測量・地理空間情報 女性の技術力向上委員会「 ソクジョの会」を訪ねて
視野を広げ、技術を深める
2015年6月、公益社団法人日本測量協会に「測量・地理空間情報 女性の技術力向上委員会(ソクジョの会)」が設立されました。測量・地理空間情報分野の多様性を活かし、技術者に限らず経営者や営業・企画担当者などを含めた、この分野に従事する女性に向けて、視野を広げ知識や技術を深めるための場所づくりや情報交換を目的としています。
担い手である技術者不足は業界を超えて深刻化していますが、測量・地理空間情報分野においても若手技術者の確保や女性技術者の活用が課題となっていました。日本測量協会では、当時の会長が女性活躍を推進するための委員会立ち上げを呼びかけ、朝日航洋㈱、アジア航測㈱、㈱パスコ、国際航業㈱の各社から2人ずつメンバーが選出される形で、2014年11月に準備委員会をスタートさせました。
準備委員会では、これからの活動にあたり、業界で働く女性たちの現状やニーズを探るためにアンケート調査を実施しました(図-1)。
アンケート調査の結果から将来、結婚や出産をしても仕事を続けたい、技術職として働きたい、働き続けるために技術を身につけたいといった業界で働く女性の思いが浮き彫りになりました。また測量業界の領域の広さという特徴から、学生時代の専門分野や現在の保有資格が多様であることもわかりました。委員長の杉森純子さん、委員の服部たえ子さんは当時をこう振り返ります。「女性の働きたい、続けたい、戻りたいを実現するためにどんなサポートができるのかを考えました」(杉森さん)。「ソクジョの会の正式名称は測量・地理空間情報女性技術力向上委員会です。一般的な福利厚生ではなく、技術力向上にポイントを当ててサポートすることで、主力技術者として活躍できる女性を増やしたいと考えました」(服部さん)。
その後、2015年に正式な委員会として発足し、現在は、大手4社に加えて名古屋に本社のある中日本航空㈱のメンバーが加わり、現在は13人が委員として活動しています。
技術支援、交流、広報という3つの活動
メンバーは主に3つの班に分かれて活動をしています。Web上で公開しているeラーニングの監修を担当する技術支援班、交流会やカフェの企画運営をする交流班、大学などの学校訪問をする広報班。それ以外に全員でイベントや講演の企画・運営を行い、内閣府や国交省などの国の機関が実施しているイベントにも参加しています。理工系分野に興味がある女子中高生・女子学生対象にした理工チャレンジ(リコチャレ)にも毎年参加し、2018年は航空測量の原理を紹介しました。毎年11月に開催される測量業界の大きなイベント「G空間EXPO」や日本測量協会が主催する「測量・地理空間情報 イノベーション大会」では、シンポジウムを開催しています。また業界で働く女性の交流や情報交換の場「ソクジョcafe」をシンポジウムに合わせて開催しています。そのためにお休みを取って地方から参加する人や高校生など、さまざまな人が集まり、飲み物やお菓子をつまみながら、和気あいあいとした雰囲気で本音のトークができるのが魅力です。頑張っている女性に出会い、勇気づけられることもあるそうです。「当日参加もOKですので、興味のある方はぜひ参加してください」(杉森さん)
測量業界の多様な仕事
測量・地理空間情報分野の業務は、実測・航測・製図・設計・データ作成・システム構築・地理空間情報を用いた解析やコンサルタンティングまで、多様化しています(図-2)。しかし、測量業界の仕事はあまり知られていません。「今でも、大学卒業後は測量会社に就職したいというと親に反対される女子学生もいます。そこで私たち広報班は、屋外だけでなく屋内でする仕事など多様な業務があることを知ってもらうために大学や専門学校などに行って話をしています」(杉森さん)
測量業界の成り立ちは、昭和20年代に遡ります。国土復興のために航空写真測量の技術を用いて地図を作る業務が民間に開放され、「航空測量の会社」が誕生しました。時を同じくして地図を美しく見栄えを整える「地図調整業」も始まり、いわゆる“測量業界”が動き始めました。昔は測量機器を用いた屋外の力作業がメインでしたが、ここ数十年での衛星やドローンの出現といった技術の進歩にともない仕事の領域も広がっていきました。
一方で、異業種からの参入に対する危機感もあります。例えば、これまで 地図はお金を払って買うものでしたが、誰もがフリーで使えるネット上の地図も登場し、業界に大きな影響を与えました。精度を求めなければ、量販店でカメラを買ってドローンで飛ばせば、地図や3次元データを誰でも作れてしまう時代に変わりつつあるのもまた事実です。
出産や育児に合わせた柔軟な働き方
最近では、仕事の多様化にともない、測量・地理空間情報分野の事業を支える女性技術者は増えてきました。特に若い人は男女比半々ぐらいで採用されていますが、管理職の女性比率が低いことが課題になっています。さらに学会や協会活動に参加する人はごく少数で、協会の会員も女性比率は1.8%と極めて少ないのが現状です。
「この業界はどうしても残業が多いことがネックになっています。特に年度末に向けての、1月から3月は忙しいですね」(服部さん) 子育てとの両立が難しく『同じ仕事ができない』、『自分の居場所がないのではないか』、『みんなに迷惑をかけてしまう』と責任感から悩み退職する人も中にはいるそうです。
「そんなことないよ、やれるよ、と伝えることが私たちの役割です。子育ての間は、現場から離れて営業や企画、教育部門などに行って、また現場に戻ることもできるのです。 子育ての5年10年が終わってから後の方が長いのですから、そこでバリバリ働いてもらえればいいのです。働きたい人を増やしたい、続けたいという人を応援したい、一度現場を離れたとしてもまた戻ってきて欲しい、これを三本柱にしています」(杉森さん)。女性でも仕事ができるということは裏を返せば、男性でも家族の介護や病気になった時に仕事を続けていけることにもつながっていきます。
これまでとこれから
委員会を結成するまでは同じ業界でもそれぞれ専門性が異なるため、女性技術者が集まる機会はなかったそうです。
- 新聞などでも取り上げていただき、業界の中でソクジョの認知度が上がっています。
- 女性活躍のための意識改革や雰囲気づくりにも役立っていることを実感します。
- 同業他社の人と交流できるのは貴重な経験です。
- 視野が広がりました
ソクジョの会の活動に参加することで様々な影響・意見が生まれました。
「ソクジョの会に社内の人間が3人いますが、同じ会社でも部署が違うのでこれまで話す機会はありませんでした。この活動を通して横のつながりが生まれています。社内でもこんな取り組みをしたらいいといった意見が出るなど、発展性があります」(鎌田さん)
メンバーのみなさんが所属している会社は比較的女性も多く、制度も充実しています。しかし一方で女性の少ない会社では、女性技術者のキャリア形成をどうつくっていけばいいのか分からないという所もあります。そこをサポートしていくのも委員会の役割だといいます。
「私たちの中で頑張ろうねというのはもちろんですが、それ以上に男性に、女性もこんなことができる、育児や介護をしながらでも働き続けることができると知ってもらいたいのです。中小企業の社長さんへの働きかけもしていきたいですね」(杉森さん)
チームひまわり 現場レポート
「測量」と聞くといまこの記事をご覧の皆様はど のようなイメージが湧くでしょうか。恥ずかしながら ソクジョの会の皆様にお会いする前の私は「道端で機材を使用し測量している姿」しか思い浮かびませ んでしたが、実は活躍の場は多岐に渡っていました。
女性が交流する機会を提供するだけではなく、技術力向上」にも焦点を当て教育の面からもサ ポートを行っている当委員会。当委員会の活動内容
は人材の中長期的育成にもつながる話であり、現実 的かつ発展性があると感じました。
測量業界で活躍される皆様のお仕事やきっかけ については、今後の号で詳しくお送りする予定です
ので、そちらの記事もお楽しみに!
メンテナンス・レジリエンスTOKYO2019i-Construction推進展に参加しました
● 2019年7月24〜26日にメンテナンス・レジリエンスTOKYO2019(主催:一般社団法人 日本能率協会)が東京ビッグサイトで開催されました。当会も「i-Construction推進展」にブースを出展し、そこでチームひまわりの活動もPRしてきました。
●ブースに立ち寄っていただいた方に、活動内容を説明し、取材記事をまとめた小冊子を配布することでたくさんの方に興味を持っていただきました。今後も私たちチームひまわりの活動を通じて、建設業界の女性活躍等について情報を発信し、業界発展のために貢献していきたいと考えています。