建設物価調査会

建設物価2018年6月号

多角的なアプローチから女性活躍推進を目指す公益社団法人日本コンクリート工学会「 コンクリート分野における女性活躍推進普及委員会」

「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」

当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心としたプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第29回目は、公益社団法人日本コンクリート工学会で活動する「コンクリート分野における女性活躍推進普及委員会」の取組を紹介します。


第4回主査会に出席された方々
(上段左より)髙橋清美さん、猪熊夏子さん、佐藤信子さん、小川由布子さん、渡辺弘子さん
(下段左より)丸山久一JCI会長、須田久美子女性活躍推進普及委員会委員長、河井徹JCI専務理事

委員会の設立経緯

コンクリートは、それを用いた構造物の設計耐用年数が100年以上にも設定される社会基盤の構築に用いられる材料です。したがって、社会的な要請に応じて社会基盤の機能向上を持続的に行うためには、コンクリートに携わる人材の育成を、100年以上の長期的視野で戦略的に行う必要があります。

日本における就労者数については、現在のような男性中心で長時間就労を前提とする労働形態を継続した場合には50年後に就労者数が40%以上減少するという予測がされています。したがって、現在の経済活動を維持するためには女性活躍加速が必須であり、2016年4月から女性活躍推進法が施行され、2017年6月には「女性活躍促進のための重点方針2017」が示されました。例えば、301人以上の労働者を雇用する事業主に対して①自社の女性の活躍状況の把握・課題分析、②行動計画の策定・届出、③情報公開などが義務付けられ(300人以下は努力義務)、国が定めた一定水準を満足する優良企業を認定する「えるぼし認定」制度がスタートし、公共調達における加点評価の仕組みが順次導入されています。各企業の経営戦略的にも女性活躍推進に真剣に取り組む必要がある時代になりました。遅ればせながら建設分野においても、国土交通省および日本建設業連合会が2025年までに女性技能者比率を10%にするという数値目標を打ち出し、官民一体となって取り組んでいるところです。

以上のような背景の中で、建設分野の一端を担っているコンクリート分野においては、女性の進出が極端に遅れており、日本コンクリート工学会(以下JCIという)の正会員の女性比率は4%程度にとどまっています。今後、これまでどおりの男性中心の業態では人材不足を引き起こし、社会基盤を構成する重要な材料であるコンクリートの供給そのものにも深刻な影響を及ぼすことは必至です。

そこで、技術系、研究系だけでなく、事務系、経営系も含めて、コンクリートに関わる女性を増やして、業界全体として教育、活躍促進し、 100年後のコンクリート業界を元気にするための検討および成果普及を行う必要があるという趣旨で、「コンクリート分野における女性活躍推進普及委員会」を2017年度に設置しました。

活動内容

本委員会では、コンクリート分野における女性活躍の現状を把握し、課題分析を行い、コンクリート業界全体に向けた行動計画を提言します。さらに、JCIとして、業界団体や一般社会に呼びかけるとともに、フォローアップを行いながら女性活躍推進の機運を高める活動を継続していこうと考えます。

活動にあたり、委員会、主査会を定期的に実施するとともに、ロールモ デルワーキンググループ(以下WGという)、世の中動向・企業研究WG、女性会員への調査WG、資格WGを設置しました。2017年度は、主査会を4回、委員会を1回開催。また、WG毎に各種動向調査、各種アンケートの準備および実施、結果の回収分析を行いました。委員会のメンバーは、生コン関連会社をはじめ、ゼネコンや道路・鉄道、大学、業界新聞社など、幅広い業種の方々で構成しています。

ロールモデルWGの活動

これからコンクリート業界の様々な職種で働く女性に対して取材を行う予定で、最終的にはロールモデル集を出したいと考えています。今まで実施したアンケート調査結果より、個々に悩みや立場が異なるため、同様の悩みを持つ方への解決方法のヒントを示すことができればと思います。また、女性で辞めてしまった方の事例や、辞めないための対策で効果的だった事例も加え、女性がコンクリート業界で働き続けるための対策・社内制度の整備を進められるよう示していきたいと考えています。

また、若年層の入職を促進する一環として、工業高校の建設関連学科に在籍する生徒を対象に、コンクリートに対する生徒のイメージ調査をアンケート形式で実施。将来の担い手確保・育成のため、働き方の意識や現状における様々な課題を洗い出し、打開する方向性を探ることにしました。集計結果から解析を行ったところ、コンクリート製造業は「何をしているのかわからない。」といった回答が多く、あまり理解されていないことがわかりました。このままでは求人難が加速し、人手不足を補わなければ操業できなくなる事態も予見されます。そのためアンケートでも要望の多かった「ものづくり体験」や「橋やダムなどの現場見学」・「コンクリート製造工場の見学」などを通じて、イメージアップに取り組むことが望まれます。

世の中動向・企業研究WGの活動

まず女性活躍推進における国の施策や方針の調査を実施しました。建設業界における男女共同参画の歴史や、第4次男女共同参画基本計画等、法律や制度、取組み事項についてとりまとめ、女性の参画拡大・人材育成とともに、男性の暮らし方・意識改革等を進める必要があることがわかりました。

次に女性活躍推進における世間の動きを調査するため、公表されている各種ランキングを元に職業分野ごとに数社を選出し、情報を抽出、整理を行いました。その結果、女性登用が多い企業は、男女という区分けなく働きやすさ自体について前向きな傾向がありました。

さらに、女性活躍推進における建設業界の企業実態調査としてJCIの会員企業向けにアンケートを実施しました。女性活躍の意義や必要性は認識しているものの、技術職・技能職への採用には二の足を踏んでいる状況であることがわかりました。また、大企業は女性に配慮した制度が整っている一方で、中小企業では制度が不十分なものの産休や勤務時間などを個別で対応し柔軟な働き方ができるというそれぞれの取組傾向がみられました。今後は企業の規模別、地域別などで分析を続けていく予定です。

また、誤解や思い込みを緩和するためのポスターを作成する等、個人の意識改革のためにできることを考えていきたいと思います。

女性会員への調査WG

JCIの女性会員向けに、実態把握や企業アンケートとの対比による実態を浮き彫りにすることを目的としたアンケートを実施。各種ハラスメントに関することや、プラスの提言に結びつくような設問の作成を心がけました。

現在調査結果を整理・分析中ですが、「他のJCI女性正会員に聞いてみたいことはありますか?」との質問に対しては、「土木の業界は決して住みやすい環境とは言えません。学生に業界を勧める立場に立たされますが、だましているみたいで心が痛みます。」と、問題の根の深さを感じる回答がありました。現状はまだ「住みやすい」とは思えなくとも、「今まさに住みやすくなるよう会社を変えている」ということをどんどん学生にアピールしていくことや、土木が社会の中でどのように動いているかを理解してもらうことが重要です。また、「女性活躍の仕方がわからない」という企業に対して、「まずはトイレを変えましょう」、「次はここを変えると気持ちよく仕事ができる」と段階を踏んで改善提案をすること、すぐできること、みんなで話し合って時間をかけて変えていくことなどを具体的に示せれば、価値観を変えていけるのではないでしょうか。「価値観を変えること=現状の全否定」と思われがちですが、まずは「女性」にこだわらず、社員全員が働きやすいという視点から始めていくと良いかと思います。

資格WG

コンクリート製造業を対象に、土木や建築といった専門的な教育を受けていない方々がコンクリート業界で活躍するためのあり方を考えています。他分野との比較も合わせ、次世代確保を目的とした資格等、コンクリート業界の認知度を上げ、業界のすそ野を広げられるものであればと思います。

2017年度に実施した各種調査分析の結果をもとに、提言書(案)を取りまとめ、2018年度のJCI年次大会で中間報告を行います。その年次大会参加者および関係諸団体からご意見等をいただき、コンクリート業界全体に向けた行動計画に関する提言書として活動報告書を取りまとめます。2019年度のJCI年次大会で提言を発信し活動成果とします。

委員会活動終了後も、引き続きフォローアップを行い、提言の具体的な行動計画を見直しつつ女性活躍推進の機運を高める活動を継続していきたいと考えています。


チームひまわり 現場レポート

今回は、女性活躍推進普及委員会の第4回主査会に同席させていただきました。

JCI会員企業、高校生、女性会員へと多角的なアプローチで実施したアンケート結果の発表では、マクロな視点で企業の取組や学生の考えを傾向分析する一方で、女性会員一人一人の自由回答からも解決策を導き出そうと意見を交わしていたところが印象的でした。大勢の意見を聴くのはもちろんですが、元々女性が少ない業界では、個人の声にも耳を傾けて改善できることを一つずつクリアしていく事が重要だと改めて思いました。

日本のインフラ整備に欠かすことができないコンクリート。構造物の設計耐用年数は100年を超えています。100年後、コンクリートに携わる女性が幅広く活躍し続けていることを願っています。今後コンクリート製造業で実際活躍している女性への取材も予定しておりますので、そちらの記事も是非ご期待ください!

稲村

稲村さん
女性活躍に関することを取材させてください!