建設物価調査会

建設物価2019年9月号

「女性技能者の坑内労働規制緩和に関する公開討論会」参加レポート, ひまわRe 座談会レポート Vol.1

「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」

当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心とし たプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第 43回目は、「女性技能 者の坑内労働規制緩和に関する公開討論会」への参加レポートと、新プロジェクト「ひまわ Re」をご紹介します。


2019年5月30日土木学会講堂にて開催された、公益社団法人 土木学会・一般社団法人日本建設業連合会・一般社団法人日本トンネル専門工事業協会 3団体合同ワーキングによる『女性技能者の坑内労働規制緩和に関する公開討論会』にチームひまわりが参加してきました。

女性の坑内労働をめぐる法令の変遷について

まず、筑波大学ビジネスサイエンス系の川田琢之教授より、女性の坑内労働についての法規制の変遷と課題について説明いただきました。


【1922(大正11)~1928(昭和3)年頃】

「女性の坑内労働に係る専門家会合報告書(2005(平成17)年)」によると、1922(大正11)年頃の坑内労働者の4分の1は女性だったとの記録がある。しかし、1928(昭和3)年以降は女性の坑内労働は法の保護下となり、全面禁止とまではいかないものの、規制が設けられた。

【1947(昭和22)年労働基準法制定時】

第64条(坑内労働の禁止)で、満18歳に満たない者又は女子を、坑内で労働させてはならないと規定され、女性の坑内労働は全面禁止された。

右から 講演者のダイバーシティ推進委員会 幹事長 米山 賢さん、土木学会 ダイバーシティ推進委員会 副委員長 須田久美子さん、筑波大学ビジネスサイエンス系の川田琢之教授、司会進行役の山田菊子さん

【1985(昭和60)年労働基準法改正時】

第64条の4(坑内労働の禁止)で、満18歳以上の女子を坑内で労働させてはならないとされたが、一部臨時の必要のため坑内で行われる業務で厚生労働省が定めた業務に従事する者(妊娠中の女性及び坑内労働に従事しない旨を使用者に申し出た産後1年を経過しない女性を除く)については例外的に労働が認められた。

女子労働基準規則第8条で例外的に女性の坑内労働が認められる業務

  • 医師の業務
  • 看護婦の業務
  • 新聞又は出版の事業における取材の業務
  • 放送番組の制作のための取材の業務

【1994(平成6)年女子労働基準規則改正時】

女性の坑内労働が認められる範囲が1985(昭和60)年労働基準法改正時より拡大された。

  • 高度な科学的な知識を必要とする自然科学に関する研究の業務

【2006(平成18)年労働基準法改正時】

第64条の2(坑内業務の就労制限)で、女性を以下の業務につかせてはいけないと規定した。

  • 妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性が行う全ての坑内業務
  • 記以外の女性が坑内で行う業務のうち人力により行われる掘削の業務その他の女性に有害な業務として以下の女性労働基準規則で定めるもの

女性労働基準規則第1条で規制された女性の坑内業務の就業範囲

  • 人力により行われる土石、岩石若しくは鉱物の掘削又は掘採の業務
  • 動力により行われる鉱物等の掘削又は掘採の業務(遠隔操作により行うものを除く)
  • 発破による鉱物等の掘削又は掘採の業務
  • ずりや資材等の運搬、覆工コンクリートの打設等

●現場監督など、女性の「技術者」についての就業規制は緩和されましたが、「技能者」については現在もなお坑内労働は原則禁止とされている状況です。さらなる規制緩和を求める声が上がるなかで、男女平等と表裏一体の関係にある女性特有の母性保護という観点も十分に考える必要があるとの川田教授からのお話でした。


女性技能者の坑内労働規制緩和に関する検討(中間報告)について

●(公社)土木学会 ダイバーシティ推進委員会・(一社)日本建設業連合会 安全委員会・(一社)日本トンネル専門工事業協会の坑内労働検討合同ワーキンググループのリーダーの須田久美子さんと、(公社)土木学会 ダイバーシティ推進委員会 幹事長の米山賢さんからはワーキンググループでの検討結果の報告がありました。

●その中でも(一社)日本トンネル専門工事業協会が施工を行う会員32社に対して行った、女性の坑内作業の進出に関するアンケートでは、非常に興味深い結果が紹介されました。

●賛成または条件付き賛成は15社78.9%にのぼり、女性に不向きな坑内作業はあるものの、元請や労働団体の理解が得ることができれば女性技能者の坑内労働規制緩和の推進を検討するべきという意見が多数だったそうです。また、女性自身が坑内労働へ配置を望む割合も増加し、坑内作業に対し女性自身の抵抗感も低下してきたことから規制緩和に向けて早急に推進すべきではないかとの報告でした。


公開討論会

●川田教授、須田さん、米山さんにフロア参加者を交えて公開討論会が開催されました。フロア参加者からは様々な意見や質問が出されました。

●将来的な妊娠・出産を望まない女性も母性保護の対象になるのでしょうか。

今現在妊娠を望まなかったとしても、将来的にどうなるか分からない事象について、現状法に守られている保護を手放していいのかという問題がある。また、仮に自分に法の保護が必要ではなくても、逆に必要としている人もいるので保護の要・不要については十分慎重になる必要がある。

●坑内作業は女性だから不向きというより、老若男女が働きやすい現場の作業環境を整えることが喫緊の課題ではないでしょうか。

性や高齢の作業員でも簡単に行えるよう、作業を省力化し、筋肉労働を少なくする作業方法を考えていくことが大切である。体力的につらい、きついというイメージから脱却し、働きやすい環境を作ることが建設業への若い入職者を増やし、建設業を盛り上げていくためにも必要ではないか。

討論会の様子

●トンネルの現場で女性技術者を見かけることも珍しくなくなった今、現場配属を積極的に希望するといった女性技術者自身の意識の変化の要因を教えてください。

近年の女性雇用推進の取り組み等で、一昔前よりも女性が建設業に携わっているイメージが湧くようになったことが大きく寄与していると思われる。しかしながら、坑内作業において法規制があるという事実までは理解が進んでいない。表面的な事象だけではなく、これからさらに理解が深まることが望まれる。

●女性技能者の坑内労働規制緩和を早急に実現するべきではないでしょうか?そのためにはどのような取り組みを行うことが早期実現に向けて効果的でしょうか?

現状の女性労働基準規則を重機のオペレーター等、筋肉労働以外の作業部分について緩和と範囲を限定したうえで法の改正に向けて動いていくのが現実的だと思われる。ただし、実際に規制の緩和ができるかどうかは、基本的な労働災害に対する体制がどの程度備わっているのか、坑内労働の危険性がほかの現場での作業と比較してどの程度なのか、男性女性問わない安全衛生の規制がどの程度充実しているのかなどを考慮して検討していく必要がある。


公開討論会に参加して…

●まず、今もなお、女性技能者の坑内作業が法令で認められていない事実に驚きました。もちろん、女性特有の妊娠や出産等の母 性保護の必要性や、女性が不得意とする筋肉労働に対しての関わり方については十分検討する必要はありますが、建設業において女性活躍が叫ばれるなか、また、女性の職域拡大や入職者の安定的な確保という観点からも就業に規制があるのは時代に合わないのではないかと感じました。坑内労働環境改善が図られ、安全性が向上しているなかで、法規制を緩和して女性技能者の活躍の場を広げることを前向きに検討していく必要があるのではないでしょうか。

また、坑内作業は危険と隣り合わせで女性には難しいのでは、という声もあるかもしれませんが、それは性別にかかわらず誰に対しても言えること。働きやすい環境を構築して、労働の制限を最小限にすることで「誰でも働きやすい建設業」をアピールできるのではないでしょうか。

伊沢

チームひまわりでは、建築調査部の女性職員を中心に「ひまわRe」の活動を始めました。

“Re”は、Relationship Marketing (=顧客との良好な関係・取引を長期にわたって継続し、企業利益の最大化を目指していくマーケティングのこと)から取っており、具体的には建設物価ユーザーの意見・要望を聞いてニーズの高い情報を載せることで利便性向上を図ることを目的とし、様々な企業の積算業務にかかわる女性との意見交換及び交流することとしました。

第一弾は、竹中工務店見積部に所属する3人の女性社員との座談会を行いました。メンバーは、建築3グループ(仕上げ担当)の吉澤悦子さん、設備グループの横山芳恵さん、く体グループの斎藤恵利香さんです。当会からは建築、設備、配管の調査担当の3人が出席しました。

6人それぞれの自己紹介の後は、普段どのように建設物価を活用されているのかをお聞きしました。見積もりする際の値入れで実際に使っている資材、過去の見積との直近の見積の比較検証に掲載価格の変動状況を公的資料として使っている資材等、当会にとっては同じ掲載単価でも、使われ方は様々だということが分かりました。当会からは、資材価格の調査方法などを説明し、お互いに知らないことに“そうだったんだ〜”と感心するばかりで有意義な時間を過ごせました。また、建設物価に載せてほしい資材、Web建設物価の要望などの意見や、新しい資材についての情報をいただいたので、今後の建設物価作成に参考にしたいと思います。

今後も建設物価の掲載充実・他社との交流を深めるために、建設会社や設計事務所等との座談会を予定しております。

左から斎藤恵利香さん、横山芳恵さん、吉澤悦子さん、当会女性職員3名