建設物価調査会

老朽化した建物に新しい命を吹き組む、築50年以上の団地リノベーション

団地の再生・リノベーション


東京都住宅供給公社「コーシャハイム千歳烏山11号棟」


はじめに

東京都住宅供給公社(以下公社)は、1957(昭和32)年に竣工した「烏山住宅」を建替え、少子高齢社会に対応した住まい「コーシャハイム千歳烏山」へと再生した。

この建替計画では、烏山住宅の1棟をそのまま残して改修を施す「住棟改善モデル事業」も実施された。今回は住棟改善モデル事業に着目し、築50年以上経過した住棟をリノベーションし、既存ストックを取り壊すことなく再生し、現代の住居ニーズに合った魅力的な住まいへと生まれ変わった事例を紹介する。

1.建設地の状況

 烏山地区は、世田谷区の北西部に位置し、杉並区、三鷹市、調布市に隣接している。公共交通機関としては、中央に京王線が走っており、新宿などの商業地域や都心オフィス街へのアクセスは良好で、近年、大規模集合住宅が建設されるとともに、子育て世代を中心に転入者が増加傾向にある。当該建設地は、商店街が栄えている京王線の千歳烏山駅から徒歩5分。烏山地区でも特に恵まれた立地環境である。

2.リノベーションに至る経緯

 コーシャハイム千歳烏山の事業全体は、①少子高齢社会に対応した住まいの供給、②福祉施設等の誘致、③高齢者・子育て世帯等の入居支援、④地域コミュニティ活動の支援という4つの視点で計画された。21棟584戸あった烏山住宅の一般賃貸住宅は、建替えによる高層化などで集約化され、一般賃貸住宅、サービス付き高齢者向け住宅、コミュニティカフェ、保育所などが配置された施設を合わせて12棟599戸に整備された。

 この事業のように公社では「公社一般賃貸住宅の再編整備計画」のもと、建替えを中心に既存ストックの更新を進めているが、既存住宅の改善などによる「ストック再生」にも取り組んでいる。更新時期を迎えていて将来的に賃貸住宅需要の減少が懸念される団地や、更新時期を迎えていなくても設備水準の相対的な低下等により現代のニーズに合わなくなった団地を対象とする場合には、「建替え」ではなく既存建物の「改善」などによる「ストック再生」が適している。

 そこで、コーシャハイム千歳烏山では、公社と首都大学東京が連携し、住棟改善モデル事業に取組み、従前の烏山住宅の8号棟を残存させて改善を行うことで、ストック再生の一つのモデルケースとして検証を行うことにした。

3.旧施設と新施設の概要

 旧施設の烏山住宅8号棟は、高度経済成長期に住宅の効率を求めて供給された2K(約30㎡)の単一な間取りの住戸であった。それを現代のニーズに合わせて多様性を許容できる計12タイプ(約25~77㎡)の住戸へと改善された。

4.設計の概要

(1)基本コンセプト

◎ 効率を求めた住宅から,多様性を許容できる住宅へ
◎安全性と機能性を備えた住まいへと再生
◎ さまざまな住まい手や住まい方を想定し、 多様な住戸プランを実現

(2)建物の耐久性能評価

 住棟改善モデル事業の対象となった8号棟は、建設してから58年が経過していた。今回は改善後30年活用することを前提として、建物の耐用年数の検証が行われた。公社は、東京都防災・建築まちづくりセンターに第三者としての耐久性評定を依頼し、既存躯体は補修により今後30年活用できることが認められた。また、住戸間の壁に開口を設けると同時に、耐震壁を設けることにより目標
とする耐震性能を確保した。

① 特殊建築物で法規制の厳しい「工場」を、特殊建築物でなく法規制の厳しくない「庁舎」への転用のため、確認申請は不要

② 庁舎東館は、外壁の撤去、階段の位置変更など主要構造部の過半を改修することとなり、「大規模の修繕」、「大規模の模様替え」に該当するため、確認申請は必要

③ 庁舎西館は、改修内容が間仕切りの変更など一部の模様替えであり、東館とエキスパンションジョイントで構造的に区切り、防火区画もなされているため、確認申請は不要

④ 南棟(旧工場棟3期)は、既存不適格建築物であるが、改正建築基準法では「危険性が増大しないことが確認できれば、既存部分に現行基準が適用されない」との解釈があり、山梨県は当面、耐震改修は不要とした

(3)主な設計内容

 市では基本コンセプトに則り、庁内検討委員会・市民懇話会等で意見を集約し、設計者とともに実施設計を行った。設計の最大のポイントは「工場棟をいかに活用するか」、「既存施設の有効利用によるコスト低減」であった。


5.リノベーション後の住戸プラン

◎単一な住戸プランから,さまざまな住まい手や住まい方を想定した住戸プランに変更
◎水回りは北側にコンパクトにまとめ,南側に広い間口の空間を実現
◎居住者の共用スペースとして,共用リビングを設置



「更新時期を迎えた住宅ストックの新たな再生手法の開発に向けた研究として」
東京都住宅供給公社

 建替えによる再生手法だけでは,高度成長期に大量供給してきた建物の更新は困難なため、建物の 長寿命化による再生手法の研究が重要な課題となっています。

 住棟改善モデル事業においては、構造躯体について耐久性評定を取得していますが、この経験は、 更新時期を迎えた他の公社住宅の劣化診断や活用手法の検討に役立つものと考えています。また建築的検証にあたっては、首都大学東京との共同研究とすることで、より多角的な視点で効果的に事業を進めることが可能となりました。

 今後は、本事業で実施した各改善メニューについての市場性や居住性の検証を踏まえて、多様な居住ニーズに適合した住宅供給を進めていきたいと思います。



《編集後記》
  本記事の作成に当たっては、東京都住宅供給公社から数多くの資料提供、ならびに取材等のご協力をいただきました。
ここに深く感謝申し上げます。

建設物価2020年4月号