建設物価調査会

現場技術者の実務に役立つコミュニケーションツールとしての3D



Web・Work


Web・Work 代表 鎌田史郎さん


札幌を拠点に全国で工事検査サポート、工事成績アップコンサルティング、リスクアセスメントの導入・運用支援などのさまざまな工事現場支援を行う鎌田史郎さん。日常業務に役立つICTや3次元データの活用についてうかがった。

現場技術者の実務に役立つコミュニケーションツールとしての3D

 土木技術者だった鎌田さんはWindows95が発売される前のDOS(DiskOperatingSystem)の時代からコンピュータを活用してきた。その経験を活かし、土木積算ソフトの会社に転職した。当時はPCも現在のようには普及しておらず、高額なソフトウェアを購入しても使い方が分からないという人も多かった。ソフトウェア開発会社や販売代理店によるサポートや有料の支援サービスもなかったため、鎌田さんは休日を返上して片道数時間をかけて顧客の現場に赴き、使い方をボランティアで教えていた。

 そのうちに、数社からアドバイザーになって欲しいといわれ、独立を決意。以来、数十年にわたり、工事検査サポート、工事成績アップコンサルティングなどの工事現場支援を行っている。CPDS講習の講師も務め、これまで全国2万人以上の土木技術者が鎌田さんの講習を受講している。

 鎌田さんは、単にソフトウェアの操作方法を教えるのではなく、現場の実務に役立つことや評価点を上げるための工夫を教えている。長年、現場支援のコンサルタントをしてきて感じてきたことは、小規模な公共工事を担う現場の過酷さだという。地域の建設会社が元請けとなり、少人数の社員が、現場によっては1人で、発注者である役所、消防や警察、地域との協議、下請け会社への指示などのすべての業務を行い、現場をまわしている。「高い志と責任感をもって現場で頑張っている技術者たちの力になりたいという強い思いがあります」と鎌田さんはいう。

 さらに「技術者の中には口下手な人が少なくない。工事の竣工検査の説明で、せっかく工夫した点や高度な技術をうまくアピールできない技術者を多く見てきました。工事が完成し、本来は達成感を得られるはずなのに、説明がうまくできない。公共工事入札の総合評価方式において工事成績は重要ですので、建設会社の役員も真剣です」。

工事概要プレゼン

 そこで、鎌田さんは、竣工検査時に工事のあらましや施工のポイント、高度技術、創意工夫などを発注者に効果的に説明し、総合的な評価を得るための「工事概要プレゼン」を提案し、そのノウハウを教えてきた。工事成績評定の得点を上げるためには、創意工夫や社会性の項目が鍵になり、他社との差別化やポイントを分かりやすく伝えることが重要になる。パワーポイントを使い、CAD・写真・イラストや動画を入れることで検査官に分かりやすく説明できる。
 Windowsに標準搭載されているグラフィックソフトのペイントを使って3次元モデルを読み込ませ、パワーポイントに簡単に貼り付けることができる。また現場で書類作成などに使われているエクセルの機能を使って作成した工事機器の3次元モデルも公開してきた。

 これらの取り組みは発注者側にとっても検査の効率化につながっている。さらにさまざまな関係者との協議、住民説明会などでも効果を発揮している。


3次元モデリングソフト

 3次元モデリングの専用ソフトは、作図や操作の習得にある程度の時間がかかる。また作成したデータを見るためには専用のビューアーが必要になる。さらにデータの重さや互換性なども課題だった。「お金や時間をかけて3次元モデルを作成するのは当たり前ですが、現場の技術者がコミュニケーションの手段として、お金をかけず、簡単にできる方法が求められているのです」と鎌田さんはいう。パソコン用の3次元モデリング・ソフトウェア3次SketchUp(スケッチアップ)は、直感的な操作性で3次元モデルが作成できる。機能は制限されるが、無償版もあるので、まずは試してみるとよいという。


 「国土地理院では、3次元の地形データを公開しています。スケッチアップを使い断面図も作成できますし、STLファイルに変換し3Dプリンターで立体模型も作成できます。静岡県のように自治体でも点群データの公開をはじめていますから、3次元データ活用の環境ができてきました」と鎌田さん。

国土地理院3 次元データをソフトウェアに読み込む
3 次元データを3D プリンター用に加工
3D プリンターで立体模型を作成写(写真提供「㈱C&N ネクスト」)


クラウドサービスの活用

 国土交通省が推進するi-Constructionは、国の直轄工事では実施件数が増加している。さらに自治体発注の工事や小規模土工でのICT施工を普及させるために2020年度から、施工者希望Ⅱ型(土工)に簡易型ICT活用工事が適用された。簡易型ICT活用工事の必須項目は、3次元設計データ作成、3次元出来形管理等の施工管理、3次元データの納品の3つ。ハードルを下げることでICT施工をより身近な取り組みとして普及させることが目的である。

「簡易型ICT活用工事は増えてきましたが、施工会社は3次元モデルの作成を外注することが多いのが実情です。内製化しないとノウハウが蓄積されないので、新たなツールとして3次元データを使いこなしていくべきです」と鎌田さんは示唆する。

 さらに「IT環境は日々進化しています。Office365が開始されましたが、これからはクラウドを活用する時代です」という。クラウドサービスを利用すれば、インターネットを経由してPCやスマートフォン、タブレットなどで、いつでもどこでもデータやソフトを利用できるようになる。Googleは、WindowsでもMacでもない独自の「ChromeOS」を開発している。そのChromeOSを搭載したPCは、クラウド上で書類作成・画像編集などの作業をWebブラウザ上で行うことができる。「クラウドを使えば、遠隔操作で会社の積算ソフトや点群ソフトを現場で起動できます。データの保管もPC内ではなく、クラウドストレージを使用し、スマートフォンとの同期も簡単に行えます。

 これからはこういったPCやタブレットが主流になっていくでしょう。ニーズに合わせてITを効率化していくことが必要です」と鎌田さん。そのためにはネットワーク環境が重要になる。


5Gが現場を変える

 5G(第5世代移動通信システム)が社会のデジタル化を加速させると期待されている。鎌田さんは「5Gは、4Gに比べて通信速度は20倍、同時接続数は10倍です。高速大容量だけでなく、多チャンネルであることが大きなメリットです。建設現場では5Gを活用して3台の建機を遠隔操作して掘削、運搬、敷きならしをすることも可能になります。現場に行かなくても遠隔操作で無人のバックホーを動かすこともできます。3次元レーザースキャナによる土砂量や造成結果のデータもリアルタイムで伝送でき、施工管理も効率化されます」。

 さらに現場と発注者の双方でリアルタイムに情報共有できる遠隔現場支援システムも可能になる。業務が格段に効率化され、働き方改革にもつながっていく。2021年4月からは、動画撮影用のカメラ(ウェアラブルカメラ等)により撮影した映像と音声をWeb会議システム等を利用して「段階確認」、「材料確認」と「立会」を行う遠隔臨場(リモート・アテンド)の試行が始まった。

遠隔臨場(リモート・アテンド)

 


最先端の魅力的な業界に

 建設業は担い手不足や高齢化が進んでいる。また新規に採用しても離職率は高い。「その原因としては、仕事に興味が持てない、自分がなにをしているのか分からないからです。以前、ある現場で、平面図と横断図を見て、頭の中で完成形を想像できるのが技術者だという話を聞きました。経験が浅いとそれがむずかしい。でも3次元データを活用することで、若い社員を含め、工事関係者すべてが、完成形をイメージすることができるようになります」と鎌田さんは力を込める。「現場では、50年来の大変革が起きています」という。

 スマホによる電子黒板、電子デバイスの活用(測量)、ドローンによる現場撮影、3次元設計データの活用、簡易ICTによる施工、スキャナーによる出来形管理など、さまざまな技術が導入されてきている。業務の効率化や生産性向上により、4週8休の働き方改革の実施や女性の活躍も増えている。「現場は今や最先端産業に変貌しつつあります。若い人たちにもそれをうまく伝えることができれば、憧れの職場として認識され、人材確保につながります。そのための人材教育も重要です」と鎌田さんはいう。若い人はさまざまなアプリを使いこなし、Zoomなどのウェブ会議室システムにも慣れている。若手に負けないためにも、ICT環境の動向や最新情報を知っておくことが大切だという。鎌田さん自身も情報収集を日課にしており、中でもYouTubeには、PCの選び方、ソフトウェアの使い方など、さまざまな動画が公開されている。集めた情報の中から役立つものを厳選して講習会などで紹介している。

 建設現場のデジタル化、ICT化は遠い未来の出来事ではなく、その変革はすでに始まっている。まずは、現在使っている汎用的なソフトウェアやアプリケーションに無料版の3次元ソフトを組み合わせるなど、身近なところから取り組んでみることが第一歩だといえる。