建設物価調査会

建設物価2015年11月号

建設現場における女性専用仮設トイレの開発と運用 「現場が女性にできること…フラワートイレプロジェクト」

日野興業株式会社 代表取締役社長 積田 喜信

背景

当社は、昭和27年の設立以来「我々はより良い環境づくりを通して社会に奉仕します」という社是の下、建設業界・住宅業界・イベント業界等に従事しながら、現場の環境整備や安全対策の改善を目指して参りました。

今回のテーマにもある様に、第二次安倍政権発足以降、建設業界全体の課題として、官民が一体となって、今まで以上に女性がいきいきと活躍できる取組みをアクションプランと共に推進しております。

フラワートイレプロジェクトイメージキャラクター
フラワートイレプロジェクト
イメージキャラクター

ただし、建設現場は未だ男性社会であり、仮設トイレの仕様や設置場所等に関しても女性に配慮できているとは言えず、更なる改善が求められております。現状、女性に特化した仮設トイレは存在しておらず、もちろん建設現場で主流となっているレンタル品も、我々レンタル業者自体が保有できていない為、現場への調達が不可能な状況でした。

当時、我々日野興業と致しましても、仮設トイレのメーカー系レンタル業者としてできる最善のご提案を模索しておりました。

女性専用仮設トイレ開発プロジェクト発足

その様な状況の中、2014年3月に竹中工務店九州支店・朝日機材主導の下、後にTTP(タケナカ・トイレキレイカ・プロジェクト)と命名される女性専用仮設トイレ設置プロジェクトに参画する機会を頂きました。実際に現場に設置するまでの間、竹中工務店女性社員の方々の目線や感性によるご意見やアドバイスを参考に、当社にできる事を全力でサポートさせて頂きました。

これらの経験や実績を機会に、「けんせつ小町」や「なでしこチー
ム」と呼ばれる女性技能者の方達が本来の力を発揮できる「現場づくりのお手伝い」を目標に掲げ、主力となる仮設トイレを中心に女性にも配慮、特化した製品やサービスのご提供を目指し、社内に「フラワートイレプロジェクト」を発足致しました。

竹中工務店・國場組・竹中土木特定建設工事共同企業体 イオンモール沖縄ライカム新築工事作業所 女性専用仮設トイレ
竹中工務店・國場組・竹中土木特定建設工事共同企業体 イオンモール沖縄ライカム新築工事作業所 女性専用仮設トイレ
竹中工務店 九州大学(伊都)総合研究棟(理学系)他施設整備事業建設工事作業所 女性専用仮設トイレ(
竹中工務店 九州大学(伊都)総合研究棟(理学系)他施設整備事業建設工事作業所 女性専用仮設トイレ

建設業界への発信

フラワートイレプロジェクト発足当時は、決して「女性技能者」とい う目線、特に「三現主義」=「現場」「現物「」現実」という「現場の声」を把握しきれていた訳ではなく、その後の製品開発には不安を感じておりましたので、豊富なご意見やアドバイスを集約する為に、垣根を越えたマーケティング活動に力を注いでおりました。

その時に、大和ハウスグループのデザインアークとの女性専用仮設トイレ共同プロジェクトという新たなチャンスを頂き、グループ内の女性技能者のご要望を両社で共有し具現化していきました。

しかし、マーケティングを繰り返す中、フラワートイレプロジェクトを推進していくには、資料だけではお伝えできる内容に限界がある事を強く感じておりました。そこで建設業界の方々に、まずは「見て・触って・使って」頂き、その後の評価を仕様や要素に反映させる試みで、 2014年10月に、樹脂製品ではコスト的にタブーとされている小ロット生産で、特注色(ピンク)のフラワートイレ(現LXシリーズ)デモ機を試験的に製作致しました。

試作機とはいえ、現物を手に入れた営業部門は、水を得た魚の様に積極的にホームページや展示スペースでの発信、ご提案に奔走し、いろいろな現場へのデモ出荷を実現させて頂きました。

もっと多くの方々に当社の取り組みを知って頂こうと、2014年11月、当時のマーケティングデータの精査も兼ねて、トイレ産業展(東京ビッグサイト)に出展させて頂きました。試作機のフラワートイレ(現LXシリーズ)も含め、当社多目的トイレをベースに、デザインアークの女性社員にデザインをご依頼し、女性専用仮設トイレの上位モデルを参考出品したところ大きな反響を呼びました。

清水建設、立川ララポート新築現場フラワートイレ試作機(現LXシリーズ)
清水建設、立川ララポート新築現場フラワートイレ試作機(現LXシリーズ)
トイレ産業展 当社ブース
トイレ産業展 当社ブース
日本トイレ産業展 デザインアーク共同開発の女性専用仮設トイレ
日本トイレ産業展 デザインアーク共同開発の女性専用仮設トイレ

会場では、いろいろなラインアップをご覧頂いた上で、女性来場者を対象に女性専用仮設トイレの需要や仕様に関してのアンケートを実施させて頂きました。

トイレ産業展アンケート結果(女性116人)
トイレ産業展アンケート結果(女性116人)

展示会アンケート(女性116人)では、当然の結果ですが、86%の女性回答者が「女性専用仮設トイレ」の設置を望んでおります。「仮設トイレのイメージ」については「汚い」「臭い「」狭い」等、機能的なご不満が多いのですが、建設現場では、仮設という制約がある為、設置環境や条件に限りがあり、どうしても目につき易い箇所への設置となってしまう傾向があります。更に水面下では、女性用に整備された施設を使用したいという本音が潜在化しており、男女共用では「おちつかない」/「安心できない」など口頭でのご意見も散見されました。

そこで、市場の既存仮設トイレとの差別化を図り、「女性専用」である事を第三者にも強く認識して頂く為に、試作機の「ピンク」をあえて本格採用する事によって、外見から女性専用仮設トイレである事を訴えかける手法に標準を絞りました。

更に業界内で注目させる事で、「女性専用仮設トイレ」が各現場の仮設計画に導入される事を促し、現場必須アイテムとして認知される様に根付かせていきたいと願っております。

鹿児島県の国土交通省管轄の現場にて試験的にフラワートイレのデモ機を出荷
鹿児島県の国土交通省管轄の現場にて試験的にフラワートイレのデモ機を出荷
札幌市建設局主催の札幌新道ウォーキングイベントにフラワートイレをデモ出荷
札幌市建設局主催の札幌新道ウォーキングイベントにフラワートイレをデモ出荷
フラワートイレ初の助成金対象現場(札幌市南郷高架橋現場)
フラワートイレ初の助成金対象現場(札幌市南郷高架橋現場)

建設業界への普及啓発活動

イレ産業展への出展以降、当社HPでの紹介効果も表れ、BS日テレで放映された「けんせつ小町」特集に当社のフラワートイレが取り上げられました。官公庁、ゼネコン、民間企業からレンタルを中心とした様々な問い合わせを頂き、中でも札幌市建設局とは、道路の開通式で一般の方向けにフラワートイレをデモ出荷し、高い評価を頂きました。その後、札幌市独自の施策である、女性用仮設トイレの設置に纏わる助成金制度の効果によって、ゼネコンからのレンタル出荷要請が増加し、随時対応しております。この様な制度で後押しして頂けるのは、業界にとっても大変有難い事であり、女性技能者の方々への大きな支援となります。

トイレの上位モデル:フラワートイレ「ブルーム」(商標登録出願中)を発表。デモ活動も開始しており、多数のお引き合いを頂いております。現在レンタル出荷も視野に量産機の仕様を検討中です。

2015年1月、女性用アイテムに特化した商報発刊を計画されていた日建リース工業と、具体的なフラワートイレの運用化に向けた共同プロジェクトを開始致しました。

その後2015年4月、日本建設業連合会から、けんせつ小町が働きやすい現場環境を作る為の指針がマニュアル化し発表されました。当社と致しましても、製品化へ向けての最後の「答え合わせ」として捉え、それらマニュアルに準拠した女性専用アイテムの仕様を精査し、 2015年6月にこれまでの集大成として、フラワートイレ(LXシリーズ)の販売とレンタル開始を正式に発表致しました。

フラワートイレ「ブルーム」
フラワートイレ「ブルーム」
ブルーム内装
ブルーム内装

その後、鹿島建設の建設現場で働く女性技能者を対象にした研修に当社と日建リース工業の女性社員がオブザーバーとして参加させて頂く事ができ、フラワートイレシリーズ(トイレ・更衣室)を実際に会場に持ち込み、貴重な意見交換の場となりました。

当日は仮設トイレに限らず、以前からの課題でもある、女性専用の休憩室や更衣室、シャワーなどへのご要望もあり、今後は当社と致しましてもできる限り対応していく所存です。

更に、奥村組九州支店社屋・寮新築工事現場では、フラワートイレ「ブルーム」プロトタイプを設置させて頂いております。こちらはなでしこ工事チームで24番目に登録された奥村組「八幡ひまわり」の運営する工事現場です。

これからの課題

お陰様で、多数の業界関係者からのご助言を頂き、仮設トイレの製品化とレンタル出荷が可能となりました。今後もこれらのサービス網を拡大しながら、けんせつ小町の後方支援を継続していくつもりでおります。

しかし、女性が、より安心感のある現場で落ち着いて働いて頂く為には、仮設トイレを例に挙げれば、目隠しや動線、トイレの設置場所に関する配慮等、現場内の気遣いや工夫が一番重要なファクターとなります。それらも我々業界関係者が再認識していかなければ、建設業界全体の改善には至らないと思います。

そもそも建設現場はレンタル市場の為、当社自身によるレンタル資産機としての保有を視野に入れた仕様改善と共に、今後は現場の負担にならない価格設定を可能にするコスト管理も重要となります。

更に、女性用仮設トイレのカテゴリーを構築すべく、当社が先駆けて取り組む事で、規格や基準を固め、同業メーカーの参入を促し、それらがレンタル業者の保有に繋がり、女性専用仮設トイレに限らず、全国における女性に配慮したアイテムの現場設置率向上となる事を願っております。

今回の建設業界による女性技能者への配慮は、現場全体の職場環境改善へと波及し、男性技能者はもちろん、建設業界を敬遠されている方々の悪しきイメージを払拭してくれる推進力となってくれるのではないでしょうか。

この取り組みを一過性のものとせずに継続させる事が、微力ながら当社のできる業界貢献だと考えております。

奥村組九州支店社屋・寮新築工事現場フラワートイレ「ブルーム」プロトタイプ室内
奥村組九州支店社屋・寮新築工事現場フラワートイレ「ブルーム」プロトタイプ室内
鹿島建設の建設現場で働く女性技術者を対象にした研修
鹿島建設の建設現場で働く女性技術者を対象にした研修
奥村組九州支店社屋・寮新築工事現場
奥村組九州支店社屋・寮新築工事現場