にICT 建機にデータを入力して土工を行う。しかし、県内の施工会社の多くが、リース会社、そのサポート企業へデータ作成や建機へのデータ入力を委託しているという。このような重層化により、ICT 建機が稼働する体制ができているという現状がある。

 また、前述したように設計のBIM/CIM モデルとICT 建機を動かすためのデータの互換性が課題となっており、その対応策を検討してきた。「元請けのベテラン技術者でも苦労されているのが見受けられ、皆さんの手間が省け、楽になるような施策が必要だと感じました」と蔵本さんはいう。

 そこで、2022年度は、俵山・豊田道路の一部の工事において、ICT 施工のデータを発注者側で作成し、施工会社に貸与する試行を実施した。工事受注後にデータ作成やそのための調査にかかる時間が短縮でき、その分、工事着工を早めることが可能になる。

 「ICT 施工は受注者に委ねる形で、ICT 建機を中心に推進されてきました。発注者から、誰でも使える3次元データを渡すことができれば、地元の小規模な会社を含め、いろいろな方がICT 施工の分野に参入しやすい環境ができるのではないかと考えています。我々だけでできることではありませんが、現状や課題感を聞き取りながら、トライアンドエラーをしているところです」と石田さん。さらに蔵本さんは「発注者自らがICT データを作成することができれば、若手職員の育成にもつながるのでないかと考えています」という。




AR を用いたコンクリート締固め管理システム

 DX の観点からは、ボーリング調査の遠隔臨場をほぼ100% 実施している。「時間のロスがなくなり、委託先の地元企業もみな喜んでいます。現場においても鉄筋を可視化させ、AI の配筋システムを使って省力化の取り組みをしているところです」と蔵本さん。

 俵山・豊田道路事業では、コンクリートの品質向上に向けた取り組みとして、日本国内初となるAR を用いたコンクリートの締め固めを可視化する技術を活用し、橋梁PC 上部工の床版コンクリートを打設する現場見学会を開催した。コンクリートを締固めするバイブレーターにスマートフォンを装着して締固めの時間などを管理するもの。管理者のモニター画面からは、作業状況が一覧で可視化でき、均一な仕上げや品質向上が期待できる。

ARを用いたコンクリート締固め管理システム



現場見学会やTwitter での情報発信

 広報や地域との連携、さらに担い手不足解消のための施策として学生を対象にした現場見学会を数多く開催している。VR を用いた橋梁の施工イメージ体験や実際のトンネルの掘削の様子が見学でき、毎回、参加者から好評を得ている。小学生を対象にした木与第3トンネルの現場見学会では、トンネルの疑似貫通体験やトンネル内側に貼り付ける防水シートへの落書き大会など、子どもたちが楽しめるプログラムを実施した。「地域の人と一緒に盛り上げていこうという方針で、現場見学会にも力を入れています。新しい技術を紹介することで、土木業界に興味を持ってもらい、担い手不足解消につながっていけば良いと考えています」と蔵本さん。

 Twitter やYouTube などを使った情報発信も積極的に行っている。広報を担当する河中響平さんは「ホームページやYouTube では、360度カメラやドローンを使って撮影した現場の様子を見ていただけます。はじめたばかりですが、思った以上に反響があります」と笑顔を見せる。これまでは現場に行かないと見られなかったことも、YouTube で発信することで、いつでもどこからでも見られるようになった。さらに河中さんは「今後もコンテンツを充実させ、発信することで、より建設業に親しみが生まれるようになればいいと思っています」と抱負を語ってくれた。

 「ICT 土工は、順次進めていますが、新規路線も含めて、BIM/CIM による設計を実際の施工にフィードバックしていくのは今からです。我々が想定するフロントローディングが実現されるのかを検証していく必要があります。さらに施工段階で取得したデータをいかに集約して管理サイドに渡していくかも検討が必要です」と石田さん。蔵本さんは「着手したての事業から工事を実施している事業まで、さまざまなフェーズの事業が進行していますが、i-Construction やBIM/CIM の取り組みをしっかりと定着させて、今後、運用できる形にしていくことが一番の目標です」という。


小学生を対象にした木与第 3 トンネルの現場見学会




建設物価2023年2月号