建設物価調査会

夕張紅葉園

コンバージョン:小学校→ 養護老人ホーム

地域に愛された学校の活用を行政との協力によって実現



はじめに

 廃校となり放置されていた「小学校」が「養護老人ホーム」に大変身した! 人口減少・少子高齢化が進み公立学校は毎年全国で約500校が廃校となり、一方で高齢者介護施設の数は絶対的に不足している。施設に対する社会のニーズは時代と共に変化し、これらに即した早急な対策が求められているが、廃校活用には課題も多い。本事例は、廃校の有効活用に向け行政と民間事業者とが課題を共有し、連携して取り組んだ結果、実現したコンバージョン事例である。

1.建設地の状況

 かつて炭鉱の町として栄えた夕張市は、炭鉱閉山後に人口が大幅に減少し、今やその影も形も見られないが、当時の炭鉱坑口周りに形成された集落が南北35㎞,東西25㎞に点在している。その中で当該建設地は、夕張市の南西部に位置するJR北海道・石勝線の新夕張駅から徒歩圏にあり、敷地東側に夕張川が流れ、自然環境の豊かな住宅地にある。なお、用途地域は今回のコンバージョンに際し、第2種住居地域に変更した。



2.旧施設と新施設の建物概要

 旧施設は校舎の他に体育館(S造、780㎡)があったが、新施設では校舎のみを養護老人ホームに転用した。なお、転用だけでは床面積が不足したため、約2割の増築も行った。体育館は夕張みどりの会の所有だが、市民からの要望があった際には無償開放している。また、校庭は小学校当時の遊具を残して自由に遊べるようにしており、現在も放課後や土日祝日は地域の子供達が遊びに来ている。



3.夕張市における廃校活用

(1)これまでの取り組み

 夕張市では、2010(平成22)年に中学校3校を1校に、翌年小学校6校を1校へと大規模な統廃合を進めてきた。これを機に廃校活用への取り組みを始めたが、各学校施設は閉校を見込み、最低限の修繕により管理してきたため雨漏りや破損個所が放置され、不用公共的な発想から売却して税収確保につなげようという意見もあった。一方で、東日本大震災をきっかけに地域の防災拠点としての在り方も再認識させられ、防災機能としての整備と維持管理費用の捻出という課題も議論されたきた。

(2)廃校活用の難しさとその対策

 「学校」は都市計画法上の用途地域では住居専用地域に位置付けられることが多く、住宅以外の施設を設置する場合は規制が厳しい。例えば、給食調理場を食品加工場に転用する場合は、「工場」となり法律上認められない。また、消防法では、「学校」は特定者のみの利用であり規制は少ないが、不特定多数の者が利用する施設へ転用する場合は、避難誘導灯の増設や排煙窓の設置等の義務が生じ、都市計画法、建築基準法、消防法など様々な法解釈が必要となる。このため夕張市は、廃校活用を促進するため、以下のような取り組みを行った。

① 都市計画上の用途地域を第1種中高層住居専用地域から第2種住居地域に格下げした。

② 事業者が無償貸与・無償譲渡を選択できるようにした。

③ 民間事業者に対し、活用可能な国の助成制度を提言し申請をサポートした。

④ 夕張市のまちづくりと連携が図れるよう活用開始後も継続的にフォローアップした。

⑤ 空き教室活用へテナントを斡旋し、運営資金を確保した(家賃収入は活用事業者へ)。


4.コンバージョンに至る経緯

 これまで夕張市では、廃校となった学校の教室をあまり手を掛けずに、一般社団法人、町内会、民間企業等へ無償貸与し、障碍者・子育て支援、町内会活動、アウトドア体験事業等に利用してきた。しかし今回は、社会福祉法人「夕張みどりの会」が運営する「夕張市養護老人ホーム」が老朽化しているため、廃校となった小学校を養護老人ホームに転用しようとする本格的な活用案件であった。廃校活用には様々なハードルがあったが、事業者と夕張市とが課題を共有し、連携した取り組みを行った結果、道内初の「廃校活用型老人ホーム」が誕生した。

注記  事業者は2012(平成24)年3月までは社会福祉法人「いちはつの会」であり、その後は同会から分離した社会福祉法人「夕張みどりの会」を指す。



5.設計の概要

 旧のぞみ小学校は、1986(昭和61)年竣工、2011(平成23)年閉校であり、築後経過年数は25年であった。閉校後しばらく放置されていたため損傷はあったが、調査の結果、構造躯体・外壁・屋根など主要部分は十分活用できる状態にあり、軽微な改修で済むことが判明した。その上で、内部造作は新施設の用途に見合ったプランに改め、必要な機能・設備等を追加した。また、旧校舎からの転用だけでは元の施設規模を維持する為の床面積が不足したため、一部増築を行った。
 なお、設計の概要は、増築部分を除いた転用部分のみの内容である。




6.工事費用

 以下の工事費用は、旧校舎から転用した部分(延べ面積2,145.20㎡)に要した費用であり、増築部分(延べ面積546.58㎡)に要した費用は除外している。
 設計者が算出した当初の工事費見積額(=老人福祉施設等整備事業費補助金の申請額)は1億6,419万円で、㎡単価は76,538円/㎡となった。なお、その後の設計変更等もあり、最終的な契約金額は1億5,853万円で、㎡単価は73,900円/㎡と、新築工事で建てた場合の平均的な費用の1/3程度で済んだ。また、工期が9箇月で済んだこともコスト低減に寄与している。財政状況の厳しい下、コンバージョン手法が有効に機能したと言える。


7.コンバージョン効果と 今後の街づくり

 今回のコンバージョン事業は、廃校活用の好例として市民から高い評価を得ているが、その直接的な効果だけでなく、間接的な波及効果や今後の街づくりに向けても有形無形の様々な効果があったと思われる。
 
① 廃校施設を有効活用すると同時に、不足する養護老人ホームの増床に寄与し、公共施設に対するニーズのミスマッチ解消に貢献。

② 新築工事に比べて、建設コストの低減、工期短縮(9箇月)、建設廃材・CO2の削減。


③ 新施設での雇用創出(5名)と地域の活性化。


④ グラウンド・校庭の活用により地域交流の場や賑わいの創出。


⑤地域の防災拠点の確保。


⑥ 市民の間に「地域の特性、主体性による公共施設等の在り方の議論」が芽生え始め、今後の街づくりに向けて大きな力となる。

 夕張市の人口は、1961(昭和36)年の11万6千人をピークとして炭鉱閉山とともに減り続け、2018(平成30)年3月現在、約8,300人となっている。また、全国の市の中で高齢化率が最も高く(約50%)、少子化率は最も低いため、今後も人口減少・少子高齢化が進むのは確実である。
 また、都市構造は、炭鉱の坑口周りに形成された集落が南北35㎞、東西25㎞に点在する広域分散型となっているため、インフラの維持費など行政コストは割高となっている。しかし、夕張市の公共施設等の最大の課題は、約5千世帯に対して約3千戸の市営住宅があり、その4割が空き家(戸)だということである。人口規模に見合わない公共施設をストックし、その大半が老朽化しており、公共施設等の統廃合が人口減少のスピードに追い付いていないというのが実情である。 現在、2007(平成19)年の財政破綻時に作成した「財政再建計画」(※現在は財政再生計画)に基づき「まちづくりマスタープラン」を作成し、都市機能のコンパクト化による持続可能な街づくりを目指しているが、今後もさらなる公共施設等の見直しを進めていく必要がある。
 
 
《編集後記》
 本記事の作成に当たっては、夕張市企画課及び社会福祉法人夕張みどりの会から数多くの資料提供、ならびに取材等のご協力をいただきました。ここに深く感謝申し上げます。