建設物価調査会

建設物価2020年5月号

作業は安全が最優先!近隣への気配りを大切に
メトロ銀座線浅草駅作業所を訪ねて

ダイバーシティや働き方改革を推進

 鉄道や道路などのインフラ整備からオフィスビルやマンションの建設など、さまざまな分野を手掛けている総合建設会社の熊谷組。社員2,497人のうち女性は348人。105人の女性技術系職員が全国で活躍しています。
 熊谷組では社員の多様性を尊重し、ダイバーシティや働きかた改革を推進しています。制度や職場環境の整備、メンター制度や個人の要望を踏まえたキャリアプランなど、女性が働きやすい支援体制も整っています。
 誰もがイキイキ働ける環境づくり実現を目指して、全支店ダイバーシティ推進担当者会議を実施。女性活躍の推進では、2016年に女性活躍推進法に基づく行動計画を公表し、職場風土の改善、女性の採用や職域の拡大、継続就労支援、女性管理職の増加に取り組んでいます。また全社女性交流会やエリア職研修なども開催しています。2018年には、女性社員の発案で生まれた国際社会貢献としての学校建設プロジェクト「KUMAGAI STARPROJECT」が 日建連第3回けんせつ小町活躍推進表彰で優秀賞を受賞、また、この3月には、経済産業省・東京証券取引所が選定する令和元年度「なでしこ銘柄」に選定されました。「今では、けんせつ小町がいる毎日が当たり前になっています」という熊谷組広報の方の言葉が印象的でした。

地下鉄工事の現場で働く女性技術者

 国内外の観光客が数多く訪れる東京・浅草で行われている地下鉄工事。地下鉄の輸送力や利便性の強化、安全輸送化を図ることが工事の目的です。現在、地下鉄の折り返し線新設や下水道管移設工事等土木工事と変電所や換気設備の新設等建築工事、合わせて全3カ所を担う現場事務所には派遣社員を含め19人がいて、そのうちの4人が女性です。技術系職員の長谷川愛紗さんと加来千恵子さんにお話をうかがいました。

熊谷組のキャラクター「くま所長」の看板の前で。㈱熊谷組首都圏支店 銀座線浅草駅作業所の長谷川愛紗さん(左)と加来千恵子さん(右)

現在の仕事について教えてください

長谷川さん
私は入社3 年目で、地下鉄の折り返し線工事をメインに担当しています。週ごとに昼夜勤務で現場に出ています。現場の安全管理や日々の仕事を進めるうえでの打ち合わせ、材料や車両の手配などをしています。

地下鉄折り返し線新設工事を担当している長谷川さん
地下鉄折り返し線の新設工事現場。開削工法により国道直下に函渠を構築

加来さん
入社1年目の新入社員です。2019年5月中旬からこの現場で作業をしています。当初は土木工事担当でしたが、10月からは建築工事に携わっています。現在は基礎となるコンクリート杭の打設作業に関連する手配や安全面など、現場を中心に担当しています。

換気設備新設工事を担当している加来さん
換気設備の新設工事現場
変電所の新設工事現場
下水道管の移設工事現場

仕事で工夫していることや心がけていることは?

長谷川さん
観光スポットとして国内外からの観光客の方も多く、安全を最優先しています。場所柄、レンタル着物を楽しんでいる方も多いので飛散には注意が必要です。工事箇所も多く、昼も夜も工事をしていますので、近隣の方のご意見を聞き、現場での対応をしています。騒音振動計なども設置して日々、工事の音もチェックしています。また、近隣には問屋が多いのですが、作業帯を張っていると出荷の車などが駐停車できないので、車の出入りを事前に確認して調整しています。

加来さん
マンションの方から介護車両を近くにつけたいので、常設作業帯の位置を少し変えてもらえないかといったお話をいただくこともあります。日々、近隣の方に対応していくことが求められます。

長谷川さん
朝礼後に全職員で工事区間を清掃しています。近隣の方にはしっかり挨拶することを心がけています。三社祭には職員も参加しました。顔を覚えてもらえると近所の方から声をかけていただけます。普段はお弁当ですが、時々、近隣のレストランに女性メンバーでランチに行きます。

女性ならではの苦労やよかったことは?

長谷川さん
作業員の方が気軽に話しかけてくれます。話しやすさは女性が圧倒的に有利だと思います。女性が増えてきたとはいえ、まだまだ少ないので「珍しいね」といわれます。女性だからというわけではありませんが、末端冷え性なので、冬期の夜勤の時は、手が動かなくなることが悩みです。

加来さん
女性だからという苦労は特にありません。

建設業界に入ったきっかけは?

長谷川さん
高校生の時、街を歩いている時に工事現場を見て憧れを持ちました。大学時代には土木工学を専攻し、壮大な橋に興味を持ちました。新入社員で配属されてからずっとこの現場にいますが、今後はシールド工事など、いろいろな現場を経験してみたいと思っています。

加来さん
物理や数学が得意だったので、それらを学べる学科ということで建設工学を専攻しました。高校生の時は、土木に進むことは考えていませんでしたが、大学生の時、現場見学やインターンシップなど就職活動を進めていく上で、この業界に興味を持ちました。自分にあった仕事だと感じています。

実際に建設業界で働いて、どう思いましたか

長谷川さん
新入社員には必ず先輩社員のOJTトレーナーがついてくれます。勉強も兼ねて計算書や課題などを教えてもらいながら取り組んでいます。大学で学んだことも生かせていると感じています。

加来さん
土木から建築の現場に移りましたが、土木の手配関係や発注、事務や掲示物の担当もしています。土木も建築も安全関係は一緒ですが、法令は土木と建築両方を覚えなければならず、たいへんな面もありますが、充実しています。

現在の仕事のやりがいを教えてください

長谷川さん
この現場は人数も多く、3つの現場があるので手配関係にしても話し合いや調整が必要になります。コミュニケーションをとりながら仕事を進めていますが、いろいろな方とお話しできることが楽しみです。

加来さん
少しでも現場が安全かつスムーズに進められた時にはうれしさを感じます。私は会議やパトロールの資料づくりもしていますが、それが早く正確にできた時には「やった!」という達成感があります。

今後の目標を教えてください

長谷川さん
まだまだ知らないこと、できないことが多いので、ひとつひとつ先輩がやっていることをできるようにして、自分の身につけていきたいです。
 今はまだ結婚や子育てについては考えていませんが、女性の先輩の中には、結婚し、子育てをしながら仕事をされている方がいます。女性で現場所長になっている方はまだいないので、将来はそれらを乗り越えて現場所長になることが夢です。

加来さん
知識を増やしていきたいです。現場をしっかり理解した上で、設計に興味があるので、ゆくゆくは設計業務にも携われるようになりたいですね。結婚や出産はまだ考えていませんが、そういう時がきたら考えると思います。今は仕事を頑張ります。

これから建設業に入ってくる女性にひとことお願いします!

長谷川さん
雑誌で取り上げられたり、けんせつ小町などの活動により、女性が現場での仕事に馴染みやすい状況になっています。興味がある方はぜひ飛び込んで欲しいですね。当社だけなく、どこのゼネコンさんも、女性が配属される現場では更衣室なども整備されていて働きやすい環境づくりに配慮されていますよ。

加来さん
やりたいという気持ちがあればぜひ建設業の門を叩いて欲しいと思います。私も働いてみて、新入社員みんなが持つような悩みはもちろんありますが、女性だからといった悩みはないので心配することはありません。


株式会社熊谷組 首都圏支店 銀座線浅草駅作業所
工藤 守 所長にお話を伺いました

【工事概要】※

 本工事は国道6号を昼夜、車線規制をしながら開削工事(約200m)によりトンネルを築造する工事です。これと平行して推進工事(約160m)にて下水管を切回す工事も行うため、開削と非開削の両方でトンネルを構築する現場となっています。
 現場周辺は観光地のため、観光客や近隣住民に配慮しつつ、安全を確保しながら工事を進める必要があり、色々と制約が多いですがまさに「都市土木」という現場です。

【女性技術者へのメッセージ】

 建設業における土木の女性技術者の割合はまだ少ないですが、強い志を持った女性がこの道を選択されている事もあり、女性技術者のポテンシャルは非常に高いと感じます。業務以外でも女性ならではの気配りに度々、感心させられます。
 今後、女性技術者が活躍する機会がもっと増えてくると思われます。女性技術者の皆様は自信を持って色々な事に挑戦し、スキルアップを図って貰えると良いと思います。更なる活躍を期待しています。

※【 発 注 者】 東京地下鉄株式会社
 【工事件名】 ①銀座線浅草駅折返し線延伸に伴う土木工事 ②浅草変電所(仮称)新設建築・土木工事 ③花川戸ビル(仮称)新設建築工事


チームひまわり 現場レポート

 浅草にある今回の現場を訪れて、大きな重機を動かすには狭いところも多く、資材や車両などの出入りがいかに難しいか実感できました。各現場を一つ一つ丁寧に案内してくれた長谷川さんと加来さんは、女性ならではのきめ細かい視点で安全を意識しており、また近隣住民の方々への配慮も素晴らしいと感じました。

 昼夜を問わない工事現場の管理をされているとのことで、苦労も多いのではないかと思っていましたが、お二人とも「女性だから苦労していることはない」とはっきり仰っていた点がとても印象的でした。熊谷組では外部講師を呼んだ女性土木技術者の集まりも定期的に行っているとのことで、女性同士で相談できる環境が整っていることが魅力の一つです。今回の取材で、結婚や出産などの将来のイベントを見据えながらも、仕事において高い目標を掲げているお二人の姿を伝えることで、同じく建設業界で働いている方、学生の職業選択の幅を広げるきっかけになればと思います。

小野