建設物価調査会

建設物価2019年1月号

個人の力を引き出し、チーム一丸となって安全を守る! 中日本高速道路株式会社 小田原保全・サービスセンター を訪ねて

「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」

当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心としたプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第36 回目は、中日本高速道路株式会社 小田原保全・サービスセンター管内で働く女性社員にインタビューをしました。


女性活躍推進を重要課題に

 中日本高速道路株式会社の北村さん、吉田さん、大野さん
北村さん、吉田さん、大野さん

中日本高速道路株式会社(以下、 NEXCO中日本)は、女性の活躍推進を重要課題の一つとして位置づけ、将来の女性管理職の登用拡大を見据えて女性総合基幹職の積極的な採用に取り組んでいます。 2018年の女性採用比率は44%。現在、女性社員331人中227人は、基幹職として総務、経営企画などのコーポレート部門、技術・建設部門、保全企画部門、支社や保全・サービスセンターなどの各部署で活躍しています。

社員のニーズに合わせた制度

NEXCO中日本には、法定を上回る育児休業制度や介護休業制度、男性社員の育児休業の取得促進などライフステージに応じた仕事と家庭の両立を支援する制度があります。現在、21人が育児休業を、34人が短時間勤務制度を利用しています。2017年度からは、社員の声をもとにジョブリターン制度や配偶者海外同行休業制度などを導入し、女性が働きやすい社内制度の充実が図られています。 女性社員で構成される「女性が働きやすい職場推進会議」では、改善提案などを通して、会社の担い手として期待される女性社員が出産や育児などのライフイベント後も働き続けられる環境づくりを進めています。社内の制度をまとめた「育児のための制度ブック」や女性用作業服のリニューアルなどが活動の中から生まれました。

社内の制度をまとめた「育児のための制度ブック」

社員の提案から生まれた「プレミアムトイレ」

新東名のサービスエリア(SA)、NEOPASA駿河湾沼津(上り)の2階にあるトイレは、「お姫様トイレ」と呼ばれ話題になっています。このトイレは、女性社員や若手社員で構成されたプロジェクトチームの提案したコンセプト「必ず寄りたい、見たい、誰かに話したくなるような場所」に基づき誕生しました。

社員の提案から生まれた「プレミアムトイレ」

NEXCO中日本では、快適で使いやすいSAやパーキングエリア(PA)の整備に取り組んでいます。小田原保全・サービスセンター管内にあるPAのトイレ改修工事でも、女性やファミリー層などいろいろな社員が集まってワーキングをしています。また、上郷SA(下り)に作られた室内遊園地「yukids」は、長距離移動で退屈する子供達の気分転換ができるとともに、一般道からも入れるので周辺住民も遊べる施設となっています。利用者の立場になって施設やサービスを考える時には様々な社員の意見を聞く機会が多いそうです。


女性初の所長

女性の管理職は現在社内に7人。そのうちの1人が2017年4月に、 NEXCO3社で初の女性所長となった小田原保全・サービスセンターの吉田陽子所長です。
 小田原保全・サービスセンターは、1969年に開設され、地域とともに歩んできた事務所です。社員29人及びグループ社員222名の体制で小田原厚木道路と西湘バイパスの維持管理をしています。「安全で快適な道路を提供することが私たちの使命です。現場を守るには、全員の連携と協力が大切です。そのためにも、一人ひとりが思いや気づきを伝えられる環境を整えていきたいと思っています」と吉田所長。「この職場は3割が女性で、みんなとても元気で、積極的。社員同士のコミュニケーションも良好です。個性の尊重や思いやりが、組織の強みになっていると感じています。」

リニューアルプロジェクトも始動

管内2つの路線は開通から40年以上が経過して、老朽化が進行していることから、大規模更新・修繕事業が始まっています。2018年度には、小田原厚木道路の川端高架橋(上り線)で昼夜連続・対面通行規制によるコンクリート床版の取り替え工事が行われました。これは、NEXCO3社で取り組んでいる高速道路リニューアルプロジェクトの一環です。
 現場は、道路と住宅が近いため、工事の際は、地域の安全や環境にも細心の注意を払いました。
 一方、西湘バイパスは風光明媚な海沿いの道路であるがゆえに塩分や波の影響を大きく受けます。「台風による高波災害への対応には苦労がありますが、事務所の団結力の源になっています。」と吉田所長。また、地域の役に立ちたいということで、観光や漁業など小田原ブランドのPRなどでも、地元との連携を進めているということです。

住宅地と近接する川端高架橋
住宅地と近接する川端高架橋
高波の影響でPAや本線が被災することも(2017年10月 台風21号接近時
の様子@西湘PA)
高波の影響でPAや本線が被災することも(2017年10月 台風21号接近時
の様子@西湘PA)
緊急時は防災対策室に社員が集結。
道路各所から被災状況が対策室に
伝えられる。
緊急時は防災対策室に社員が集結。
道路各所から被災状況が対策室に
伝えられる。

ドラマがきっかけで土木の世界へ

小田原保全・サービスセンター更新工事担当の大野優華さんは、入社2年目の土木技術者です。入社後2カ月間は本社でOJTを受け、 2017年6月に小田原保全・サービスセンターに赴任しました。主に、リニューアルプロジェクトの一つである海からの塩分等で劣化した橋りょうの塩害対策工事を担当しています。「桁や床版の塩分を電気の力で除去する脱塩工法を用いて、劣化の進行を抑えるものです。他にものり面やトンネルの補強工事などもあります」。「赴任してから発注準備を進めており、約1年で広告、入札というスケジュールで進めていました。みなさんに助けていただきながら積算や図書の準備をして、入札してもらえた時にはとても嬉しかったです」と大野さん。地域の関係者や国、自治体と協議をすることも多く「周りの方との交渉も含めて業務を進めていけるようになりたいと思います。発注者としての責任も考えなければいけないですし、地元の方からご理解いただくことも必要です」と仕事への意気込みを話してくれました。
 大野さんが土木の仕事を選んだ理由は「大学受験の時に『フリーター、家を買う。』というドラマで、女優の香里奈さんがゼネコンの土木技術者として橋をつくる役を演じているのを見て土木学科に進みました。高速道路を作ったり、管理したりする仕事がしたいという思いがあり、NEXCO中日本に入社しました」。「あのドラマのロケ地は新東名の現場ですよ。いいリクルートができてよかった」と吉田所長も思わず笑顔に。

大野さん
大野さん
北村さん
北村さん

大学で学んだことを活かしたい

現在、中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京の小田原道路事務所へ出向中の北村彩菜さんは入社3年目の土木技術者です。入社して小田原保全・サービスセンターで2年3カ月間維持修繕・点検業務を経験し、今は実際に現地へ行って点検する日々を送っています。「赴任当初は周辺住民の方から意見をいただいても同僚の方に頼ることが多かったのですが、ある草刈依頼の時に自分が担当として現場確認に行くことに。初めての対応にとても緊張しましたが、直接お話を聞きに行ったことで、どのように対応するべきか対象範囲などがわかったので、それからは連絡があるとすぐに現場確認に行っています」と、現場確認の大切さを学んだエピソードを話してくれました。
 今は保全や建設といった、現場で行う仕事をたくさん経験し「いずれは大学時代から希望している渋滞対策の業務に携われるようになりたいです」と北村さん。


女性であることは個性の一つ

中日本高速道路株式会社 東京支社 小田原保全・サービスセンター所長
吉田 陽子

地域や国の発展に貢献する高速道路に魅力を感じ、日本道路公団に入社。2005年の民営化時に日本高速道路保有・債務返済機構に出向し、中日本高速道路に戻ってからは、人事部でダイバーシティ推進の制度づくりにも携わりました。この時は夫と二人の娘を神奈川に残して名古屋に単身赴任しました。大阪の両親が私の自宅近くに引っ越してくれるなど家族の理解とサポートでチャレンジできました。

中日本高速道路株式会社 東京支社 小田原保全・サービスセンター所長
 吉田 陽子

高速道路機構は国や高速道路会社など様々な組織からの出向者で構成される組織ですが、当時の上司から「あなたの強みは、他の人が何を知りたいかをうまく捉えて、関係者から答えを引き出す橋渡しができること」と言っていただいたことが、大きな支えになりました。所長としても、そういう役割を大切にしています。
 入社当時は、会議や研修ではいつも紅一点で、女性というカテゴリーを背負っているような気持ちを持つことがありました。民営化後は会社も女性の採用に力を入れて、現場の第一線にも女性社員がいるのが当たり前になっています。企業や行政にも女性のリーダーが増えています。社会でも、社内でも、性別は個性の一つで、それ以上でもそれ以下でもなく、自然に受け入れられるようになってきたと感じています。


チームひまわり 現場レポート

今回インタビューをさせていただいた吉田さんは、‘何でも相談できる頼れる上司’という印象を受けました。以前、上司から「聞く力がある」と言われた吉田さん。それ以来、コミュニケーションを大切にしており、何でも話せる環境づくりを心がけているそうで、男女問わず頼られる存在なのではないかと感じました。

「入社当時は、会議や研修ではいつも紅一点で、女性というカテゴリーを背負っているような気持ちを持つことがあった」そうですが、現在は採用の3割程が女性で女性の活躍する場が増えています。いまや「性別は個性」であり、男社会であった建設業界がダイバーシティ化し、時代とともに変化しているのだと感じました。また、ドラマがきっかけでこの業界に入った入社2年目の大野さんにもお話を伺うことができ、「実際に建設物価を使って積算し、入札してもらった」という話がとても印象的でした。自分が調査した結果が様々なところ使用されていることを実感でき、身の引き締まる思いでした。次回は当会で実施した女性活躍に関するアンケートの集計結果を掲載する予定です。お楽しみに!

チームひまわり 現場レポート 市野

市野