建設物価調査会

建設物価2017年12月号

静岡県建設産業における女性活躍の推進

静岡県 交通基盤部 建設支援局 建設業課 指導契約班 岡田 結美

はじめに

建設業界では、就業者における女性割合が少ないという課題があります。その背景には、力仕事や3Kといった建設業界の旧いイメージが未だ根付いている現状があります。また、女性就業者が少ないが故に、今後進路選択を控えた若い世代が、女性が建設企業で働くことをイメージしづらいことや、企業側においても女性のニーズを訊く機会が少なく人材を生かすノウハウを育てにくいといった悪循環も考えられます。近年、働き方改革が注目され、建設業においても、雇用環境の改善や本県でも先進的に取り組んでいるICT活用工事の推進等によって、そのイメージ払拭や新3K(給料、休暇、希望)の推進を図っているところです。

建設業担い手確保の必要性と静岡県の取組

建設業においては、就業者数の減少、特に現場就業者の高齢化や若年層の減少といった構造的な問題を抱えており、本県においても同様の課題に直面しています。平成26年6月に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」いわゆる品確法が改正され、担い手の確保・育成が、発注者の責務として定められたことで、担い手確保の必要性は業界全体の喫緊の課題として再認識されました。建設業の将来にわたる担い手不足の中で、多様な人材の確保・活用を目指すことは、建設企業が快適な職場環境を実現するための新たな工夫を生み出す効果があり、そうした向上思考の魅力ある業界は、女性に限らず若年層を惹き付けることが期待できます。このような背景の中で、本県では、産・学・官の連携により、女性を含む建設業の人材確保・離職防止に向け、建設業の理解促進を戦略的に図っている他、建設業者団体の入職促進対策や人材育成・離職防止の取組を支援しています。

「産」 ・(一社)静岡県建設業協会
    ・(一社)静岡県建設産業団体連合会

「学」 ・職業訓練法人 全国建設産業教育訓練協会富士教育訓練センター
    ・静岡県工業高等学校長会
    ・静岡県農業高等学校長会
    ・学校法人静岡理工科大学
    ・静岡県教育委員会事務局高校教育課

「官」 ・静岡労働局職業安定部職業対策課
    ・(公社)産業雇用安定センター静岡事務所
    ・経済産業部就業支援局雇用推進課
    ・静岡市建設局土木部技術政策課
    ・交通基盤部管理局政策監
    ・交通基盤部建設支援局建設業課

静岡県建設産業担い手確保・育成対策支援コンソーシアム構成員(平成29年9月末現在)

担い手確保・育成対策支援コンソーシアムの設立

本県では、平成27年5月、「静岡県建設産業担い手確保・育成対策支援コンソーシアム」を設置しました。このコンソーシアムは産・学・官各団体からの委員により構成し、年間複数回の会議を開催しています。県内建設業の担い手確保に向けた諸課題に対する意見交換や各団体の取組情報を共有し、参加機関の取組に随時反映しています。

女性の入職促進に向けた取組

本県では建設業への入職促進対策として、若年層、保護者、教員、女性等、各対象に向けて理解促進の取組を戦略的に実施しています。特に女性の就業対策として、若年層を対象に、建設業で女性が働くことについての理解促進のための現場見学会・出前講座の開催、また建設業に従事する女性に対してのネットワークづくりの支援など、様々な視点から取り組んできました。個々の事例について何点か紹介します。

建設産業担い手確保・離職防止に向けた戦略

「けんせつ小町女子会」

平成28年5月に静岡県建設業協会と連携し、協会の会員企業の女性社員たちによる女子会の開催を支援しました。建設業に従事する女性は、職場に女性が少ないがゆえの情報不足や女性特有の悩みを相談できる相手が少ないという声を耳にします。そうした情報不足が入職を妨げる要因の一つとなっていると考え、情報交換の場を提供どの話も出て、元気をもらえた」という声もあり非常に好評で、行政としては、建設企業で働く女性の生の声を訊く貴重な機会になりました。また、女子会を機に連絡先を交換したという参加者もおり、今後の継続したつながりを持つ、きっかけづくりになったと思います。

女子会実施の様子
女子会実施の様子

「県立科学技術高校OGが活躍する女性技術者による現場見学会」

平成28年2月に、情報通信技術を活用した建設工事で重機オペレーターとして女性技術者が活躍する現場見学会を開催しました。県立科学技術高校の2年生40名が参加し、同校出身の女性技術者が重機を乗りこなし現場で活躍する姿や建設業で働く中でのやりがいの話等を通して、最新技術を活用しながら建設業で女性が活躍する姿を発信しました。参加した女子生徒からは、現場女性技術者に憧れる声や「女性も重機を動かして現場に貢献できると分かった」という感想があり、建設業で女性が働くイメージを参加者に伝えることできました。

女性技術者が生徒からの質問に答える様子
女性技術者が生徒からの質問に答える様子
生徒が重機へ試乗する様子
生徒が重機へ試乗する様子

さらに、同見学会の成果として、高校生が見学会への参加をきっかけに、当建設企業に就職した事例がありました。現在は憧れている先輩技術者と共に現場で働き、地域に貢献しています。見学会の参加が、参加生徒にとっては実際の就業につながる貴重な経験になり、建設企業においても女性が働きやすい職場環境をPRする機会として有意義であるといえます。

「けんせつ小町出前講座」

平成28年5月に県立藤枝北高校で女性技術者による出前講座を開催しました。普段建設業に関わりの少ない普通高校の生徒1、2年生18名が出席しました。講師には建設マスターであり、職業訓練法人富士教育訓練センター講師の女性技術者を招き、建設業の魅力を伝えることに加え、技術者としてのやりがいとプライドを持った女性技術者の姿を発信しました。

出前講座実施の様子
出前講座実施の様子

また、当事例に加え、前述した女子会、現場見学会の各事例については、新聞・テレビ等メディアに多く掲載されており、女性活躍に向けた取組が広く住民の目に触れることで、業界のイメージアップや女性が活躍できる建設産業イメージの発信の効果が期待できます。

女性技術者登用型入札

本県では入札・契約制度において、建設産業の担い手確保・育成を図るための改善を実施しており、女性活躍の推進の取組として、「女性技術者登用型入札」の試行に取り組んでいます。「女性技術者登用型入札」とは、配置予定技術者が女性であることや、女性ならではの視点・感性を活かすことが可能と考えられる工事(工事施工施設や工事施工箇所に隣接する施設利用者に女性が多い場合)等が要件とされている入札方式です。27年度から本県発注工事において、土日曜日は原則休工とする「休日確保型」、配置する主任技術者を40才以下とする「若手技術者育成型」と共に、「担い手確保型入札」の一環として試行的に取り組んでいます。試行件数としては少ないところですが、発注時期を早めるなどして、こうした方式の活用に取り組んでいます。また、更衣室やトイレなど、女性の配置に係る費用を変更契約で計上できる制度となっており、女性技術者登用型を活用した現場では、女性の現場環境の向上だけでなく、清掃美化が進み全体としての職場環境が向上したとの報告もありました。

企業への働きかけとイメージの発信

その他、建設企業に対する取組として、他分野の経営者が出席する研修会への建設企業経営者の参加や、県内就職希望者向けの男女共同参画を推進する企業説明会への建設企業参加の呼びかけ等を行いました。建設企業において女性が働きやすい職場づくりの推進は企業イメージの向上につながり、また、企業の先進的な取組を紹介することは他企業への刺激やノウハウの拡散の効果があり、業界全体の意識向上につながると考えます。

「静岡どぼくらぶ」による連携

女性活躍については産学官の連携に加え、地域の幅広い住民の理解が重要となります。また、建設業は地域に密接し、将来にわたり地域を支える産業としてその担い手確保は地域住民にとって重要な課題であるため、建設業の重要性を広く県民に認知し、県民を巻き込んで取り組む必要があります。静岡県では平成29年4月に、県民を含め、建設業に関わる様々な主体が連携を図るための枠組みである「静岡どぼくらぶ」を立ち上げました。ロゴや動画の作成など、土木の仕事をPRするツールを作成し、建設企業に自由に活用してもらう等、各団体の建設業のPRを県が支援したり、各主体の連携を県が架け橋となり支援しています。こうした動画を活用した明るい建設業のイメージの発信や、活発な団体間の連携の雰囲気が、建設産業での女性の活躍推進にもつながると考えています。

静岡どぼくらぶ
静岡どぼくらぶ

今後

女性が働きやすい職場環境の構築は、女性に限らず幅広い人材の確保や現就業者の離職防止に密接に繋がり、建設産業全体としての働き方改革を推進していく上での一つの視点として重要です。今後においては、引き続き、施工時期の平準化、社会保険等加入への取組等の入札制度の改善による雇用環境の改善や先端技術の活用等の働き方改革により、若者や女性に魅力ある建設産業の実現を図っていくとともに、コンソーシアムで構築された産学官の連携基盤や、現場見学会等の各取組により蓄積してきたノウハウを生かし、県民全体への建設業の理解促進を効果的に実施していきます。