建設物価調査会

建設物価2018年7月号

社内外での意見交換やワークライフバランスの支援でダイバーシティの企業風土を醸成する前田建設工業株式会社を訪ねて

「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」

当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心としたプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第30回目は、「上司と共に仕事と生活の両立を考える」ことで女性活躍やダイバーシティを推進する前田建設工業株式会社を取材しました。


社員の多様性を尊重し、一人ひとりが能力を最大に発揮できる「誰もが働きやすく、働きがいのある職場づくり」を目指してダイバーシティを推進している前田建設工業㈱。同社では、契約社員も含め、約3,500人が働いています。そのうちの女性比率は約15%。女性基幹職は技術系が約8割を占めています。最近は再生可能エネルギーやコンセッション事業の法務やファイナンス部門でも女性が活躍しています。

ダイバーシティの始まりは女性基幹職の意見交換会

2014年に女性活躍推進の一環として、女性基幹職の意見交換会を開催したことが全社的にダイバーシティに取り組むきっかけになりました。なぜ女性だけで集まるのかという声があった一方で、職場には女性がほとんどいないので悩みが共有できた、ロールモデル になる年上の人と話しができてよかったという声がありました。

ダイバーシティフォーラムでのワークショップの様子
ダイバーシティフォーラムでのワークショップの様子

意見交換会で浮き彫りとなった課題を上司に理解してもらうため、 2016年度は、女性基幹職とその上司を集めた「キャリアアップフォーラム」を2回開催。双方にさまざまな気づきやコミュニケーションが生まれました。

経営管理本部 人事部 マネージャー伊藤彩子さん、総合企画部 グループ企業グループ長新倉健一さん
経営管理本部 人事部 マネージャー伊藤彩子さん
総合企画部 グループ企業グループ長新倉健一さん

2017年度からは、男女関わらず部下と上司による「ダイバーシティフォーラム」へとステップアップしました。職場の行動やマネジメントをしていく上で問題があれば改善していく、そういった気づきを与えるきっかけになっています。「習慣や行動は簡単には変わりません が、地道に継続していくことが大切だと考えています。(」総合企画部グループ企業グループ長・新倉健一さん)
 「上司も巻き込み、全員を当事者にしていくことが必要です。今後は全国の支店でも実施していく計画です。」(経営管理本部人事部マネージャー・伊藤彩子さん)。

「MAEDAライフサポートブック」を全社員の自宅に送付

「MAEDAライフサポートブック」
「MAEDAライフサポートブック」

同社ではさまざまな支援制度を設けていますが、会社の制度や使い方を知ってもらうために、2015年に「ワークライフバランス支援ガイドブック」を作成し、全社員に配布しました。2017年には、そのアップグレード版として「MAEDAライフサポートブック」を発行。「働き方」「妊娠・出産」「育児」「マネープラン」「こころとからだの健康」「地域貢献・自己啓発「」介護」という7つのテーマで社員全員が何かしら必要とする内容になっています。テーマごとにページが構成され、本人やパートナーに向けたアドバイスと、職場の同僚や上司の心得が掲載されています。この内容は社内ネットワークにも保存されているので、職場で確認することもできます。

社員とその家族に読んでもらうために別冊の「両立支援制度の概要」とセットで全社員の自宅に送付したところ、「家族でライフプランを話すきっかけになった」といった感想が寄せられました。

多様なニーズに対応する福利厚生制度

2017年7月から「MAEDAライフプラス」制度を導入し、育児・介護と仕事の両立支援をメインに、健康や自己啓発、レジャーなどを含めて、社員の多様なニーズや働きやすさをサポートしています。電話で専門スタッフから育児の相談が受けられる「育児コンシェルジュ」も設置し、住んでいる地域の保育園の状況や申し込み期間、見学の時期など細やかなアドバイスも受けられます。データベースで自治体の支援制度なども検索できます。

育児と仕事の両立支援

同社では、育児休業を2歳まで無条件で取ることができます。「配偶者の復職のタイミングに合わせて1か月間育児休業を取る男性社員もいます。男性の育児休業取得は、まだ少ないですが、増やしていきたいです。」(伊藤さん)「小1の壁」を解決するために、短時間勤務を小学校3年生の終わりまで取得できる制度も社員の声から生まれました。

※小1の壁:保育園には延長保育があるが、学童保育は時間が短い場合が多く、子供が小学校に入学すると仕事との両立が難しくなること。

介護と仕事の両立支援

今後は育児のみならず家族の介護のために休暇休業や短時間勤務をする人が増加すると予想されます。そこで、2016年からは本支店で、介護への理解を深めてもらうために「介護に関するセミナー」を開催。セミナーを通して、ワークライフバランスや働き方を見つめ直すきっかけになったという感想も寄せられています。

最近では、40代、50代でもがん発症などのリスクがあり、配偶者の介護も増えています。また祖父母の介護や、育児と介護をしながら働いている社員もいます。

「昨年、家族が入院し、介護は他人事ではないと感じました。」(伊藤さん)

協力会社と共に現場の環境整備

同社では、協力会社で構成された「前友会」の女性経営者との意見交換会など取引先と一体となった活動にも積極的に取り組んでいます。男女共に働き方や働く環境をよくするために、建設現場の環境整備を進めています。

建設現場では必ず朝礼がありますが、時短勤務では出席できない場合があります。そのような状況においても情報や価値観を共有できるようにするためのアイディアが提案されています。

また、トイレや更衣室などのハード面もただ整備するだけではなく、いかにきれいに使うか、セキュリティは適切かといった課題も見えてきます。

「これらのアイディアや課題を共有し、解決策を見いだすことで、会社全体、建設業全体の働き方向上に役立っていくと思っています。」(新倉さん)

リコチャレへの参加

内閣府・文部科学省・経団連が連携し、女子中高生が理系への関心を高める取り組み「理工チャレンジ(リコチャレ)」にも積極的に参画しています。「リコチャレは今年で4回目です。これからも継続していきたいですね。女性の採用を増やしたいと思っても工学系、理工系の女性が少ないと会社に来てもらえません。中高生のうちから興味を 持ってもらえるようなアプローチが必要です。」(新倉さん)
 同社では、参加者の対象を広げ、男女を問わず、さらに保護者の同伴があれば小学生も参加できるようにしています。毎年、現場見学会やCADを使った設計体験などの プログラムが実施され、夏休みの自由研究にもなると好評です。「リコチャレへの参加がきっかけで、将来、建設業界に進みたいという人が出てきたら嬉しいですね。(」伊藤さん)

「リコチャレ」現場見学会
「リコチャレ」現場見学会

子育てと仕事の両立は女性だけのものではありません。男性にも会社の制度をもっと活用してほしい。

私自身も会社の制度を活用し、4歳になる娘の子育てをしながら仕事をしています。当社の育児短時間勤務の制度は小学校3年生の終わりまで使えるので心強く感じています。

「MAEDAライフプラス」の家事代行も積極的に活用しています。社内研修では、自分の経験から「頑張りすぎないで。使えるサービスを活用して!」と話しています。

昨年から、働き方改革の一環として自宅でもサテライトオフィスでも働ける「スマートワーク」を試行しています。先日、私も自宅でテレワークを経験したのですが、集中できるので仕事もはかどり、通勤時間も短縮できるので、子育てや介護をしている人にも便利だと感じました。今後は支店や現場の人も使えるように範囲を広げていきたいと考えています。

伊藤彩子さん
伊藤彩子さん

また、これからは自分の仕事の幅を広げたいと思っています。最近は、1泊の出張もしています。母親だからと自分のできることを制限する必要は無いと思います。後輩にも、やりたいことには積極的にチャレンジしてほしいです。子育てと仕事の両立は女性だけのものではありません。男性も、もっと会社の制度を活用して、家族と過ごす時間を大切にしてほしいですね。


チームひまわり 現場レポート

女性だけではなく、老若男女問わず全ての社員の働きやすさを追求する前田建設工業。いかに社員が気持ちよく勤めることができるか、その環境作りを徹底して行っていると感じました。ただ、会社の制度が充実していて、どんなに良い制度があったとしても、それを社員が使いこなすことができなければ意味がありません。その制度をいかに多くの社員に使ってもらえるか、利用に対してのフォローアップ体制も万全と感じました。

お話を伺った伊藤さんも、とても前向きで、子育てをしながらも仕事を楽しみながらこなしていることが伝わってきました。伊藤さんと同じ歳の子供の子育てをしながら仕事している私自身にとっても、今回は貴重な取材となりました。

伊沢

伊沢さん