建設物価調査会

建設物価2019年12月号

~建設業の未来のための種まきを~
学生に建設業の魅力を伝えたい!
「 けんせつ姫活動」の土佐工業株式会社を訪ねて

建設業で働く女性が主役のフリーペーパー

 千葉県船橋市の総合建設業、土佐工業が発行している「けんせつ姫」は、建設業に携わる女性が仕事への思いや夢を語る学生向けのフリーペーパーです。建築・土木業界で活躍する女性たちをインパクトある写真とインタビュー記事でいきいきと紹介した内容が評価され、2018年2月に発行した創刊号は「日本タウン誌・フリーペーパー大賞2018」の企業誌部門・最優秀賞を受賞し、2019年7月には(一社)全国建設業協会より建設業社会貢献活動功労者企業として建設業イメージアップ・広報活動部門にて表彰されました。

「けんせつ姫」の編集長でもある代表取締役の柴田久恵さんに発行の意義や思いをうかがいました。

土佐工業会社 けんせつ姫ページへ
(外部リンク)
数々の表彰とともに土佐工業株式会社 柴田社長


学生に建設業の 魅力を伝える

 20歳で建設業に入り、21歳で 総合建設会社を起業した柴田さん は、建設業の魅力を若い人たちに 伝えたいという思いから「けんせつ 姫」を創刊したといいます。インフ ラ整備や、各地で頻発する自然災 害の復旧にも大きな役割を果たし ている建設業は社会に欠かせない 存在です。担い手不足が深刻化する中で、柴田さんは、このままでは 建設業が衰退し社会が立ち行かな くなってしまうという危機感を抱い ています。「建設業がこれからも継 続していくためには、今、種まきが 必要です。団塊の世代の方たちが 引退するまであと10年もないので す。建設業に携わる人も大きく減 少しますし、経験値のある人がいる間に技術継承していかなければな りません」。建築や土木を学んでも すべての人が建設業に就くわけではありませんが、現場でいきいきと働く女性たちの姿を紹介し、学生に建設業に興味を持ってもらうために始めたのが「けんせつ姫」の活
動です。


SNSを活用して “姫”探し

 創刊号は外部の制作会社に依頼しましたが、それでも本業を行いながらの編集作業は困難の連続でした。一番苦労したのが、「けんせつ姫」のモデル探しでした。誌面に登場するのは、建設業の現場で働いている女性に絞っています。知人や取引先企業から候補者を紹介してもらい、事前にアンケートやヒアリングをして仕事内容を詳しく聞き、エリアや業種のバランスも考えなくてはなりません。

 2019年2月に発行した第2号は、建築や土木を学ぶ工業高校の生徒や大学生、先生など約20人の女性が紹介されています。「みなさんの意見を聞いて、毎号、進化させています。 2号では年齢層も幅広くし、子育てや転職もテーマにしています」と柴田さん。2号からは制作方法も変え、建設業の有志5人で取材や編集を行っています。建材メーカーの建築士の資格を持つ方が撮影を担当し、土佐工業の一級建築士の方が取材原稿を書いています。 現在制作中の3号では、青森から沖縄まで取材対象を全国に広げています。編集を担当している土佐工業専務の佐竹康裕さんは「最近は登場してくれる人を探すためにSNSも活用しています。約60人の方に直接メッセージを送りました。 日頃から現場の写真をアップされているので、仕事の様子も分かります」。さらに「水道工事や電気工事では女性が少ない一方、左官、とび職は女性が比較的多く、現場監督も女性が増えています」と、モデル探しや取材を通して、建設業の女性活躍の状況も見えてくるといいます。


ブレない編集方針

 編集においては、“姫”を中心に紙面を構成することは当初よりブレないようにしています。また誌面に登場した女性たちがSNSなどで傷つけられることのないよう個人 情報にも気をつけています。

 「けんせつ姫」発刊後は、新聞やテレビなどでも活動が紹介され、予想以上の反響がありました。2号は1万部を発行し、47カ所に置かれました。企業からも注目され、これから女性を雇用したいので参考にしたいという問い合わせもたくさんありましたが、配布先も行政機関や学校、建設業や業界で働く女性を応援してくれる企業に限定しています。

 「けんせつ姫」の制作費用はすべて土佐工業が負担していますが、これからも活動を継続していくために2号からは協賛を募りました。企業にとっては名前が掲載されることでイメージアップにつながります。協賛企業を建設業に限定しているのも「けんせつ姫に関わってくださった方に協力してよかったと思っていただきたい」という柴田さんの志が感じられます。「けんせつ姫」が多く人の共感を呼び、支持される理由は、建設業界を盛り上げたいという編集方針にブレがないからです。


最初の取組みは女性用作業着の製作

 建設業で働く女性を応援したい、建設業のイメージアップを図りたい、そんな思いから「けんせつ姫」のネーミングやロゴデザインを考えていた頃、先にさまざまな業界団体から土木女子、けんせつ小町といった女性活躍推進の会ができ、活動が始まりました。柴田さんは「私が行動をおこしたところでなにも変わらないと諦めかけましたが、1度きりの人生を後悔したくないと活動をスタートしました」と当時を振り返ります。

 最初に取り組んだのは女性のための作業服。柴田さんが建設業に入った時には男性用の作業着しかなかったので、女性用を作りたいと思っていました。かつて、ニッカポッカがカッコいいと建設業に入ってきた男性がいたように、おしゃれでかわいい作業着があれば女性が建設業に興味を持ってくれると考えたのです。2013年から、元アパレル会社の方の協力を受け、デザインを開始。仕事と子育てをしながら4年かけて完成しました。黒色の丈夫な生地を使い、裏地には桜の小花プリントをあしらっています。作業時の安全性や使い勝手を考え、細かい仕様にもこだわりがあります。内ポケットには長財布やスマホが入り、そのまま打ち合わせやデパートにも行けるようなおしゃれなデザインです。SNSや口コミでかわいさや使いやすさが評判になりました。

 「もちろん、建設業は女性だけでなく男性もいないと成り立ちません。私が若い時は建設業に就く男性は多かったのですが、今は少なくなっています。女性が増えることで建設業がより魅力的になり、男性も建設業に興味を持つのではないでしょうか」と柴田さんは作業服の効果を語ります。

女性用作業着を着たスマートドール


建設業で働きたい女性 のための求人サイト

 今年11月からは、けんせつ姫活動の一環として、建設業界で働きたい女性のための求人サイトが開設されます。サイトでは柴田さんのコラムや「けんせつ姫」のインタビュー記事なども掲載される予定です。

 求人サイト開設のきっかけは、サイト運営会社からの提案でした。「けんせつ姫の活動が注目され、さまざまな業種の企業からコラボ企画のお話をいただきますが、利益を求めているわけではないのでお断りしてきました。でも、この求人サイトは、建設業に女性の雇用を生み出し、業界の活性化や女性活躍につながることなので取り組んでいくことになりました」と柴田さん。求人サイトの開設により「けんせつ姫」の発行部数を増やしたり、有志で協力してくれる人に謝礼することもでき、発送作業にも人を充てることができるようになります。


交流の場をつくる

 女性社員が少ない職場も多く、会社を超えて悩みを相談できる場が必要です。柴田さんは、建設業で働く女性の交流の場として、年に1回、座談会を開催しています。2回目の座談会では、国土交通省や千葉県建設業協会の担当者も参加し、働きやすい職場づくりや建設業への思いなど活発な意見交換が行われました。座談会の内容は「けんせつ姫」にも掲載され、今後ネットワークはさらに広がっていくことでしょう。「これまで誌面に登場してくれた人たちとはグループLINEでつながっています。みなさん忙しく、スケジュール調整は大変ですが、運営を手伝ってくれる“姫”もいて、心強いです」と笑顔で語る柴田さん。たくさんの人を巻き込みながら、進化していく「けんせつ姫」の活動から目が離せません。






仕事と子育て両立の秘訣は、スケジュール調整

 「母として守るものができ、仕事に対する熱意も変わりました」という柴田さんは、小学校と保育園に通う3人のお子さんがいます。ご主人は単身赴任中のため、会社経営やけんせつ姫の編集長をしながら、平日はほぼ一人で育児や家事を担っています。授業参観や運動会などの行事に加え、今年はPTA役員もされています。「なる べく早く情報をキャッチし、予定が重ならないように事前にスケジュール調整を行うことが大切」と柴田さんはいいます。

 地方出張の時には親戚にベビーシッターをお願いすることも。保育園や学童クラブのお迎えはママ友の協力で乗り切りました。多忙を極めていたある日のこと、仕事を終えて帰宅すると子どもたちが夕飯の用意をしてくれていて、その成長ぶりに感動したと話してくれました。
「子どもたちは、けんせつ姫の活動がテレビや新聞で紹介されると喜んでくれます。子どもの成長が私の元気の源です」



チームひまわり 現場レポート

 建設業の社長、編集長、3児の母、PTA役員、多くの仕事を抱える柴田社長。秘訣をお伺いすると、「早めの情報収集とスケジュール調整が全て」というスケジュール管理の超スペシャリスト!そして頑張れる源は子どもたち、とおっしゃる愛情深い素敵な方でした。

 本業の建設業を営みながらの活動は多くのご苦労があったと思いますし、「けんせつ姫活動」の影響で仕事が増えたことはないとおっしゃる柴田社長。コレワーク(受刑者向け就労相談)に関する講和に行かれることもある等、これからの子どもたちのために、という思いで行動されているのが印象的でした。

西方

 出版・編集業界の慣例にとらわれず、“建設業のために、子どもたちのために”というブレない強い思いがあったからこそ、この「けんせつ姫活動」が女性の就業を支援する求人サイトをオープンするまでの広がりを見せたのだと感じています。

 けんせつ姫活動の様子は、土佐工業ホームページのほか、YouTubeチャンネル(TOSA研究室Official)でも公開されています。ぜひそちらもご覧ください。