快適トイレの導入について
国土交通省 大臣官房 技術調査課 事業評価・保全企画官 桝谷 有吾
建設産業は人々の生活に深く関わる社会インフラを整備し、自然そのものを対象とした「屋外生産」という特性を有し、国土形成に大きく寄与する魅力溢れる産業です。一方で、屋外生産であるが故に、労働環境の改善は今後の担い手確保に向けても重要な課題となっており、建設現場のトイレ環境も改善すべき一つです。
仮設トイレの改善に向けた試行
現在、家庭や公共施設、商業施設のトイレのほとんどが洋式となっている一方、仮設トイレは依然としてその多くが和式のままです。職場は1日の多くの時間を過ごす場所であるため、衛生的で綺麗で快適に利用できるトイレを設置することが重要です。そこで、普段の生活で使用している洋式トイレを仕事中にも活用できるよう、国土交通省では平成26年度より試行的に、洋式で臭いがしづらいトイレを導入しました(平成26年度:7件、平成27年度:271件)。
その結果、男女問わず、これまでの仮設トイレに不満を持っているとともに、衛生面、安全面から仮設トイレに多くの改善点があると考えていることがわかりました。
快適トイレの導入
建設現場においても快適にトイレを使用できるよう、求めるニーズを踏まえ改善した仮設トイレを「快適トイレ」と名付け、平成27年度のモデル工事の結果(図1)や、「『けんせつ小町』が働きやすい現場環境整備マニュアル(」一般社団法人日本建設業連合会、図2)等を踏まえ、「快適トイレ」に求める機能を以下のとおり設定した。
①洋式便座、②水洗(簡易水洗も含む)又はし尿処理装置付き、③ 臭い逆流防止機能付き、④容易に開かない施錠付き、⑤照明設備(電源がなくても良いもの)、⑥衣類かけ等のフック付き又は荷物置き場の設備付き(耐荷重5kg以上)を最低限の仕様としました。
更にトイレをより快適に利用できるよう、受注者の責任として、⑦男女別の明確な表示、⑧入口の目隠し板の設置(男女別トイレ間も含め入口が直接見えないような配置等)、⑨サニタリーボックス、⑩鏡付き洗面台、⑪便座除菌シート等の衛生用品を設置することを求めることとしました。
また、仮設トイレの流通状況から、現時点において標準とすることは困難と考えましたが、将来的に標準となることを期待して、⑫室内寸法900mm×900mm以上、⑬擬音装置、⑭着替え台、⑮フラッパー機能の多重化、⑯窓など室内温度の調整が可能な設備、⑰小物置き場等(トイレットペーパー予備置き場)を「推奨する仕様」と定めました(図3)。
これらの「快適トイレ」は、本年10月1日から土木工事において原則化しています。なお、費用については1基45,000円を上限とし、男女別で設置した場合は2基分まで計上することとします。
快適トイレ事例集の作成
快適トイレの設置を原則化することとしましたが、市場に出回っている快適トイレはまだ僅かです。そのため、建設業者がどこで快適トイレを入手可能か周知することを目的に、製品を公募し、仕様を満たしているかを確認した上で、68製品を掲載した事例集を作成・公表しました。(図4)(http://www.mlit. go.jp/tec/kankyouseibi.html)
今後も更により多くの快適トイレが普及されるよう、事例集は標準仕様を適合している項目数により分類し、かつレンタル費用の安いものから順に掲載しました。
なお、当然ながら事例集に掲載していないトイレであっても仕様を満足していれば「快適トイレ」として工事現場に導入いただけます。
建設現場のトイレが変われば災害時のトイレも変わる
東日本大震災や熊本地震など、大きな災害になるとまず問題になるのはトイレの問題です。避難所等には早急に仮設トイレが設置されますが、現状では市場で流通しているものの多くが和式であるため、災害直後に設置される仮設トイレもほとんどが和式になります。避難所での生活を余儀なくされる方々の中には、ケガや病気等で身体的に和式トイレの使用が困難であったり、衛生面で精神的に苦痛を感じる人が多いなど、衛生的なトイレへの改善要望が強い。
災害時には建設業者の方々が市町村等からの依頼により仮設トイレを設置することとなります。そのため、普段建設現場で使用されている仮設トイレが、災害時の避難所等にも活用されることとなり、建設現場のトレイが変われば避難所のトイレも変わります。
反対に建設業者が快適トイレの存在を知らなかったり、普段から活用していない場合は、避難所のトイレもこれまでの和式から変わらない可能性があります。今後は国の工事だけでなく、地方公共団体発注の工事においても快適トイレが活用されることを期待しています。