建設物価調査会

建設物価2018年1月号

現場のイメージが和らぐ工事事務所「横浜湘南道路トンネル工事」を訪ねて

西松建設・戸田建設・奥村組のJVで施工する「横浜湘南道路トンネル工事」は、圏央道の一部として、開通すると都心部の通過交通の抑制と流入を分散し、渋滞の緩和による走行時間の短縮、周辺地域の環境改善が期待されます。今回は、この現場で働く西松建設の社員の方々に、清潔感あふれる快適な工事事務所にてお話を伺いました。

立坑深さ40mに設置されたシールドマシン(直径約13.6m)
立坑深さ40mに設置されたシールドマシン(直径約13.6m)
RCセグメントを組み立てながら進む
RCセグメントを組み立てながら進む

色んな立場の4人の女性が活躍

横浜湘南道路トンネル工事の現場では、技術者のタミア トリアンディニさん、林香織さん、事務職の佐藤陽子さん、CADオペレータ担当の村上睦子さんの4名の女性が勤務しています。

訪問者があると工事概要の説明にあたるのがインドネシア出身のタミア トリアンディニさんです。タミアさんはインドネシアの大学で地質工学を学んだあと、2012年に日本の大学院に入学して地盤工学を専攻し、卒業後入社しました。土木は専門用語が多く、覚えるのに苦労した時期もあったそうですが、現在は流ちょうな日本語を話し、見学者が来ると現場の説明をしたり、近隣の小学校に出向いてシールド工事について授業をしたりするなどの実績を積んでいます。「会社の雰囲気や社員の人柄が良く、充実した制度もあるので結婚や出産後も安心して勤められることや、海外での仕事が多いことが当社の魅力の一つと感じています。今はまだ現場には、工期の一部分しか配属されたことがないので、自分が計画の最初の段階から竣工まで携わり、その建造物の完成の姿をいつか見てみたいと思います。」

タミアさんと一緒に働いている林香織さんは入社1年目です。「初めての現場ですが、測量や写真管理などをタミアさんの指示を受けながらこなしています。この現場は、『コミュニケーションの推進』をテーマにしているため、挨拶をしっかりするようにと最初に指導されました。こちらが挨拶をすると作業員さんが話しかけてくれるようになり、しっかりとした信頼関係を築くことができました。今はまだ目の前のことで精一杯ですが、先のことまで見据えて仕事ができるようになりたいです。」

技術者の林香織さん(写真左)とタミア トリアンディニさん(同右)
技術者の林香織さん(写真左)とタミア トリアンディニさん(同右)

タミアさんと林さんの相談相手であり、女子会メンバーでもあるのが事務職の佐藤陽子さんとCADオペレータの村上睦子さんです。「建設系の事務は何社か経験していますが、今まで経験してきた現場と違って工事が進むにつれてスケールが大きい現場だと日々感じています。女性技術者と仕事をするのは初めてですが、現場に女性がいると華があっていいと思います。」(佐藤陽子さん)

「年齢の幅がある女性4名です
が、和気あいあいと楽しくやっていて4人でよく女子会をしています。タミアさんと林さんの2人には技術者としてどんどん頑張ってほしいと思っています。」(村上睦子さん)

今後の建設業を見据える所長の思い

横浜湘南道路トンネル工事事務所の坪井広美所長は、自分が現場責任者として事務所を立ち上げる時には、現場の雰囲気を和らげる事務所を作りたいという思いがありました。

現場で活躍する林さん(写真左)と
タミアさん(同右)
現場で活躍する林さん(写真左)と
タミアさん(同右)

これは30代の頃に勤務していた大阪のシールド工事の現場の経験が活かされています。「当時の上司が工事現場のイメージを変えるため、きれいな外観で、吹き抜けを設けた清潔な現場事務所を作っており、それにならいたいと思いました。そこで、まずは女性技術者の意見が必要だと思い土肥さんに相談しました。」(坪井広美所長)

「坪井所長から『女性技術者が活躍できる、働きやすい現場とはどのような現場か、女性目線での意見を出してほしい。』という申し出を受けて、土木系の女性技術者4~5人でプロジェクトを組み、「女性にも男性にも働きやすい現場環境」について3ケ月ほどかけて意見をまとめ、提案させていただきました。その結果、女性技術者だけでなく誰もが生き生きと働ける理想的な工事事務所が完成しました。」(ダイバーシティ推進課の土肥美絵係長)

坪井所長の思いは、建設業の未来も見据えます。「当社は工事を管理する立場ですが、土を掘ったり、機械を操作したりする作業員の高齢化が進み、若い作業員がいなくなるということに危機感を持っています。当社が環境整備をした現場に魅力を感じて、男女問わずこの業界にたくさんの方が集まってきてほしい。その思いもこの現場に込めました。」

CADオペレータの村上睦子さん(写真左)と事務職の佐藤陽子さん(同右)坪井広美所長(右)
CADオペレータの村上睦子さん(写真左)と事務職の佐藤陽子さん(同右)
坪井広美所長(右)

おしゃれで機能的な工事事務所

そんな所長の思いが詰まった工事事務所に入ると、まず工事現場とは思えない受付が皆さんを迎え入れます。奥に進むと、トイレ、会議室、職務室などの出入り口の扉に、木目の美しさが際立つ引き戸が使用されています。

女性休憩室はおしゃれな美容院の内装を思わせるような広々としたスペースで、オフホワイトのソファ、ガラステーブル、観葉植物などがセンス良く配置されています。その一画には、カーテンで区切られたメイクコーナー、ユニットバス、シャワートイレ、洗濯室などが設けられており、女性が必要と感じる設備がすべて揃っている居心地の良い空間になっています。また、イスラム教徒のタミアさんのために休憩室にはお祈りの部屋も用意しています。「お祈りの部屋は他の業界でもなかなか設置してもらえないと聞きます。お祈りの部屋のほかにも、食事やラマダン時も配慮をしていただいたり、インドネシアへ帰省しやすいようにと長期休暇が取得できやすいローテーションを組んでくださったりと、所長の心配りに感謝しています。(」タミアさん)「休憩室が過ごしやすく居心地が良いため、自宅が近いにもかかわらず仕事後のシャワーや、作業服の洗濯など頻繁に利用しています。」(林さん)

きれいな木目調の工事事務所受付
きれいな木目調の工事事務所受付
清潔感あふれる女性休憩室
清潔感あふれる女性休憩室
人の目を気にせず済むメイクコーナー
人の目を気にせず済むメイクコーナー

西松建設、横浜湘南道路 トンネル工事事務所の取り組み

当社は本格的にダイバーシティに取り組み始めて3年目になります。入社1・2年目の女性技術者が配属された現場を全国まわったり、意識改革研修やダイバーシティマネジメント研修等を実施したりと、職制に沿った取り組みを実施しております。また、女性技術者が入る工事現場にはチェックリストを配布し、女性が困らないように事前に準備をします。当社は女性社員が出産や育児、介護などのライフイベントを迎えても、本人の強い意志と希望があれば、引き続き仕事を継続していけるようその道を開いてあげようと周りの人が動いてくれる風土があります。その先駆けがこの横浜湘南道路トンネル工事事務所の現場です。(土肥美絵係長)

この現場では元請JV、協力会社全ての技術者、技能者を対象に毎月末にプレミアムフライデーを実施しており、現場作業は16:30で終了(協力会社作業員は17時までに全員退場)、職員は17:30に全員退社をしています。協力会社の技能者からも「子供と遊ぶ時間が出来た」など好評です。

ダイバーシティ推進課 土肥美絵係長
ダイバーシティ推進課 土肥美絵係長

また、建設現場では、曜日を決めてノー残業デーを実施するのは現実的に無理なので、「ノー残業デー当番」を決めて、当番になった職員は定時で帰宅することとしています。3階層それぞれ10人一組での輪番制にし、10日に1回ノー残業デー当番が回ってくるようにしています。(坪井広美所長)


チームひまわり 現場レポート

今回はシールドトンネル築造工事の現場を見学しました。こちらの現場では、技術者のタミアさんと林さん、事務職の佐藤さん、CADオペレータの村上さん、4名の女性が活躍しています。現場事務所はダイバーシティ推進のモデルを目指して作られており、きれいなトイレや更衣室があるだけでなく、化粧台や浴槽付のふろ場まで完備されています。また、イスラム教徒のタミアさんのために礼拝用の部屋が備えられ、ダイバーシティを広く受け止めた現場づくりがなされていました。

浮須さん

技術者のお二人は現場近くにお住まいですが、事務所には何でもそろっているので、事務所で過ごしていても困ることが何もないと仰っています。人手不足が叫ばれる建設業界ですが、元請けとしてそれにどう立ち向かうか、建設業に魅力を感じてもらうには何ができるか、を常に考えているという坪井所長の思いが大変印象的でした。誰もが働きやすい環境づくりは難しい議題ですが、記事を通じて多くの方々に企業の取組みをお届けできたらと思います。次号もぜひお楽しみください。

浮須