コンバージョン:市庁舎→文化福祉施設
リノベーション:市民会館
2010(平成22)年、立川駅北側に立川市の新庁 舎が開庁し、旧庁舎は52年にわたる役割を終えた。他方、旧庁舎のあった駅南側の賑わい喪失や利便性の低下を危惧した市は、「市民100人委員会」を立ち上げ、民間のノウハウを生かしたPPP 手法を用いて、隣接する旧庁舎と市民会館の一体的整備を行った。結果、利用者は年々増加。特に旧庁舎から生まれ変わった「子ども未来センター」は、一番人気の『まんがぱーく』が多くの人で賑わっている。
立川市は、面積が24.36㎢で人口は18万人だが、JR4路線とモノレールが乗り入れ、商業施設やオフィス、国の機関等が集積する多摩地区の中核都市である。子ども未来センターと市民会館の敷地は互いに接しており、市の交通の要である立川駅からも徒歩圏にある。付近には東京都の合同庁舎・病院・商店街等があるが、駅北側に比べると落ち着いた雰囲気の住宅街でもある。
(1)子ども未来センター
旧施設は2つの庁舎及び駐車場棟からなっていたが、第1庁舎は2010年の閉庁時点で築52年と老朽化し耐震性にも欠けていたため、駐車場棟と共に解体して芝生広場と平置き駐車場にした。第2庁舎は築42年で一定の耐震強度を有していたため、耐震補強を行った上で「子ども未来センター」へとコンバージョンした。
(2)市民会館(たましんRISURU ホール)
市民会館は旧庁舎と隣接しており、駅南側の活性化を図るため両者を一体的に整備することとなった。ただし市民会館は、2013(平成25)年時点で築39年が経過し、「新耐震設計法」(※1981年改正)施行前の建築物であり、各種設備等も老朽化していた。このため耐震補強を行った上で、機能性・安全性を向上させたリノベーションを行うこととした。
(1)新庁舎建設と旧庁舎敷地活用
2010(平成22)年、立川駅北側に新庁舎が開庁し、旧庁舎が抱えていた様々な課題(老朽化、狭隘(きょうあい)・分散化、立地の偏在等)は解消された。一方で旧庁舎があった駅南側の賑わいの喪失や利便性の低下が懸念されていた。そこで市は、新庁舎建設に際し設置した「新庁舎建設市民100人委員会」で、旧庁舎敷地活用についても『市民案』を作成し市長に提言を行った。
結果、これまで果たしてきた市民自治やコミュニティ活動の機能を生かして地域の活性化を図るには、隣接する旧庁舎及び市民会館の総合的かつ一体的な整備が効果的であるとし、その基本方針を以下のとおりとした。
《施設整備の基本方針》
① 子育て支援の推進
② 市民活動の推進
③ 賑わいの創出・活性化
④ 文化芸術のまちづくり
⑤ 行政機能の補完
(2)PPP 手法の採用
市は、旧庁舎施設等活用事業を進めるに際し、民間のノウハウや強みを生かせるようPPP 手法(Public-Private-Partnership)を採用した。事業内容は、「旧庁舎等を改修整備し、維持管理・運営までを指定管理者として一括契約すること」(※契約期間10年4箇月)とし、公募型プロポーザル方式の結果、旧庁舎施設の賑わい創出機能として「まんがぱーく」を創設する案が選定された。『まんが』という発想は、行政内部からは出難いアイデアで、PPP 手法が功を奏したと言えよう。
(1)子ども未来センター
市は「コスト縮減」・「ストックの有効活用」・「環境負荷の低減」を重視しており、ハード面では昔の建物の良さを生かしつつ、テラスや吹抜けを加えることで、新しい価値の建物に生まれ変わらせるコンバージョンならではの設計とした。ソフト面では賑わいの目玉とする「まんがぱーく」のアイデアを最大限生かす仕掛けと演出を行った。
(※本設計は(公財)日本デザイン振興会・グッドデザイン賞(2013)を受賞)
(2)市民会館
市民会館は1974(昭和49)年築と老朽化が著しく、ホールとしての諸機能・設備も陳腐化し、座席が狭いなどの声が寄せられていた。また、2011(平成23)年の東日本大震災の際には各地で天井脱落事故が起こり、その安全対策が大きな課題となっていた。これらを踏まえ、リノベーションにあたっては以下のコンセプトに基づき設計を行った。
① 安心性の向上 ⇒ 安心して使える施設づくり
② 機能性の向上 ⇒ 使いやすい施設づくり
③ もてなしの向上 ⇒ 心地よい施設づくり
④ 環境負荷の低減 ⇒ 地球にやさしい施設づくり
「旧庁舎施設等活用事業」は旧庁舎及び市民会
館を一体的に整備・活用する事業で,表1 のとお
り総工事費(設計費・工事監理費を含む)は約
25.4億円であるが,そうち「子ども未来セン
ター」が約8.0億円,「市民会館」が約17.4億円で
あった。また,これらを各施設の延べ面積で除し
た工事費単価は,「子ども未来センター」約18.5
万円/㎡,「市民会館」が約14.5万円/㎡であった。
なお,改修工事費の費用負担は表2 のとおりであ
る。
「子ども未来センター」の目玉である「まんがぱーく」は、年間来場者数が10万人を超え大盛況である。芝生広場は子どもたちの遊び場や市民活動の舞台に、広いテラスは子育てグループや周辺住民の憩いの場となっている。また、分散していた子育て・教育支援施設が集約され、文化・芸術活動施設と併せて多くの人に利用されている。表3 のとおり、2017(平成29)年度の年間来場者数
は「子ども未来センター」全体で33万人を超え、隣接する市民会館(たましんRISURU ホール)も含めれば76万人を超えている。懸念されていた駅南側の賑わい喪失や利便性の低下は、ひとまず払拭されたと言える。
ただし、この旧庁舎及び市民会館を活用した整備事業は、2010(平成22)年に策定した「旧庁舎周辺地域グランドデザイン」の中の「ステージ1」として位置付けられた期間の事業である。今後、このグランドデザインに基づき再度検討が行われ、「ステージ2」として周辺地域の本格的整備が行われることになる。
さて、立川市が保有する公共建築物は約46万㎡あり、築30年以上のものが57%を占めている。今後、人口減少・少子高齢化、厳しい財政負担が予測される中、全ての公共施設を現状のまま維持していくことは困難である。それらを受け、2014(平成26)年度に「立川市公共施設あり方方針」を定め、2017(平成29)年3月に「立川市公共施設再編計画」を策定した。その中で公共施設再編の基本的な考え方として、①将来に向けた資産配分、②再編圏域と機能配置、③地域の核となる施設、④時代のニーズに対応する機能再編・運営、を取りまとめた。今後は、再編を具体的に進めるため、再編を検討する圏域の順序や再編候補となる施設の選定、再編の方法を分析する「公共施設再編個別計画」を策定する。その後、幅広く市民の意見を収集しながら、具体的な再編の実施内容を検討していくことになる。
《編集後記》
本記事の作成に当たっては、立川市、立川市子ども未来センター、合人社計画研究所グループから数多くの資料提供、ならびに取材等のご協力をいただきました。ここに深く感謝申し上げます。