建設物価調査会

建設物価2016年12月号

建設業における担い手の確保と、女性活躍について(国土交通省 土地・建設産業局 建設市場整備課)

「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」

当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心としたプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第15回目は、国土交通省における建設業の女性活躍についての取組を紹介します。


国土交通省 土地・建設産業局 建設市場整備課 労働資材対策室 労働係長 山田 俊介
国土交通省 土地・建設産業局
建設市場整備課
労働資材対策室 労働係長 山田 俊介

建設業は、住宅や社会資本の整備・維持管理を行い、地域の経済・雇用を支える基幹産業の一つです。本年発生した熊本地震や、阿蘇山の噴火など、相次ぐ大きな被害を伴う災害への対応に際して必要不可欠な産業であり、近年益々その重要性が再認識されて来ていると思います。
 しかしながら、今後、建設業で働く高齢者の大量離職の可能性に直面しており、このままでは深刻な担い手不足が生じる懸念があります。若年者の高い離職率や、人材の獲得がますます厳しさを増す中、中長期的な担い手確保が重要な課題となっています。 また、国全体の労働力人口が減少する中で、将来の建設投資に対応するためには、担い手の確保・育成だけではなく、生産性の向上にも取り組むことが必要です。ここ数年、技能労働者の数は、 安定した建設投資を背景として堅調に推移しており、労働者需給についても現在では均衡しています(国土交通省「建設労働需給調査」)。そのため、現時点においては、全体として技能労働者の不足という状況は見られていません。

 一方、2015年度における技能労働者数約330万人のうち、55歳以上が約112万人と約3分の1を占めており、29歳以下の若者は約36万人と約1割程度にとどまっており、労働者の高齢化は他産業と比べても進行しています。今後、高齢者の大量離職の可能性に直面していることから、中長期的に技能労働者を確保していくことは建設業界全体の重要な課題です。
 技能労働者数が増加傾向を示している2010~15年度における若年層の変動率がそのまま続くと仮定したとしても、コーホート法により将来数を試算したところ、10年後の2025年度の技能労働者数は約286万人となり、現在より約44万人減少することとなります。これは、若手の技能労働者数が増加しても、それを上回る高齢者の離職が生じるためです。建設就業者全体の毎年の新卒採用数が約4万人であるため、約44万人の減少は、既に若年層の入職促進のみで対応できる範囲を超えています。そのため、離職防止、中途採用の拡大、女性活躍、さらには高齢者の活用策など、多面的な施策を進めて行くことが必要です。
 これまで、国の施策としては、社会保険未加入対策や教育訓練の充実等、担い手対策として様々な取組が進められてきており、社会保険加入率の改善に見られるように、成果は現れつつあります。しかしながら、処遇の改善、安定した雇用の確保、若年層の高い離職率、イメージアップやPR戦略の不足、将来のキャリアパスが見通しにくいことや、いわゆる「一人親方」の働き方など、多くの課題があります。
 建設業の将来を支える担い手の入職・定着を促し、育成していくためには、行政・業界が一丸となり、これらの課題に対して対応していくことが必要です。また、担い手確保・育成と並ぶ対策として、技能労働者を抱える企業の生産性を高めるための対策も併せて講じていく必要があります。雇用する側である建設企業においても人材の効率的な活用が図られることで、企業にとって安定的な雇用環境を提供しやすい条件整備を進めていくことが重要です。特に、仕事の繁閑の調整など、単品受注産業としての特性による課題について対策を講じる必要があります。
 他産業との人材獲得競争が厳しさを増す中で、優秀な人材に建設業を選択してもらい、入職・定着を促すためには、安定した雇用、安定した収入、将来に夢と希望を持てるキャリアパスの提示など、処遇・やりがい・将来性といった様々な観点において建設業が他産業よりも魅力的な仕事の場を提供していくことが必要です。また、雇用する側の企業が優秀な技能労働者を積極的に雇用できるよう、人材の効率的な活用が図られやすい環境整備を進め、「人への投資」と「経営のイノベーション」によって人と企業がともに成長する好循環を目指すことが必要です。今年度、国土交通省では中央建設業審議会基本問題小委員会において、こうした取組を通じて、職場・仕事の魅力の向上と生産性向上を促す理想の形の実現を図り、人への投資を柱に成長し、変化に対応し、そして選ばれる産業へとつなげていく『人材投資成長産業』を目指すべきであるという事を取りまとめました。

国土交通省 建設技能労働者の担い手確保・育成施策

その中で、特に女性活躍についても触れられており、もっと女性が活躍できる建設業の実現に向けて、多様な働き方の実現に向けたハード・ソフトの環境整備やイメージアップ戦略・先鋭的プロモーションを複眼的に推進することや、建設企業の経営者層への女性登用のノウハウの提供や女性リーダー層の育成セミナー、女性活躍を推進する他業種横断プラットフォームの展開等を通じた施策を展開することが盛り込まれました。

  国土交通省の女性活躍の施策については、平成26年8月22日に、太田国土交通大臣と建設業5団体のトップが会談を行い、5年以内に女性倍増を目標に掲げた「もっと女性が活躍できる建設業行動計画(以下「行動計画」という。)」を官民共同で策定するところからスタートしました。行動計画では、「女性の活躍が、更なる女性の活躍を生む『好循環』へ導く」としています。建設業の現場で活躍する女性は、「労働力調査(総務省統計局)」によると、平成26年時点で、技術者1万人、技能労働者約9万人の計約10万人であり、技術者・技能労働者全体に占める女性の割合は約3%の水準となっています。建設業の技能者数が最大であった平成9年頃には女性の割合は約6%の水準でしたが、建設投資の減少による競争激化等によって、その割合は男性の減少割合と比較しても大きく減少しています。
 一方で、女性が活躍することで、様々な効果が生まれることは期待できます。例えば長時間労働などこれまで男性だけでは解決できなかった様々な問題についても工夫が生まれ、効率的でより快適な職場環境整備につながります。これまで以上にいきいきと女性が活躍できる建設業をめざすことは、男女問わず誰もが働きやすい業界になることを意味し、業界に新たな活力や刺激をもたらします。性別・年齢問わず意欲ある担い手の育成・確保につなげるため、女性の活躍と存在感をこれまでにない水準に引き上げ、魅力ある建設業にしていく必要があります。
 もっと女性が活躍できる建設業を目指すには、建設業で働く意欲のある女性が増えていくことが重要であることはもちろんですが、加えて、女性を受け入れる企業や業界、さらに、社会の意識や取組が抜本的に変わらなければなりません。また、実際に建設業への女性の入職や参画が進まなければ、企業や業界、社会の意識も変わっていきません。まずは、企業や業界、社会を挙げて「女性がもっと活躍できる建設業を目指すことは、男女問わず働きやすい産業になること」という意識を共有したうえで環境の改善に努め、女性の更なる活躍を推進することが必要です。そして、女性をはじめ、誰もが働きやすく活躍できる環境が整えば、建設業はより魅力的な産業となり、企業や業界の活性化につながります。そういった変化によって、入職する女性や活躍する女性が更に増えていくという好循環に導いていきます。

 女性活躍を主眼に置いているところですが、前に述べたとおり、若年の確保が中長期的な課題となっているため、まず若者に振り返ってもらえるように、という思いを込めて吉本興業グループと契約したところです。
 そのため、京都国際映画祭、日本女子博覧会など、建設業とは関係無いイベントにブース出展を行うとともに、全国各地にある吉本興業の劇場でもチラシを配るなど、普段建設業に関わりの無い方々の目に触れるような広報活動を展開しているところです。
 また、全国に住んでいる吉本興業グループ所属の芸能人を活用し、地域で頑張っている建設業に携わる女性の方々にインタビューなどを行っております。
 これらの取組については随時ホームページにアップしているところですので、ご覧頂ければ幸いです。(http://ouchi-club.com/)

女性の社会進出という言葉が使われるようになってかなりの時間が経ち、働く女性の割合というのは年々増加していると思います。国家公務員の採用状況でも、平成27年度採用において、女性の採用数が全体の31.5%を占める結果となりました。平成28年度も34.5%に伸びており、引き続き女性の採用は進んでいくものと思われます。本省の課室長相当職の割合も堅調に推移しており、現在では女性の管理職も増え、「○○に女性として初めての登用」といった記事を見ることも多くなってきました。ゆくゆくはこのような記事も見られなくなる程、女性の社会進出は進むと思います。
 大事なのは、継続した働きかけと意識改革であり、建設業の女性活躍についても、建設業で働く女性は凄い、という事では無く、建設業で女性が働くのは当たり前、というところまで持って行くことが重要だと思っています。まだまだ道半ばであり、今後も引き続き取り組んで行きます。

建設業における女性活躍応援キャンペーンについて 平成28年度予算事業 国土交通省

上に述べた目的もあり、今年度、国土交通省では建設業の女性活躍の取組として、吉本興業グループに委託し、全国でキャンペーンを展開しています。
 8月に、お笑いタレントのおかずクラブを中心とした記者会見を実施しましたが、その後、メディアからの取材依頼や、キャンペーンの一環として当社を取材して欲しいなどといった声が届き、随時対応中です。