建設物価調査会

建設物価2017年11月号

居心地のよいオフィスと着心地のよい作業服で職場環境を改善 由井電気工業株式会社(株式会社美働)を訪ねて

「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」

当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心としたプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第22回目は、由井電気工業株式会社(株式会社美働)を紹介します。


「人材の確保こそが建設業での成長の要。そのために正確さや気づきに長けている女性を積極的に採用しようと考えました。今まで建設業に関心を持っていなかった女性にいかに興味を持ってもらうか。そのために、女性が働きやすい職場環境を整えようと考えました。」

女性を積極的に採用している由井電気工業株式会社の由井健太郎代表取締役にチームひまわりがインタビューを行いました。

女性を積極的に採用するようになったきっかけ

全社員のうち約4割が女性です。一昔前の建設業の営業といえば男性が当たり前でしたが、その中で女性に向いている仕事はないかと考えた時に、意外と女性の方が向いている仕事が多いと気づきました。はじめは男性の営業に営業補佐という形で女性を同行させていましたが、そのうち営業のノウハウを吸収し一人前の営業担当になりました。また、オフィスで腰を据えて黙々と行う作業は女性のほうが向いていると思い、積算業務に女性を配属させたところ、細やかに業務をこなしています。このように補佐的業務を行っていた女性達が今や前線で活躍するようになりました。

作業現場となる個人宅に訪問する女性社員
作業現場となる個人宅に訪問する女性社員
由井健太郎 代表取締役
由井健太郎 代表取締役

適材適所に女性を配置することが、業務の効率化につながることに気づき、女性を積極的に採用することにしました。しかし、建設業の門をたたく女性が増えないことには採用したくてもできません。それが今の建設業の課題と感じ、まずは女性が居心地良く、働きやすい環境づくりを実践しています。

また、適材適所の人員配置という観点から現場や業務内容ごとに、男性社員と女性社員の得意分野と不得意分野をそれぞれ互いにカバーできるような業務の割り振りを心がけています。朝が早く夜も遅くまでかかる仕事や、スケジュールを自分たちで組める仕事、様々ありますが、効率良く業務分担をして社員一人一人の負担が少なくなるようにしています。

居心地の良いオフィスに

女性社員が増えていくなかで、社員から意見を募って昨年事務所を改装しました。一番多かった要望が、「メルヘンチックにしたい」でした。このコンセプトを元に、照明や壁紙を変えたところ、職場の雰囲気ががらりと変わり、社員からの反応も上々です。

メルヘンチックな事務所入口とオフィス内部
メルヘンチックな事務所入口とオフィス内部
㈱美働の女性用作業服カタログ
㈱美働の女性用作業服カタログ

また、女性社員が出産したことをきっかけに、会議室を改装してオフィス内に事業所内保育所を開設し、現在は2名が利用しています。このことで、将来出産を経ても仕事を続けるという選択肢を持てるようになりました。実はここで働く保育士は、毎日子供の面倒を見るだけではなく、日によっては他の社員と同じように一般事務もこなす社員なのです。ひとつの業務だけこなすよりも飽きがこず、また、人材育成という観点からも様々な仕事を任せたほうが広く知識を吸収できることから、とても有意と考えています。

ユニフォームもオシャレに、カッコよく

現場のパトロールを行っていたときに、女性社員が着ていた男性用のダボダボの作業着を見て、率直に恰好悪いと思いました。「この格好ではコンビニにも入れない。」という女性社員の意見もあり、オシャレでカッコいいユニフォームづくりに着手しました。

販売されている作業着をもとに、女性用に仕立てても女性を満足さ

せるようなものはできないと思い、アパレルデザイナー、アートディレクターと共同でゼロから製作を行いました。女性社員の意見を吸い上げて制作した、機能性にこだわったオシャレで気兼ねなく、電車に乗ったり店に入ったりできる作業着。とは言っても、帯電防止策を講じる等、作業着として決められた構造・素材があるのでそこは所管庁と相談しながら進めていきました。
 結果、出来上がった作業着は女性社員が毎日着用しています。この作業着を一般にも知ってもらうため、作業着メーカー【㈱美働】を立ち上げました。評判は上々で、現在設計事務所や電気工事業社等数十社で導入してもらっています。また、デザインも増やしており、今後は男性用のユニフォームも作成予定です。

会議室を改装した事業所内保育所
会議室を改装した事業所内保育所
事務と保育をかけ持つ女性社員
事務と保育をかけ持つ女性社員

女性は男性用の小さいサイズの作業着を、体形が合わなくても仕方なく着ているのが現状です。気持ちよく、自信を持って働くための環境整備の一環として、女性用作業着の開発は建設業全体で考えていかなくてはいけない問題と感じています。しかし、誰かがどこかで声を上げないと問題として取り上げられることもありません。この作業着開発に着手したのは、その問題提起の一端を担えたらという思いもありました。

作業着

3Kからの脱却を目指して

建設業は「きつい」、「汚い」、「危険」のいわゆる「3K」の業種というイメージが定着しており、今も払しょくできていないと思います。そのイメージを変え、スタイリッシュで恰好いい、性別を問わず誰もが働きたくなる業界に変えていくことが使命と感じています。ちょっとしたことを実践するだけで業界全体が変わるきっかけになります。ただ、誰かが行動をおこさないことには変わるものも変わりません。女性の積極採用、女性用作業服の開発、オフィス改善等、自分たちの取り組みを受けて他社が後に続いてくれればと思います。女性が働きやすい環境作りを通して、建設業の現状を打開するような動きが社会に生まれ、業界が盛り上がることを切に願っています。


チームひまわり 現場レポート

由井社長に色んな話を伺っている際にふと、「こんなに女性優遇な環境で、男性社員はどう感じているんだろう」と思い、社内の様子を聞いてみました。女性が現場に出ることに対して最初は、「男性の仕事場を取られる」と歓迎しない声もあったそうですが、記事にもある通り、「適材適所での人員配置により、男女が互いにカバーしながらうまく業務が回っている」と、今ではすっかり好印象だそうです。

稲村さん

また、「女性ばかりがチヤホヤされて、男性から不満が出ないか」と聞いたところ、「男性限定の社員旅行を企画した り、何か溜まっていそうな時は自分から率先して飲みに誘ったりします。」と、きめ細やかな気配りエピソードに脱帽するばかりでした。一方で、同業社がまだ手を付けていない女性用作業服の開発や事業所内に保育室を設けるなど大胆な社長の行動力に驚くとともに、私もこの会社で働きたいと思ってしまいました。社長の実践された取り組みが他の企業にも広がり、建設業界が少しずつ良くなっていくことを願っています。次号も是非ご覧ください。

稲村