建設物価調査会

蔵の街の中心にあった商業施設を有効活用

コンバージョン:福田屋百貨店→栃木市庁舎


栃木市庁舎(栃木県栃木市)


はじめに

 ある日突然、駅前の百貨店やスーパーが閉店する、ということが地方都市を中心に起こっている。人口減少のほか、大型ショッピングモール・専門店・通販サイトに押され、採算が悪化したことなどが背景にある。閉店により人々の日常生活が不便になり、人通りが減ることにより街の賑わいも失われ、その影響は深刻である。
 しかし、閉店理由は事業経営上の問題であって、建物は築浅であることも多い。構造躯体等の利用が可能な場合は、これらをコンバージョン(用途転換)して活用すれば、需要のミスマッチ解消、賑わいの復活、コスト低減、地球環境への配慮等、様々なメリットがある。
 今回は、閉店した百貨店を市庁舎にコンバージョンした事例を取り上げてみた。


1.建設地の状況

 栃木市は、栃木県南部に位置し、人口約16万人、宇都宮市・小山市に次ぐ県内3番目の都市である。国や県の出先機関が集まる行政都市であると同時に、「蔵の街」として有名な観光都市でもある。その栃木市の中でも、当該敷地は栃木駅から徒歩圏にあり、主要道路に面した一番の中心街に位置している。


2.旧施設と新施設の建物概要

 旧施設は、店舗棟と駐車場棟の2棟からなり、築20年で構造上は十分活用できる状態にあった。このため、新施設では駐車場棟はそのまま活かし、店舗棟を市庁舎(2~6階)と店舗(1階)にコンバージョンした


3.コンバージョンに至る経緯

 栃木市内で唯一の百貨店であった福田屋栃木店が採算悪化等から閉店を決定したが、建物は築浅で構造的には十分利用が可能だったため、百貨店側は市に無償譲渡を申し出た(※駐車場棟と土地は有償)。これに対し市は、当時の市庁舎が築50年と老朽化していること、市町合併に伴い手狭になっていたこと、百貨店閉店が市民生活に影を落としていること、さらには市庁舎新築に比べ建設コストが半分以下で済むこと、などから百貨店を市庁舎等にコンバージョンして活用することを決定した。


4.設計の概要

 新施設の設計に際しては、まず、旧施設の構造躯体・仕上げ部材・設備等の劣化状況等について調査診断を行い、さらにコンバージョン後の施設が現行の法基準をクリアできるか等を検討した。また、市内部の検討委員会・専門部署の設置、地域協議会・住民説明会の開催、パブリックコメントの実施等を経て、新施設に必要な設計要件、建替えた場合の建設コストとの比較等を検討した結果、設計概要は以下のようになった。


5.工事費用

 市の検討委員会では、市庁舎を新規に建て替える場合と無償譲渡される百貨店をコンバージョンした場合の工事費用を試算し、比較検討を行った。
 その結果、建て替えた場合は約65億円掛かるが、コンバージョンした場合は約21億円で済むことがわかり、コンバージョンすることを決定した。その後の設計変更等もあり、最終的には約29億円を要したが、建て替えに比べれば半額以下であり、厳しい財政状況の下でコンバージョンが有効に機能した事例と言えよう。


6.コンバージョン効果と今後の街づくり

 栃木市では今回のコンバージョンに伴う経済効果測定等の調査は行っていないが、おおむね市民の評判は良く、大通りの歩行交通量は百貨店閉店時よりも確実に増えている。市街地中心部に市庁舎及び店舗施設が入ったことにより、少なくとも街の活力低下の抑制にはつながったとみられる。
 栃木市は、2010(平成22)年に栃木市・大平町・藤岡町・都賀町が合併し、2011(平成23)年 に西方町、2014(平成26)年に岩舟町と合併している。栃木市では、今回の市庁舎整備にとどまらず、今後、公共施設等の取り扱いが大きな課題としており、施設の有効利用という点でその方向性を示すことができたと考えている。今後、長く利用していく中で、再利用であるが故の課題も出てくると思われるので、適切な対応をしていく必要がある。各施設の連携や集約による相乗効果等を高め、コンパクトな街づくりにつなげてゆきたい。街づくりはハード面だけでは成り立たないものであり、運営面や市民との協議など、ソフト面との両立による街づくりを目指すとしている。
 なお、栃木市は国土交通省と内閣府が取り組む「地方再生モデル都市」(地方再生コンパクトシティ)の32都市の1つに選ばれている。

《編集後記》
 本記事の作成に当たっては、栃木市市街地整備課から数多くの資料提供、ならびに取材等のご協力をいただきました。ここに深く感謝申し上げます。

建設物価2018年6月号