建設物価調査会

建設物価2019年8月号

女性チームが立ち上げたブランドで 暮らしを豊かにするペイントを提案。日本ペイントホールディングス㈱ROOMBLOOMを訪ねて

「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」

当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心とし たプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第42回目は、日本ペイントホールディングス株式会社の女性メンバーが立ち上げた「ROOMBLOOM」と、埼玉県が推進する「埼玉版ウーマノミクスプロジェクト」の活動をご紹介します。


日本ペイントホールディングスの「ROOMBLOOM」は、「暮らしを考えるペイント」をコンセプトに住宅内装用塗料を日常生活に取り入れたライフスタイルを提案しています。ウェブサイトやFacebook、動画などさまざまなメディアを使い、ペイントに関する話題やペイントの楽しさを発信。新宿リビングデザインセンターOZONEのショールームでは、月に1度、ペイントを体験できるワークショップも開催されています 。

日本ペイントホールディングスの「ROOMBLOOM」は、「暮らしを考えるペイント」をコンセプトに住宅内装用塗料を日常生活に取り入れたライフスタイルを提案しています。ウェブサイトやFacebook、動画などさまざまなメディアを使い、ペイントに関する話題やペイントの楽しさを発信。新宿リビングデザインセンターOZONEのショールームでは、月に1度、ペイントを体験できるワークショップも開催されています 。

設立の経緯

ブランドを立ち上げ、運営をしているのは同社の女性チームです。経営企画本部ROOMBLOOM推進グループ グループリーダー、柳谷典子さんにブランド誕生のいきさつをうかがいました。「2011年に社内で女性活躍推進のために女性社員が20人ほど集まる場がありました。これまでのキャリアを振り返り、今後のキャリアプランをどう作るか、何が改善されれば働きやすくなるかといったことがテーマでした。そのチームでは新しい事業を考えるというミッションはありませんでしたが、私と同期の技術職の女性で、新しい面白いことをできないかと考えたことが始まりです」。 同社はビルや橋梁、自動車や鉄道車両用などに高機能塗料を開発しています。2人は、その技術力に生活者の視点でデザインや色彩をプラスし、ペイントで暮らしを変える新しいブランドを考えました。それを会社に提案し承認されたのです。

柳谷典子さん(ROOMBLOOMのショールームにて)
柳谷典子さん(ROOMBLOOMのショールームにて)

役員秘書から新規事業立ち上げ

入社以来、柳谷さんは役員秘書をしていて、マーケティングやブランディングの経験はありませんでした。「秘書の仕事を通して俯瞰してものを見ることの大切さを学びました。それが今の仕事に役立っています。ペイントに対する生活者としての思いもありました。自分のキャリアを考えていたこともあり、チャレンジの機会を与えてくれた会社に感謝しています」と柳谷さん。さらにプロジェクトを始めてから、社会人大学院でソーシャルデザインを学び、その経験を活かしてさまざまな試みをしています。

色に名前やストーリーを付ける

2013年4月に女性社員による空間デザインチームが結成され、プロジェクトがスタート。デザインやウェブサイトを作り情報発信のプラットフォームを整えて、同時並行で商品開発を行い、わずか5カ月後の8月にROOMBLOOMをリリース。

新たに開発したのがオリジナルの色。従来の塗料の色は日本塗料工業会発行の塗料用標準色があり、この色票番号で色が指定されます。しかし色数が多く、一般の人が色を選ぶのは難しく、欲しい色と微妙に違うことも多々あります。そこで数千色の中から、室内や暮らしに欲しい色を想像しながら集めた144色のコンセプトカラーに45色のデザイナーズカラーを加えた全189色を揃えました。それぞれの色には「パリの朝」「secret diary」「Aloha!」といった名前やストーリーがあります。「名前や物語があることで、色を選び、決めるプロセスを楽しんでいただけます」と柳谷さん。ある時、「自分たちの食卓のストーリーになったらいいな」とやさしい黄色系の「breakfast」を選んだ人がいました。その時、目指している提案が体現できているのを感じたと柳谷さんは言います。白と言っても20色以上の色があるのです。“とりあえず白でいいや”ではないのです。

色を楽しむ文化を根付かせる

欧米やアジアでは内装をペイントすることが当たり前ですが、日本では住宅の内装にペイントを取り入れることはまだ一般的ではありません。クッションカバーやベッドカバーは気軽に変えても、壁の色を変えるとなると、大掛かりな工事をイメージしてしまいます。リビングルームを自分らしい空間にするためにペイントは効果的な 方 法ですが、抵抗感のある人も多いそうです。家族に反対されるかもしれないという不安や、変な色を選べないというプレッシャーもあります。柳谷さんは「まずは、寝室やお手洗い、子ども部屋などから試すことをおすすめしています。部屋の中で大きな面積を占める壁は、一部をペイントするだけでも雰囲気がガラリと変わります。それを体験していただきたいですね」。

もうひとつの不安はきれいに塗れないこと。ROOMBLOOMのペイントは、ビニルクロスや木部、石膏ボードなどさまざまな素材に塗れ、隠蔽性も高く、濃い色の上に塗っても2回塗りをすればムラなくきれいに仕上がり、気軽に挑戦できることが魅力。安全性の高い水性塗料なので臭いも気にならず、安心して使うことができそうです。

ターゲットは30代から40代の女性ですが、実際の男女比は同じぐらい。ファミリーで楽しみたいという人や、気分転換に模様替えしたいという人が増えているそうです。「内装を気軽にペイントし、色を楽しむ文化が日本に根付いて欲しい」と柳谷さんは言います。

ショールームで建材に塗っている色の紹介。その色のストーリーが書かれている
ショールームで建材に塗っている色の紹介。
その色のストーリーが書かれている

ペイントパーティー

ペイントをコミュニケーションツールと位置付け、いろいろな方法で楽しみ方を提案していることも大きな特徴です。家族や友人が集まり、みんなで楽しみながらペイントする「ペイントパーティー」。 養生が得意な人や、スケジュールを管理する人というように、それぞれ得意なことを活かしながら楽しめます。実際に職場や家族のチームビルディングに活用されているそうです。またプロのペインターによるペイントリノベーション「ペイントパック」も用意されています。

ペイントパーティーの様子
ペイントパーティーの様子

ハッピーウォールプロジェクト

2014年から取り組んでいる活動に「ハッピーウォールプロジェクト」があります。児童施設や、福祉施設、学校などの公共の施設をペイントできれいにしたい、人の集まる場所にしたい、地域交流を起こしたいといった要望に対して、一定の基準を設けて技術やペイントを提供するCSR活動です。これまで全国26カ所で実施されています。

関東学院大学の学生による「KGUプロジェクト」(ハッピーウォールプロジェクト恒例、ペイント前のお絵かきの様子)
関東学院大学の学生による「KGUプロ
ジェクト」(ハッピーウォールプロジェクト恒例、ペイント前のお絵かきの様子)

柳谷さんは思い出深い出会いがあると話してくれました。「ある時、ショールームにワークショップに参加したいという中学生の女の子が来ました。事情を聞くと、彼女は児童養護施設に暮らしていて、お世話になっている人たちのために自分たちの力で施設をきれいにしたいというのです。その気持ちを応援したいと思い、協力しました。その想いが受け継がれ、さらに他の施設にも広がれば嬉しいし、そういった連鎖が起きればいいなと思っています」。

東北の復興支援では、大船渡セルフビルドハウスの支援に参加。関東学院大学の学生が取り組む「KGU空き家プロジェクト」の支援もしています。今後も継続して活動を広げていくそうです。

企業やデザイナーとのコラボレーション

ブランドの立ち上げから大切にしてきたのが「 Happy、 Fun、Joy」という3つのキーワードです。チームのメンバーは、この価値観を理解し、共感できることが基本です。暮らしの中の気づきやワクワク感など、女性の感性から色の名前やストーリーが紡ぎ出されていきました。一方でパパやシニアといった男性の視点も必要す。コラボレーションする外部の人には学生や起業家など多様な人がいます。柳谷さんは「単独で何かをするよりも知恵や力を集結した方が、新しいシーンを作っていけます。家具デザイナーやアーティスト、さまざまな企業とコラボレーションして生活空間を楽しむ提案をしていきます」。

昨年8月には、子どもの健康を守るペイントをコンセプトにした「ROOMBLOOM Air Breeze」を発売。菌やウイルスの繁殖を抑え、シックハウスの原因物質や生活臭を吸着除去する高機能塗料です。日本ペイントの既存の技術を活かしたペイントの新たな魅力や付加価値はさらに広がっています。

ROOMBLOOM Air Breeze
ROOMBLOOM Air Breeze

チームひまわり 現場レポート

今回インタビューさせていただいた柳谷さんは、まるでデザイナーのような発想力を持ったとても素敵な方でした。役員秘書を経験し、その後社会人大学院でソーシャルデザインを学び、自ら「ROOMBLOOM」という女性活躍推進ブランドを設立したという経緯に驚かされました。

「“BLOOM”には人生の輝きをもつ、花が咲くという意味がある。日本人は四季の彩りを感じられる感性を持っており、服や持ち物は好みの色を選べるのに、壁には反映しない。色を使って豊かな生活を創り上げられないか、顧客と一緒に暮らしを彩ることができないか、とい“ROOMBLOOM”を立ち上げた」という話はとても印象的でした。

また、柳谷さんは色の開発も行いました。その数なんと189色です。日常生活の中で感じる街や国の雰囲気、自分の感情、時間の移ろいを色の名前にするだけではなく、擬人化したストーリーが全ての色についています。             

「after school」や「African dance」といった英語表記から「歌舞伎」、「四つ葉のクローバー」のような日本語表記まで、表現方法は様々で見ているだけでもとても面白いです。
 将来、「ROOMBLOOM」を利用して189色の中から自分の部屋にピッタリな色でペイントしてみたいと思いました。皆さんも是非試してみてください!

中沢