建設物価調査会

建設物価2016年6月号

首都近郊の現場でも女性の働きやすい環境づくりがスタート「利根川堤防強化対策整備(H27古河中田地区築堤工事)」を訪ねて

「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」

当調査会では、「建設業での女性活躍を支援するプロジェクト」として、女性職員を中心としたプロジェクトチーム(愛称“チームひまわり”)を立ち上げています。第11 回目は、小川工業㈱が施工する「利根川堤防強化対策整備(H27 古河中田地区築堤工事)」を訪ねてを紹介します。


今回、チームひまわりは小川工業(本社 埼玉県行田市)が施工する「利根川堤防強化対策整備(H27古河中田地区築堤工事)」の現場に、女性技術者の李鐘仙(イ ジョンソン)さんを訪ねました。

モニターでダンプの動きを確認

利根川では過去に堤防基盤からの漏水や堤防の斜面崩壊などが発生しており、台風時の洪水や地震などによる甚大な被害が想定されます。これを未然に防ぐために、堤防強化対策として堤防の拡幅を行う利根川堤防強化対策整備が進められています。現場では、30台余りのダンプが1日平均7回前後、現場と土砂集積場を往復し、盛土のための土砂を搬入しています。
 李さんは現場の管理室で転圧管理の業務に就いています。現場の責任者である原田俊之現場所長は、「李さんには、GPSで管理されている重機の動きを見ながら転圧がきちんとできているかモニターを通して確認する業務を任せています。現場により仕事内容は全く違ってきますが、まだ1年目なので力仕事以外のいろいろな経験を積ませたいと思っています」

今年5月末の完成を目指して工事が進む堤防強化対策整備の現場
今年5月末の完成を目指して工事が進む堤防強化対策整備の現場
モニターを通して転圧を管理。他に測量も担当している

不安だらけの入社前

李さんは現在の心境をこう話します。「入社前は不安でしたが、実際に入社してみるといろいろと心配したことが嘘のように毎日楽しく仕事をしています。一番不安だったのは、現場に女性が一人もいないということでした。困った時、同じ現場に女性がいないのはすごく不安でしたが、他の現場で働く先輩の女性に何かあれば相談しています。また、協力会社の職人さんに、仕事を頼まなければならない立場ですが、みんな私の話を聞いて、仕事を進めてくれるのかどうかもとても心配でした。でも現場に来てみるとみんな優しく接してくれるので、入社前の不安も取り除かれました」

李さんのソフトなイメージが現場の雰囲気を和らげる
李さんのソフトなイメージが現場の雰囲気を和らげる

父の影響で土木を勉強

土木の現場で働こうと思った動機については、「父も土木の世界で働いているので、土木に興味を持っていました。高校を卒業する時に、大学では何を専攻したら良いか父に相談したら、土木はダイナミックで素晴らしい仕事なので、土木の分野に進んだらいいとアドバイスしてくれたこともあって、大学で土木を専攻しました。韓国の土木現場でも女性は少ないですね。」
 李さんは、大学の2年間を韓国で過ごした後、日本語を1年間勉強して、通っていた大学の姉妹校である栃木県の足利工業大学土木学科の3年生に編入しています。就職するときには「都会より田舎が好き」なので大学があった栃木県足利市に近い埼玉県行田市に本社がある同社を就職先に選んでいます。

業界用語にびっくり!!

1年生社員ならではのこんなエピソードも披露してくれました。「わからないことがたくさんありすぎます。最近では『ユンボ』ってみんなが言うので人の名前かなあと思ったり…。『猫車もってこい』といわれて『なぜ猫』! とびっくりして…。土を運ぶ一輪車を『猫車』と呼んでいると知って勉強になりました。業界の言葉に慣れるにはまだまだ時間がかかりそうですね」
 働くための環境については「最初に行った現場では女性用トイレがなかったのですぐに用意してもらいました。トイレの中は着替えや、身だしなみを整えたり、手が洗えるスペースがあればよいと思います。通勤は作業着の方が楽なので作業着で通勤しています。また、手袋や安全靴は女性用がないので可愛らしいものがあればよいと思います。日焼けも心配なので夏は午前と午後に日焼け止めをぬっていて、さらにヘルメットの上に日よけをつけて日焼けを防いでいます。」

現場詰所前の花壇も現場の雰囲気を和らげるために効果的だ
現場詰所前の花壇も現場の雰囲気を和らげるために効果的だ

女性の採用を増やしたい

当社の採用担当者は「今までは現場の設備が整っていなかったため、女性を採用するにあたっては二の足を踏むこともありましたが、数年前から女性が快適に仕事に向き合うことができるようにトイレなどの設備を整えました。今後とも女性の採用を増やしていきたいと考えています。また、女性技術者が増えてきて初めて見えてきた課題もあります。女性が働きやすい制度を作っていますが、事務職に良い制度でも、現場で働く技術者のためにはもっと制度を見直していく必要があると思っています。当社を含めて、県内の企業が集まって意見の交換や交流のできる女性のためのネットワークが立ち上がればより女性の活躍の場がもっと広がるのではないかとも思っています」

(小川幸子社長室長)

現場事務所以外に現場内に数箇所の女性用トイレを設置し、ダンプの運転手も利用している
現場事務所以外に現場内に数箇所の女性用トイレを設置し、ダンプの運転手も利用している
トイレのふたには女性用らしいカバーもかけられている

東京だけではなく、首都圏の現場でも女性の働きやすい環境づくりがスタートしていることが実感できました。


チームひまわり 現場レポート

ダンプやバックホウが行きかう現場で、真剣に仕事に取り組む李さんの姿は、とても素敵でした。インタビューの中 で「いろんな人に、建設業界に興味を持ってほしい。特に女性の少ない職場ではあるが、建設現場はとても魅力的!」との熱い思いが 伝わってきました。

入社前は、女性が少ないこともあり不安が多かったそうですが、現場でいきいき楽しそうに働いている姿を見て、同じ入社一年目として私も頑張ろうと思いました。
ぜひ次回号もご覧ください。
村田

チームひまわり 現場レポート 村田

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