さらに女性が輝くための国交省の取り組み
国土交通省 大臣官房 技術調査課 課長補佐 竹下 正一
はじめに
平成26年8月22日、太田国土交通大臣と建設業団体のトップが会談を行い、「5年以内の女性倍増」を目標に掲げる「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」(以下、「行動計画」という)を官民共同で策定しました。この行動計画では、「女性の活躍が、更なる女性の活躍を生む『好循環』へ導く」とし ており、策定を受けて、行政も、建設業界も、女性活躍の推進を目指し、様々な取組を展開しています。
本稿では、行動計画の内容及び行動計画を踏まえた国土交通省の取組について紹介します。
女性活躍の現状と取組の背景
建設業の現場で活躍する女性は、「労働力調査(平成24年総務省統計局)」によると、技術者約1万人、技能者約9万人の計約10万人であり、技術者・技能者全体に占める女性の割合は約3%の水準となっています。
建設業の技能者数が最大だった平成9年頃には、女性の割合は約6%の水準でしたが、建設投資の減少による競争激化等によって、その割合は、男性の減少割合と比較しても大きく減少しています。
一方、建設業は、従事者の高齢化が進行し、若年入職者が減少するという構造的な問題に直面しており、技術や技能に優れた担い手の育成・確保が課題となっています。建設業で活躍する女性の技術者・技能者が増えることは、こうした問題にも相応の効果をもたらすものと考えています。例えば、女性が活躍することで、長時間労働等、これまで解決することができなかった様々な問題についても工夫が生まれ、効率的でより快適な職場環境の創出につながることが期待されます。すなわち、これまで以上にいきいきと女性が活躍できることは、男女を問わず誰もが働きやすくなることを意味し、業界全体にも新たな活力や刺激をもたらすことが期待できます。
性別や年齢を問わず、意欲ある担い手の育成・確保に繋げるため、女性の活躍と存在感をこれまでにない水準に引き上げることにより、魅力ある建設業にしていくことが必要です。
行動計画のポイント
このような認識のもと、平成26年3月20日の日本建設業連合会による「女性技能労働者活用のためのアクションプラン」の策定を皮切りに、建設業界の女性活躍への取組がスタートしました。平成26年4月24日には、もっと女性が活躍できる建設業を目指して、建設業への女性の入職促進や就労継続に向けた環境整備を官民挙げて推進していくため、太田大臣と建設業5団体のトップが会談を行い、次の三点を内容とする申し合わせが行われました。
●女性の担い手確保を、建設業の国内人材育成・確保策の柱のひとつに位置付ける
●女性技術者・技能労働者の5年以内倍増を目指す
●上記目標を達成するため、官民挙げたアクションプラン「もっと女性が活躍できる行動計画」を夏頃までに策定する
この申し合わせを受け、国土交通省や建設業界は、行動計画策定に向け、女性活躍の考え方や具体の取組等について幅広い検討を開始しました。そして、「建設業界は業界を挙げて女性の更なる活躍を歓迎し、もっと女性が活躍できる産業に生まれ変わる」との決意のもと、平成26年8月22日、太田大臣と5団体トップが4月以来となる会談を行い、女性の更なる活躍を目指したアクションプランとしての行動計画を策定しました。
女性が活躍できる建設業を目指すためには、建設業で働く意欲のある女性が増えていくことが重要であることはもちろんですが、加えて、女性を受け入れる企業や業界、更には、社会の意識や取組が抜本的に変わらなければなりません。また、実際に、建設業への女性の入職や参画が進まなければ、企業や業界、社会の意識も変わっていかないと考えられます。
まずは、企業や業界、社会を挙げて、「女性がもっと活躍できる建設業を目指すことは、男女問わず働きやすい産業になること」という意識を共有した上で環境の改善に努め、女性の更なる活躍を推進することが必要です。その結果、女性をはじめ、誰もが働きやすく活躍できる環境が整えば、建設業はより魅力的な産業となり、企業や業界の活性化に繋がる。そのような変化によって、入職する女性や活躍する女性が更に増えていくという好循環が生まれる。こうした考え方のもとで行動計画は策定されています。
行動計画は、建設業界を挙げて女性の更なる活躍を考えるというメッセージとともに、「女性活躍を建設業の国内人材育成・確保策のひとつに位置づけ、官民一体となった取組をスタートすること」、「官民挙げた目標として、女性技術者・技能者の5年以内倍増を目指すこと」を柱としています。
行動計画に位置づけられている女性活躍のための具体的戦略や取組については、①建設業の門戸をたたき、入ってもらう「入職促進」、 ②入職した人が継続して働き続ける「就労継続」、③やりがいをもって、いきいきと働く「更なる活躍とスキルアップ」、の3つのステージにおける取組とともに、④建設業における女性の活躍の姿を広く発信する「情報発信」を柱に掲げています。
なお、行動計画では、「自らのできることから行動」するという意味合いで、敢えて(行政・業界等の)誰がどの取組を担うかという区別を設けていません。現段階において、目標設定、先進的な取組分野の共有、環境整備等、行政、業界団体や企業はそれぞれできることから随時取り組むことで、国土交通省及び業界全体として女性倍増を目指していくこととしています。行動計画の具体の内容は、例えば、以下の通りです。
① 入職促進「建設業に入職する女性を増やす」
建設業で活躍する女性を増加させるには、まず業界に就職する者、つまり、入職者を増やすことが必要です。
従来、建設業は、環境的にも体力的にも男社会のイメージが強く、雇用する側と入職前の学生側の双方において、女性が活躍するのは困難というイメージを持たれていたことは否めません。そのため、業界や企業の側では、女性の採用・登用に関する目標を設定する等、積極的な取組によって、建設業界として女性を受け入れるというメッセージを明確に発信することが大切です。行政にはそのための環境整備が求められます。
こうした動きに呼応する形で、建設業にチャレンジしたい、あるいは、建設業で活躍したいと希望する女性の裾野を広げていくことが必要です。
② 就労継続「働きつづけられる職場環境をつくる」
入職した女性が働き続け、定着するためには、現場の労働環境の整備や、家庭との両立を実現できる環境整備が必要です。特に、共働きの世帯や子育て・介護を必要とする家庭環境でも働き続けることのできる環境を整備し、性別を問わず、個々のライフスタイルに合わせた働き方が実現できるようになることが望ましい姿です。
言い換えれば、育児や介護をしながら働く等、多様な働き方ができる現場の環境づくりを目指して、取組を進める必要があります。
③ 更なる活躍とスキルアップ「女性が更に活躍しスキルアップできる環境を整える」
建設業で就労継続する女性が、やりがいを感じながらいきいきと活躍するためには、「働き続けられる」という基本的な労働環境整備に止まることなく、更に、登用や技術及び経験の向上等、女性が意欲や充実感を高めることのできる環境を整備する必要があります。
④ 情報発信「建設業での女性の活躍の姿を広く社会に発信する」
「入職促進」、「就労継続」、「更なる活躍とスキルアップ」のそれぞれを推進していく上で、官民挙げた戦略的広報等の情報発信が極めて重要です。例えば、女性の活躍に向けた取組やいきいきと現場で活躍している女性を数多く紹介し、女性が活躍できるフィールドが社会の目に触れる機会を増やすことが必要です。
直轄工事における取組
行動計画の策定を受け、国土交通省としては、主に以下のような取組を実施しています。
① 女性技術者の登用を促すモデル工事の実施
女性技術者を工事現場の主任・管理技術者や担当技術者として配置することで意欲と充実感を高め、その能力を生かす取組として、平成26年度から国土交通省直轄工事において女性の登用を促すモデル工事の試行を実施しています。
モデル工事においては、予定技術者として女性の配置を入札参加資格要件に設定し、当該技術者が産休や育休を取得していた場合には、技術者の過去の工事実績の評価期間からその期間を控除して評価を実施することとしています。
モデル工事は、平成27年7月1日時点で、契約済みの工事が12件、公告中の工事が2件あります。これらのモデル工事は、工事完成後フォローアップを実施していくとともに今後の取組に反映していく予定です。
② トイレをはじめとした現場環境の更なる改善
女性技術者も工事現場で活躍できる場を創出するためには、現場環境の更なる改善や魅力ある現場の創出等、女性も働きやすい就労環境の整備が不可欠です。そのため、女性の勤務に必要なトイレや更衣室等のハード施設の設置費用については、協議により実績変更を行うとともに、仕様・積算基準の検討を始める等、積算上で配慮する取組を進めています。
また、平成27年6月には、現場におけるトイレの環境整備に資するよう具体的な事例を紹介する「建設現場における仮設トイレの事例集」を作成し、ホームページ等で情報発信を行っています。
更に、有村女性活躍担当大臣の下に設置された「暮らしの質」向上検討会における取りまとめ結果を受け、本年6月12日、国土交通省に「女性が輝く社会づくりにつながるトイレ等の環境整備・利用の在り方に関する協議会」が設置されました。この中では、「女性の活躍が期待される分野」でのトイレの充実という観点から建設業についても対象となっており、業界団体とともに関係課(技術調査課、建設業課)も協議会メンバーとして参画しています。
引き続き地方整備局等と連携を図りながら、具体的な施設の仕様について検討するなど、女性技術者も働きやすい現場の環境づくりに向けた取組を進めていく予定です。
建設業界全体としても、行動計画の策定を契機に女性活躍の機運の高まりがみられ、今後、官民一体となって具体的に現場を変えていくステージとして、全国で様々な取組が行われ始めています。
応援のトップメッセージと昨今の政府の取組
行動計画では、女性活躍に関する組織トップが発信するメッセージの重要性が位置づけられています。そこで、行政としても、建設業における女性活躍をトップメッセージの形で積極的に応援しています。
国土交通省においては、行動計画の策定に先立ち、平成26年8月20日、太田大臣が、女性技術者が活躍する東京外郭環状道路の千葉県区間を視察しました。工事現場で女性技術者から作業状況の説明を受けた大臣は、激励した後、現場で働く女性15人(国土交通省職員、技術者、技能者)とトイレや更衣室等、女性が働きやすい現場環境について意見交換を行いました。
また、平成26年9月9日には、大手建設会社で初となる女性現場所長と左官業で活躍する女性が、安倍首相を表敬訪問し、激励のお言葉を頂きました。更に、本年6月に策定された「『日本再興戦略』改訂2015」や「経済財政運営と改革の基本方針2015~経済再生なくして財政健全化なし~」においては、6月26日に安倍首相をトップとした「すべての女性が輝く社会づくり 本部」で決定された「女性活躍加速のための重点方針2015」に基づき女性活躍推進を加速化していくとしているところです。この重点方針2015においては、特に理工系人材等の育成や、リーダーとしての女性の参画、女性の活躍が少なかった分野での活躍推進に取り組むこととされており、対象分野として建設業も位置づけられており、政府一丸となった取組が求められています。
おわりに
女性活躍の更なる推進は、建設業従事者の処遇改善の徹底や若手の早期活躍の推進、将来を見通すことのできる環境整備や教育訓練の充実強化はもとより、計画的な休暇取得に向けた適正工期の設定や工程管理等、「社会資本整備の生産管理システム」の省力化・効率化・高度化を目指す取組とも、密接に関連しています。
その意味では、建設業における人材の育成・確保の観点から、男女の違いに関わらず必要とされているものであり、建設産業活性化会議において、オリンピック・パラリンピック東京大会が 開催される2020年の後も見据え、中長期的な担い手不足に対し、官民一体で総合的な対策が講じられているところです。
女性活躍の推進は、男性も含め、だれもが働きやすい建設業界の実現を目指す取組です。しかし、それはようやく始まったばかりです。国土交通省では、建設業団体等と連携をとりながら、5年倍増の目標達成に向け、全力で取り組んでいく所存です。
当調査会では「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」を立ち上げ、女性職員を中心とした愛称“チームひまわり”を結成し、8月号から関連する情報を掲載しています。9月号は、国土交通省の取組を掲載しました。10月号は再び現場レポートを掲載予定です。